【告訴・親告罪の基本(告訴権者・提出先・事件の移送)】

1 告訴権者は被害者

刑事事件の被害を受けた人は、「告訴」をすることができます。
犯罪行為を捜査機関に申告し、処罰を求める意思表示、とされているのです。
この点、似ているけど別の手続もあります。

『告訴』に似ている手続

告発 被害者以外の第三者による手続 『被害届』 『処罰を求める意思表示』が含まれない

2 告訴の届出先は犯行場所を管轄する検察庁か警察署

(1)告訴の届出先機関

告訴を届け出る「捜査機関」としては、「検察官」、「司法警察員」とされています(刑事訴訟法241条1項)。
現実的には、検察庁か警察署が窓口となります。

(2)告訴の管轄

告訴の提出先としては、法律上、特に規定がありません。
管轄は適用されないこととなっています(犯罪捜査規範63条)。
ですから、理論上はどの警察署でもどの検察庁でも提出できることになります。
ただし、実際に告訴が受理された後のことを考えると、犯行場所に近い方が良いことになりましょう。
なお、犯罪捜査規範においては、告訴と並んで、自首も管轄なしとなっています。

(3)事件の移送により管轄が変わることがある

仮に、敢えて不便な場所に告訴がなされたとします。
これ自体は適法ですので、理論上拒否できません。
このような場合は、適切な警察署や検察庁に事件が移送されます(犯罪捜査規範69条)。
要は、担当部署が変更になる、という意味です。
詳しくはこちら|告訴・告発の基本|受理の拒否・民事不介入|虚偽告訴罪による反撃

(4)告訴先の選択→犯罪場所の警察が適切(概要)

では実際に、どこに告訴する(告訴状を提出する)のが適切なのか、ということが問題となります。これについては通常、犯罪場所の警察が適切であることが多いです。
詳しくはこちら|告訴(申告相談)先の選択(警察・検察のどちらが適切か)

3 親告罪では告訴がないと刑事裁判ができない

一定の犯罪類型(罪名)は、告訴がないと起訴できないこととされています。
これを「親告罪」と言います。
逆に、告訴がなくても起訴できる犯罪類型は「非親告罪」と言います。

条文上、明確に親告罪/非親告罪が分かれています。
順に説明します。

(1)強制性交罪(法改正前の強姦罪)

非親告罪です。平成29年の法改正の前は「強姦罪」という名称で、(集団強姦の場合や強姦致死傷の場合を除いて)親告罪でした。
現在では(一律に)非親告罪となっています。

(2)強制わいせつ罪

非親告罪です。これも平成29年の法改正の前は親告罪でしたが変更されました。

(3)痴漢(都道府県の条例違反)

いわゆる痴漢は、その態様によって、強制わいせつ罪に該当する場合と、都道府県の条例違反に該当する場合があります。
詳しくはこちら|痴漢;法的な罪名,量刑相場
強制わいせつ罪に該当する場合は前記のとおりです。
都道府県の条例違反に問われる場合は次のとおりです。
→親告罪ではない。

正確には、各都道府県の条例によって決まっています。
一般的には、親告罪として規定されていることはありません(少なくとも、現在の東京都及び埼玉県の場合は非親告罪です)。
性的な犯罪ではありますが、態様が比較的(強姦などと比べて)軽度です。
強姦や強制わいせつほど被害者のプライバシー保護の必要性は高くないと言えます。
逆にいえば、被害者の性的プライバシーの保護を必要とするほど悪質なものは、強制わいせつとなり、親告罪となるわけです。

4 性的な犯罪類型は被害者のプライバシーの配慮のため親告罪とされている

性的な犯罪については、被害者の気持ちとして、敢えてオオゴトにしたくないというものもあり得ます。
そこで、告訴がないと起訴できない、というルールが設定されているのです(親告罪)。

被害者の気持ちへの配慮がその趣旨ということになります。
被害者のプライバシーの保護、と言うこともできます。

5 告訴がない親告罪について、通常は捜査も行なわない

親告罪のルール内容は、告訴がないと起訴(公訴提起)ができないというものです(刑法180条等)。
杓子定規に考えれば、告訴がなくても、捜査はできる、ということになります。

しかし、捜査の目的は起訴して犯人に刑を課す、というものです。
起訴しない前提で捜査を行うのは無意味です。
さらに親告罪の趣旨として被害者のプライバシー保護も含まれます。
捜査をすること自体がプライバシーを害することにもなります。

そこで、実際の運用としては、親告罪の告訴がない場合は、捜査自体を進めない、ということが通常です。

6 告訴の後に警察が捜査をする義務の有無(概要)

ところで、告訴をした場合に警察や検察(捜査機関)が法的に捜査をする義務を負うかどうか、という問題があります。これについては否定する見解が一般的です。
詳しくはこちら|警察・検察が捜査をする義務(不履行の違法性)の基本
しかし、警察の対応でこれからの犯罪(による被害)を阻止できるという状況では、犯罪を阻止する義務が認められることがあります。
詳しくはこちら|警察が捜査などにより犯罪被害を阻止(防止)する義務(不履行の責任)

本記事では、親告罪における告訴の基本的事項を説明しました。
実際には個別的な事情によって法的な扱いが違ってくることがあります。
実際に親告罪の告訴に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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