1 『選挙運動』に関する規制は細かいルールがとても多い
2 インターネットを利用した選挙運動の解禁
3 電子メールでの選挙運動は候補者・政党のみOK,その他はNG
4 選挙運動|電子メールとその他のメッセンジャーとの区別基準
5 インターネットを利用する選挙運動の条件=オンライン連絡先の表示
6 転送も『送信』になる|未成年者の『リツイート』に注意
7 インターネット上の選挙候補者なりすまし→刑罰の対象
8 公職選挙法×投稿サイト・アプリ運営者の責任
9 公職選挙法違反がすべて『当選無効』となるわけではない

1 『選挙運動』に関する規制は細かいルールがとても多い

(1)『選挙運動』の定義

『選挙運動』については,日本ではとても細かいルールが多くあります。
平成25年の公職選挙法改正で,『インターネットを利用した選挙運動』が可能となりました。
時代の流れに合わせたルールの変更として話題になりました。
なお,解禁されたのは『選挙運動』だけです。
『オンライン投票』はまだ実現していません。
一方,従来のルールについても,『妥当かどうか』の疑問が提起されることも多いです(うちわ問題)。
ここでは,選挙運動の規制,について説明します,
まずは規制される『選挙運動』の範囲をまとめます。

<『選挙運動』の定義=規制対象>

あ 『選挙運動』の定義

次のいずれも該当するもの
ア 目的
特定の選挙の候補者の当選を目的とする
イ 効果
投票を得るために,有利な行為
『直接』『間接』のいずれをも含む
※多くの判例

い 規制の期間

公示・告知日から投票日の前日まで
※公職選挙法129条,142条の3第2項

『選挙運動』については,例えば一般の方が『電子メール』を使うと違法,というルールがあります(後述)。
実際のケースでは『選挙運動』にあたるメッセージなのか,あたらないものか,ということが問題になります。
上記の定義(当選目的・投票を得る効果)を元に判断します。

(2)『選挙運動』にあたる候補者応援メッセージの例

<選挙運動にあたる/あたらないメッセージの例>

あ 選挙運動にあたる

『**候補者に1票をお願いします』

い 選挙運動にあたらない

ア 『**候補者は優秀である』
イ 『**候補者は落選すべきだ』『当選すべきだ』

2 インターネットを利用した選挙運動の解禁

(1)インターネットを利用した選挙運動の解禁

平成25年の公職選挙法の改正で『インターネットを利用した選挙運動』が解禁されました。

<インターネットを利用する選挙運動の適法性>

運動する者 電子メール ウェブサイト等(※1)
政党
候補者
有権者
未成年者(※2)

※2 未成年者
『選挙運動』自体が禁止されている(後述)

(2)選挙運動に利用できるサービスは『電子メール』以外(上記※1)

一定の範囲で『利用できる』こととされたインターネット上のサービスは『電子メール』以外です。

<解禁されたインターネット上のサービス等>

インターネットを利用する方法のうち,『電子メール』を利用する方法を除いたもの
《具体例》
ア ホームページ
イ ブログ
ウ SNS(twitter,Facebook)
エ メッセンジャー(LINE・カカオトーク・SNSの機能の一部)
オ 動画共有サービス(YouTube,ニコニコ動画)
カ 動画投稿サイト(Ustream,ニコニコ生放送)
キ 掲示板(2ちゃんねる)
※公職選挙法142条の3第1項

(3)違反行為に対する罰則

選挙運動の方法が『違法』である場合,刑事罰の対象となります。
認められた方法以外でのオンライン・オフラインでの『表示・表現』行為が広く罰則の対象です。
法律上は『頒布・掲示』として規定されています。

<選挙運動|文書図画の『頒布』『掲示』|法定刑>

禁錮2年以下or罰金50万円以下
※公職選挙法142条,143条,243条1項3号,4号

なお『未成年者』の場合は別の罰則が適用されます(後述)。

3 電子メールでの選挙運動は候補者・政党のみOK,その他はNG

『電子メールを利用した選挙運動』は平成25年の公職選挙法改正で解禁されました。
しかしいくつかの『条件』があります。
まず,『誰ができるのか』について,をまとめます。

<電子メールを利用した選挙運動ができる者>

ア 政党
イ 候補者

一般の方が,電子メールで『**候補者に清き一票を』と送信するのは公職選挙法違反となります。

4 選挙運動|電子メールとその他のメッセンジャーとの区別基準

一般の方は,電子メールで応援メッセージを書くと違法ですが,その他のインターネット上への投稿・送信は適法です。
例えば,LINEやtwitter・Facebookへの投稿・個別メッセージ,のいずれも適法です。
同じような機能なのに違いが生じるのです。
これについて,法律上の規定と,その趣旨についてまとめておきます。

(1)『電子メール』を特別扱いする法律の規定

<電子メールと他のSNS・メッセンジャーの違い|法律の規定>

あ 『選挙運動』の定義(概要)

インターネットを利用した選挙運動から『電子メール』は除外する
※公職選挙法142条の3第1項

い 『電子メール』の定義

ア 特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する通信端末機器の映像面に表示されるようにすることにより伝達するための電気通信
イ 総務省令で定める通信方式を用いるもの
※特定電子メール法2条1号

う 総務省令の指定

ア その全部又は一部においてSMTP(方式)が用いられる通信方式(※3)
イ 携帯して使用する通信端末機器に,電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式
いわゆる『電話番号方式』『ショートメッセージサービス(SMS)』のこと
※特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第2条第1号の通信方式を定める省令

