市街化調整区域の家は売れるのか|特定承継人の建替えが原則認められない理由
1 市街化調整区域の家は売れるのか|特定承継人の建替えが原則認められない理由
市街化調整区域にある一戸建てを売りたい、あるいは買いたいという相談があります。登記簿に売買を妨げる記載はなく、契約も決済も普通に進みます。ところが買主が建て替えようとした段階で、許可が下りないことが分かる、という形で問題が表に出ます。
本記事では、売買そのものが止まらないのに買主の建替えが止まるのはどういう形なのか、どの類型でそうなるのか、そして競売の場面でそれがどう現れたのかを説明します。
市街化調整区域とは何か、開発許可がどういう場合に下りるのかは、別の記事で説明しています。
2 売買は禁じられていない→買主の建替えが原則不可(まとめ)
市街化調整区域の家の売買——移せるものと、買主に移らないもの
あ 売買そのものは止まらない
(ア)都市計画法が許可に掛からせているのは開発行為と建築行為で、所有権の移転そのものを禁じる規定はない(イ)止まるのは、買主が建替え・増改築・用途の変更をしようとする段階である
い 建替えが原則認められない範囲
(ア)分家住宅の敷地と、農林漁業に従事する者の居住用宅地=同一用途の建替えでも、特定承継人による場合はやむを得ない事情があるときに限られる(イ)「特定承継人」=売買等により他人の権利を取得した者(ウ)既存宅地は用途変更可/線引き前からの宅地・市街化調整区域内団地の宅地・沿道サービス施設の敷地・集落サービス店舗の敷地=同一用途の建替えは認められている
う 競売でも同じ結果になる
(ア)許可を受けた者以外の第三者が、許可に係る予定建築物以外の建築物を新築した場合=その建築物は都市計画法に違反する建築物に当たる(イ)増改築も新築も許されないことは土地建物の価額を相当に減損させる→民事執行法75条の「不動産の損傷」として売却許可決定が取り消された例がある
え 売買の場では表に出にくい
(ア)評価書や物件明細書に「市街化調整区域」と記載があるだけでは、買主の建替えができないことは読み取れない(イ)買主がその事実を知らずに買受けを申し出た場合=売却許可決定の取消しが認められることがある
3 所有権の移転は許可の対象でない→止まるのは買主の建替え
都市計画法は、土地の区画形質を変更する開発行為と、建築物の新築・改築・用途の変更を許可に掛からせています。所有権の移転そのものを禁じる規定はなく、売買契約は有効に成立し、所有権移転登記も通ります。競売も法律上は止まりません。
止まるのは、買主が建て替えようとした段階です。そして市街化調整区域では、建て替えずにそのまま使う場合にも許可が要るとされています。そのため結果は「売れない」ではなく「買主にとって使えないので値が付かない」という形で現れます。以下では、建替えが認められない範囲を2つに分けて確かめます。
(1)同一用途の建替え→特定承継人によるものは原則認められない
市街化調整区域では建築物の建築が原則として禁じられますが、線引きの前から在った建築物や、その後の都市計画の変更で市街化調整区域に編入された区域の建築物については、同じ用途であれば建て替えることが認められています。
ところが、その建替えが認められるのは元の権利者の側です。売買等によって他人の権利を取得した者が建て替えようとすると、同一用途であっても原則として認められません。この「売買等によって他人の権利を取得した者」が特定承継人です。
線引き前・編入区域の建築物→同一用途であれば建替えを認めている
そこで、都市計画法は、線引き前、あるいはその後の都市計画の変更により市街化調整区域に編入された区域において、ファミリーレストラン等の沿道サービス施設、集落サービス施設等、分家住宅、農林漁業に従事する者の居住用住宅については、同一用途であれば建替えを認めています(都計34十三ほか)。
※監修/鵜野和夫(税理士・不動産鑑定士) 著/下﨑寛(税理士・不動産鑑定士)、十文字良二(税理士・不動産鑑定士)、関原敎雄(税理士・不動産鑑定士)『相続財産評価における不動産利用規制』新日本法規出版2022年 10月p312
特定承継人(売買等により権利を取得した者)による建替え→原則認められない
ただし、同一用途の建替えであっても、売買等により他人の権利を取得した者(特定承継人)による建替えは、原則として認められないことになっています。
※監修/鵜野和夫(税理士・不動産鑑定士) 著/下﨑寛(税理士・不動産鑑定士)、十文字良二(税理士・不動産鑑定士)、関原敎雄(税理士・不動産鑑定士)『相続財産評価における不動産利用規制』新日本法規出版2022年 10月p312
(2)既存宅地は用途変更可・分家住宅の敷地は特定承継人だと不可
規制の違いは宅地の類型ごとに分かれます。実務では、次の3段階に整理した一覧表が使われています。
いちばん緩いのが既存宅地で、用途の変更まで認められます。次が線引き前からの宅地、市街化調整区域内団地の宅地、ドライブイン等の沿道サービス施設の敷地、集落サービス店舗の敷地で、同一用途の建替えが認められます。いちばん厳しいのが分家住宅の敷地と、農林漁業に従事する者の居住用宅地で、同一用途の建替えであっても、特定承継人による場合はやむを得ない事情があるときに限られます。
この「やむを得ない事情」が何を指すのかは、用途変更の許可の基準の側にあります。相続した場合と買った場合で扱いが分かれる理由と併せて、別の記事で説明しています。
市街化調整区域の家は相続なら住める、買うと許可が要る|一般承継と特定承継
以下の引用は、分類の欄と規制の欄が縦に並んだ形になっています。
宅地の類型は3段階=用途変更可・同一用途の建替え可・特定承継人は制限
(参考)市街化調整区域内における主な宅地の分類及び法的規制の違い
宅地の分類
・既存宅地
法的規制の違い
用途変更可能
