【量刑と執行猶予の判断要素】
- 有罪の場合,刑の重さはどのように決まるのですか。
刑務所に行かなくて良いという判決は取れませんか。 - 判決で言い渡す刑罰の重さを「量刑」と言います。
量刑は法定刑の範囲内で定められます。
量刑,執行猶予については多くの個別的事情から判断されます。
1 公判での量刑は多くの事情が反映される
2 『執行猶予』が付くと,刑務所に行かなくて済む
3 量刑,執行猶予の有無の判断では犯罪の重さ,示談,前科の有無,が大きく影響する
1 公判での量刑は多くの事情が反映される
公判で有罪の判決を行う場合,具体的な刑罰の内容も含めて言い渡されます。
これを「量刑」と呼んでいます。
多くの案件では量刑を軽くすること,を目標として弁護活動が行なわれます。
2 『執行猶予』が付くと,刑務所に行かなくて済む
(1)執行猶予が付くと刑務所に行かなくて済む
例えば懲役3年の刑が言い渡された場合でも「執行猶予」が付けられることがあります(刑法25条)。
この場合は,刑務所に行かなくても良いということです。
例えば,『懲役3年,執行猶予1年』の言い渡しの場合は,言い渡しから1年経過により執行を免れます。
つまり,1日も刑務所に行かなくて良い,ということです。
執行猶予期間満了により言い渡しがなかったことになります。
満了後は,後で刑務所に行くことになるという可能性もなくなります。
勾留中であったとしても,言い渡しにより釈放されることになります。
ただし,執行猶予期間中に再度別の犯罪を行うと,猶予している刑が課されます。
執行猶予の取消と言われる規定です(刑法26条,26条の2)。
(2)執行猶予が付かないと収監される;実刑
逆に,執行猶予が付かないと,刑の執行となります。
懲役刑の場合は収監され,刑務所に行くことになります。
これを『実刑』と言います。
3 量刑,執行猶予の有無の判断では犯罪の重さ,示談,前科の有無,が大きく影響する
(1)量刑の判断要素
量刑については,法定刑の範囲で言い渡されます。
法定刑は刑法その他の法律で『○○を行った者は○年以上○年以下の懲役』と刑の範囲を定めたものです。
その上で,一切の事情(情状)を考慮して量刑が決定されます。
一切の事情,として考慮される具体的な事項は次のようなものです。
<量刑の判断要素の例>
ア 被害の大きさイ 被害弁償(示談)の有無ウ 被害者が処罰を望んでいるかどうか
処罰を望まないことを宥恕(ゆうじょ)と言います。
エ 犯行の動機や犯行方法オ 被告人の年齢カ 前科の有無キ 反省の有無,程度
(2)執行猶予の形式的要件
執行猶予は,個別的事情以前に,形式的な要件があります。
主なものは次の2つです。
<執行猶予の形式的要件>
※刑法25条1項
※いずれも
ア 言い渡す刑が,懲役,禁錮3年以下または罰金50万円未満イ 過去に懲役,禁錮刑の服役をしている場合,執行終了から5年が経過している
条文
[刑法]
(執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
(保護観察)
第二十五条の二 前条第一項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ、同条第二項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する。
2 保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
3 保護観察を仮に解除されたときは、前条第二項ただし書及び第二十六条の二第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。
(執行猶予の必要的取消し)
第二十六条 次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
一 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。
(執行猶予の裁量的取消し)
第二十六条の二 次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
一 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
二 第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その執行を猶予されたことが発覚したとき。