【不動産侵奪罪の成否の判断の具体例(裁判例など)】

1 具体的事例についての不動産侵奪罪の成否
2 土地について不動産侵奪罪の典型例
3 建物について不動産侵奪罪の典型例
4 利用権原を超えた行為による不動産侵奪罪
5 退去要求の無視による不動産侵奪罪
6 掘削と土砂の投棄による不動産侵奪罪
7 『新たな占有』が否定される例
8 小屋から倉庫への改築と『新たな占有』(肯定)
9 屋台から風俗営業用への改装と『新たな占有』(肯定)

1 具体的事例についての不動産侵奪罪の成否

土地や建物に関する民事的なトラブルのケースで不動産侵奪罪が問題となることがあります。
不動産侵奪罪の解釈や理論については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産侵奪罪の条文規定と理論や解釈
本記事では,具体的な状況について,不動産侵奪罪が成立するかどうかを説明します。

2 土地について不動産侵奪罪の典型例

まず,不動産について不動産侵奪罪が成立する典型的な事例を紹介します。

<土地について不動産侵奪罪の典型例>

あ 土地の造成・建造物の建築

勝手に造成し建造物を建てる行為
※福岡高裁昭和62年12月8日

い 塀の設置+監視

塀を設けて監視する行為

う 第三者による建造物の建築

他人の土地を勝手に売却し第三者に建造物を建築させる行為
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p178

3 建物について不動産侵奪罪の典型例

建物について不動産侵奪罪が成立するケースもよくあります。
典型例を紹介します。

<建物について不動産侵奪罪の典型例>

あ 空室の占有

空室を勝手に使用して占有者の支配を排除する行為
=占有者の立ち入りを不能にする行為
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p178

い マンションの占有の具体例(概要)

マンションの1室について
立入禁止の貼紙+出入口ドアの錠前の交換
→不動産侵奪罪の実行の着手に該当する
※大阪高裁平成11年8月27日
詳しくはこちら|不動産侵奪罪の条文規定と理論や解釈

4 利用権原を超えた行為による不動産侵奪罪

不動産侵奪罪が成立するかどうかがよく分からない状況は実際によくあります。
その1つとして,もともと占有権原があった者の行為があります。
占有権原があったとしても,逸脱の程度が激しい場合は『侵奪』に該当します。
つまり,不動産侵奪罪が成立することがあるのです。

<利用権原を超えた行為による不動産侵奪罪>

あ 事案

事実上廃業状態となっていた工務店が土地を所有していた
Aは土地の利用権を有していた
Aが,土地に廃棄物を高さ約13メートルに堆積させた
→原状回復を困難にした
=土地の利用価値を喪失させた
Aの行為は利用権限を超えていた

い 裁判所の判断

『侵奪』に該当する
→不動産侵奪罪が成立する
※最高裁平成11年12月9日

5 退去要求の無視による不動産侵奪罪

簡易なバリケードでも,退去要求を無視している程度・期間によっては『侵奪』に該当します。
つまり,不動産侵奪罪が成立します。

<退去要求の無視による不動産侵奪罪>

あ 事案

都の公園予定地の一部において
Aは角材やビニールシートなどで簡易な工作物を構築した
Aには占有権原はなかった
Aは相当期間にわたり,退去要求に応じなかった

い 裁判所の判断

『侵奪』に該当する
→不動産侵奪罪が成立する
※最高裁平成12年12月15日

6 掘削と土砂の投棄による不動産侵奪罪

土地を掘削して土砂を投棄したというケースがありました。
土地所有者としては事実上土地を利用できない状況になり著しい迷惑を受けます。
一方,外部から何か物を持ち込んだ,というわけではありません。
このケースについて,不動産侵奪罪の成立を認めた裁判例を紹介します。

<掘削と土砂の投棄による不動産侵奪罪>

あ 事案

Aは無断で他人所有の土地甲を掘削した
Aは,その土砂を土地甲に投棄した

い 裁判所の判断

『侵奪』に該当する
→不動産侵奪罪が成立する
※大阪高裁昭和58年8月26日

7 『新たな占有』が否定される例

もともと不動産を占有していた者でも,その後の行為が不動産の『侵奪』に該当することがあります。
『新たな占有』といえるほどに占有の質が変化したという状況です。
詳しくはこちら|不動産侵奪罪の条文規定と理論や解釈
ここで,『新たな占有』が否定される,つまり,不動産侵奪罪が成立しないことになる典型例をまとめます。

<『新たな占有』が否定される例>

あ 賃貸借契約終了後の不退去

借家人が賃貸借契約の終了後に居座る行為
→『新たな占有』はない

い 借地上の建物の用途の変更

借地人Aは借地上に事務所を建築した
Aは地主の承諾なしで建物に水道施設などの工事を行った
建物を居住の用途に変えた
→『新たな占有』はない
※東京高裁昭和53年3月29日

8 小屋から倉庫への改築と『新たな占有』(肯定)

もともと不動産を占有していた者でも,その後の行為が不動産侵奪罪に該当することがあります(前記)。
不動産侵奪罪が成立した具体例として,小屋から倉庫に改装したケースを紹介します。

<小屋から倉庫への改築と『新たな占有』(肯定)>

あ 事案

Aは,他人の小屋を物置として無駄で使用していた
一部が損壊したので,Aは自費でトタンによる修復をした
地主は黙認した
その後,小屋の一部が再び損壊した
Aは,コンクリートなどを用いて倉庫に改築した

い 裁判所の判断

『新たな占有』がある
=占有態様を変更したといえる
→不動産侵奪罪が成立する
※最高裁昭和42年11月2日

9 屋台から風俗営業用への改装と『新たな占有』(肯定)

屋台限定の土地の貸与の後に,転貸や風俗営業用の施設への改装がなされたケースで,『新たな占有』が認められました。
つまり,不動産侵奪罪を認めたという内容の判例です。

<屋台から風俗営業用への改装と『新たな占有』(肯定)>

あ 事案

土地所有者はAに対して土地を無償で貸した
『転貸禁止,屋台営業のみ可』という約定があった
AはBに同じ条件で転貸した
BがCに同じ条件で転貸した
Cは,8個の個室を作った

い 個室の具体的内容

土台=ブロックを設置した
メインの材質=角材・コンクリートパネル・化粧ベニヤなど
個室の構造=各室にシャワーや便器を設置した
用途=風俗営業のための店舗

う 裁判所の判断

Cの行為は『新たな占有』といえる
=占有態様を変更した
→不動産侵奪罪が成立する
※最高裁平成12年12月15日

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