【法人の「所在不明」の内容(代表者不存在の扱いなど)】

1 法人の「所在不明」の内容(代表者不存在の扱いなど)

所有者や共有者が所在不明のケースではいろいろな支障が生じるので、令和3年の民法改正でこの問題を解決する新しい手続が作られました。これについて、具体的にどのような状況で所在不明といえるのか、また調査方法(裁判所に提出する資料)はどのようなものか、という問題があります。
詳しくはこちら|特定不能・所在不明の内容と証明(調査)方法・調査報告書サンプル
この点、所有者や共有者が法人(会社など)である場合には、どのような状況で法人の所在が不明だといえるか、という問題もあります。本記事ではこれについて説明します。

2 中間試案→本店不明+代表者不存在または所在不明

法人所在不明といえるかどうか、という判定について、まず単純に(自然人と同じように)考えてみます。
登記に出ている「本店」(や主たる事務所)には誰もいない、または、会社とはまったく関係ない人が住んでいる状況のことを法人の所在が不明ということになります。
そのような場合であっても、代表者と連絡がとれれば支障は生じません。そこで、代表者の所在も分からないということも付け加わってはじめて法人の所在不明といえます。

中間試案→本店不明+代表者不存在または所在不明

(注・持分取得、持分譲渡権限付与の裁判について)
また、共有者が法人である場合には、その本店及び主たる事務所が判明せず、かつ、代表者が存在しない又はその所在を知ることができないときに、「所有者の所在を知ることができない」ときに該当することを想定している。
※民法・不動産登記法部会『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案』2019年12月p9

3 代表者不存在→変更・管理裁判と持分取得裁判で扱いが違う可能性あり

(1)部会資料30→変更・管理裁判では代表者不存在だけで所在不明認定可能

ここで、「本店」の住所での活動実態があるけれど、代表者はすでに亡くなっている(ことが判明した)ケースはどうでしょうか。「本店」の住所で従業員が働いているとしても、法律上、「本店に出した通知」は受領権限のある者がないため、「届かない」扱いとなる可能性があります。つまり、事実上は連絡が届くけれど、法律上は「法人と連絡がとれない」状況と同じです。
そこで、法改正の議論の中で、代表者不存在だけで(本店の状況がどうであっても)法人の所在不明という扱いすることが示されています。
ただし、これが当てはまるのは変更・管理決定の裁判だけです(後述)。

部会資料30→変更・管理裁判では代表者不存在だけで所在不明認定可能

あ 代表者不存在における意思表示の受領の問題(前提)

(注・変更・管理決定の裁判について)
・・・もっとも、代表者が存在しない場合には、前記1の催告(注・賛否を明らかにするよう求めること)をすることができないとも考えられる(法人に対する意思表示は、一般に、書面等が本店又は主たる事務所に到着すれば、その法人に到達したものと扱われるが、本店又は主たる事務所に書面等が到着しても、その法人に代表者が存在しなければ、到達したものと扱うことができないと考える余地がある。(注・(後記※1)))。

い 代表者不存在→これだけで法人の所在不明を肯定

この考え方を前提とすると、共有者が法人である場合には、
本店(主たる事務所)が判明せずかつ代表者の所在を知ることができないとき(具体的には、代表者が法人の登記簿上及び住民票上の住所に居住していないかどうかを確認することになると考えられる。)
と、
本店(主たる事務所)が判明するかどうかにかかわらず代表者が存在しない(具体的には、法人の登記簿上の代表者が死亡しているケースが考えられる。)ときが、公告等の対象となる所在等不明であるとすることが考えられる。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第13回会議(令和2年6月2日)『部会資料30』p7、8

(2)代表者不存在の法人への意思表示→不可能方向(前提)

前述の見解の中で、法人の代表者が存在しない場合に、法人への意思表示はどうなるかという問題が登場しました。これに関して、平成9年最判では、法人に意思表示が到達しないことを前提として、その救済措置として、第三者(保険金請求権の転付命令を得た差押債権者)への意思表示で足りるという判断をしています。法人の「本社」に通知が届いても(従業員が受け取っても)代表者が受け取っていない以上、意思表示は到達していない、ということを前提としているように読めるのです。

代表者不存在の法人への意思表示→不可能方向(前提)(※1)

あ 事案の要点→代表者不存在

Z2は有限会社Z1の唯一の取締役(代表者)であった
Z2は、死亡した
有限会社Z1は取締役(代表者)を欠く状態となった

い 規範→転付債権者への意思表示は有効

有限会社を保険契約者兼保険金受取人とする生命保険契約における被保険者が死亡し、かつ、右有限会社が意思表示を受領する権限を有する者を欠く状態にある場合において、転付命令により保険金受取人の保険会社に対する生命保険金支払請求権を取得した者があるときには、保険会社は、右転付債権者に対しても告知義務違反を理由とする生命保険契約の解除の意思表示をすることができるものと解するのが相当である。
※最判平成9年6月17日

