【不動産の内見や情報提供サービスの料金や定額月会費と宅建業法の規制】

1 物件の内見や情報提供サービスと宅建業法の規制
2 独立した物件情報提供サービスと法規制
3 宅建業者による情報・内見の料金と法規制
4 宅建業者によるサブスクリプションモデルの例
5 サブスクリプションモデルの法的問題点
6 媒介業務とコンサルティングサービスとの関係(参考)

1 物件の内見や情報提供サービスと宅建業法の規制

不動産の流通のマーケットでは,宅建業者が仲介サービスを提供しています。
不動産の仲介サービスは,IT化による多様化がとても進んでいます。
一方,業界のルールである宅建業法は古いままです。
新しいサービスが宅建業法に抵触する(違反するかもしれない)という問題がたくさん生じています。
本記事では,物件(不動産)の情報提供や内見のサービスと宅建業法の抵触について説明します。

2 独立した物件情報提供サービスと法規制

まず,賃貸や売買の候補となる物件の情報を提供するサービスが増えています。
特殊な物件情報は貴重ですので,情報提供自体が有料というサービスもありえます。
それ以降の『賃貸借(売買)の契約の締結』まではできない,つまり純粋な情報提供であれば,宅建業法の規制の対象外です。
宅建業の免許がなくてもサービスを提供できますし,料金についても規制はありません。

<独立した物件情報提供サービスと法規制>

あ 物件情報のサイト・アプリ

Webサイト・アプリ上のサービス
賃貸用の不動産の情報が掲載されている
売買や賃貸の対象物件の情報を提供している

い 『媒介』該当性

少なくとも情報提供だけについては
→『媒介』に該当しない
→宅建業の免許は不要である
詳しくはこちら|宅建業法|『媒介』×情報提供行為|タネ屋|競売物件紹介の特殊性

う 料金の規制

『ア・イ』の料金は宅建業法の『媒介』の対価ではない
→宅建業法の上限の規制は適用されない
ア サービスの登録料金イ サービス利用料(月額) 詳しくはこちら|不動産売買・賃貸の仲介手数料(報酬額)の上限(基本)

3 宅建業者による情報・内見の料金と法規制

賃貸借や売買の対象となる情報の提供を宅建業者が行うと,法律的な意味が違ってきます。
宅建業(媒介業務)の一環であるという位置づけになるのです。
物件情報の提供だけでなく,内見(物件の案内)も同様です。
では,宅建業者が情報の提供や内見の料金をもらうとどうなるのでしょうか。
仮に媒介業務の一部であるとすれば,賃貸借(売買)契約の締結前に報酬を受領(請求)したものとして違法となる可能性が出てきます。
料金の総額によっては報酬額の上限の規制に違反する可能性も出てきます。
ただし,このようなサービスが宅建業法違反として正式に検挙されたということは聞いたことがありません。

<宅建業者による情報・内見の料金と法規制>

あ 料金設定の例

宅建業者が物件情報や内見を提供する(これ自体はよくある)
物件情報or内見だけで料金が発生する
例=内見1回で1000円
詳しくはこちら|仲介業者のスイッチの自由(ショールーミング)と料金競争

い 法的問題点

『ア・イ』の点で違法となる可能性が(一応)ある
ア 成功報酬という性格との抵触イ 報酬の上限規定との抵触 →いずれもサブスクリプションモデルの法的問題点と同様である(後記※1

4 宅建業者によるサブスクリプションモデルの例

情報提供や内見自体に料金が発生するサービスモデル(前記)と似ているものに,サブスクリプションモデルがあります。
要するに月額の固定会費のシステムです。
決まった範囲内のサービスを利用してもこの固定料金で済む(追加費用は不要)ということです。
まずは,実際に登場しているサービスの典型的な内容を整理します。

<宅建業者によるサブスクリプションモデルの例>

あ サービス内容

Webサイトやアプリで物件情報を取得できる
月に一定数の内見を行うことができる
気に入った物件について賃貸借契約の締結ができる
=サービス提供事業者が媒介サービスを提供する

い 会員制月額料金

ユーザー(会員)は一定の月額固定料金を継続的に支払う
月額料金以外に個別的サービスの対価(料金)は支払わない
例=情報取得や内見や媒介を受けたことによる追加料金はない

5 サブスクリプションモデルの法的問題点

サブスクリプションモデルは宅建業法と形式的には抵触する可能性があります。
報酬は成功報酬の性格であるという見解を前提にすると違反となります。
会員(ユーザー)が長期間会費を払い続けていると,形式的に報酬額の上限を超えて違反となることもあります。

<サブスクリプションモデルの法的問題点(※1)

あ 成功報酬という性格との抵触

宅建業法の報酬は一般論として成功報酬と解釈されている(後記※2
=賃貸借契約の成立のにしか請求・受領できない
詳しくはこちら|宅建業法の報酬は成功報酬(成約前の請求・受領は違法)という考えがある
→『賃貸借契約締結の媒介の報酬を得た』と考えると違法となる

い 報酬の上限規定との抵触

『ユーザーが払った月会費(料金)の総額が媒介の報酬である』と考えるとすれば
→支払総額が,報酬額の上限を超えている場合に違法となる
報酬額の上限の例=居住用建物であれば賃料1か月分

この問題(解釈)について,裁判例や通達で明確な基準が示されているわけではありません。
単純に形式だけで考えて違法だと考えるのは過剰でしょう。
一方,料金の額が大きい場合は実質的にも報酬といえるので,上限などの規制が適用されてもおかしくありません。

6 媒介業務とコンサルティングサービスとの関係(参考)

以上のように,不動産の仲介に関する個々のサービスに宅建業法の規制が適用されるかどうかが曖昧なものが多くあります。
この点,ちょっと話題は変わりますが,そもそも宅建業(媒介業務)ではないとハッキリいえるサービスもあります。
助言などの,いわゆるコンサルティングサービスです。
国土交通省の公式見解の中に,助言やコンサルティングは媒介業務に含まないという趣旨の記載があります。
ただし,結局はどこからが媒介業務ではなく(純粋な)コンサルティングサービスとなるのかという境界の判断(『媒介』の定義や解釈)の問題は残ります。

<媒介業務とコンサルティングサービスとの関係(参考)>

あ 国土交通省の見解(概要)

宅建業者は積極的に媒介業務以外の不動産取引に関連する業務の提供に務めることが期待されている
媒介業務以外の具体例=不動産コンサルティング業務
媒介業務とは別の業務の内容と報酬額を明らかにするべきである
※『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』第34条の2関係−7(p46)

い コンサルティングと規制の具体例

媒介業務に含まれない純粋なコンサルティングサービスについて
→『ア・イ』のいずれも適法である
ア 料金関係 宅建業者が媒介手数料とは別に料金を請求・受領すること
イ 免許関係 宅建業者以外(免許なし)がコンサルティング料金を請求・受領すること

国道交通症の見解も含めて,『媒介』の定義や解釈については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|宅建業法の『媒介』の定義・解釈論・認定の傾向

本記事では,不動産の流通(仲介)に関する新しいサービスと宅建業法との抵触について説明しました。
実際には,前記のように,具体的なサービスの内容や規模によって,国交省の扱いは違ってきます。具体的には,実質的に違反といえるようなサービス(事業者)について,優先的に非公式な指導がなされるのです。
実際に不動産の流通に関するサービスの提供を計画している(遂行している)方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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