1 起訴するかどうかは検察官に大きな裁量がある;起訴独占主義,起訴便宜主義
2 不起訴処分には3種類がある;起訴猶予,嫌疑不十分,嫌疑なし
3 犯罪成立が明確,という場合でも不起訴になることがある;起訴猶予
4 不起訴処分になると前科としてカウントされない
5 不起訴処分告知書
6 不起訴は一時不再理の対象外,検察審査会の審査や再起はあり得る
7 小さめの罪名を選択して起訴することもある;『のんで起訴』
8 公訴時効|一定期間の経過により刑事責任から逃れる制度

1 起訴するかどうかは検察官に大きな裁量がある;起訴独占主義,起訴便宜主義

立件された刑事事件について,捜査後に起訴するかどうかは検察官が判断します。
これを起訴独占主義起訴便宜主義と言います(刑事訴訟法247条,248条)。
なお,例外的な手続もあります。
別項目;『起訴議決』の後は,起訴→公判遂行を指定弁護士が行う
別項目;警察官の犯罪について不公正な不起訴処分がなされたら準起訴手続ができる

起訴に関する最終的な検察官の処分は次のようになります。
終局処分と呼ぶこともあります。

<捜査後の検察官の終局処分>

公判請求(起訴) 正式な刑事裁判にかける手続
略式起訴 略式裁判により罰金を課するという手続
不起訴 起訴しない,という処分

統計上,検察官は立件された事案の半数程度を不起訴処分としています。

2 不起訴処分には3種類がある;起訴猶予,嫌疑不十分,嫌疑なし

(1)不起訴処分の理由と種類

不起訴処分には,その内容が3種類あります。
不起訴にする理由は複数あるのです。

次にまとめます。

<不起訴処分の種類>

あ 起訴猶予

※事件事務規程72条2項20号
証拠は十分ではあっても,被疑者の状況から,敢えて手続きを終了させて,自発的更正に期待する,というものです。
条文(刑事訴訟法248条)では,次のような判断要素が記載されています。
・被疑者の性格,年齢,境遇
・犯罪の軽重
・情状
・犯罪後の情況

い 嫌疑不十分

※事件事務規程72条2項18号
証拠が乏しい場合は,仮に公訴提起をしたとしても,立証不十分で無罪となる可能性があります。
仮に無罪ということになれば,重大な人権侵害であり,政府が刑事補償の責任を負うという大問題になります(憲法40条,刑事補償法)。
そこで,検察官は公訴提起の際は証拠が揃っているかどうかを慎重に検討するのです。
なお,この場合,検察内部での裁定(決裁)においては,嫌疑不十分という主文になります(事件事務規程72条2項18号)。

う 嫌疑なし

※事件事務規程72条2項17号
証拠がないために不起訴処分とすることです。
典型例は,真犯人が発見された場合,つまり,誤認捜査・逮捕だった場合です。

(2)起訴裁量と民事的損害賠償が関連することもある

交通事故に関しては,損害賠償という民事的なプロセスと関連します。
別項目;交通事故発生時の警察への届出義務;事故証明書,刑事手続と損害賠償の関係

3 犯罪成立が明確,という場合でも不起訴になることがある;起訴猶予

起訴猶予となれば,裁判を受けること自体から解放されます。
実質的には無罪判決以上とも言えましょう。
重要なポイントをまとめます。

<起訴猶予を獲得するポイント>

・被害が大きくない
・被害弁償をしている
・被害者の処罰感情の程度が低い
・前科・前歴がない(少ないか,あっても長期間が経過している)
・強く反省している態度が表れている

4 不起訴処分になると前科としてカウントされない

起訴猶予の場合は,証拠は万全だけど政策的に起訴しない,という趣旨です。
犯行自体は明白になっています。

しかし,『前科』とは,『有罪判決を受けた』場合のことです。
起訴猶予は判決ではありません。裁判所ではなく検察官の判断です。
前科に該当することはありません。
だからこそ,不起訴処分の獲得は非常に貴重なのです。

5 不起訴処分告知書

不起訴処分,というのは検察官の職務として大きなものです。
当然,被疑者を含む当事者にとっても重大な意義のあるものです。
そこで,不起訴処分,という結果とその理由を書面で受け取ることができます(刑事訴訟法259条〜261条,事件事務規程76条)。

6 不起訴は一時不再理の対象外,検察審査会の審査や再起はあり得る

(1)不起訴処分に対する検察審査会の審査

告訴人や被害者としては,不起訴処分に不満を持つことがあります。
このような場合には,検察審査会の審査という手続があります。
これにより,検察官が再検討したり,強制的な起訴に至ることもあります。
別項目;不起訴処分に対して検察審査会の審査申立ができる

(2)不起訴処分は一事不再理の対象外;再起があり得る

『有罪や無罪の判決』が確定したら,その後に裁判をやり直すことは禁じられています。
二重の危険を排除するという趣旨の制度で,一時不再理と呼ばれています(憲法39条,刑事訴訟法337条1号)。

しかし,『不起訴処分』は検察官の処分です。
裁判ではありません。
確定という概念もありません。

そこで,不起訴処分になった案件について,再び捜査,起訴するということは法的に禁じられていません。
特殊な事情がある場合は,後日捜査が再開され,公訴されることもあります(事件事務規程3条(6))。
これを再起と呼んでいます。

再起が行われる典型例は,被疑者が被害者への攻撃的なこと(報復)をしている,などの特殊事情がある場合です。

7 小さめの罪名を選択して起訴することもある;『のんで起訴』

実際の犯罪行為の中には,個別的事情により,ストレートに該当する罪名だと過剰という場合があります。
その場合に,起訴する際に検察官が敢えて小さめの罪名を選択することがあります。
『大きい罪名をのむ』という業界用語があります。
不起訴にするまで情状が軽くないけれど,ストレートに起訴するには重い,という場合が対象です。

