【建物敷地の分有方式における土地利用権(使用貸借・賃貸借など)】

1 建物敷地の分有方式における土地利用権(使用貸借・賃貸借など)

土地と建物の両方が共有となっているケースはよくあります。これと似ているケースとして、建物はAB共有(またはABの区分所有)、土地(敷地)は2筆あり、A所有の土地とB所有の土地、というものもあります。これを(法律上の正式な用語ではないですが)実務上、「分有」と呼んでいます。
敷地がABの共有でもABの分有でも経済的には同じことだといえるかもしれません。しかし、法律面では大きな違いがあります。
本記事では、建物の敷地が分有となっているケースの土地利用権が何か、ということを説明します。

2 建物AB共有・土地AB共有の土地利用権(参考)

分有方式の場合の土地利用権の説明に入る前に、単純なケース、つまり土地も建物もAB共有というケースの土地利用権を確認しておきましょう。土地と建物の共有者(所有者)が同じです。もっと単純化してしまえば、土地と建物の所有者はA(単独所有)の場合と同じ扱いになります。土地利用権は(自身の)所有権ということになります。仮に賃貸借や使用貸借をしようとしても、(自己借地権にはあたらないので)混同によって否定されます。
詳しくはこちら|自己借地権の基本(混同回避の趣旨・種類・認める範囲)
仮に土地を第三者Cに譲渡(売却)すると、土地の占有権原はないことになるので、ABは建物を収去して明け渡す義務を負うことになります。

3 建物AB共有・土地AB分有(割合同一)の土地利用権

AB共有の建物の敷地がA所有の土地とB所有の土地という状態を想定します。建物が2筆の土地にまたがって建っている状態、ともいえます。
まず最も単純なケースとして、建物の共有持分割合2筆の土地の面積割合が同一というものを想定します。そして、土地の利用についての具体的な契約書などはなく、金銭のやりとりもしていない、ということを前提とします。実際によくある状況です。
この場合の土地の利用権(占有権原)は何でしょうか。まず素朴に考えると、AがBに土地を貸していて、BはAに土地を貸している状態、といえます。
大きく2とおりの考え方があります。
1つは、対価の支払がないのだから、(お互いに)使用貸借をしている(土地利用権の性質は使用借権である)という発想があります。
もう1つは、経済的には地代が発生しているけど相殺しているから実際の金銭の動きがないだけだ、という考え方です。
この2つのどちらを採用するかでいろいろな違いが出てきますが、その中で大きなもののは、土地の譲渡(売買)があった時に譲受人が明渡を請求できるかということです。賃貸借であれば(少なくとも建物の登記がされていれば)土地の譲受人はこれを承継することになるのです(民法605条)。
詳しくはこちら|対抗力のある賃借権の目的物の所有権移転と賃貸人たる地位の承継(基本)
それ以外にも、賃貸借であれば借地として借地借家法の適用があるので、最低期間や原則的に自動的に更新されるなど借主の立場が非常に強化されることになります。
詳しくはこちら|借地契約の更新の基本(法定更新・更新拒絶(異議)・更新請求)
では、使用貸借なのか賃貸借なのか、という肝心の解釈については、統一的な見解(最高裁判例)はありません。少なくとも親族間ではなく、商業的な取引としてビルの建設が行われたようなケースでは賃貸借とする方が優勢です。

建物AB共有・土地AB分有(割合同一)の土地利用権

あ 2とおりの解釈

a 建物の共有持分割合と土地利用権の対価の割合が同一であるとき
無償相互利用合意の法的性質については、これを相互に賃借権を設定する合意と解する見解と、相互に使用借権を設定する合意と解する見解があり得るところである。

い 賃貸借という解釈→賛成

この点、図6のように、AとBの建物共有持分の割合が7:3であり、A所有土地とB所有土地の地代相当額の割合も7:3である場合(例えばA所有土地の地代相当額が700万円、B所有土地の地代相当額が300万円である場合)については、実質的にはAとBの間でそれぞれが負担すべき地代を対当額で相殺しているものと見ることができることから、当事者が反対の意思を表明していない限り、無償相互利用合意を相互に賃借権を設定する合意と解することができるものと考えられる。

う 使用貸借という解釈→否定

なお、無償相互利用合意の法的性質を相互に使用借権を設定する合意と解する見解については、
(i)上記のような対価性の存在に合致していないこと、
(ii)使用貸借については使用借権設定者による一方的な終了が認められていることから、土地利用権が不安定になること、
(iii)使用借権については借地借家法の適用がなく、同法第10条に基づく対抗要件を具備することができないことから、土地利用権が不安定になること、及び
(iv)借地借家法第15条の規定により認められる自己借地権は「借地権」、すなわち土地賃借権又は地上権である必要があることから、各土地に関する自己使用借権は混同の原則により成立しない可能性があることに鑑み、妥当でないと考えられる。
※齋藤理ほか稿『共有・分有土地上に存在する建物に係る土地利用権について(上)』/『ARES不動産証券化ジャーナルVol.10』2012年11、12月p123

