【即時取得(善意取得)の基本(要件・回復請求・代価請求)】

1 即時取得(善意取得)の基本(要件・回復請求・代価請求)

通常、動産の所有権を得るには、所有者から買う、あるいは贈与を受ける、という契約(合意)が必要です。
しかし、民法にはこの基本ルールの例外として、即時取得(善意取得)があります。
本記事では、即時取得に関する基本的なことを説明します。

2 所有権の移転が生じる状況の整理(前提)

非常に特殊な即時取得について説明する前に、動産の所有権が移転するいろいろなプロセスを整理しておきます。
原則は、所有者AがB(別の人)に所有権を渡す(譲渡する)というプロセスです。承継取得といいます。裏返しにすれば、所有者が合意していないのに所有権がいつの間にか移転している(自分が所有者ではなくなっている)ということはないのです。仮に動産を盗まれても、所有権は移転しないままなのです。
たとえば盗んだ人Bが、事情をまったく知らない人Cに盗んだ盗品を売った場合、原則としてCは所有権を得られません。CはAに買った動産を返還しなくてはなりません。この原則を貫くと、動産を購入する人は、後から返すことになるリスクを負っていることになります。そこで、取引を保護するため、Cが事情をまったく知らず、知らないことに過失もない場合には、特別にCに所有権を与える、という制度があります。これが即時取得です。
また、一般的に、所有者でない者が10年または20年間動産を自分の物として占有すると、取得時効により所有権を与えられます。
最後に、動産を拾った者が警察に届け出て、その後3か月間所有者が現れない場合にも、拾った人に所有権が与えられます。
このような例外的に所有権が与えられることを原始取得といいます。原始取得の場合、結果的に元の所有者から所有権が奪われます。

所有権の移転が生じる状況の整理(前提)

あ 承継取得(合意による所有権移転)

所有者AとBが所有権を移転する(譲渡する)合意をする
→合意により所有権が移転する
例=売買契約・贈与契約
※民法550条、555条

い 原始取得(合意ではない事情)

「所有者A」とは関係なく、Bが所有権を取得することがある
ア 即時取得(原始取得) 所有者以外の者から買った者など(後述)
※民法192条
イ 時効取得 長期間占有することにより所有権を得ることがある
※民法162条
詳しくはこちら|取得時効の基本(10年と20年時効期間・占有継続の推定)
ウ 遺失物の届出 遺失物を警察署に届け出て、3か月間以内に所有者が判明しない場合、拾得者が所有権を取得する
※民法240条、遺失物法4条

3 即時取得(善意取得)の要件

以上のように、原則である承継取得の例外として原始取得があり、原始取得(例外プロセス)の1つが即時取得なのです。
即時取得が成り立つのはどのような状況でしょうか。条文をみてみると、取引行為があり、平穏・公然と占有が移転して、かつ、占有を得た者が善意・無過失であった場合です。
具体例は、Aが所有する高価な機械をBに貸して、Bが使っていたところ、BがCに売ってしまった、という状況です。
売買という取引があり、表面的には平穏にBがCにその機械を引き渡しています。
最後の善意・無過失ですが、Cが、「Bが所有者である」と信じていて、かつ、信じたことに過失(落ち度)はない、という状況です。逆にいえば、Bが所有者ではないかもしれないと疑いを持って当然、という状況であれば、過失ありとなって、即時取得は成立しません。

即時取得(善意取得)の要件

あ 条文

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
※民法192条

い 取引行為の成立(要件1)

売買契約や贈与契約などが成立した

う 引渡(占有移転)(要件2)

平穏・公然と動産の占有を始めた(AがBに動産を引き渡した)
占有改定による占有移転は含まない
詳しくはこちら|占有改定の特殊性(対抗要件としての引渡・即時取得との関係)

え 善意・無過失(要件3)

B(占有取得者)が、「Aは所有者である」と信じていた(疑ってもいなかった)
かつ、Bがこのように信じたことに過失はなかった

4 即時取得(善意取得)の効果

前述の即時取得の要件のすべてを満たす場合には、占有を得た者Cが(本来は所有権を得られないのに)所有権を取得します。その結果、元所有者Aは所有権を喪失することになります。AはCに対して、返還請求ができなくなるのです。

即時取得(善意取得)の効果

あ 直接的効果

占有取得者(B)が所有権を取得する
※民法192条

い 反射的効果

元の所有者は所有権を失う
→Bに対して返還請求をすることはできない

5 現金の即時取得(否定)(参考)

ところで、即時取得が成立するのは動産だけです。では、現金(紙幣や硬貨)も動産なのだから即時取得が成立するという発想が出てきます。しかし、現金は特殊な性質をもっているので即時取得の対象から外れています。
詳しくはこちら|現金の即時取得(判例の流れ・不当利得との関係)

6 即時取得に対する盗品・遺失物の回復請求

即時取得が成立する場合、元の所有者Aは所有権を奪われます。とんでもない被害です。そこで、一定の条件で、即時取得の例外が設定されています。
それは、Aが窃盗や強盗にあった場合と、遺失した(紛失した)場合です。Aが自主的な判断(意思)で動産を誰かに渡したわけではない、という状況です。この場合にはAから所有権を奪うのはひどいです。そこで、仮にCに即時取得が成り立っている場合でも、Cは所有権を得られません。ただし期間制限があります。AがCに対して盗難や遺失から2年以内に回復請求(返還請求)をすることが必要です。この期限を超えると、即時取得は否定されなくなります。

