【債権回収としての『引き上げ』|法的リスク予防法|民事・刑事の違法性】
1 債権回収での『引き上げ』は効果的だがリスクに注意が必要
『引き上げ』を検討すべき状況
あ 商品・製品を販売した後、代金が支払われない
い リース中にリース代金が支払われない
う 所有権留保・譲渡担保がある場合に滞納となった
このような場合『商品・製品は戻ってこない+代金ももらえない』という最悪な状態になることがあります。
そこで『まずは商品・製品を引き上げる=返還してもらう』という常識的な発想になります。
この『引き上げ』は、簡易であり効果的です。
しかし、簡単だからこそ、方法によっては、法的理論との抵触が生じやすいです。
結果的に『さらにキズを深める』ということもあります。
以下、法的理論と具体的な方法について説明します。
2 販売→納品した商品・製品の引き上げ
納品した商品の引き上げの法的理論
あ 所有権を売主に戻す方法
ア 債務不履行解除→原状回復or所有権に基づく返還請求
イ 留保所有権・譲渡担保権の実行『清算金』の支払が必要になることもある
ウ 合意解除
い 所有権を戻さない→『強制売却』
ア 先取特権の実行動産売買先取特権を実行するケースが多い
それぞれの『理論』はあまり複雑ではありません。
しかし現実の行為がこれらの『理論』に当てはまらない、というリスクがあります。
この注意点については、次に説明します。
3 リース→リース物件の引き上げ|債務額増加を防ぐ+収益を得る
リース料金が滞納している場合、通常まずは『滞納しているリース料の請求』をします。
しかし事情によっては『リース契約の解除+リース物件の引き上げ』が有利ということもあります。
リース物件を取り戻しせば、他に売却する・他にリースする、ということが可能となります。
『滞納額を増やさない』ことと『収益を増やす』という両方の効果があるのです。
リース物件の引き上げのプロセス
あ 契約解除
滞納を理由とした『契約解除』の通知
一般的に、契約条項によって、『契約解除の要件』と『方法』が規定されている
い 清算
契約内容によっては『清算金の支払』が必要となることもある
↑『実質的な販売+分割払い』というような設定の場合
う 引き上げる手続
通常、任意に引渡を受ける
これ以外に『仮処分』(断行)を利用する方法もある
4 担保権実行としての引き上げ|所有権留保・譲渡担保
貸金やその他の取引に関して『所有権留保』や『譲渡担保』を設定しておくことがあります。
このような『担保権』がある場合に債務不履行(滞納)があると、担保権を実行できます。
担保の内容については契約書などで細かく決めてあるはずです。
いずれにしても、担保権の実行として『目的物を引き上げる』ことができます。
債務額と評価額のバランスによっては『清算金の支払』が必要となります。
詳しくはこちら|所有権留保|設定方法・実行方法・利用例
譲渡担保権の設定方法と実行方式(処分清算方式と帰属清算方式)
5 『引き上げ』のリスク|全体像|他の債権者との競争、民事・刑事の違法性
『引き上げ』にはいろいろな法的リスクが潜んでいます。
『引き上げ』のリスクの整理
あ 違法認定リスク
ア 『後から返還請求される』→詐害行為取消権・否認権イ (引き上げの)『権限を否定される』『引き上げる権限がなかった』と後から判断されるリスク
い 他の債権者に負けるリスク|対抗関係
『他の債権者が先に引き上げた=代物弁済』という場合
一般的に債権者同士は『対抗関係』となる
→『引渡』が先の方が優先される(民法178条)
6 『詐害行為取消権・否認権』リスクと対策|スピードが命
詐害行為や、破産法の『否認権』として『返済』『代物弁済』などが後からキャンセルされることがあります。
正確に言うと『返還を請求される』というものです。
詐害行為や『否認権』の判断は細かいルールがあります。
詳しくはこちら|詐害行為取消権(破産法の否認権)の基本(要件・判断基準・典型例)
大まかに言えば、債務者の資産状況が悪化していたかどうかが決定的な事情です。
詐害行為・否認権リスクの対策
回収(弁済・引き上げ)を少しでも早く実行する
少しでも状況が悪化する前に回収・引き上げをすることが『回収を確実にする』ことに直結するのです。
わずかの差・タッチの差、が、大きな結果の違いとなるのです。
7 『引き上げの権限を否定される』リスクと対策
(1)『引き上げの権限』を否定される具体的状況
商品等を引き上げた後に『権限がなかった』『無権限だった』と主張されることもあります。
仮に債務者自身には不満がなくても、他の債権者・破産管財人が主張することもあります。
引き上げの権限を否定されるリスク|具体的内容
あ 引き上げる権限を否定する理由
ア 『引き上げ』について、債務者の承諾がなかったイ 解除や担保権実行の『通知』がなかったウ 合意解除の『合意』がなかったエ 担保権の内容(実行方法)の設定・合意がなかった(不十分だった)
い 引き上げが『無断』となった場合の法的責任
ア 返還請求を受けるイ 損害賠償請求を受けるウ 窃盗・恐喝罪などの刑事責任店舗・事務所へ入ったことが『建造物侵入罪』となるリスクもある
(2)刑事責任では『所有物を引き上げた』では正当化できない
債権者はもともと、金銭を請求したり、その代わりとなる物を受け取る権限があります。
そのため、そのプロセスが多少不合理であっても、『犯罪』は大げさだという発想もあります。
しかし、この点は刑法上明確に『正当化しない』ということになっています。
窃盗・恐喝・強盗罪に関する『所有権』排除ルール
債務者が『占有する』『自己の財物(債権者の所有物)』
→『債務者の財物とみなす』
※刑法242条、251条
(3)『引き上げの権限の否定』リスクへの対策
引き上げの権限を否定されるリスクの対策
あ 記録化・証拠化をしっかりと行う
ア 記録化する対象承諾・合意・通知・『担保権設定』
イ 記録化する具体的方法・内容証明郵便
・書面の調印(通知書・契約書)
・協議・承諾の録音・録画
い 債務者や関係者の立会
『無断で引き上げた』という主張を封じるため
う 『仮処分』を用いる
裁判所の仮処分手続によって『引き上げる』方法
当然、手続のための『時間・費用』が必要
『費用』については、弁護士費用以外に『保証金』も必要となる
以上のように『引き上げ』は単純なように見えますが、慎重・迅速さが要求されるのです。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。