宅地の分類
・線引き前からの宅地
・市街化調整区域内団地の宅地
・ドライブイン等の沿道サービス施設の敷地
・集落サービス店舗の敷地
法的規制の違い
同一用途の建替えは認められている
宅地の分類
・分家住宅の敷地
・農林漁業に従事する者の居住用宅地
法的規制の違い
同一用途の建替えでも、特定承継人による場合は、やむを得ない事情がある場合に認められる
※税理士法人 チェスター編『新版 相続実務における雑種地評価』清文社2021年 7月p61
「特定承継人」=売買等により他人の権利を取得した者
「特定承継人」とは、売買等により他人の権利を取得した者をいう。
※税理士法人 チェスター編『新版 相続実務における雑種地評価』清文社2021年 7月p61
4 競売で買い受けた者にも同じ規制が及ぶ→売却許可決定の取消し
ここまでは売買を前提に見てきました。競売の場合も、競売そのものは都市計画法では止まりません。しかし買い受けた者の立場は売買の買主と同じで、建替えも新築もできません。
分家住宅として開発許可を受けた土地が売られ、許可を受けた者とは別の第三者が建物を新築していた、という事案があります。買受人はそれを知らずに買受けを申し出ました。以下では、その建物がどう評価されたのかと、それが売却許可決定にどう効いたのかを順に見ます。
(1)許可を受けた者以外の第三者が建てた建築物→都市計画法違反の建築物
まず建物の側です。開発許可を受けた開発区域内では、その許可に係る予定建築物以外の建築物を新築することができません。許可を受けた者とは別の第三者が建てた建築物は、この予定建築物以外の建築物に当たるとされました。
決定は当事者を仮名で呼んでいます。開発許可を受けたのは農家の分家住宅として申請した者で、建物を新築して所有者として登記されたのは、その後に土地を買った別人です。許可がどのように特定の申請者と結び付くのかは、別の記事で説明しています。
開発許可には誰の名前が入るのか|「自己の居住の用に供すること」という条件
許可を受けた者以外の第三者が予定建築物以外の建築物を新築→都市計画法違反
上記(3)の開発許可を受けた乙山春夫以外の第三者である丙川夏夫が、当該開発許可に係る予定建築物(農家の分家住宅)以外の建築物である本件建物を新築したものと優に推認することができるから、本件建物は都市計画法に違反する建築物であると認められること
※東京高等裁判所 1996-07-19 判例タイムズ1103号143頁/金融・商事判例1010号14頁/判例時報1590号74頁/金融法務事情1486号106頁
(2)増改築も新築も許されないこと→価額の減損による売却許可決定の取消し
次に価額の側です。違反建築物であって増改築も新築も許されないという事情は、土地建物の価額を相当に減損させます。この事案では、評価書にも物件明細書にも、市街化調整区域に所在する旨の記載しかありませんでした。
そこで、この減損は民事執行法75条にいう「不動産の損傷」に当たるとされ、同条を類推適用して売却許可決定が取り消されました。
同条の「損傷」がどこまでを含むのか、買受けの申出より前に生じていた損傷にも類推適用できるのかは、競売手続の側の論点です。別の記事で説明しています。
不動産競売で不動産が損傷・滅失した場合の救済手段(売却不許可・売却許可取消)
買受人は増改築も新築も許されない→土地建物の価額の相当な減損
上記の認定事実に照らせば、本件建物は都市計画法に違反する建築物であって、買受人である抗告人がこれを増改築することは許されないのであり、また、抗告人が本件土地上に建物を新築することは許されないのであるから、この事情が本件土地建物の価額を相当に減損させるものであることは明らかである。
※東京高等裁判所 1996-07-19 判例タイムズ1103号143頁/金融・商事判例1010号14頁/判例時報1590号74頁/金融法務事情1486号106頁
損傷とその看過が買受人の責めに帰せない→民事執行法75条を類推適用
そして、上記の認定事実によれば、上記の「損傷」は買受けの申出前に生じていたものであるが、この損傷とその看過が買受人である抗告人の責めに帰すことができない事由によるものであることが明らかであるから、本件については民事執行法七五条を類推適用し、本件売却許可決定を取り消すのが相当である。
※東京高等裁判所 1996-07-19 判例タイムズ1103号143頁/金融・商事判例1010号14頁/判例時報1590号74頁/金融法務事情1486号106頁
5 買主に届くのは「市街化調整区域」の表示だけ=説明義務の問題(概要)
売買の場で買主に届く情報は限られます。広告や物件の表示では、市街化調整区域内の土地であることを明示する義務がありますが、そこから先、その建築物が許可に基づいて建ったものかどうか、買主が建て替えられるのかどうかは表示の対象になっていません。
開発許可が要ることを告げなかった売主と仲介業者の責任が認められた裁判例もあります。いずれも別の記事で説明しています。
開発許可の必要の不告知による売主・仲介の連帯責任(肯定裁判例)
6 おわりに
本記事では、市街化調整区域の家を売ったときに何が止まるのかを説明しました。都市計画法は所有権の移転を禁じていないので、売買も競売も成立します。止まるのは買主の側の建替えで、分家住宅の敷地や農林漁業に従事する者の居住用宅地では、同一用途の建替えであっても、売買等で権利を取得した特定承継人による場合は原則として認められません。競売ではこれが価額の減損として現れ、民事執行法75条の類推適用により売却許可決定が取り消された例があります。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。
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