【民事保全に対する対抗手段(保全異議・取消・抗告・起訴命令・解放金)】
1 民事保全に対する対抗手段(保全異議・取消・抗告・起訴命令・解放金)
民事保全(仮差押・仮処分)を受けた者(債務者)は、いろいろな対抗手段をとることができます。
不服申立としての手続はもちろん、それ以外にも保全の執行を解消するための手続があります。
本記事では、このような、民事保全の執行に対する債務者の対抗手段を説明します。
2 保全処分を受けた側の対抗手段|保全異議
仮差押や仮処分の発令が間違っていたという場合の不服申立手続です。
発令した裁判所が再度、判断ミスはなかったかどうかを考慮することになります。
一般的な保全(仮処分・仮差押)を失効させる手続です。
ノーマル版保全キャンセラーとでも呼ぶべきものです。
保全異議の制度内容
あ 異議の内容 特に制限なし
例;被保全債権の不存在、担保の不足、目的物が債務者の所有に属さないなど
い 期間制限 なし
う 手続の内容
口頭弁論又は当事者双方の立ち会える審尋期日が設定される
※民事保全法29条
え 結果
異議が認められれば、保全命令は取り消される
※民事保全法26条
3 保全処分を受けた側の対抗手段|保全取消
保全(仮差押・仮処分)を失効させる形式的・明確な理由がある場合の手続です。
簡易版保全キャンセラーとでも呼ぶべきものです。
条文上、要件(取消理由)が明確に決まっています。
保全取消の理由
あ 起訴命令後に債権者が提訴しない場合
い 事情変更による保全取消
発令後の被保全債権の消滅、保全の必要性の消滅など
う 特別の事情による保全取消
仮処分命令(仮差押は含まれない)により償うことができない損害を生じるおそれがあるときなど
※民事保全法37〜39条
4 保全取消は『期間制限』なし→『決定書』の『保管期間10年』に注意
(1)保全取消では『決定書』の内容が重要
保全取消のうちメインは『事情変更による保全取消』です。
『被保全債権』『保全の必要性』が消滅した、ということを主張・立証します。
その前提として『被保全債権』『保全の必要性』をしっかりと特定します。
債務者に送達されているはずの『決定書』に記載されています。
債務者が保管していない場合は、裁判所で『謄写』すれば取得できます。
(2)裁判所の『決定書保管期間10年』に注意
ここで『保管期間』に注意が必要です。
というのは、長期間『仮差押登記がある状態』が継続していることも多いのです。
そして決定から長期間経過後に『保全取消』を申し立てるケースもよくあります。
裁判所の『決定書保管期間』は10年です。
取り寄せ(謄写)ができないということも生じます。
決定書は当事者が送達を受けたものをしっかりと保管しておくと良いのです。
公的情報の保存期間|戸籍・住民票・登記・固定資産評価証明書・裁判記録・税務申告書
5 保全処分を受けた側の対抗手段|保全抗告
保全抗告
保全異議・保全取消の裁判に対する上級審へ不服申立手段
訴訟で言うところの控訴に当たる
期間制限=送達から2週間
なお、保全抗告審での結論に対して、次のステップとしての不服申立手段はありません。
民事保全の手続の中では2審制が取られているのです。
6 仮差押・仮処分解放金|担保のチェンジシステム
最初の仮差押の発令の時点で、決定主文中で仮差押解放金の金額が設定されているはずです。
仮処分の場合は仮処分解放金が設定されることと設定されないことがあります。
いずれにしても、保全処分の際、解放金が定められている場合、債務者は解放金(金銭)を供託すれば、確実に当初の保全の執行を解消することができます。
詳しくはこちら|仮差押(仮処分)登記のある不動産の売買の決済(取下書や解放金の利用)
代わりに、供託した解放金(金銭)が押さえられている状態(ロックされている)になります。解放金の制度は、言わば担保物のチェンジシステムです。
解放金の供託による担保のチェンジ
『ア・イ』の2つが入れ替わる
ア 既に仮差押を受けた財産→ロックが外れるイ 新たに提供した金銭=解放金→ロック状態になる
実質的には保全処分自体は認めるという前提で用いる手段です。
仮処分の場合でも仮処分解放金が定められることもあります。
なお、解放金でロックを外すことについては現実的なハードルがあります。
これが、和解促進作用という副作用につながることも多いです。
詳しくはこちら|保全手続×和解|審尋期日/執行後|効力・解釈|和解促進作用
7 起訴命令申立|訴訟での審理を督促するシステム
そもそも民事保全(仮差押など)は、その後、正式な裁判で決着を付けることが予定されています。
要は暫定措置という位置づけです。
しかし、実際には、仮差押を行った後、債権者が正式な裁判を起こさない例もあります。
(例えば売買代金請求訴訟などの正式な裁判、のことを本案訴訟と呼びます。先行的・暫定的な保全と区別する呼び方です)
その場合、債務者としては、白黒決着が付かないまま=グレー状態のまま、財産のロックをされたままの状態となります。
そこで、債務者(仮差押等を受けた方)は裁判所に対して起訴命令申立をすることができます。
この申立がなされると、裁判所から債権者に対して、訴訟を起こせという命令が出ます。
制限期間内に提訴がない場合は、債務者は一方的に保全を取り消すことができます。
8 仮処分に対する代表的な対抗手段=保全異議or起訴命令申立
不当な仮差押を受けた場合の代表的対抗策
あ 保全異議を申し立てる
い 起訴命令申立
その後、本案訴訟で反論する
通常、と言いますか、より早急に仮差押を外す要請が高い、という場合は保全異議を申し立てるべきです。
保全異議の審理の中で、そもそも貸金自体が消滅したか、存続しているかを審理することになります。
ただし、この場合、後から相手方が正式な貸金返還請求訴訟を提起してきた場合、同じ内容の審理が重複して行われることになります。
保全異議の審理と貸金返還請求訴訟(本案訴訟)の審理という形で重複するのです。
その意味で、場合によっては、最初から起訴命令申立を行うこともできます。
この場合、相手方に本案訴訟を速やかに提起させることになります。
そして、本案訴訟の中で債務者サイドから積極的に反論(立証)を行えます。
もちろん、起訴命令に対して相手方が本案訴訟を提起してこなければ、保全取消の手続によって容易に保全を失効させることができます。
9 保全処分が取り消された場合の申立人の責任(概要)
保全処分は以上のような取消の手続で解消されることがあります。
その場合は、結果的に当初の保全の申立が不当だったということになります。
そこで、攻守が逆転し、保全手続の債権者(申立人)の責任が追及されることになります。
これについては別の記事で詳しく説明しています。
違法な保全の申立や執行による賠償責任の基本(違法性・過失の枠組み)
本記事では、民事保全の債務者の対抗手段を全体的に説明しました。
実際には、個別的な事情によって、最適な対抗手段は違ってきます。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。


