1 『弁護士費用加算条項』を有効と認めた判決
2 弁護士費用加算条項の有効性は不確定|盛り込むメリットはある
3 弁護士費用加算条項の有効性を認めた判決の分析
4 弁護士費用加算条項の有効性についての複数の見解
5 『違約金』の内訳→『損害賠償の予定』と『違約罰』の違い
6 『損害賠償額の予定』と『違約罰』のどちらかの判別基準
7 『違約罰』(損害がないのに支払を強制)が『公序良俗違反』かどうかの判断
8 事業者vs消費者の契約では『弁護士費用加算条項』は無効となる|消費者契約法
9 マンション管理規約は『消費者契約』には該当しない|違約金条項は有効

1 『弁護士費用加算条項』を有効と認めた判決

いろいろな契約書で,次のような条項が定められることが有ります。

<弁護士費用加算条項の内容>

滞納などの契約違反があった場合,訴訟等に要する弁護士費用を滞納者・違反者が負担する(請求額に含める)

ところで,マンション(区分所有建物)では,区分所有者全員のルールとして管理規約を作ります。
詳しくはこちら|管理規約|基本|設定手続・有効性・特定の区分所有者の『承諾』
管理規約の中に,弁護士費用加算条項を作ってあるマンションも多いです。
本記事では,このような特約を有効として認めた裁判例を紹介します。

<弁護士費用加算条項の有効性を認めた判例>

マンション管理規約上の,弁護士費用加算条項を有効と認めた
※東京高裁平成26年4月16日;未確定

なお,この訴訟は上告(受理申立)がなされており,高裁判決は確定していません。
詳しい判決の説明や現時点の状況を前提とした『弁護士費用加算条項』の活用方法を説明します。

2 弁護士費用加算条項の有効性は不確定|盛り込むメリットはある

上記判例が,『弁護士費用加算条項』の有効性について,見解が統一されたわけではありません。
現時点では『有効性の見解が分かれる』状態です。
マンション管理規約に限らず,一般的な契約全般について言えることをまとめます。

<現時点での状況の整理(まとめ)>

あ 一般的な『弁護士費用加算条項』の有効性

ア 『弁護士費用加算条項』の有効性は肯定される可能性が高い+否定されるリスクもある
イ 一般的な契約において,『弁護士費用加算条項』を入れておくのは合理的

い 条件交渉の1つとしての位置付け

有効・無効のいずれの解釈もあり得る,という理解の上で,取引『条件』の1つとして交渉により設定する
※平成26年10月時点

3 弁護士費用加算条項の有効性を認めた判決の分析

『弁護士費用加算条項』を有効と認めた高裁判決が話題となっています。
これについて改めてまとめておきます。

<弁護士費用加算条項を有効と認めた判決>

あ 判決日

東京高裁平成26年4月16日

い 事案

ア 区分所有者がマンション管理費・修繕積立金を滞納
イ マンション管理組合が滞納管理費等を請求する訴訟提起
ウ 訴訟上の請求の中に『弁護士費用』を含めた

う 管理規約の規定

『区分所有者が管理組合に支払うべき費用を所定の期日までに支払わないときは,管理組合は当該区分所有者に対し,違約金としての弁護士費用を加算して請求することができる』

え 同じ内容の管理規約の普及について

上記は,国土交通省の『マンション標準管理規約』に記載されている内容
→これを採用しているマンションが全国的に多い

お 裁判所の判断(原審=東京地裁)

弁護士費用としての算定は50万円
規約を適用せず,裁判所が独自に算定

か 裁判所の判断(控訴審=東京高裁※本判決)

実際に弁護士に支払った(要した)金額全額を認めた
約102万円

き 適用される場面の範囲(射程範囲)

一般的な契約全般
マンション管理規約に限定されない
『事業者vs消費者』の契約(消費者契約)では別の規制がある(後記『8』)

4 弁護士費用加算条項の有効性についての複数の見解

上記の東京高裁の判決では『弁護士費用加算条項』を有効と認めました。
逆に言えば,『有効とは認めない』見解もまだまだ強いのです。
2つの見解について整理しておきます。

