1 夫婦間での熾烈な『証拠争奪戦・獲得合戦』|ご注意・免責事項
2 証拠獲得の『不正』×証拠能力|極端な場合は証拠にならない
3 証拠獲得の『不正』×慰謝料・刑事罰=犯罪
4 夫婦間の無断でのメール撮影→排除されない傾向
5 メールの無断撮影×証拠能力|肯定方向の事情
6 メール×証拠|暴力的に取り上げる→証拠能力否定の方向性
7 文書×証拠|別居中の相手の住居侵入+撮影→証拠能力否定
8 手紙×証拠|郵便受けからの抜き取り→証拠能力否定方向
9 夫婦間における『違法収集証拠』の証拠能力のまとめ

1 夫婦間での熾烈な『証拠争奪戦・獲得合戦』|ご注意・免責事項

夫婦間では離婚原因を疑われる場合に,証拠獲得の努力,が行われることがあります。
詳しくはこちら|3大離婚原因;不貞行為;裁量棄却,風俗,STD,自由意思なし,立証
一定の身内という感覚から,行き過ぎた証拠獲得が生じることがあります。
本記事では『証拠獲得方法の不正』による法的効果・影響をまとめます。

<ご注意・免責事項>

当事務所は『不正行為』を推奨するものではありません。
あくまでも客観的な判例・法解釈の説明を極める趣旨です。
具体的事情によっては民事・刑事的な責任が生じることがあります。
当事務所は本記事に基づく行動についての責任を負いません。
具体的な事案については法律相談をご利用されることをお勧めします。

2 証拠獲得の『不正』×証拠能力|極端な場合は証拠にならない

証拠の入手方法が不正だと証拠能力が否定されることもあります。
ただし,民事訴訟での基準は『緩い』と言えます。

<証拠獲得の『不正』×証拠能力>

証拠獲得プロセス 証拠能力 証拠としての利用
通常・原則 あり 証拠として排除されない=利用できる
極端な不正・違法 なし 証拠として排除される=利用できない

民事訴訟法には『証拠能力』についての規定がありません。
解釈上,上記のような扱いがなされています。
(別記事『違法収集証拠・理論』;リンクは末尾に表示)

3 証拠獲得の『不正』×慰謝料・刑事罰=犯罪

証拠獲得のための不正な方法は『証拠能力』以外のペナルティの対象となります。
『犯罪』に該当する,『慰謝料請求』が認められるというものです。
これらについては別記事で説明しています。
詳しくはこちら|メール,手紙を見られたことへの法的救済;犯罪,慰謝料,証拠能力

4 夫婦間の無断でのメール撮影→排除されない傾向

証拠能力の判断の傾向について類型ごとに説明します。

<メールの無断撮影×証拠能力|基本>

あ 事例

妻が夫のメールを妻が無断で見た
これを撮影して,写真を証拠にしたい

い 法的評価

携帯電話は夫婦共通のものではない
夫個人のものである
→プライバシー権や人格権の侵害になる

う 裁判所の判断傾向

ア 原則
証拠能力あり
イ 例外
極端な『不正・違法』がある
→証拠能力が否定される

実際にはこの『原則か例外か』という見解で大きな対立が生じます。
具体的事情については次に説明します。

5 メールの無断撮影×証拠能力|肯定方向の事情

メールの証拠能力について,具体的な事情の判断をまとめます。

<メールの無断撮影×証拠能力|肯定方向の事情>

あ 基本事項

『不正・違法』の程度が小さい限り『証拠能力』が認められる
次のような『不正・違法の程度が小さい』事情の典型例がある

い 同居している親族間

『侵入』に当たらないor当たるとしても軽微である

う 暴力を用いていない

比較的平穏な態様と言える
実務では証拠上『暴力が認められない』とケースも多い

え 無断での情報取得の必要性が高い

例;相手方が行方不明など
※東京地裁平成18年6月30日
※東京地裁平成17年5月30日

6 メール×証拠|暴力的に取り上げる→証拠能力否定の方向性

夫婦で物理的に携帯電話(スマホ)を取り上げた事例を紹介します。

<メール×証拠|暴力的→証拠能力否定の可能性>

あ 事案

同居している妻が不倫している疑いが生じた
妻は頻繁に携帯電話(スマホ)でメールをしていた
夫が妻にその場で問いただして,携帯電話を見せるように言った
妻が抵抗して,夫婦で揉み合いになった
最終的に半ば強引に夫が携帯電話を取り上げた
夫がメール内容を撮影した

