どのような場合に「痴漢」となるのですか。
検挙されるとその後どうなるのでしょうか。
「痴漢」は法律的な用語ではありません。
迷惑防止条例違反か強制わいせつ罪に該当することになります。
事情によっては,逮捕,起訴,ということもあります。
量刑相場としての目安も説明します。
示談が成立すれば軽くなるので,弁護活動の重要なところです。

1 痴漢の正式な罪名は強制わいせつ罪または迷惑行為防止条例違反である
2 迷惑防止条例違反と強制わいせつの判別は下着の中に手を入れたかどうか
3 痴漢により逮捕されることも多い
4 痴漢の分類による量刑相場,親告罪/非親告罪
5 弁護活動による量刑への影響は大きい時もある
6 痴漢の冤罪は立証が困難であり,有罪推定に陥る

1 痴漢の正式な罪名は強制わいせつ罪または迷惑行為防止条例違反である

いわゆる痴漢は俗称です。
各都道府県の迷惑防止条例違反または刑法上の強制わいせつ罪に該当することとなります(東京都迷惑防止条例5条,刑法176条)。
条例については,都道府県により法定刑が異なることがあります。
それ以外の内容について,原則として違いはありません。
以下,東京都の条例を前提として説明します。
また条例違反と強制わいせつ罪の総称として痴漢の用語を使います。

2 迷惑防止条例違反と強制わいせつの判別は下着の中に手を入れたかどうか

条例や刑法の条文では,次のように規定されています。

痴漢に関する条文上の規定>

ア 『衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること』(東京都迷惑防止条例5条1項1号)
 羞恥・不安を生じる態様,という前提があります(同1項本文)。
イ 『わいせつな行為』(強制わいせつ罪;刑法176条)

条文上はこれ以上詳しい定義規定などはありません。
多くの裁判例では,下着の中まで手を入れたかどうかで振り分けています。

3 痴漢により逮捕されることも多い

逮捕されるかどうかは,痴漢という罪の種類だけで決まるわけではありません。
前科前歴,罪を認めているかどうか,示談しているかどうか,職業,同居人などがポイントとなります。
別項目;逮捕の要件

4 痴漢の分類による量刑相場,親告罪/非親告罪

(1)法定刑

法規上,規定されている刑罰内容を法定刑と言います。
それぞれの法定刑は次のとおりです。

<法定刑>

あ 迷惑防止条例違反

懲役6か月以下or50万円以下の罰金(地域によっては100万円)

い 強制わいせつ罪

懲役6か月~10年

(2)量刑相場

実務上,最終的に課される刑罰の内容を量刑と言います。
平均的な量刑の相場を説明します。

<量刑相場>

あ 迷惑防止条例違反

罰金30万円程度

い 強制わいせつ罪

懲役6か月~2年
執行猶予が付くこともあります。

なお,以上はあくまでも平均的な目安です。
当然,事情によって大きく異なるばあいもあります。
例えば,同じ種類の前科がある場合は条例違反の罰金は50万円程度になることもよくあります。
また強制わいせつ罪でも,前科がなければ執行猶予が付けられる可能性は高いです。

(3)親告罪/非親告罪

強制わいせつ罪は親告罪です。
迷惑防止条例違反については,通常は非親告罪です。
別項目;親告罪では告訴がないと刑事裁判ができない

5 弁護活動による量刑への影響は大きい時もある

痴漢のケースでは,冤罪ではない限り,弁護活動の中心は示談交渉となります。
示談が成立し,かつ,被害者から処罰の希望を撤回してもらえば,不起訴となることも十分にあり得ます。
処罰の希望の撤回のことを宥恕(ゆうじょ)と呼んでいます。

ただし,同じ種類の前科があるなど,不利益な事情がある場合は示談が成立しても起訴される可能性が高まります。

6 痴漢の冤罪は立証が困難であり,有罪推定に陥る

痴漢のケースで難しいのは,客観的な証拠があまりない,ということです。
典型的な満員電車内での痴漢では,ビデオ動画が残されているわけでもありません。
また,一部始終を多くの人が注視していた,ということもあまりありません。
仮に目撃者が居たとしても,人を取り違える可能性もあります。
犯行の立証が難しいのです。

逆に,目撃者,被害者に見間違えられた場合,これを覆して無実を晴らすのも難しいのです。

実際に,被疑者としては認めていないけども,逮捕されたので,早期に釈放されたいがために示談を行ったということもあるようです。
裁判で無罪になった数以外にも起訴されていない事案の中に一定の冤罪が含まれていると思われます。

条文

[東京都公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例;迷惑防止条例]
(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第五条
何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
(罰則)
第八条
次の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第二条の規定に違反した者
二 第五条第一項又は第二項の規定に違反した者
三 第五条の二第一項の規定に違反した者
2 前項第二号(第五条第一項に係る部分に限る。)の罪を犯した者が、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影した者であるときは、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

[埼玉県迷惑行為防止条例]
(粗暴行為等の禁止)
第二条
4 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、他人に対し、身体に直接若しくは衣服の上から触れ、衣服で隠されている下着等を無断で撮影する等人を著しく羞(しゆう)恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
(罰則)
第十二条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第二条第四項の規定に違反した者
2 常習として前項の違反行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

[刑法]
176条(強制わいせつ)
13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。