即時取得に対する盗品・遺失物の回復請求

あ 条文

前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
※民法193条

い 「盗品・遺失物」の意味

ア 基本的な意味 「盗品」とは、窃盗または強盗によって占有者の意思に反して占有を剥奪された物をいう。
「遺失物」とは、占有者の意思によらず強窃盗以外の方法でその占有を離れた物をいう。
※川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p202
イ 詐欺→適用なし 詐欺によって占有が移転した場合は含まない
※大判明治35年11月1日
ウ 横領→適用なし 横領によって占有が移転した場合は含まない
※大判明治34年7月4日
※大判明治38年3月13日
※大判明治41年10月8日
エ 恐喝→適用なし 恐喝による占有が移転した場合は含まない
※川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p204

う 期間制限

盗難・遺失から2年間以内に回復請求をした

え 効果

要件のすべてに該当する場合、所有者が占有者に対して回復請求(返還請求)をすることができる
=即時取得は成立しない
※民法193条

7 盗品・遺失物の回復請求に対する代価請求

前述のように、Aが動産の占有を失ったプロセスが盗難と遺失(紛失)であった場合だけは、Cに即時取得が成立する状況であっても、即時取得は否定されます。つまり、CはAにその動産(現物)を返還する必要があるのです。
ここで、CはBが所有者だと信じてBからその動産を買っていた場合を想像してみましょう。Bが代金を返せればよいですが、高価な機械の代金を返せない、という状況も現実によくあります。これではCの被害も大きいです。そこで、一定の範囲で、CはAに代金を請求できることになっています。
具体的には、Cがオークションや中古品販売店で、代金を支払って買った場合です。
なお、即時取得の要件を満たしていない場合は、大原則に戻って、Cは所有権を得ないので所有者Aに動産を返還しなくてはなりません。代金の請求ができるのはCが即時取得の要件を満たしている場合が前提です。

盗品・遺失物の回復請求に対する代価請求

あ 条文

占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。
※民法194条

い 「競売」の意味

ア 基本的な意味 本条にいう「競売」には、民事執行法が規定する強制執行としての競売よび担保権実行としての競売の双方が含まれる。
さらに、これらのような公的な競売だけではなく、私的な競売も含まれると解されている。
イ インターネットオークション (インターネットオークションについて)一種の競売として、本条の適用を受けるようにも思われる。

う 「公の市場」の意味

ア 基本的な意味 本条にいう「公の市場」とは、公設の市場を指すわけではない。
公設の市場に限らず、広く一般人を買い手として想定した店舗もこれに含まれる。
イ 売買仲介サイトによる商品購入 ・・・蚤の市(フリーマーケット)のようなものが本条にいう「公の市場」に該当するのであれば、売買仲介サイトもインターネット上で同様のものが展開されているといってよいのかもしれない。
目的物が盗品遺失物かどうか、買主の側で知ることができない点は共通しているからである。
上記のような場面での取得者(取引の安全)を保護すべきかどうかという観点から、本条の適用の可否が検討されることになろう。

え 「目的物と同種の物を販売する商人」の意味

本条にいう「同種の物を販売する商人」とは、行商人のように店舗を持たない商人を指すと解されている。

お 主観的要件(「善意」の解釈)

「善意」とは「善意無過失」であるという解釈がある
(売主が所有者であると信じた+信じたことに過失はなかった)
しかし、多くの状況で、どちらでも結果に違いは生じない
※藤澤治奈稿/小粥太郎編『新注釈民法(5)』有斐閣2020年p210〜213

か 効果

要件のすべてに該当する場合、(回復請求の時、または返還した時に)占有取得者は所有者に対して代価(購入した代金と同額)を請求することができる
=所有者は代価を支払って現物を返還してもらえることになる

8 古物商・質屋の代価請求の適用除外

以上のように、Aが盗難か遺失(紛失)によって動産の占有を失った場合で、Cに即時取得が成立していて、かつ、Cがオークションや中古品販売店で買った、という場合には、現物をAに返還する必要はあるが、代金の請求ができることになりますが、これにも例外があります。それは、C(占有を取得した者)が古物商か質屋であった場合です。この場合は現物を返還する、代金の請求はできないという結論になります。ただし、この特例が適用されるのは、盗難や遺失の時から1年間限定です。1年経過後だと、代金の請求ができることになります。

古物商・質屋の代価請求の適用除外

あ 民法194条の適用除外

古物商・質屋に対して、盗難または遺失の時から1年以内に回復請求をする場合には民法194条の適用はない
=盗品・遺失物を公の市場などで善意で買い受けた場合でも、無償で返還しなくてはならない
※古物営業法20条
※質屋営業法22条

い 1年経過後の回復請求

盗難または遺失の時から1年が経過した後に回復請求をする場合
民法194条の適用除外にはならない(=適用される)
=所有者は代価を支払って現物を返還してもらえることになる

本記事では、即時取得の基本的なことを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、即時取得(動産の盗難や紛失)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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