(3)部会資料30・持分取得では代表者不存在だけでは所在不明認定不可

ところで、持分取得と持分譲渡権限付与の裁判については、その結果、所在不明共有者の共有持分権を奪うことになります。法改正の議論の中では、影響が大きいので慎重に判断する、具体的には、事実上でも連絡が届く(「本店」に従業員がいる・活動実態がある)場合は、法人の所在不明とは認めない、という扱いが示されています。
この見解を前提とすると、共有者の1名が法人で、活動実態はあるけれど代表者が存在しない、というケースでは、共有持分を動かす裁判手続は利用できず、(共有者は現状維持の前提で)変更・管理決定の裁判を使って(または使わなくても決定できる範囲内で)共有物の有効活用を図るしかない、ということになります。

部会資料30・持分取得では代表者不存在だけでは所在不明認定不可

あ 変更・管理決定における扱い(前提)

・・・代表者が存在しないときの取扱いが問題となる。
この点について、前記第1の同意取得の場面(注・変更・管理決定の裁判)では、本店(主たる事務所)が判明するかどうかにかかわらず代表者が存在しないときは公告等の対象となる所在不明とすることが考えられるとした。

い 代表者不存在→これだけで法人の所在不明を肯定しない

これに対して、持分取得の場面(注・持分取得・持分譲渡権限付与の裁判)では、本店(主たる事務所)が判明しているのであれば、法人に活動の実態があると考えられるのであり、法人の共有持分を喪失させるという重大な効果を生じさせることに鑑みると、代表者が存在しないことをもって直ちに所在不明と扱うことは相当ではないとも考えられる。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第13回会議(令和2年6月2日)『部会資料30』p15

(4)同じ要件(文言)の解釈の相違

ところで、所在不明は条文上どのように記述されているのでしょうか。
変更・管理決定の裁判、持分取得・持分譲渡権限付与の裁判のいずれも、「他の共有者・・・その所在を知ることができない」(民法252条2項1号、262条の2第1項、262条の3第1項)というまったく同一の記述です。つまり「所在を知ることができない」という単純な言葉の意味(解釈)を、その効果の大きさによって変化させる、ということになります。一見違和感はありますが、一般論としてはよくあることです。

(5)内納氏見解・一律に代表者不存在だけでは所在不明認定不可

なお、前記の法改正の議論(部会資料30)の読み方として、実務家から、変更決定の裁判も含めて(つまり一律に)代表者不存在だけでは法人の所在不明は認定できない、というコメントも出されています。
確かに、部会資料の表現は、「(とも)考えられる」というように、確定的表現、断言ではありません。
ちなみに一般論として、立法時の議論(立法者意思)が裁判所の判断(解釈)を拘束するわけではないので、部会資料が唯一の解釈(統一的解釈)ではない、ということもいえます。

内納氏見解・一律に代表者不存在だけでは所在不明認定不可

(注・変更決定の裁判について)
内納
所在不明共有者が法人の場合は、本店や主たる事務所が判明せず、かつ代表者の所在を知ることができないまたは代表者が死亡等により存在しないケースが想定できます。
なお、立法過程では、本店や主たる事務所が判明しているが代表者が死亡等により存在しない法人も「所在不明」と扱うことができるのではないかとの議論もなされましたが、このような法人には活動の実態があるためその意思決定は法人の自治に委ねられるべきとの考え方から、採用されませんでした
※中里功ほか著『所有者不明土地解消・活用のレシピ』民事法研究会2023年p191

4 法人の「本店」の特定→判明することが多い

ところで、法人の本店(主たる事務所)がどこかが分からない、という状況は実務ではあまり起きません。それは、法務局で保管期間経過後の古い登記簿も処分せずに保管していることが多いからです。

法人の「本店」の特定→判明することが多い

神谷
法人の場合、法務局は保管期間経過後の閉鎖登記簿を廃棄せずに保管していることもあり、廃棄されていない分については閉鎖登記簿謄本を交付してくれますので、これによって本店または主たる事務所が判明することも少なくありません。
したがって法人の場合、個人と比べて(注・持分取得の裁判を)利用可能な場面は限定されそうです。
※中里功ほか著『所有者不明土地解消・活用のレシピ』民事法研究会2023年p17

実際には、「本店」の場所には役員も従業員もいない(別の会社が使っている)というような状況の方が圧倒的に多いでしょう。

本記事では、各種の裁判手続における法人の「所在不明」の内容(判断方法)について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有者や所有者の特定不能や所在不明という問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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