【道交法の『道路』の解釈・使用許可|私有地でも無免許運転となることがある】

1 私有地での運転でも『無免許運転』になることがある
2 道交法上の『道路』の定義・判断基準
3 私有地が『道路』に該当するかどうかを判断した判例
4 道交法の『道路』の規制|交通ルール・使用許可
5 道交法の『道路使用許可』制度
6 道交法の『道路』での『禁止行為』
7 『道路使用許可』|『一般交通に著しい影響』の判例基準|ビラ・チラシ配り

1 私有地での運転でも『無免許運転』になることがある

無免許運転に関するルールは道路交通法に規定されています。
無免許運転の対象は無免許での『運転』です(道交法64条)。
一見,意味のない文章のようですが,別の箇所に中身が書いてあります。
道交法で言う『運転』とは,『道路において』とされています(道交法2条17号)。

では『道路』とは,私有地も入るのかどうか,ということについては2条1号に規定されています。
ここには,『道路』として,まず,道路法や道路運送法における道路や自動車道が規定されています。
要は公道のことです。

さらに『道路』の2パターン目として,『一般交通の用に供するその他の場所』が規定されています。
つまり,私有地であっても,その使われ方,現況によっては『道路』として扱われます。

『道路』と認められた場合は,その場所で無免許で運転すると,無免許運転が成立します。
『道路』に該当しなければ,無免許運転や酒気帯び運転,スピード違反など,道交法のルール自体が適用されないことになります。
谷田部のテストコースなどは道交法の範囲外の典型例です。

2 道交法上の『道路』の定義・判断基準

(1)道路交通法の『道路』に関する規定

<道路交通法における『道路』>

あ 公道
い 『一般交通の用に供するその他の場所』

※道路交通法2条1項1号

(2)『一般交通の用に供する』の判断基準

<『一般交通の用に供する(場所)』の意味>

あ 判断基準

『不特定多数の者が自由に通行(利用)できる状態かどうか』

い 具体例;判例の判断

ア 私有地も含まれるイ 『敷地に接続している私道(位置指定道路や2項道路)』は通常これに該当するウ 『セットバック部分』も該当するエ 一定の条件・範囲で『民間・公的な駐車場』も含まれる

なお,他の法律でも『一般交通の用に供する(場所)』という定義が存在します(後述)。
他の法律でも同様の文言なので,道路交通法の上記判断基準は共通と言えます。

(3)『一般交通の用に供する』の具体例

<具体的な目安>

邸宅の庭 →住人以外は入らない場所 →『道路』に該当しない
飲食店の駐車場 →不特定多数の客が利用 →『道路』に該当する
月極め駐車場 →一定範囲の者(契約者)だけが利用 →『道路』に該当しない

ただし,実際の利用状況で決まることになります。
ですから,店の駐車場などの形式的な用途のみで決まるわけではありません。
別の角度から見れば,公道の延長と言える性格なのか,個人宅の庭に近い性格なのか,という判断であるとも言えます。

3 私有地が『道路』に該当するかどうかを判断した判例

自動車を運転した場所が道路に該当するか否かについて判断された,判例を紹介します。

<私有地×道交法上の『道路』該当性|判例>

形態 『道路』該当性 判例
ラーメン店の駐車場(中央部分) 大阪高裁平成14年10月23日;判例1
コンビニ店舗の駐車場 東京高裁平成13年6月12日
コンビニ店舗の駐車場(通路部分) 東京高裁平成17年5月25日
月極め駐車場 東京高裁平成14年10月21日;判例2

『不特定多数の者の出入りが自由か』という前述の基準のとおりになっています。

4 道交法の『道路』の規制|交通ルール・使用許可

道交法上,『道路』については次のような規制の対象となります。

<道路交通法の概要>

あ 一般的な交通ルール
い 『使用』するには許可が必要

『使用許可』制度

5 道交法の『道路使用許可』制度

『道路使用許可』の制度の内容を説明します。

<道路交通法の『使用許可』制度>

あ 審査者=許可申請先

警察署長

い 許可対象の『使用』

ア 道路工事イ 工作物の設置ウ 露店・屋台の設置エ 『一般交通に著しい影響を及ぼす』通行方法・行為 例;デモ行進・ロケ収録・集会
※道路交通法77条1項

う 無許可での『使用』の罰則

懲役3か月以下or罰金5万円以下
※道路交通法119条1項13号

6 道交法の『道路』での『禁止行為』

道交法上の『道路』では,一定の行為が『禁止』されています。
法律上の規制をまとめます。

<『道路』における『禁止行為』;道交法76条>

ア 信号機・道路標識・類似する工作物・物件をみだりに設置することイ 信号機・道路標識の効用を妨げるような工作物・物件を設置することウ 交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置くことエ 酒に酔って交通の妨害となるような程度にふらつくことオ 交通の妨害となるような方法で寝そべり・すわり・しゃがみ・立ちどまっていることカ 交通の頻繁な道路において,球戯・ローラースケート・これらに類する行為をすることキ 石・ガラスびん・金属片その他道路上の人or車両等を損傷するおそれのある物件を投げor発射することク 道路において進行中の車両等から物件を投げることケ 道路において進行中の自動車・トロリーバス・路面電車に飛び乗りorこれらから飛び降りorこれらに外からつかまることコ 道路・交通状況により,道路における交通の危険を生じさせor著しく交通の妨害となるおそれがあると認めて公安委員会が定めた行為