8 公訴時効|一定期間の経過により刑事責任から逃れる制度

犯罪にも『時効』制度があります。
一定の時間の経過により『公訴(刑事訴訟の提起)ができなくなる』というものです。
まず,『公訴時効の期間』をまとめます。

(1)公訴時効の期間

<公訴時効の期間;刑事訴訟法>

あ 人を死亡させた×死刑に当たる;条文は削除済
法定刑 時効期間 具体的な罪の例
(制限なし) 公訴時効なし 殺人罪・強盗殺人罪
い 人を死亡させた×禁錮以上の刑に当たる(『あ』を除く);250条1項
法定刑 時効期間 具体的な罪の例
無期の懲役又は禁錮 30年 強制わいせつ致死罪・強姦致死罪
長期20年の懲役or禁錮 20年 傷害致死罪・危険運転致死罪
上記以外 10年 過失運転致死罪・業務上過失致死罪
う 『い』以外;250条2項
法定刑 時効期間 具体的な罪の例
死刑 25年 外患誘致罪・外患援助罪・現住建造物等放火罪・現住建造物等浸害罪
無期の懲役or禁錮 15年 汽車転覆等罪・通貨偽造罪・詔書偽造等罪・身の代金目的略取等罪・強盗強姦罪
長期15年以上の懲役or禁錮 10年 強盗罪・傷害罪
長期15年未満の懲役or禁錮 7年 窃盗罪・不動産侵奪罪・詐欺罪・恐喝罪・業務上横領罪
長期10年未満の懲役or禁錮 5年 あへん煙輸入罪・水道汚染罪・特別公務員暴行陵虐罪・受託収賄罪・未成年者略取罪
長期5年未満の懲役or禁錮or罰金 3年 名誉毀損罪・暴行罪・過失傷害罪・過失致死罪・脅迫罪・威力業務妨害罪・器物損壊罪
拘留or科料 1年 侮辱罪・軽犯罪法違反

(2)公訴時効の『停止』

公訴時効は『進行が止まる』ことがあります。
『時効の停止』という制度です。
次にまとめます。

<公訴時効の停止の概要>

公訴時効の進行が停止する
停止事由が消滅した後に残存期間が進行する

<公訴時効の停止の種類>

あ 公訴の提起;254条1項

被疑者の身柄を確保(逮捕)→☓(該当しない)

い 共犯者の1人について公訴提起;254条2項

→共犯者全員について時効が停止する

う 『国外』or『逃げ隠れ』;255条

犯人が『国外』にいる期間・逃げ隠れしている期間は停止(差し引く)

『公訴時効の停止』は,民法の時効における『中断』に相当するものです。
しかし,結構違うので,注意が必要です。

<公訴時効と民法の時効の『停止・中断』の違い>

違いのある事項 公訴時効の停止 民法の時効中断
居場所の影響 国外にいるだけで差し引かれる 居場所は関係ない
カウンターリセット なし(対象期間が差し引かれるだけ) あり

条文

[刑事訴訟法]
第二百四十七条  公訴は、検察官がこれを行う。
第二百四十八条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

第二百五十九条  検察官は、事件につき公訴を提起しない処分をした場合において、被疑者の請求があるときは、速やかにその旨をこれに告げなければならない。
第二百六十条 検察官は、告訴、告発又は請求のあつた事件について、公訴を提起し、又はこれを提起しない処分をしたときは、速やかにその旨を告訴人、告発人又は請求人に通知しなければならない。公訴を取り消し、又は事件を他の検察庁の検察官に送致したときも、同様である。
第二百六十一条  検察官は、告訴、告発又は請求のあつた事件について公訴を提起しない処分をした場合において、告訴人、告発人又は請求人の請求があるときは、速やかに告訴人、告発人又は請求人にその理由を告げなければならない。

第39条 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

[事件事務規定]
(受理手続を行う場合)
第3条 事件の受理手続は,次の場合に行う。
(1)〜(5)(略)
(6) 不起訴処分又は中止処分に付した事件を再起するとき。
(7)〜(8)(略)

(不起訴の裁定)
第75条 検察官は,事件を不起訴処分に付するときは,不起訴・中止裁定書(様 式第117号)により不起訴の裁定をする。検察官が少年事件を家庭裁判所に送 致しない処分に付するときも,同様とする。
2 不起訴裁定の主文は,次の各号に掲げる区分による。
(1)〜(15)(略)
(16) 罪とならず 被疑事実が犯罪構成要件に該当しないとき,又は犯罪の成立
を阻却する事由のあることが証拠上明確なとき。ただし,前2号に該当する場
合を除く。
(17) 嫌疑なし 被疑事実につき,被疑者がその行為者でないことが明白なと
き,又は犯罪の成否を認定すべき証拠のないことが明白なとき。
(18) 嫌疑不十分 被疑事実につき,犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分なと
き。
(19) 刑の免除 被疑事実が明白な場合において,法律上刑が免除されるべきと
き。
(20) 起訴猶予 被疑事実が明白な場合において,被疑者の性格,年齢及び境
遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないとき。
(不起訴処分の告知)
第76条 検察官が刑訴法第259条の規定による不起訴処分の告知を書面でする ときは,不起訴処分告知書(様式第118号)による。
2 検察官が刑訴法第261条の規定による不起訴理由の告知を書面でするとき は,不起訴処分理由告知書(様式第119号)による。

[日本国憲法]
第39条 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

第40条 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。