1 医業停止・免許停止→『医業』禁止=医療行為ができなくなる
2 免許取消・医業停止→医療法人理事の欠格・病院名・病院内の肩書
3 『再教育研修』の命令→『臨床研修修了医師』資格喪失|診療所『管理者』『開設』制限
4 再教育研修|種類・内容・受講拒否のペナルティ
5 『病院・診療所』に対する行政処分|病院閉鎖命令
6 勤務医に対する行政処分→病院との調整
7 医師会の『懲戒手続』
8 免許取消→『再免許』の制度|要件・待機期間・裁量

1 医業停止・免許停止→『医業』禁止=医療行為ができなくなる

『医業停止』『免許取消』は聞いただけでも大きなペナルティだと思えます。
ここでは,具体的にどのようなことが制限されるのか,『復活』の方法,など,内容の詳細を説明します。

(1)『免許取消』の効果

<『免許取消』の効果>

『医師』『歯科医師』に該当しなくなる
→『医業』『歯科医業』の遂行ができない
※医師法17条,歯科医師法17条

免許取消によって,ストレートに『医師』という名称を使うことができなくなります(医師法2条)。
ここで『医業』とは何か,という解釈については,厚労省の通達で示されています。

<『医業』の定義>

あ 『医業』の定義

『医行為』を反復継続する意思を持って行うこと

い 『医行為』の定義

医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし,または危害を及ぼすおそれのある行為
外部サイト|通達|厚生労働省医局長|平成17年7月26日

大雑把に言えば『医業=医師の医学的判断・技術を使う業務』となります。
要するに,通常の医師による治療・診療行為のことです。
一般用語としては『医療行為』となりましょう。
免許取消になると,治療・診療行為(医療行為)が禁止されるのです。
ある意味当たり前の内容です。

(2)『医業停止』の効果・『免許取消』との違い

一方『医業停止』は文字どおり『医業』が禁止されます。
この点ではほぼ『免許取消』と同じです。
『免許取消』と違うのは『停止に期限がある』というところです。
『医業停止』は最大でも3年間の『期間限定の禁止』なのです。

『医業停止』の場合は『医師免許』は奪われません。
ということは,『医師』であることに変わりはありません。
名称として使用を継続することは法的に禁止されません。

(3)『免許取消』『医業停止』を破って『医業を行った』場合のペナルティ

『免許取消』『医業停止』のいずれも『医業が禁止』されます。
この禁止に違反して『医業を行った』場合は,重いペナルティがあります。
犯罪(刑事罰の対象)とされています。

<医業停止・免許取消後の医療行為の刑事罰>

あ 医業停止処分後の医療行為

法定刑=懲役1年以下or罰金50万円以下
※医師法32条,歯科医師法32条

い 免許取消後の医療行為

法定刑=懲役3年以下or罰金200万円以下
※医師法31条2項,歯科医師法29条2項

上記の刑事罰とは別に,『医師法違反』を理由として,新たな行政処分の対象となります。

2 免許取消・医業停止→医療法人理事の欠格・病院名・病院内の肩書

免許取消や医業停止の場合,病院・診療所の運営に影響が生じます。
病院運営に関する影響・対応について説明します。

(1)医療法人の理事

医療法人の理事となっている医師が行政処分を受けた場合について説明します。
医療法人の理事には一定の『欠格事由』があります。

<医療法人の理事|欠格事由>

次のいずれをも満たす場合
ア 罰金以上の刑に処せられた
イ (執行終了or執行を受けることがなくなった日)から2年以内
※医療法46条

『医業停止』は欠格事由に含まれていません。
あくまでも『罰金・禁錮・懲役刑』の『刑事罰』を受けた場合だけが『欠格』となるのです。
刑事罰の内容による理事の資格欠格・回復の具体例をまとめます。

<医療法人の理事|欠格→回復の具体例>

あ 執行猶予の場合

『猶予期間』が満了した時点=刑自体が消滅する
→『猶予期間満了』時点で資格は回復する

い 実刑(懲役・禁錮)の場合

→実際の『執行』の終了時から2年経過時点
『仮出所』はカウント上,『受刑中』なので注意
詳しくはこちら|仮釈放|欠格事由などの『執行終了』時点=『刑期満了時』

う 『執行を受けることがなくなった』の例

ア 刑の時効の完成(刑法31条)
イ 恩赦による刑の執行の免除

(2)病院名・院長・病院長・医局長等の名称・役職

『医師』という名称については『医業停止』と『免許取消』で違いがありました(前述)。
この点,病院名や病院・診療所内の『肩書』は,病院・医院独自の名称です。
法律上の名称・役職ではありません。
医業停止や免許取消の場合でも,『法的な変更の義務』はありません。
もちろん,レピュテーション(評判)に配慮して変更するメリットの方が大きい,ということもありましょう。

