【共有物を使用する共有者の善管注意義務(民法249条3項)】
1 共有物を使用する共有者の善管注意義務(民法249条3項)
令和3年の民法改正で、共有物を使用する共有者の善管注意義務の規定が新たに作られました。本記事ではこれについて説明します。
2 改正前の問題点=改正の経緯
改正前は、共有者の1人Aが共有物を使用する(占有や居住)場合に、Aがどのような義務を負うのか、については特に規定がありませんでした。
そこで、Aが負う義務を明文で定めることが共有物の円滑な利用につながる、という考えから、2つの規定(後述)を新たに作ることにしました。
改正前の問題点=改正の経緯
あ 補足説明
1 提案の趣旨
現行法上、共有物を使用する者が他の共有者に対してどのような義務を負うかについての具体的規律は設けられておらず、その内容は必ずしも明らかではない。
しかし、共有物の円滑な利用の観点からは、共有物を使用する者と他の共有者の関係(共有者間において共有物の利用方法の定めを決定した場合を含む。)に係る規律を明確化することが望ましいと考えられる。
そこで、試案第1の1(4)において、共有物を使用する者と他の共有者の関係について、
①共有物を使用する対価に関する規律、
②共有物の滅失・損傷等に関する規律(管理に関する義務の規律)を設けることを提案している。
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』2020年1月p14、15
い 法務省・改正のポイント
[問題の所在]
・・・
2.各共有者はその持分に応じて共有物を使用することができるが(旧民法249)、共有物を使用する共有者は、他の共有者との関係でどのような義務を負うのか明確ではなく、共有者間における無用な紛争を惹起するおそれ
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント(令和5年5月版)」法務省民事局2023年p32
3 善管注意義務の条文(民法249条3項)
共有物を使用する共有者が負う義務について、条文として新たに作られたものは2つあります。
ひとつは、償還義務(使用対価を支払う義務・民法249条2項)です。実はこれについては改正前から判例の理論があり、それをより明確にして条文にしたのです。
詳しくはこちら|単独で使用する共有者に対する償還請求(民法249条2項)
もうひとつが、本記事で説明する善管注意義務です。まずは条文を押さえておきます。とてもシンプルです。
善管注意義務の条文(民法249条3項)
※民法249条3項
4 善管注意義務の実質的根拠
共有者ABCのうちAだけが共有物を使用していることを想定すると、共有物はAの所有物であるとともにBCの所有物ともいえるので、他人の財産(物)を使用(管理)しているともいえます。そこで、他人の物を管理する場合のごく一般的な義務レベルである善管注意義務がふさわしい、ということになります。このような考え方から、条文として善管注意義務を定めることになりました。
善管注意義務の実質的根拠
そこで、試案第1の1(4)②第1文において、共有物を使用している共有者は善良な管理者の注意をもって、共有物を保存する義務を負う規律を設けることを提案している。
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』2020年1月p16
5 善管注意義務の適用の具体例→共有物の滅失・損傷
善管注意義務が適用される具体的な状況は、共有者Aが、使用している共有物を、故意や過失により滅失、損傷させてしまったというケースです。この場合、損害賠償責任が発生することになります。
善管注意義務の適用の具体例→共有物の滅失・損傷
※村松秀樹ほか編著『Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』金融財政事情研究会2022年p57
6 善管注意義務の新設の影響
前述の損害賠償責任は、善管注意義務の規定が新設される前から認められていました。改正による影響は、損害賠償義務が発生するかどうかの判断の中で、善管注意義務の規定があることで義務が認められやすくなるというところにあります。
7 損害賠償義務の明文化の案→結果的には不採用
前述のように、善管注意義務というのは抽象的なものであり、ある意味あいまいなものといえます。では、ストレートに、条文として、共有物の損壊があった場合の損害賠償義務を定めるとはっきりするのではないか、という発想も、法改正の議論の中ではありました。しかし、共有物の損傷があった場合には通常、前述の、債務不履行や不法行為による損害賠償責任が発生するので、これとは別に損害賠償義務の規定を作る必要はない、という考えから、この案は採用されないで終わりました。
損害賠償義務の明文化の案→結果的には不採用
あ 中間試案・補足説明
また、共有者が、誤って共有物を滅損させた場合には、他の共有者の持分との関係では、他人の物を滅損させたのと同じであると考えられ、その損害の賠償をする必要があると解される(所有の意思のない占有者は、占有物を滅失し、損傷したときは、その損害の賠償義務を負うものとする民法第191条参照)。
そこで、試案第1の1(4)②第2文において、共有者は、自己の責めに帰すべき事由によって共有物を滅失し、又は損傷したときは、他の共有者に対し、共有持分の価格の割合に応じて、その損害の賠償をする義務を負う規律を設けることを提案している。
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』2020年1月p16
い 不採用の理由
改めて検討すると、共有者間の損害賠償の問題は、共有者間の善管注意義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求や、共有持分権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求によって解決されるべきものであるから、必ずしも部会資料27の本文4②後段のような規律を設ける必要性はないと考えられる
そこで、本資料では、部会資料27の本文4②後段のような規律を設けないこととしている。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料40』p7
本記事では、共有物を使用する共有者の善管注意義務について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)を共有者の1人が使用することによる問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。