<電子メールとSNSの併用の場合(上記※3)>

『電子メールを送信するとFacebookに投稿されるシステム』
→『一部』は電子メールを利用している
→『電子メール』に該当する

<参考情報>

改正公職選挙法(インターネット選挙運動解禁)ガイドライン
第1版;平成25年4月26日
インターネット選挙運動等に関する各党協議会

(2)『電子メール』を特別扱いする趣旨

<選挙運動|『電子メール』がNG(LINEがOK)の理由>

あ 密室性が高い

誹謗中傷・なりすましに悪用されやすい

い 使用の際の他の規制が複雑

一般の方が意図せずに抵触し,刑事罰・公民権停止というペナルティを受けるリスクがある
※公職選挙法243条1項3号の2,252条1項,2項

う ウィルス

送信された電子メールにウィルスが潜んでいた場合,受信した有権者に過度の負担がかかる
外部サイト|総務省HP|電子メールを利用する方法による選挙運動用文書図画の頒布の解禁

5 インターネットを利用する選挙運動の条件=オンライン連絡先の表示

電子メール,それ以外のインターネットを利用した選挙運動に関しては,されに細かいルールがあります。
代表的な者が『連絡先表示』です。

<インターネットを利用する選挙運動における義務>

オンラインで連絡を取る際に必要となる情報
《具体例》
ア 電子メールアドレス
イ 送信フォームのURL
ウ SNS(twitterやFacebook)のユーザーID
※公職選挙法142条の3第3項

6 転送も『送信』になる|未成年者の『リツイート』に注意

電子メールやその他のメッセージ・文章を『転送』した場合も『送信』の一種となります。
twitterでの『転送』は『リツイート』と呼ばれる機能です。
クリック1つで送信できる非常に『気軽』なものです。
ところで,『未成年者』は『選挙運動』全般が禁止されています(上記『1』)。
電子メールは当然として,SNSの投稿・メッセージ,も公職選挙法違反となるのです。

<未成年者の選挙運動>

あ 禁止行為

『選挙運動』全般が禁止されている
※公職選挙法137条の2

い 法定刑

禁錮1年以下or罰金30万円以下
※公職選挙法239条1項1号

特に意識せず,うっかり『違法行為=犯罪』に該当してしまう,とうケースがあります。

<生じてしまいがちな『未成年者の公職選挙法違反』>

候補者や一般有権者がtwitterに『清き1票を!』と投稿

未成年者が,うっかり(気軽に)『リツイート』ボタンを押してしまう

メッセンジャーアプリ側で,未成年者の投稿に『票』というテキストが含まれていたら確認画面を出すフローを採用するものが現れるかもしれません。

関連コンテンツ|SNSの法律問題発生メカニズム|気軽→心のブレーキが効かない

7 インターネット上の選挙候補者なりすまし→刑罰の対象

インターネットを利用した選挙運動が普及すると,オンラインならではの弊害が生じる可能性があります。
想定される『なりすまし』などの行為については公職選挙法に規定が作られています。

<氏名等の虚偽表示罪>

あ 構成要件

ア 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的
イ インターネットの通信上で,真実に反する氏名,名称又は身分を表示した
平成25年改正で『インターネットによる通信』も追加された

い 法定刑

禁錮2年以下or罰金30万円以下
※公職選挙法235条の5

<虚偽事項公表罪>

あ 構成要件

ア 当選を得させない目的
イ 公職の候補者に関し虚偽の事実を公にし,又は事実をゆがめて公にした
改正前から存在する規定

い 法定刑

禁錮4年以下or罰金100万円以下
※公職選挙法235条2項

なお,公職選挙法以外にも,表現一般への罰則として,名誉毀損・侮辱罪という刑法上の犯罪類型もあります(刑法230条,231条)。
詳しくはこちら|違法な表現行為×刑事責任|名誉棄損罪・侮辱罪・信用毀損罪|違法性阻却

8 公職選挙法×投稿サイト・アプリ運営者の責任

投稿サイト・アプリ運営者は『表現』に関わる一定の関与が想定されています。
違法な投稿に関する『削除』などの手続がルール化されているのです。
詳しくはこちら|ネット上の名誉棄損など|運営者・管理人の責任|損害賠償・削除義務
この点,『選挙運動』に関するケースについては『削除しやすくする』という調整がなされています。

<選挙運動×投稿サイト・アプリ運営者の『削除』の緩和>

あ 削除同意照会期間の短縮

選挙運動に関する投稿で自己の名誉を侵害されたとする候補者・政党からの申出

運営者から投稿者に対する『削除同意照会期間』は『2日』となる
一般的なケースでは『7日』です。
※プロバイダ責任制限法3条の2第1項

い 照会なしでの削除

『連絡先表示義務』違反の投稿

運営者が照会なしで削除できる
※プロバイダ責任制限法3条の2第2項

9 公職選挙法違反がすべて『当選無効』となるわけではない

公職選挙法違反があった場合,選挙の内容,つまり『当選』が無効となることがあります。
ただし『公職選挙法違反』のすべてが『当選無効』となるわけではありません。

<当選人の『選挙犯罪』による当選無効・立候補禁止>

あ 当選人の選挙犯罪

当選人が選挙に関し公職選挙法違反で『刑に処せられた』場合
→当選を無効とする
※公職選挙法251条

い 一定の関係者の選挙犯罪

ア 対象となる者
・総括主宰者・出納責任者
・組織的選挙運動管理者
・一定の関係を有する公務員
イ 対象者の『選挙犯罪』による効果
当選無効+将来5年間の立候補禁止
※公職選挙法251条の2,251条の3,251条の4

選挙運動に関して『寄附』が問題になることも多いです。
『寄附禁止』については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|選挙運動・公務員|寄附禁止|社交辞令との限界|うちわ問題