3 『再教育研修』の命令→『臨床研修修了医師』資格喪失|診療所『管理者』『開設』制限

医師に対する行政処分では『免許取消・医業停止』というメインの処分以外にも付随的な処分があり得ます。
その中でも大きなものが『再教育研修』の命令です。
もともと医師が医療行為を行う前提として必修となる『研修制度』があります。
『研修制度』には『臨床研修』と『再教育研修』がある,と整理できます。
順に説明します。

(1)『臨床研修制度』の制度

医師となるには,国家試験(国試;こくし)に合格し,厚生労働大臣の免許を得る必要があります(医師法2条)。
『医師となった』だけでは『診療行為』ができません。

<臨床研修制度>

あ 『臨床研修修了医師』であることが必要なもの

『診療に従事』すること
病院・診療所の『管理者』になること

い 臨床研修の実施

厚生労働大臣が指定した病院にて2年以上研修を実施する
研修修了により『医籍登録』され『臨床研修修了医師』となる
※医師法16条の2,16条の4第1項,医療法10条1項

『臨床研修修了医師』となって初めて『診療に従事』できるのです。
『研修修了』は,一種の資格と言えるものです。

(2)『再教育研修』の制度

医業停止処分を受けると『再度,臨床研修とは別の研修を受ける』ことになる場合があります。
『再教育研修』という制度です。

<『再教育研修』の制度>

あ 命令権者;裁量

厚生労働大臣が『再教育研修』を命じることがある
『必ず』ではなく,裁量がある

い 対象者

ア 『戒告』『医業停止』を受けた医師
イ 『再免許申請を行った医師』
『再免許申請』=『免許取消』の後に再度免許を取得(回復)する手続(後述)

う 医籍登録

再教育研修終了後,申請により『医籍登録』がなされる
※医師法7条の2第1項,2項

『再教育研修』の内容は後で説明します。

(3)『再教育研修』の命令〜『研修修了』の間=一時的資格喪失状態

『再教育研修』を命じられても『従前の臨床研修修了を取り消す』という規定はありません。
しかし前述のとおり『再度の研修を遂行する+その後医籍に登録する』というプロセスが必要となります。
実質的に『資格の回復』です。
逆に,『再教育研修』を命じられた時点で『研修未了状態』=『臨床研修修了資格喪失』と同じような状態となります。
この一連の流れをまとめます。

<実質的な『臨床研修修了』資格の喪失>

あ 『再教育研修』による資格の変動
『再教育研修』を命じられた時 『臨床研修修了』資格を実質的に喪失
『再教育研修』修了後の医籍登録時 『臨床研修修了』資格を実質的に回復
い 『臨床研修修了』資格が欠けている期間

『再教育研修』を命じられた後〜『再教育研修の修了(医籍登録)』まで

(4)診療・管理者の欠格→代わりの医師により運営継続ができる

『臨床研修修了』資格が欠けている期間に『できない』ことがいくつかあります。

<『臨床研修修了医師』が前提とされる事項(前出)>

あ 『診療に従事』すること
い 病院・診療所の『管理者』になること

再教育研修が命じられた場合,研修修了までの間は『代わりとなる医師を確保する』などの手当が必要となります。
『管理者』であった医師が再教育研修を命じられた場合『管理者を代わってくれる医師を確保する』ことにより診療所の運営継続が可能となります。

(5)再教育研修〜医業停止期間満了のタイムラグ

ところで,実際の医業停止処分のケースでは,『再教育研修』は修了したけど『医業停止期間中』(満了待ち)ということが生じます。
この『タイムラグ』については,明確なルールがありません。
形式的には『研修修了資格回復(あり)』なので『病院の管理者』になっても良い,となりましょう。
しかし,厚生労働省の方針・実情としては,『管理者変更を要請』しています。
結局,病院・診療所の運営維持のためには,一定期間は『代わりとなる医師を確保する(就任してもらう)』というフォローが必要となります。

<再教育研修・医業停止の『欠格期間』のまとめ>

業務・行為 再教育研修命令〜研修終了 研修修了〜医業停止期間満了
医業
診療行為 ☓(『医業』に含まれる)
診療所『管理者』 ◯(事実上☓)

(6)病院・診療所の『開設者』

病院・診療所の『開設』に関しては手続が医療法で規定されています。
臨床研修修了医師の場合は『許可不要』です。『届出』だけで足ります。
この点『再教育研修』が命じられてから研修修了までは実質的な『欠格』となります(前述)。
そこで,『開設』は『許可が必要』となります。