(1)弁護士費用加算条項を無効とする見解

<弁護士費用加算条項の有効性を否定する見解>

あ 『違約金』の種類=損害賠償額の予定

『弁護士費用加算条項』は『損害賠償額の予定』である(民法420条1項)
『損害賠償額の予定』は,文字どおり『損害』が生じた場合にその『金額だけ』を合意するものである
『損害賠償額の予定』は,『損害が生じてない』場合は適用されない
『弁護士費用』は『損害』に含まれない
→『債務不履行』(=契約違反)の『損害』には『弁護士費用』が含まれない。
別項目|相手に弁護士費用を請求|不法行為ではOKだが債務不履行ではNGの方向性

い 公序良俗に違反する

『弁護士費用加算条項』は,『過剰な負担』を強いるものである
公序良俗に違反する→無効である(民法90条)。

(2)弁護士費用加算条項を有効とする見解

<弁護士費用加算条項の有効性を肯定する見解>

あ 『違約金』の種類=違約罰

『弁護士費用加算条項』は『違約罰』である(民法420条3項反対解釈)
『違約罰』は『損害の発生』とは関係なく適用される
(=『損害の発生』がない場合でも問題なく発生する請求権である)

い 公序良俗に違反しない

違反者(滞納者)が『違反によって生じたコストを負担する』のは合理的である
(=『被害者』(側)がコストを負担するのは不合理である)

(3)弁護士費用加算条項の有効性の整理

判断事項 『無効』説の理由や前提 『有効』説の理由や前提
違約金の種類 損害賠償額の予定 違約罰
公序良俗違反 違反する 違反しない
消費者契約法 『消費者契約』である 『消費者契約』ではない

3つの事項ともに『有効』側の場合に初めて『有効』の結論となります。
1つの事項でも『無効』側の場合は『無効』の結論となります。
なお,『消費者契約法』に関しては後述します(後記『8』)。

5 『違約金』の内訳→『損害賠償の予定』と『違約罰』の違い

民法上,『違約金』の分類として,2種類が規定されています。

<『違約金』の内容=『賠償額の予定』と『違約罰』の定義>

あ (損害)賠償額の予定;民法420条1項

債務不履行によって『損害』が生じた場合の『損害額』を合意したもの
→『損害』が発生しない場合は適用されない

い 違約罰;民法420条3項反対解釈

債務の履行を心理的に強制することを目的とした一種の私的制裁
→『損害』が発生しない場合にも適用される

このように,『賠償額の予定』と『違約罰』の違いは『損害が発生しない時』に『支払義務が生じるかどうか』,ということです。
ところで,本高裁判決に『違約罰という見解を採用した』と明記されているわけではありません。
また,仮に『違約罰』だとしても,論理的に必ず『弁護士費用加算が有効』という結論に結びつくわけではありません。
別の見解もあるのです。
ここでは,主要な見解=『違約罰と認めて弁護士費用の加算を認めた』を前提とした分析を進めます。

6 『損害賠償額の予定』と『違約罰』のどちらかの判別基準

以上の分析によると,『弁護士費用加算条項』の性質が『損害賠償額の予定』なのか,『違約罰』なのか,という判断によって結論が決まる,ということになります。
この2つの判別基準ですが,曖昧です。

<『損害賠償額の予定』/『違約罰』の判別基準|当事者の意思>

あ 『損害』が発生しない場合は適用されない,という意思

→『損害賠償額の予定』と判断する

い 『損害』が発生しない場合にも適用される,という意思

→『違約罰』

う どちらか明確ではない(合意がない)

→『損害賠償の予定』と判断する(推定規定=民法420条3項)

要するに,認識した『効果』の発生を認める,という単純なものです。

7 『違約罰』(損害がないのに支払を強制)が『公序良俗違反』かどうかの判断

『違約罰』だとしても,公序良俗違反に該当すると,『無効』となります(民法90条)。
『公序良俗違反』は,文字どおり,『公序良俗(=常識)に違反』するかどうか,という判断です。
『合理性があるかどうか』と言うこともできます。
常識・合理性の判断要素をまとめます。