え 前提→親族間ではない商業取引

注2
親族間等では使用借権を設定する場合も少なくないと思われるが、本稿では基本的に有償の商業取引を前提とする。
※齋藤理ほか稿『共有・分有土地上に存在する建物に係る土地利用権について(上)』/『ARES不動産証券化ジャーナルVol.10』2012年11、12月p119

4 建物AB共有・土地AB分有(割合異なる)の土地利用権

前述の説明で想定したケースから少し変えて、建物の共有持分割合土地の面積割合異なるケースを想定します。
これについても(ますます)明確、統一的な見解はありません。
少なくとも親族間ではなく商業的な取引としてビルが建設されたようなケースでは長期間のビルの存続が予定されていたであろうから、賃貸借と認める傾向があると思われます。ただ、商業的な取引の割には、経済的な差(アンバランス)を残しているので、もっと気軽なニュアンスに寄って、使用貸借であるという判断となる可能性も出てきます。

建物AB共有・土地AB分有(割合異なる)の土地利用権

あ 具体例

b 建物の共有持分の割合と土地利用権の対価の割合が異なる場合
図7のように、AとBの建物共有持分の割合は3:7であるが、A所有土地とB所有土地の市場地代相当額の割合が7:3である場合、無償相互利用合意の法的性質をどのように考えるべきであろうか。

い 賃貸借→賛成

かかる場合においても、AとBが、その合意により、(市場地代相場にかかわらず)地代相当額の割合を建物共有持分の割合と同様の3:7であると定めることは妨げられないはずであるから注20、上記図6の場合と同様に、無償相互利用合意を相互に賃借権を設定する合意と解することは可能と考えられるところであり、前述した無償相互利用合意を使用借権の設定と考えた場合の不都合を勘案すると、図7の場合についても、これを相互に賃借権を設定する合意と解することが当事者の合理的な意思に合致すると考えられる。

う 使用貸借→可能性あり

もっとも、上記図6の場合に比して、相互に対価の支払いを行わないとすることの合理性に疑問の余地があり得ることは否定し難いところであり、使用借権を設定する合意に過ぎないと認定される可能性は上記図6の場合に比して高いといえよう。
※齋藤理ほか稿『共有・分有土地上に存在する建物に係る土地利用権について(上)』/『ARES不動産証券化ジャーナルVol.10』2012年11、12月p123、124

え 前提→親族間ではない商業取引

注2
親族間等では使用借権を設定する場合も少なくないと思われるが、本稿では基本的に有償の商業取引を前提とする。
※齋藤理ほか稿『共有・分有土地上に存在する建物に係る土地利用権について(上)』/『ARES不動産証券化ジャーナルVol.10』2012年11、12月p119

5 区分所有建物・土地分有ケースの敷地利用権(見解列挙)

土地分有の場合の土地の利用権が何か、というテーマについては、区分所有建物に関して多くの議論があります。前述の建物共有の議論は、実は、区分所有建物の考え方を流用している、ともいえます。
では、建物が区分所有となっている(土地は分有)ケースの土地(敷地)利用権の中身は何なのでしょうか。多くの見解が提唱されていて、統一的な見解はありません。
大きく分けると、使用貸借と賃貸借のどちらかですが、どちらでもない(どちらかに似ているけど同一ではない)という見解もあります。

区分所有建物・土地分有ケースの敷地利用権(見解列挙)

あ 敷地利用権の分有(前提)

各区分所有者が敷地利用権をそれぞれ単独でもっている場合・・・

い 敷地利用権の法的性質の見解の紹介

②の分有の場合、敷地の各筆の所有者(=区分所有者)間では、敷地を相互に利用しあっている状態にある。
この法的性質については、いろいろな説明がされている。

う 見解の内容(列挙)

ア 無名契約上の権利 a Aの土地上にBが区分建物を所有することを承認する「無名契約上の土地の使用権説」(川島・不動産研究3-4-369)
イ 賃貸借(借地権) b 相互に借地権が発生しているとする「相互賃貸借説」(青山正明「改正区分所有法・不動産登記法について」民事月報38巻号外、昭和58年12月「改正区分所有法と登記実務」135)
ウ 交換に準ずる有償賃貸 c 敷地利用権という財産を相互に移転したものとみる「交換に準ずる有償貸借説」(玉田弘毅「マンションの法律(1)4版」(平成5年1月)22)
エ 使用貸借 d 相互に使用貸借しているとみる「使用貸借説」
オ 単独所有権 e 各筆の所有権等自体を敷地利用権とする「単独所有権説」
※五十嵐徹著『マンション登記法 第5版』日本加除出版2018年p80、81