<病院・診療所の『開設』の手続>

開設者の属性 手続 医療法
臨床研修修了医師 都道府県知事への『届出』 8条
それ以外の者 都道府県知事の『許可』 7条1項

なお,過去に診療所を『開設』した者が『再教育研修』を命じられた場合は,これ自体について対応は必要ありません。
あくまでも新たな『開設』で許可が必要となる,というだけです。
もちろん,開設者がその後『管理者』になっている場合は『管理者の代行医師』を手当するなどの対応が必要となります(前述)。

4 再教育研修|種類・内容・受講拒否のペナルティ

(1)再教育研修の種類・内容

医師の戒告処分や医業停止処分は,継続して,または一定期間後に医業に復活することが想定されています。
免許取消の場合でも,後から『復活』する手続=再免許申請,があります。
当然,一定の違法・不当行為があった後なので,倫理保持・知識・技能に関して『フォロー』することになっています。
これが『再教育研修』です。
種類・内容をまとめます。

<再教育研修の種類>

あ 再教育研修の種類
再教育研修の種類 内容
倫理研修 医師としての倫理の保持
技術研修 医師としての知識・技能
い 処分内容と受講する研修の種類
処分内容・対象者 受講する研修の種類
戒告処分 団体研修
医業停止1年『未満』の処分を受けた医師 団体研修及び課題学習
医業停止1年『以上』の処分を受けた医師 団体研修及び個別研修
再免許の申請者 団体研修及び個別研修

<研修の内容>

あ 団体研修

法令遵守・職業倫理に関する事項
医療事故の予防に関する事項
インフォームドコンセントに関する事項

い 課題学習

処分の対象事由に関連する課題研究・論文作成

う 個別研修

処分事由に関連する内容を含んだ個別研修計画書の作成
厚生労働大臣から指名を受けた助言指導者の協力を得た上で作成し,厚生局に提出する

再教育研修の修了後に,『医籍登録』がなされます(医師法7条の2第2項)。
『(臨床)研修修了医師』という資格が,実質的に回復することになるのです(前述)。

(2)再教育研修の受講拒否

再教育研修が命じられた場合,受講が『強制』されます。
具体的には,『受講拒否』に対するペナルティが規定されているのです。

<再教育研修の受講拒否へのペナルティ>

あ 公表

行政処分の内容・再教育研修未修了である旨を厚生労働大臣が公表する

い 刑事罰

法定刑=罰金50万円以下
※医師法33条の2,歯科医師法31条の2

う 病院・診療所の『開設』『管理者』の制限・欠格(前述)

5 『病院・診療所』に対する行政処分|病院閉鎖命令

医師個人への行政処分とは別に,『病院・診療所』が対象となるものもあります。

<病院・診療所の開設許可取消・閉鎖命令>

あ 閉鎖命令の制度

都道府県知事は,次の事情がある場合,病院・診療所の『開設許可の取消』『閉鎖命令』ができる

い 開設許可取消・閉鎖命令の事由

・開設の許可を受けた後正当の理由がないのに,6か月以上その業務を開始しない
・病院・診療所が,休止した後正当の理由がないのに,1年以上業務を再開しない
・開設者が医療法6条の3第6項,24条1項または28条の規定に基づく命令・処分に違反した
・開設者に犯罪or医事に関する不正の行為があった
※医療法29条1項

医師個人への行政処分権者は『厚生労働大臣』でした。
病院・診療所に対する行政処分は『都道府県知事』が決定権者となっています。
当然,法律上,告知・聴聞の手続などが必須とされています。

このように病院の『開設者』である医師が行政処分の対象となっている場合は,個人の手続だけ対応すれば良いわけではありません。
診療所の『閉鎖命令』について,都道府県による処分への対応をすみやかに進める必要があるのです。

6 勤務医に対する行政処分→病院との調整

(1)勤務医の場合→病院との調整

勤務医の場合は,病院(医療法人)との間に『雇用契約』があります。
勤務医個人への行政処分によって自動的に契約が終了するようなことはありません。
実際には,病院側が,就業規則その他のルールによって,『懲戒解雇』などのペナルティを主張することが多いです。
しかし,『解雇』については,『解雇権濫用』という,大幅な制限があります。
詳しくはこちら|解雇権濫用の法理;まとめ
もちろん,協議により双方が納得した条件で『退職』することは1つの解決策です。
また,医業停止期間中は休暇取得や『医業』以外の業務に配転して『しのぐ』というケースもあります(後述)。
いずれにしても,メインの行政処分の対応と同時に,勤務先病院との調整もしっかりと進める必要があります。