<弁護士費用加算条項×公序良俗違反の判断要素;例>

あ 負担する金額の大きさ
い 違反した内容の大きさ(非難可能性)
う 契約締結時の説明(了解)の程度
え 仮に違反者が負担しないとした場合の『負担の転嫁先』の非難可能性

<弁護士費用加算条項×公序良俗違反|事例1>

滞納額が1万円で,提訴に係る弁護士費用が合計50万円
→違反の程度に比べて,違反者の負担の大きさが『過剰に大きい』
→不合理
→公序良俗違反となる
→弁護士費用加算条項は無効

<弁護士費用加算条項×公序良俗違反|事例2>

滞納額が1000万円で,提訴に係る弁護士費用が150万円
契約締結時に全文を音読して確認してから調印
滞納の理由は単に『滞納者の急遽の資金不足』だけであり,請求者側には一切落ち度がない
請求者側は数か月に渡り,交渉を持ちかけていた
滞納者が終始,『返答自体しない』という不誠実な態度を続けていた
交渉中,請求者は何度も『提訴の予告・提訴した場合の弁護士費用の加算』について忠告していた
→合理性がある
→公序良俗違反ではない
→弁護士費用加算条項は有効

8 事業者vs消費者の契約では『弁護士費用加算条項』は無効となる|消費者契約法

『事業者vs消費者』の契約の場合は,『消費者契約法』による制限があります。
『弁護士費用加算条項』は原則的に無効となります。
本判決では『事業者vs消費者』ではないので消費者契約法は影響していません。
この点注意が必要です。

<『消費者契約』の場合の『弁護士費用加算条項』の有効性>

あ 消費者契約法の規定

消費者契約の『滞納時の損害賠償額・違約金の条項』の有効性
→年14.6%を超えた部分は無効とする
※消費者契約法9条2号

い 『弁護士費用加算条項』の有効性

次のいずれかとなる
ア 『年14.6%』を超えるので条項自体が無効
イ 『年14.6%』の範囲で有効・それを超える部分は無効

以上はあくまでも『消費者契約』の場合です。
『消費者契約』は,明確に定義されているので,次にまとめます。

<『消費者契約』=消費者契約法の適用の範囲>

用語 定義 条文(消費者契約法)
『消費者契約』 消費者と事業者の間で締結される契約 2条3項
『消費者』 非事業者の個人 2条1項
『事業者』 法人その他の団体・事業者個人 2条2項

『消費者契約』の典型例は,製品のメーカーや販売店から家庭のユーザー(消費者)が商品を購入する契約です。
例えば,ネット販売・通信販売で『後払い』の場合は,『滞納へのペナルティー』は『年14.6%』以外に付けても無効となるのです。

9 マンション管理規約は『消費者契約』には該当しない|違約金条項は有効

さらに複雑なのですが,本高裁判決における『マンション管理規約』は『消費者契約』としては扱われません。
消費者契約法では,『事業者と消費者の間の契約』は『消費者契約』と呼び,消費者契約法が適用されることになっています(消費者契約法2条1〜3項)。
マンション管理規約もこれに該当するようにも思えます。
しかし,別の判例で,『消費者契約』から除外することとされています。

<マンション管理規約が消費者契約に該当しない|判例>

あ 結論

マンション管理規約は消費者契約には該当しない

い 理由

『対等当事者間の自治』という性格

う 当該判例で有効とされた条項

管理費・修繕積立金の滞納→遅延損害金は年30%とする
※東京地裁平成20年1月18日

以上の説明で紹介した裁判例の判決文は,別の記事に掲載してあります。
詳しくはこちら|マンション管理規約の違約金に関する裁判例の判決文

本記事では,マンション管理規約の中の違約金の有効性について説明しました。
実際にマンション管理規約に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。