6 浜田稔氏見解→賃貸借

区分所有建物の敷地が分有方式の場合、敷地利用権は賃貸借(賃借権)であるという見解は、相互に土地を使わせている(利益を提供し合っている)ところから、対価(賃料)の支払があるのと同じだ、という考えが元になっています。

浜田稔氏見解→賃貸借

無償である場合については、使用貸借とする見解、あるいは無名の双務契約とする見解もあるが、民法六〇一条にいう賃金(注・「賃料」のことである)は、金銭であることを要せず、現物供与でも足りるのであるから、やはり賃貸借と解することができよう。
※浜田稔稿『建物の区分所有と借地権の関係』/中川善之助ほか監『不動産法大系 第3巻 借地・借家 改訂版』青林書院新社1977年p115、116

7 昭和56年名古屋高金沢支判→「一種の」賃貸借

このテーマに関する、数少ない裁判例として、昭和56年の高裁判例があります。かの有名な富山市の総曲輪大火の復興の過程で、裁判所が分有方式を扱うことになった、というものです。
事案を単純化すると、4つの借地それぞれの借地人(4人)が協力して4つの借地全体にまたがる1つの建物を建てるという状況でした。最終的に裁判所は、4人が相互に一種の転借権(賃借権)を設定したことになる、と判断しました。ちなみにこれは、(転貸借なので)地主の承諾が必要だ、という判断の前提部分になっています。

昭和56年名古屋高金沢支判→「一種の」賃貸借

あ 経緯(4個の借地にまたがる1個の建物建築)

5 明渡訴訟の判決確定後の経過
(一)前記明渡訴訟が抗告人らの勝訴に終り、前記各賃貸借契約が従前と同一の条件をもって更新されたことが裁判上肯定されたのであるが、もともと各賃貸借契約は非堅固建物の所有を目的とするものであったところ、本件土地付近は昭和三七年頃から防火地域の指定を受けており、従って、新たに建築する建物は堅固建物でなくてはならず、そのためには借地条件の変更が必要であった。
もっとも、この点は借地非訟事件の手続による解決が可能であったが、さらに困難な問題として、前記市街地再開発事業の過程において同事業の実施区域のみならず本件土地についても高度利用地区の指定がなされ、右指定において建物の建築面積の最低限度が二〇〇平方メートルと定められたため、抗告人らのいずれもが単独ではその借地上に建物を建築することが許されない事態が生じていた。
これは、前記大火後仮設店舗において営業をなし、その仮設店舗さえも市当局から設置許可の期限が経過したことを理由にその除却を再三求められている抗告人株式会社シャルムおよび抗告人室にとっては緊急に解決を要する問題であったし、その余の抗告人にとっても、その所有建物は既に耐用年数を相当経過しているうえ前記火災によって損傷を受けており、かつ、商店街全体が不燃化、高層化の方向に向っていることから、早晩堅固建物への建て替えが必要であり、その場合には右と同じ問題に直面することが当然予想された。
(二)この問題を相手方との協議によって解決することは、従来の経過にてらし不可能と考えられたので、抗告人らは打開策を検討した結果、本件土地全体を敷地として抗告人ら四名共同で一棟の堅固建物を建築し、その内部を各抗告人の賃借地の範囲に合せて垂直に区分し、各専用部分を区分所有することにより、賃貸借契約に基く土地使用権能の範囲内において公法上の規制に適合した建物の建築が可能であるとの見解に到達し、右構想のもとに建築の準備を始める一方、富山地方裁判所に対し借地法八条の二に基き借地条件変更の申立てをなした。
右借地非訟事件の審理においても相手方は、本件におけると同様に、抗告人らが企画している一棟の建物の建築は土地賃貸借契約に違反するものである旨主張したが、富山地方裁判所はこの点に触れることなく借地条件を堅固建物の所有を目的とするものに変更する裁判をなした
相手方は右裁判を不服として当庁に対し抗告の申立をなしたが、当裁判所は右建築がいかなる事情のもとにおいても常に土地賃貸借契約に違反するとまではいえない旨を判示したうえ右抗告を棄却した。
そこで、抗告人らは自分らが企画している一棟の建物の建築は、土地賃貸借契約違反とはならない場合に当るとの見解のもとに建築計画を推進し、昭和五四年八月頃S建設株式会社との間で建築請負契約を締結した。・・・

