1 保全命令の決定正本の送達
2 決定の形式による裁判の告知方法(前提)
3 保全命令の決定正本の送達の規定と効果
4 保全命令の決定正本の送達と保全執行の関係
5 債務者への保全命令の送達未了の扱い

1 保全命令の決定正本の送達

裁判所が保全命令(仮差押・仮処分)の決定を行った時に,債務者にこれを知らせるために送達が行われます。
本記事では,保全命令の決定正本の送達に関する規定や解釈などについて説明します。

2 決定の形式による裁判の告知方法(前提)

まず,裁判所が行った決定を当事者に了知させる一般的な方法は,相当と認める方法での告知とされています。要するに伝達方法に限定はないのです。

<決定の形式による裁判の告知方法(前提)>

あ 告知方法(一般論)

一般的に,決定の形式による裁判について
相当と認める方法で告知すれば足りる
送達は要しない
※民事保全法7条,民事訴訟法119条

い 相当と認める告知方法の例

普通郵便,口頭,電話
※東京地裁保全研究会編著『民事保全の実務(上)第3版』きんざい2012年p159

3 保全命令の決定正本の送達の規定と効果

保全命令に関する裁判も,裁判所の決定として行われます。そこで,一般論としては相当と認める方法での告知で足りるはずです。
しかし,保全命令を認める決定については,重要性が高いので,当事者への送達が必要とされています。
この送達の法的効果としては,債権者への送達日が,保全執行期間の起算点になるというものだけです。債務者側には法的な影響はありません。

<保全命令の決定正本の送達の規定と効果>

あ 条文規定

(送達)
第十七条 保全命令は、当事者に送達しなければならない。
※民事保全法17条

い 対象となる決定

民事保全法17条の『保全命令』とは
保全命令の申立を認容する決定のことである
※東京地裁保全研究会編著『民事保全の実務(上)第3版』きんざい2012年p160

う 決定正本の送達日の効果

債務者への決定正本の送達日は,保全執行期間(え)の起算点となる

え 保全執行期間

送達された日から2週間を経過した時は保全執行を行うことができない
※民事保全法43条2項

4 保全命令の決定正本の送達と保全執行の関係

ところで,保全命令を認める決定の後に,保全執行が行われます。この保全執行は,保全命令が債務者に送達される前であっても行うことができます。
典型例は仮差押です。債務者にばれないうちに保全執行まで完了しないと意味がありません。密行性と呼ばれる特徴です。
では,債務者への送達が不要なのかというとそうではありません。保全執行のには,債務者に決定正本を送達する必要はあるのです。

<保全命令の決定正本の送達と保全執行の関係>

あ 送達と保全執行の分離

ア 規定
民事執行は,保全命令が債務者に送達される前であってもすることができる
※民事保全法43条3項
イ 趣旨
『ア』は迅速性や密行性の要請によるものである

い 送達の必要性との関係

民事保全法43条3項は,債務者への保全命令の決定正本の送達を不要とするものではない
保全執行後相当期間内に債務者に対して保全命令が送達されなければならない
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p65

5 債務者への保全命令の送達未了の扱い

送達の一般論として,実現しない(未送達となる)こともあります。
詳しくはこちら|送達の種類(通常送達・就業先送達・補充送達・付郵便送達・公示送達)
保全命令の決定がなされた後に送達が未了(未送達)のままであった場合には,状況によって債務者からの執行異議が認められます。
ただし,未送達の理由が,債務者側の妨害(受領拒絶など)である場合には,執行異議は認められません。むしろ,執行異議を申し立てるくらいならば,先に積極的に送達の受領に協力すればよいのです。

<債務者への保全命令の送達未了の扱い>

あ 債務者の対応

執行後相当期間内に債務者への送達がなされない時は,債務者は執行異議の申立により,執行の取消を求めることができる
※民事保全法46条,民事執行法11条

い 裁判所の対応

債務者への送達が不奏功となった場合には,裁判所書記官としては,債権者に対して積極的に調査・報告を依頼し,送達が完了するように配慮することが必要である
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p65

本記事では,保全命令の決定の後の債務者への送達について説明しました。
実際には,個別的事情や主張・立証によって,結論が違ってくることがあります。
実際に民事保全(仮差押・仮処分)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。