【支払督促の督促異議の取下(活用シーン・可否の解釈・手続・効果)】

1 督促異議取下の実務的な活用シーン
2 督促異議の取下の可否と期限
3 督促異議取下の手続
4 督促異議取下の効果
5 督促異議取下の際の訴訟費用の扱い
6 督促異議取下の際の事件記録の返還

1 督促異議取下の実務的な活用シーン

支払督促の手続は簡易な債務名義取得の手続です。
詳しくはこちら|支払督促手続は簡易に債務名義を取得できる
債務者がこの手続を止める手続として督促異議があります。正確には,通常訴訟に移行することになります。
単なる時間かせぎとして債務者が異議を出すというケースもあります。つまり,実質的に債権者の主張・請求の内容については債務者も了解していることが多いのです。
そのようなケースでは,債権者と債務者で支払方法について直接交渉が進められることもあります。この交渉の中で『督促異議の取下』が活用されることがあります。支払督促本体の取下とは異なります。
まずは,実務的な活用シーンの典型例をまとめます。

<督促異議取下の実務的な活用シーン>

あ 支払督促の申立

債権者が支払督促を申し立てる

い 不当な督促異議

債務者は時間かせぎのために異議を申し立てる
実質的な請求内容には異論はない

う 交渉

債権者と債権者が直接交渉する
主な交渉内容=支払方法(分割払い)

え 合意

次の内容を合意する
ア 具体的な支払方法(分割払い)イ 債務者が督促異議を取り下げる

お 督促異議取下の効果

支払督促の手続が復活する
仮執行宣言付支払督促が債務者に送達される
債権者は債務名義を取得する

か 最終的な状況

債務者が合意(『え』)した支払を懈怠(違反)した場合
→債権者はすぐに差押をできる

督促異議の取下については,いろいろな解釈論があります。以下,順に説明します。

2 督促異議の取下の可否と期限

督促異議の取下は,民事訴訟法に明記されているわけではありません。実務では一般的に認められています。

<督促異議の取下の可否と期限>

あ 前提事情

督促異議申立がなされた
訴訟手続に移行した

い 督促異議取下の可否と期限

複数の見解がある
実務上は取下を認める
取下の期限=『第1審の終局判決』まで
※大決昭和10年9月13日
※裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案3 4訂版』司法協会 p152
※裁判所書記官研修所『新民事訴訟法における書記官事務の研究(3)・平成9年度書記官実務研究』司法協会p163
※裁判所書記官研修所『支払命令における実務上の諸問題の研究・昭和52年度書記官実務研究』法曹会p202
※梶村太一・石田賢一『支払督促の実務』酒井書店p579
※兼子一ほか『条解民事訴訟法』弘文堂p1296

3 督促異議取下の手続

督促異議取下の手続についてまとめます。

<督促異議取下の手続>

あ 規定

督促異議取下について
訴えの取下の規定を類推適用する
※民事訴訟法261条3項,民事訴訟規則162条2項
※裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案3 4訂版』司法協会p152,153
※裁判所書記官研修所『新民事訴訟法における書記官事務の研究(3)・平成9年度書記官実務研究』司法協会p163,164

い 具体的方法

ア 書面 督促異議申立の取下書を提出する(『う』)
※民事訴訟法261条3項本文
イ 口頭 口頭弁論期日,弁論準備期日,和解期日,進行協議期日において
口頭で督促異議取下の申述をする
※民事執行法261条3項ただし書
※民事訴訟規則95条2項
※菊井維大・村松俊大『全訂民事訴訟法3』日本評論社p438
※裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案3 4訂版』司法協会p153

う 取下書の提出先

ア 原則 訴えの提起があったとみなされる裁判所
イ 例外 記録送付手続が完了する前
→支払督促を発付した裁判所書記官の所属する簡易裁判所

え オンライン申立における扱い

オンラインによる電子督促手続でも同様である
※園部厚『書式 支払督促の実務 全訂8版』民事法研究会p508

お 債権者の同意

原告(債権者)の同意は不要である
仮執行宣言の前後を問わない

か 債権者への通知

督促異議の申立の取下があった時
債権者の不要な準備を回避することが好ましい
→裁判所は『ア・イ』のいずれかを債権者に送付する
ア 督促異議取下書の副本イ 口頭申述を記載した調書の謄本 ※民事訴訟規則162条, 4条1項
※菊井維大・村松俊大『全訂民事訴訟法3』日本評論社p438
※裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案3 4訂版』司法協会p153

4 督促異議取下の効果

督促異議が取り下げられた後は,元の支払督促の手続が復活します。

<督促異議取下の効果>

あ 取下の効果の発生時点

『ア・イ』のいずれかの時点
ア 被告(債務者)から取下書が裁判所に提出されたイ 口頭弁論期日などで口頭で申述がされた

い 訴訟手続終了の効果

訴訟手続が終了する
仮執行宣言の前後を問わない

う 督促手続の復活の効果

仮執行宣言前に督促異議がなされたケースの場合
→支払督促失効の効果は生じなかったことになる
※民事訴訟法390条
→督促手続が復活する
※斎藤秀夫・小室直人・西村宏一・林屋礼二『第2版 注解民事訴訟法(10)』第一法規p446
※裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案3 4訂版』司法協会p153
※裁判所書記官研修所『新民事訴訟法における書記官事務の研究(3)・平成9年度書記官実務研究』司法協会p164

5 督促異議取下の際の訴訟費用の扱い

支払督促の手続によって債務名義となる内容として訴訟費用があります。督促異議取下の際の訴訟費用の扱いについてまとめます。

<督促異議取下の際の訴訟費用の扱い>

あ 基本的事項

督促異議申立〜督促異議取下の間に生じた訴訟費用について
『申立手続費用』には含まれない

い 費用負担に関する判断

ア 支払督促を発付した裁判所書記官の所属する簡易裁判所 訴訟費用の負担者の裁判をする
イ 『ア』の裁判所の裁判所書記官 費用額の確定の処分をする
※民事訴訟法73条
※最高裁判所事務総局民事局監修『民事裁判資料第219号 新しい督促手続の基本的諸問題』法曹会p132
※裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案3 4訂版』司法協会p54
※裁判所書記官研修所『新民事訴訟法における書記官事務の研究(3)・平成9年度書記官実務研究』司法協会p165
※注解民訴(10)p509
※斎藤秀夫・小室直人・西村宏一・林屋礼二『第2版 注解民事訴訟法(10)』第一法規p509
※石川明・高橋宏志『注解民事訴訟(9)』有斐閣p225
※菊井維大・村松俊大『全訂民事訴訟法3』日本評論社p448

6 督促異議取下の際の事件記録の返還

督促異議が取り下げられた時には,裁判所の事件記録は元の支払督促に戻されることになります。

<督促異議取下の際の事件記録の返還>

あ 前提事情

督促異議がなされ,通常訴訟に移行した
訴訟手続が地方裁判所に係属した
督促異議の取下がなされた

い 事件記録の返還

『あ』の地方裁判所は事件記録を支払督促を発した簡易裁判所の裁判所書記官に返還する
督促異議後の訴訟手続の書類も含む
※昭和29年6月14日訟一第468号訟廷部長事務取扱回答『訴訟記録取扱の疑義について(支払命令に対する異議を取下げた場合)』
記録返還費用の負担
国庫負担である
※昭和47年7月12日総三第37総務局長事務代理通知『事件記録の送付費用について』

う オンライン申立における扱い

オンラインによる電子督促手続について
上記と同様である
※園部厚『書式 支払督促の実務 全訂8版』民事法研究会p512

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