1 解除権の消滅(消滅時効・黙認)
2 解除権の消滅時効(概要)
3 賃貸借契約解除の消滅時効の起算点の例(概要)
4 長期間の権利不行使による黙認

1 解除権の消滅(消滅時効・黙認)

解除できる状態になっても解除するかしないは選択できます。
また,解除できる状態になった後に長期間が経過すると解除できなくなります。
消滅時効や黙認による効果です。
本記事では,賃貸借契約の解除権の消滅について説明します。

2 解除権の消滅時効(概要)

解除権に消滅時効が適用されるかどうかは,以前は両方の見解がありました。
最高裁判例により,現在の実務では,消滅時効が適用される解釈に統一されています。

<解除権の消滅時効(概要)>

あ 解除権の消滅時効(基本)

解除権には消滅時効が適用される

い 時効期間

ア 原則 10年 ※民法167条1項
イ 商行為による取引 5年 ※商法522条
※最高裁昭和56年6月16日;借地契約の解除について
詳しくはこちら|解除権の消滅時効と解除により生じる債権の消滅時効

3 賃貸借契約解除の消滅時効の起算点の例(概要)

賃貸借における解除権の消滅時効の起算点は『解除事由の発生時』です。
解除事由として代表的なものは賃料の不払(滞納)と無断転貸です。
これらについての解除権の消滅時効の起算点を示した判例を紹介します。

<賃貸借契約解除の消滅時効の起算点の例(概要)>

あ 一般的な消滅時効の起算点

解除事由の発生時が起算点となる
※大判大正6年11月14日

い 賃料不払による解除

賃料不払を理由とする解除について
解除権の消滅時効の起算点
最後の地代の支払期日が経過した時である
※最高裁昭和56年6月16日

う 無断転貸による解除

無断転貸を理由とする解除について
解除権の消滅時効の起算点
転借人が土地の使用収益を開始した時である
※最高裁昭和62年10月8日
詳しくはこちら|解除権の消滅時効と解除により生じる債権の消滅時効

4 長期間の権利不行使による黙認

借地の無断転貸借地上の建物の無断増改築などによって解除ができる状態になり,その後長期間が経過した場合は,消滅時効以外にもケアすべきです。
解除しないということが無断転貸無断増改築等の解除の原因を黙認したというように受け取られる可能性があります。
特に,借主の原因行為(無断転貸等)を貸主が知っていた場合には,黙認と認定される可能性が高まります。
分かっていたのに,黙っていたということになるからです。
理論的には,暗黙に認めたこと,つまり承諾したことになるというものです。
また,借主は『解除されない』と期待するので,これを保護する『信義則』の適用という考え方もあります。
実務上は,解除権の消滅時効の期間が満了していないけれど,黙認が認定されるというケースの方が多いです。