1 不動産侵奪罪の条文規定
2 『不動産』の解釈
3 『侵奪』の解釈
4 境界標の変動と『侵奪』該当性
5 『侵奪』と支配の継続
6 『侵奪』と『新たな占有』(占有態様の変更)
7 不動産侵奪罪の具体例(概要)

1 不動産侵奪罪の条文規定

不動産侵奪罪は,土地の境界や越境の民事的トラブルで関係することがあります。
詳しくはこちら|土地境界のトラブルの解決手続の種類や方法の全体像
本記事では,不動産侵奪罪に関する解釈や理論を説明します。
まず,不動産侵奪罪の条文に定められている構成要件と法定刑をまとめます。

<不動産侵奪罪の条文規定>

あ 構成要件

他人の不動産を侵奪した

い 法定刑

懲役10年以下
※刑法235条の2

2 『不動産』の解釈

不動産侵奪罪の『不動産』は一般的な民法の扱いと違うところがあります。

<『不動産』の解釈>

あ 民法上の意味

不動産とは『ア・イ』のことである
ア 土地
イ 土地の定着物
※民法86条1項

い 『土地』の意味

地面のみではなく,その上空の空間・地下を含む

う 『土地の定着物』の意味

民法上は立木も不動産に含まれる
しかし,立木の占有侵奪は窃盗罪を構成する
→刑法235条の2では,建物に限定される
※最高裁昭和25年4月13日

3 『侵奪』の解釈

不動産侵奪罪の『侵奪』は,占有移転とほとんど同じ意味です。
ただし,まったく同じではありません。

<『侵奪』の解釈>

あ 侵奪の意味

不法領得の意思をもって,他人の不動産についてその占有を排除し,自己or第三者の占有を設定すること
※最高裁平成12年12月15日

い 『侵奪』該当性の判断基準(※1)

侵奪に当たるかどうかについて
『ア〜カ』を総合的に判断し,社会通念に従って判断する
ア 不動産の種類
イ 占有侵害の方法,態様
ウ 占有期間の長短
エ 原状回復の難易度
オ 占有排除と占有設定の意思の強弱
カ 相手方に与えた損害の有無
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p178

う 法律上の占有(否定)

ア 事実上の侵害の限定
占有の侵害は事実上のものに限られる
イ 否定される具体例
共有登記を勝手に個人名義に変更する行為について
→法的占有を侵害している
しかし,侵奪には含まれない
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p178

4 境界標の変動と『侵奪』該当性

実務では,隣地間の境界のトラブルの中で,境界標を動かされた時に,不動産侵奪罪として警告や告訴をするというがあります。
ただし,不動産侵奪罪が成立するのは,結果として境界が判別できなくなった場合に限られます。

<境界標の変動と『侵奪』該当性>

あ 『侵奪』該当の可能性

他人の隣地を取り込む目的で境界の標識をずらす行為
侵奪に該当する可能性がある

い 『侵奪』に該当しない例

境界標を壊し境界を判別できなくした行為について
→他人の不動産に占有を設定していない
→『侵奪』には該当しない
なお,境界損壊罪は成立する
※刑法262条の2
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p178

5 『侵奪』と支配の継続

不動産侵奪罪が成立するためには,占有を侵害した者の占有がある程度継続することが必要です。
最初から一時的である前提のケースでは『侵奪』とはいえず,不動産侵奪罪は成立しません。

<『侵奪』と支配の継続>

あ 占有の継続の必要性

『侵奪』といえるためには
事実支配が一定期間継続することを要する
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p179

い 占有の継続が否定される例

ア 空家で一夜を過ごした
イ 空地を排水口として一時利用した
※大阪高裁昭和40年12月17日

う 占有の継続が肯定される例

ア 事案
Aは,マンションの1室に立入禁止の貼紙をした
Aは,出入口ドアの錠前を交換した
イ 裁判所の判断
『侵奪』に該当する
(不動産侵奪罪の実行の着手に該当する)
※大阪高裁平成11年8月27日

6 『侵奪』と『新たな占有』(占有態様の変更)

元々占有していた者は,その後に占有を取得することはないように思えます。
しかし,占有の質が変化した場合には『侵奪』に該当します。

<『侵奪』と『新たな占有』(占有態様の変更)>

あ 新たな占有の設定の必要性

『侵奪』といえるためには
新たな占有を始めることが必要である
=占有態様が質的に変化した(変更した)ことが必要である

い 判断基準との関係

占有態様の変化(あ)は
『侵奪』該当性の判断基準(前記※1)で判断する
この判断における判断材料(要素)になるという位置づけである

う 占有が否定される典型例

Aは適法に占有を始めた
その後,占有が不法になった
→占有が継続している
新たな占有の設定がない
→不動産侵奪罪は成立しない
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p179

なお,民法上,新権原による占有という概念があります。
詳しくはこちら|相続×取得時効|自主占有の判断|数次相続×新権原
占有の質の変化によって法的な効果が生じるという意味では不動産侵奪罪の『新たな占有』と同じです。
しかし,その内容はまったく異なります。

7 不動産侵奪罪の具体例(概要)

実際には,不動産を利用する状況で,不動産侵奪罪に該当するかどうかが問題となることは結構あります。
別の記事で,多くの具体的な状況について,不動産侵奪罪が成立するかどうかを説明しています。
詳しくはこちら|不動産侵奪罪の成否の判断の具体例(裁判例など)