い 裁判所の判断

『暴力・暴行の証拠がない』
→証拠能力を認めた
※東京地裁平成18年6月30日

う 判断の方向性

『暴力・暴行の証拠がある』場合であれば
→証拠能力が否定される方向性と言える

同居している者同士の持ち物からの情報取得,という意味では,違法性はそれほど高くないです。
しかし,具体的・物理的な方法が度を越しているでしょう。
『暴力』を用いていると思えるからです。
この判例では『暴力・暴行』の証拠がないことを理由に証拠能力を肯定しています。
ということは『暴力』の証拠があれば,証拠能力が否定されると読むことができます。
実際には暴力の程度・内容についての立証が必要となります。

7 文書×証拠|別居中の相手の住居侵入+撮影→証拠能力否定

夫婦ではあっても別居中の場合に,相手の住居に侵入したケースがあります。

<文書×証拠|住居侵入→証拠能力否定>

あ 事案

夫婦の関係が悪化し,別居していた
妻は『夫が不倫している』と疑っていた
妻が夫の住居に忍び込んで手帳・ノートなどを撮影した

い 対象物=特殊事情

『訴訟遂行に関する依頼した弁護士との打ち合わせ用のメモ』
→機密性(密行性)が非常に高い

う 裁判所の判断

証拠能力を否定した
※東京地裁平成10年5月29日

このようなケースでは,証拠能力が否定される可能性があります。
夫婦とは言え,別居している場合は,私生活は基本的にセパレートになります。
それぞれのプライバシーは,一般的な同居の親族よりもより保護されることになります。
そこで,侵入して証拠を獲得した場合,その違法性は一定程度高いと言えます。
この判例では『対象物の特殊性』も『違法性を高める事情』として考慮されています。

8 手紙×証拠|郵便受けからの抜き取り→証拠能力否定方向

相手の住居の郵便受けから手紙を抜き取った,という事例を紹介します。
この場合,証拠能力なし,と判断される傾向にあります。

<手紙×証拠能力|郵便受けからの抜き取り>

あ 事案

夫が不倫相手(婚外女性)用に住居を確保していた
この住居に夫宛の手紙が届いていた
妻が郵便受けからこの手紙を無断で抜き取った

い 特殊事情

夫・妻は同居していた
夫は婚外女性を妻に隠していなかった

う 裁判所の判断

証拠能力を認めた
※名古屋地裁平成3年8月9日

え 判断の方向性

『同居』がなかった場合であれば
→違法性が高い
→証拠能力を否定する方向性

このケースでは『特殊事情』(上記)が考慮されています。
逆に妻と夫が別居していた場合であれば,証拠能力が否定された可能性もあります。

9 夫婦間における『違法収集証拠』の証拠能力のまとめ

夫婦間で『不当』な方法で証拠の獲得が行われることは結構あります。
『違法収集証拠』であっても,必ずしも『証拠能力なし』として排除されません。
証拠を取られた側としては『法による保護』『違法な攻撃(行為)からの防御』が弱い状態です。
裁判所の判断が『証拠争奪戦』を助長してしまう,不合理な状況です。
『証拠能力』の判断の傾向について法則化してまとめます。

<夫婦間の証拠争奪戦×証拠能力の有無|類型化>

あ 証拠能力の類型化・まとめ
同居/別居 態様 証拠能力(※1)
同居 メールを盗み見た
同居 暴力によってメールを見た ×
別居 侵入+メール等を盗み見た ×
別居 送付物を盗み見た ×
いずれも 開示防止策が採られたいた(※2) ×
い 補足説明

ア 凡例(上記※1)
◯=証拠能力あり
☓=証拠能力なし
イ 『開示防止策』(上記※2)
パスワードによる防御(プロテクト)がされていたにも関わらず,不正に解除したような場合