(2)『医業』を回避|事務作業等

『医業停止』の場合,当然『医業』の遂行が禁止されます。
逆に言えば,病院内の仕事のうち『医業に該当しないもの』は禁止されていません。
『医業』とは,要約すると『医師の専門知識・技術を使う業務』と言えます(前述)。
これを前提とすると,実際には『医業以外の業務』は純粋な事務作業か『診療と関わらない純粋な医療の研究・執筆作業』くらいでしょう。
ただし『間接的に診療に関与している』というものは『医業』に該当する可能性があります。
この時点で『医業に該当するかどうかのギリギリ』を攻めると,処分に反発している,というような好ましくない印象を生じます。
監督官庁である厚生労働省・都道府県との関係では得策ではなないでしょう。

7 医師会の『懲戒手続』

厚生労働大臣による『行政処分』とは別に,所属する医師会・歯科医師会の『懲戒手続』もあり得ます。
医師会・歯科医師会は任意加入団体です。
つまり,仮に『退会』したとしても,『医業ができなくなる』という直接的な効果はないのです。
この点,弁護士会・司法書士会・税理士会などの強制加入団体とは大きく性質が異なるのです。
しかし,団体である以上,定款などのルールが整備されています。
そして,医師会によって異なりますが通常,定款において,一定の『懲戒処分』が規定されています。

<一般的な医師会の懲戒処分の規定|例>

あ 懲戒処分の種類|例

ア 除名処分
イ 会員資格停止処分
ウ 戒告処分

い 実施される審理・審議|例

次のような委員会の審議を経て,最終的に執行部役員が決定する
ア 裁定委員会
イ 懲戒委員会

う 被処分者が参加する手続・方法

ア 弁明書・意見書の提出
イ 弁明・意見聴取の期日開催

医師会の『懲戒処分』についても,最終的に裁判所による妥当性・適法性を判断の対象となります。
要するに『提訴して,処分を無効とできる』ということもあります。

<『除名処分』を無効とした判例>

・長野地裁昭和35年10月8日
・広島地裁昭和50年6月18日

8 免許取消→『再免許』の制度|要件・待機期間・裁量

(1)『再免許』制度・要件・待機期間

医師が『免許取消』を受けた場合,文字どおり『医師免許なし』になります。
しかし,その後でも『免許復活』の可能性はあります。
『再免許』という制度があるのです。

<『再免許』の要件>

あ 再免許の要件

次のいずれか要件に該当した時に,厚生労働大臣は『再免許』付与ができる
ただし一定の『待機期間』が必要とされることもある(後述)

い 再免許事由

ア 対象者が『免許取消の理由』となった事項に該当しなくなった
イ 免許取消後の事情により再び免許を与えるのが適当であると認められるに至った
※医師法7条3項,歯科医師法7条3項

再免許事由のうち『再免許が適当であると認められる』という要件については『期間』の設定があります。

<医師の再免許|待機期間>

あ 待機期間の要否
免許取消の事由 待機期間
被後見人・被保佐人となった 不要
心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない 不要
麻薬・大麻・あへんの中毒者となった 不要
罰金以上の刑に処せられた 5年
医事に関し,犯罪or不正行為があった 5年
医師・歯科医師としての『品位を損するような行為』があった 5年
い 待機期間のスタート時点(起算点)

『処分の日』(から5年をカウントする)
※医師法3条,4条,7条,歯科医師法3条,4条,7条

免許取消の事由として大多数は『刑事罰の対象』となったものです。
この場合は『5年の待機期間』が必要となります。
もちろん『待機期間満了』だけではなく,メインの『再免許事由』(前述)も必要です。

(2)刑事罰を受けて免許取消となった場合の再免許事由

再免許事由(上記)のうち,よく使われるのは『免許取消の理由となった事項に該当しなくなった』というものです。
実際のケースでは『刑事罰を受けた』というものが大多数です。
具体的な『該当しなくなった』の内容をまとめます。

<刑事罰を受けた場合|『免許取消の理由となった事項に該当しなくなった』の内容>

あ 禁錮以上の刑の執行終了or執行免除を得た者

→罰金以上の刑に処せられないで10年を経過した

い 罰金以下の刑の執行終了or執行免除を得た者

→罰金以上の刑に処せられないで5年を経過した

う 刑の免除の言渡を受けた者

→言渡確定後,罰金以上の刑に処せられないで2年を経過した

え 執行猶予期間を満了した者

→執行猶予期間の満了時

以上は『再免許事由』です。
『待機期間』(前記)とは別です。

(3)再免許|厚生労働大臣の裁量

再免許を付与するか否かの判断では,厚生労働大臣(処分庁)に広い裁量権があります。
実質的に『再免許の付与を受けることが適切である』と言える事情の主張がキーとなります。
再免許申請の際に,資料を添付し,しっかりとアピールすることが肝要です。