1 民法403条(外国金銭債権の弁済)の解釈(換算の基準時など)
2 民法403条の条文
3 外国の通貨の法的性質
4 民法403条と402条3項の対象となる債権の違い
5 民法403条の規定の基本的な内容
6 選択権(代用権)の適用を否定した事例(判例)
7 外国通貨・日本通貨の選択権(代用権)の所在
8 代用権行使の際の日本円への換算の基準時点

1 民法403条(外国金銭債権の弁済)の解釈(換算の基準時など)

民法403条には,外国金銭債権の弁済の方法が規定されています。
これとは別に,民法402条3項にも似ている規定があります。似ていますが,適用される状況は違います。
本記事では,民法403条の規定と解釈を説明します。

2 民法403条の条文

民法403条の規定は理解しにくいところがあります。そこで,最初に条文そのものを確認しておきます。類似している民法402条3項も合わせて示しておきます。

<民法403条の条文>

あ 民法403条

第四百三条 外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済をすることができる。

い 民法402条3項(参考)

3 前二項の規定は、外国の通貨の給付を債権の目的とした場合について準用する。

3 外国の通貨の法的性質

民法403条の条文で出てくる外国の通貨の意味は,外国の法令で強制通用力を持つ(貨幣)という意味です。
日本の法令では強制通用力がないので,日本では自由貨幣の1つという位置づけになります。ただし,特殊な扱いがあり,これが民法403条なのです。

<外国の通貨の法的性質>

あ 外国の通貨の意味

外国の通貨とは
外国で強制通用力を持つ貨幣のことである

い 日本での自由貨幣という性質

日本では強制通用力がない
→本質上は自由貨幣である

う 特殊性

外国の通貨の決済には民法402条3項の適用がある
自由貨幣まったく同視することはできない
※奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅰ債権(1)債権の目的・効力(1)』有斐閣2003年p328

4 民法403条と402条3項の対象となる債権の違い

民法403条は,402条3項と似ています。給付の目的外国の通貨であるという場合(外国通貨建ての取引)には402条3項が適用されます。
民法402条の規定や解釈については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|民法402条(金銭債務の通貨による弁済)の規定と解釈の基本
一方,民法403条が適用されるのは,もともと弁済する通貨をどこかの国のものに限定していないという状況です(後記)。

<民法403条と402条3項の対象となる債権の違い>

あ 民法403条の対象となる債権(概要)

単に債権額をあらわすのに外国の通貨を用いた
(→日本の通貨で弁済できる)

い 民法402条3項の対象となる債権

外国の通貨自体を給付の目的とした(債権)
(→外国の通貨の中の各種の通貨で弁済できる)
※奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅰ債権(1)債権の目的・効力(1)』有斐閣2003年p335

5 民法403条の規定の基本的な内容

民法403条が適用されるのは,どの国の通貨で弁済するかを特定(限定)していないようなケースです。
限定していないので,日本の通貨で支払うことも可能になるのです。日本円で代わりに支払うので,代用権と呼びます。

<民法403条の規定の基本的な内容>

あ 対象となる債権(※1)

外国金銭債権のうち
債権額を指定するのに外国通貨をもってしたに過ぎない
外国通貨自体の給付が明示的に条件とされていない

い 効果(代用権)

当事者は日本の通貨をもって弁済することができる
※民法403条
※奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅰ債権(1)債権の目的・効力(1)』有斐閣2003年p336

6 選択権(代用権)の適用を否定した事例(判例)

外国金銭債権は,代用権を行使して日本円で支払うことができます(前記)。
ところで,似ている実情なのですが,代用権の行使ではないと判断された事例があります。
これは,もともとの為替予約を含む契約の中で日本円建てに切り替えることが認められていたので,民法403条の適用による代用権とは違うのです。そこで債権としては別個の債権に変わったと判断されたのです。多くの判断の中で代用権が登場していたので参考として紹介しました。

<選択権(代用権)の適用を否定した事例(判例)>

あ 事案

為替予約付インパクト・ローンの契約が締結された
外貨建債権の弁済を猶予するために円貨建債権に切り替えた

い 債権の同一性

『あ』の2つの債権には同一性がない
(代用権の行使には該当しない)
※福岡高裁平成7年3月31日

7 外国通貨・日本通貨の選択権(代用権)の所在

民法403条の基本的な解釈の説明に戻ります。民法403条が適用された場合,代用権を持つ者は債権者・債務者のいずれもありえます。
判例では,債権者は制限なく代用権を行使できるけれど,債務者は債権者が外国通貨の弁済を請求した時に限って代用権を行使できると判断しています。

<外国通貨・日本通貨の選択権(代用権)の所在>

あ 債権者

前記※1の債権について
債権者外国通貨・内国通貨のいずれによっても請求できる

い 債務者

債務者が代用権を行使できるのは
債権者が外国通貨で請求した時に限る
※最高裁昭和50年7月15日

う 反対説

反対する見解も多い
※奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅰ債権(1)債権の目的・効力(1)』有斐閣2003年p337

8 代用権行使の際の日本円への換算の基準時点

日本円の支払を選択(代用)する場合に実際に問題になりやすいのが,日本円への換算の基準時点です。
判例は,実際に支払う時点のレートを使うべきであると判断しています。
これに対して,原則として履行期の時点のレートを使うという見解もあります。
また,レートの変動によって基準とする時点を変えるという見解もあります。

<代用権行使の際の日本円への換算の基準時点>

あ 支払時説(多数説・判例)

債務者が現実に代用給付をなすと同時に代用給付の効果が発生する
現実に履行する時点の為替相場を用いる
※最高裁昭和50年7月15日

い 履行期説

ア 原則
履行期に履行すべきである
そこで,履行期における為替相場が標準となるべきは当然である
イ 履行期後
履行期が過ぎた後は履行期or支払時のいずれかを選択できる
債務者遅滞の時は債権者が選択できる
債権者遅滞の時は債務者が選択できる
※手形法41条,小切手法36条参照
※奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅰ債権(1)債権の目的・効力(1)』有斐閣2003年p338

う 基準時を固定しない

レート変動によって基準時を変える見解もある
※奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅰ債権(1)債権の目的・効力(1)』有斐閣2003年p339

本記事では,民法403条(外国金銭債権の弁済)の規定と解釈について説明しました。
条文どおりに外国金銭債権に適用されるのはもちろんですが,今までなかった決済手段(仮想通貨など)について準用するという問題もあります。
実際にいろいろな金銭(通貨・貨幣・現金)の支払に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。