7 『道路使用許可』|『一般交通に著しい影響』の判例基準|ビラ・チラシ配り

歩道などの『道路』上でビラやチラシが配布されることがよくあります。
このような行為について,たまに,『道路交通法違反容疑で逮捕』というニュースがあります。
別件逮捕として悪用される傾向があります。
これは,許可が必要な範囲の基準が曖昧であることに根本的問題があります。
『一般交通に著しい影響』という基準なのです(道路交通法77条1項4号)。
これについての判例を挙げておきます。

<ビラ配布が『道路交通法の使用許可』対象とされた判例>

あ 事案

東京(有楽町駅前)の道路上で『アメリカは核実験を中止せよ』という内容のビラを通行人に配布した

い 裁判所の判断

ア 『一般交通に著しい影響を及ぼす』という影響の程度は相当高度のものを指すイ 人の通行の状況に応じてその妨害を避けるためにいつでも移動し得る状態での配布はこれに該当しない ※東京高裁昭和41年2月28日

条文

[道路交通法]
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一  道路 道路法 (昭和二十七年法律第百八十号)第二条第一項 に規定する道路、道路運送法 (昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第八項 に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう。
(略)
十七  運転 道路において、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)をその本来の用い方に従つて用いることをいう。

第六十四条  何人も、第八十四条第一項の規定による公安委員会の運転免許を受けないで(第九十条第五項、第百三条第一項若しくは第四項、第百三条の二第一項、第百四条の二の三第一項又は同条第三項において準用する第百三条第四項の規定により運転免許の効力が停止されている場合を含む。)、自動車又は原動機付自転車を運転してはならない。

判例・参考情報

(判例1)
[大阪高等裁判所平成14年(う)第974号道路交通法違反被告事件平成14年10月23日]
本件駐車場は,本件各店舗を訪れる客の利用する駐車場として供され,本件駐車場中央部分は,同各店舗を訪れ,自車を本件駐車場に停め,又は停めようとする客ら及びその自動車の通行に供されており,これらの客及びその自動車が同所を通行するに当たって何らの制約はなく,かつ,現にこれらの客及びその自動車が自由に通行していたことが認められる。道路交通法2条1項1号にいう一般交通の用に供するその他の場所とは,不特定多数の人や車両が自由に通行できる場所として供され,現に不特定多数の人や車両が自由に通行している場所を意味すると解されるところ,本件各店舗を訪れ,自車を本件駐車場に停め,又は停めようとする者及びその自動車は,だれでも本件駐車場中央部分を通行することができ,現に通行していたのであるから,同所は不特定多数の人や車両が自由に通行する場所として供され,現に不特定多数の人や車両が自由に通行していたものというべきである。したがって,同所は道路に当たると解するべきである。

(判例2)
[東京高等裁判所平成14年(う)第1582号道路交通法違反被告事件平成14年10月21日]
(1)の点については,駐車区画以外の部分は,車両が通行できるものの,いずれも行き止まりとなって,通り抜けができない構造になっており,道路としての形態を備えているとまではいい難い。(2)の点についても,契約者が車両を出し入れする駐車場であることから,施錠をしないのは当然であり,そのことから直ちに一般人に開放されているなどとはいえず,駐車場経営者が賃貸借契約もしていない付近住民に対して本件駐車場を自由に使用することを許すなどとは考え難い。また,本件駐車場は私人が経営する比較的小規模な駐車場であって,その北側以外は畑や塀に囲まれて通り抜けもできないから,本件駐車場とは無関係な車両や人が自由に頻繁に立ち入るなどということはおよそ想定できないし,そのような事実も認められないことは前述のとおりである。関係証拠によれば,被告人も駐車場に駐車中の車両を検分するため,その駐車区画を貸借している修理工場の者に車の鍵を借りて本件駐車場に入ったにすぎない。単に不特定の車両や人の通行が可能であるというのではなく,現実に不特定多数の車両や人が自由に通行しているという客観的事実が認められなければ,一般交通の用に供する場所とはいえないところ,原判決は,立入禁止の表示や施錠がなく,自由に立ち入ることができることや被告人が現に通行した事実等だけから,本件駐車場の駐車区画以外の通路部分全体が現に不特定多数の人または車両によって継続的,反復的に利用されているという客観的な状況にあり,かつ,その状況が相当程度の公開性を有しているなどと説示しているが,論理的にも飛躍があり,正当でない。(3)の点については,本件駐車場のうち市道と接する北西角付近のわずかな部分だけは,車両が馬入れからはみ出して通行したり,人が横切ったりするというにすぎず,そのことから,本件駐車場全体が一般の通行の用に供されていると見るのは相当でない。

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