【背任罪の基本(条文と背任行為の各要件の解釈・判断基準)】
1 背任罪の基本(条文と解釈)
背任罪に該当するかどうかがはっきりしないという事例がよくあります。
本記事では、背任罪の条文と基本的な解釈を説明します。
なお、会社の役員などが背任行為を行った場合は、通常の背任罪ではなく、特別背任罪が成立します。
詳しくはこちら|特別背任罪(会社法960条)の基本(条文・法的位置づけ)
2 背任罪(刑法247条)の条文規定
まず最初に、背任罪を規定する刑法247条の条文を押さえておきます。
背任行為の内容(構成要件)が少し分かりにくい表現で示されています。
背任罪(刑法247条)の条文規定
(背任)
第二四七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
3 背任罪の構成要件と法定刑
背任罪の条文上の構成要件(前記)は少し分かりにくいので、4つの要素に分解します。
背任罪の構成要件と法定刑
あ 構成要件
ア 他人のための事務処理者がイ 図利・加害目的でウ 任務違背行為を行いエ 財産上の損害を生ぜしめる
い 法定刑
懲役5年以下or罰金50万円以下
4 『事務処理者』の意味
背任罪を行う者(主体)は事務処理者に限定されています(前記)。
事務処理者とは、一定の権限を与えられている者という意味があります。
『事務処理者』の意味
あ 背任の本質
背任の本質は与えられた事務の濫用である
本人の権利・義務を左右できる権限が必要である
い 包括的事務
事務に裁量性がなければ、権限の『濫用』の問題は生じない
背任罪の『事務』は、包括的なもの(包括的事務)であることが必要である
機械的義務は含まない
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p279
う 単独での処分権限(不要)
包括的事務である限り、行為者が単独で処分し得るものに限らない
他の者の決裁によって行われる事務であってもよい
※最高裁昭和60年4月3日
5 『任務違背行為』の意味
背任行為の本質部分は任務に反するというところにあります。
任務違背(行為)といいます。次のように、一定の判断基準があります。しかし、実際の行為について、ハッキリと判定できないこともあります。
『任務違背行為』の意味
あ 背信説(判例・通説)
任務違背行為とは、信義誠実義務に反する行為である
※大判大正3年6月20日
信任関係に違背した行為である
※大谷實著『刑法講義各論 新版第4版補訂版』成文堂2015年p330
い 基本的判断基準
ア 判例与えられた裁量の範囲内であれば、不適切な行為でも任務違反にはならない
裁量を逸脱した(権限を濫用した)場合に任務違背行為となる
※最高裁昭和47年3月2日;逸脱あり→背任罪が成立
イ 学説信義誠実の原則に従い、社会通念に照らして、通常の事務処理の範囲(事務処理の通常性)を逸脱していたかどうかによって決まる
う 裁量逸脱(濫用)の判断基準
ア 裁判例裁量権の逸脱(濫用)の有無について
→与えられている権限を基礎に、会社の内規や取引のマニュアル、その業界の慣行などを考慮して具体的に判定する
※東京地裁平成21年9月18日
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p281
イ 学説(事務処理の通常性の判断)具体的状況に照らして当該事務について定める法令、官公署における通達や内規、一般の組織体においては業務執行に関する規定や定款、業務内容、さらに法律行為においては委任の趣旨などを検討したうえで、信義則に基づき社会通念に照らして決定される
※大谷實著『刑法講義各論 新版第4版補訂版』成文堂2015年p330
6 『図利・加害目的』の判断
背任行為の要件(構成要件)の中に、図利・加害目的があります。
実際には委託している者(本人)のためなのか、行為者自身のためなのかがハッキリしないことがあります。
基準としては、主たる目的がどちらであるか、ということによって判定します。
『図利・加害目的』の判断
あ 現実的な状況
本人(会社)のためか、自己・第三者のためか曖昧な場合が多い
い 判断基準
具体的事情を精査し、主たる目的がいずれであるかで判定する
※最高裁昭和29年11月5日
7 『財産上の損害』の意味
背任行為の要件の中に、財産上の損害があります。
他の財産に関する犯罪と異なり、損害の意味は、全体財産が減少することです。
財産が流出する行為でも、別の機会に財産を得るようなケースでは、全体の財産は減少していないので、損害は生じていないことになります。
『財産上の損害』の意味
あ 全体財産の減少
損害とは、全体財産の減少を意味する
※大谷實著『刑法講義各論 新版第4版補訂版』成文堂2015年p332
い 損害が否定される典型例
いずれ当然なすべき支出であれば
(任務に背いて支出したとしても)会社に損害はない
→背任罪は成立しない
※最高裁昭和28年2月13日
8 背任行為にあたるかどうかの実例(概要)
以上のように、背任行為(背任罪)の個々の要件は抽象的なところが多いです。
そのため、具体的行為が背任に該当するかどうかをハッキリと判定できないこともよくあります。
これについては、実際の裁判の中で、どのような事情を元にどのように判断されたのかを知ることが役立ちます。
実例(裁判例)については別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|背任罪の具体例(任務違背・図利加害目的の判断をした裁判例)
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。


