1 MTGOX破産手続の不合理な配当の正常化(発想・実現可能性)
2 MTGOX破産手続における不合理な配当(概要)
3 不合理な配当を避ける方法論の発想(全体)
4 純粋に破産手続を解消する方法
5 破産手続の同意廃止
6 同意廃止の後の債権者のアクション

1 MTGOX破産手続の不合理な配当の正常化(発想・実現可能性)

(平成29年12月時点の状況を前提にしています)
ビットコインの取引所であったMTGOXの破産手続が進んでいます。
ビットコインの(日本円での価値の)高騰により,このままでは不合理な配当となってしまう状況になっています。
そこで,本記事では,異常な配当を回避するための方法について広く考えてみます。

2 MTGOX破産手続における不合理な配当(概要)

まず,MTGOX破産手続がこのまま進んだ場合の不合理な状況を簡単にまとめます。
破産したはずのMTGOX社に3000億円程度の金銭が残ることになります。その後はカルプレス氏にそのうち大部分が渡るということになります。

<MTGOX破産手続における不合理な配当(概要)>

あ 破産債権の評価方法

ビットコインを預けていたユーザー(債権者)について
破産手続で受ける配当の上限は
破産開始決定時のレートにより日本円に換算した金額となる

い 配当後の余った財産の行方

配当した後に破産者の財産が余ることになる
→MTGOX社に残ることになる
→残余財産の分配として株主に渡される
→実質的にマーク・カルプレス氏が約3000億円を受け取る
(1BTC=180万円のレートによる)
詳しくはこちら|MTGOX破産手続におけるビットコイン返還請求権(BTC建て債権)の評価と不合理な配当

3 不合理な配当を避ける方法論の発想(全体)

前記のような不合理な結果を回避するための,考えられる方法をまとめます。

<不合理な配当を避ける方法論の発想(全体)>

あ 純粋な破産手続の解消

現在進行している破産手続を解消する方法について
→発想がいくつかある(後記※1)

い 民事再生手続の開始による破産手続の解消

民事再生の手続に移行することにより破産手続が解消される
詳しくはこちら|MTGOX破産手続の民事再生への移行の実現可能性(民事再生手続開始申立)

う (破産手続を維持しつつ)評価時点をずらす

破産債権の額の評価の時点が手続開始決定時であるために不合理な配当が生じる
→破産手続の中で,この評価の時点を変更する方法はないと思われる
詳しくはこちら|破産債権の額の評価・確定(金銭化)と配当の順位・平等性

本記事では以下,現在進行中(係属している)破産手続をストレートに解消する方法の内容について説明します。

4 純粋に破産手続を解消する方法

破産手続を止めるための発想はいろいろとあります。
まず,取り下げる方法は使えません。
また,想定外のビットコインの高騰を理由として破産手続を止めるという方法(規定)もありません。
あり得るとしたら,同意廃止という方法です(『同廃止』という用語もありますがまったく異なるものです)。

<純粋に破産手続を解消する方法(※1)>

あ 申立の取下(否定)

ア 一般論
破産手続開始決定後は申立を取り下げることはできない
※破産法29条
イ 民事再生申立後に移行した破産手続
(民事再生の申立の棄却後の)裁判所の職権による破産手続開始決定(民事再生法250条)の場合
申立の取下自体ができない

い 想定外の評価額の変動による解消(否定)

破産手続開始決定後の財産の評価額の変化によって手続を中止・終了させる手続はない

う 同意廃止

現在遂行されている破産手続を解消する
→破産法上の同意廃止という方法がある(後記※2)

5 破産手続の同意廃止

状況が変化したために破産手続を止める方法として,破産法には同意廃止という手続が用意されています。
これを行う上では破産者が申し立てる必要があるというところがハードルとなります。
MTGOX社の役員(や株主)が合意(決議)する必要があるのです。債権者が申し立てることはできないのです。
また,原則的に債権者全員の同意が必要となります。
いずれにしてもこれを実現するハードルは高いでしょう。

<破産手続の同意廃止(※2)>

あ 同意廃止の要件

『ア・イ』の両方に該当する場合
→裁判所は破産手続廃止の決定を行う
ア 破産者による申立
破産者が破産手続の廃止を申し立てた
イ 債権者全員の同意or担保提供
債権届出をした債権者の全員が破産手続の廃止に同意した
同意しない債権者に対して破産財団から担保を提供する方法もある
※破産法218条1項

い 同意廃止の直後の状況

破産者(法人)が法人の継続の手続を行う(株主総会の決議など)
→法人は解散した状態を解消する
(実際には同意廃止の申立以前に継続の手続を済ませておく)
※破産法219条,会社法473条参照

6 同意廃止の後の債権者のアクション

仮に前記の同意廃止が実現して,現在の破産手続が解消(配当しない状態で終了する=廃止)できたとしましょう。
その後はどうなるのか,についてまとめます。
取引所(仮想通貨の交換)サービスの稼働により収益が得られれば良いですが,現在は金融庁への登録が必要です。これだけでもハードルが高いでしょう。
結局,同意廃止で破産手続を脱したとしても,その後は改めて破産手続を利用するしかないことになりそうです。改めて破産手続が始まると,ビットコイン返還請求権を日本円に換算するレートは現時点(破産手続開始決定時)のものとなります。1BTCが5万円程度ということはなく180万円などとなります(これ自体が今後大きく乱高下するのでしょうけど)。

<同意廃止の後の債権者のアクション>

あ 返済不能の状態(前提)

ビットコイン建ての債権とすると返済不能となっている
→『い〜え』のいずれかの選択肢(可能性)がある

い 取引所サービスの再開

仮想通貨交換業を再開し,継続的に収益を上げる
→現時点では運転資金を確保しつつ一部を返済し,残りは将来の収益で返済する
or良い運営状況の時点で事業を売却するなど
ただし,現在では仮想通貨交換業の登録が必要となっている
詳しくはこちら|仮想通貨交換所の規制(平成28年改正資金決済法)の全体像

う 破産手続

改めて破産手続を申し立てる
現時点のビットコインの換算レートを使った配当を実現する

え 民事再生

改めて民事再生を申し立てる
取引所サービスの再開(あ)+裁判所の関与による再生計画の作成を行う
→再生計画に基づいた継続的な弁済を実現する

本記事では,MTGOX破産手続で想定される不合理な配当を回避する方法の全体を説明しました。
ある意味本命といえる民事再生への切替については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|MTGOX破産手続の民事再生への移行の実現可能性(民事再生手続開始申立)