い 裁判所の判断→「一種の」転借権設定

ア 縦割区分の状態 抗告人らが建築しようとしている一棟の建物は、各抗告人の専有部分がそれぞれの賃借地の上下空間内に収まるよう設計されてはいるものの、共用部分が本件土地の全面にわたって存在することになるのは避けられず、
イ 敷地利用権→「一種の」転借権(賃借権) 従って、抗告人らはそれぞれの賃借権を基礎として相互に一種の転借権を設定したことになるといわざるを得ないのであって、通常このようなことは賃貸人の承諾なしには適法になし得ないものといわなければならない。
※名古屋高金沢支判昭和56年3月30日

8 中村京氏見解(昭和56年名古屋高金沢支判の読み取り)

前述の裁判例は、借地人同士が転借をしたという判断なので、仮に所有者同士であれば相互に賃貸したことになります。区分所有建物の敷地が分有方式である場合の敷地利用権は賃貸借であるという判断だと読めます。しかし注意が必要です。判決文には、賃貸借(賃借権)そのものとは書いてありません。「一種の転借権」(賃借権)というように前置きがついています。
前述のいろいろな見解のうち、賃借権そのものではないけどそれに近いものという見解をとった、と読めます。
では、賃借権そのものとはどう違うのか、ということが気になるところです。しかし裁判例では地主の承諾が必要という判断を示しただけでそれ以外のことはなにも言っていません。
これに関して、借地借家法の期間や更新に関する規定がそのまま適用されるわけではない、という見解も提唱されています。

中村京氏見解(昭和56年名古屋高金沢支判の読み取り)

あ 一般化→所有者同士による借地権設定(前提)

本件では、全体敷地を構成する各分有地が借地権であったため、相互に転借権を設定したことになると扱われたのである。
この扱いは、全体敷地を構成する各分有地が完全所有権であったならば、相互に借地権を設定したことになるという考え方がその根底になっていると思われる。
※株式会社不動産鑑定士中村京事務所『分有地上の共同ビルの評価について』/『不動産鑑定』2003年2月p6

い 純粋賃貸借→否定

一方、先に掲げた判例(注・昭和56年名古屋高金沢支判)では「一種の転借権を設定したことになるといわざるを得ない」と言っていることに注意したい。
「一種の転借権」というのは、「正真正銘の転借権」ではないということであろう。
借地人らにとっては、転貸借契約を締結したと認定されれば、論理的帰結として事態は無断転貸による借地契約の解除へと発展して行くことになるから、借地人らは転貸借契約締結の意思表示をしているはずがない。
当然のことながら、期間、賃料、使用方法をはじめとする契約内容の重要な部分は一切不明である。
にもかかわらず、法律上、借地人間において転貸借契約が締結されたと言い切るのは不適切であると裁判所が判断したことを示すものであろう。

う 法的扱いの方向性→借地借家法の直接適用否定

裁判所が更新拒絶に際しての正当事由の認定に関して厳しい態度を取っていることや、高額の立退き料を認めるという借地借家法の実際の運用を含めて、借地借家法は、強い地主から弱い借地人を保護するという対立の構図のもとに構成されている面がある。
しかし、分有地の場合、各地権者は借地人であると同時に地主でもあり、また、地権者相互間には、運命共同体的意識があるので、借地権準共有説に立ったところで、借地借家法の規定が必ずしもそのまま適用されるということはないのであろう。

え 借地借家法の修正適用の例

ア 「期間」の規定の適用回避 例えば、借地権の準共有の内容の契約をしているなら、借地期間について法定期間の規定の適用がありそうだが、分有地であることに鑑みれば、契約の存続期間は共同ビルが存する間のみであるということになろう。
イ 「更新」の規定の適用回避 法定更新や更新拒絶のための正当事由なども関係なく、建物の滅失により、立退き料なしで借地の相互返還が行われるはずである。
※株式会社不動産鑑定士中村京事務所『分有地上の共同ビルの評価について』/『不動産鑑定』2003年2月p8

9 平成25年東京地判→賃貸借または無名契約

このテーマを扱った数少ない裁判例はまだあります。平成25年東京地判は、結論部分で「性質は賃借権と解する」と言い切っています。しかしこれも注意が必要です。判決文のもっと前の部分で「賃借権」の説明の箇所で「賃貸借契約類似の無名契約による権利含む以下同じ。」と言っているのです。いわゆる用語の定義です。
つまり、この判決の内容も、敷地利用権は賃借権そのものとは断言していません。賃借権そのもの、または、これに近いけど別の権利である、という判断なのです。

平成25年東京地判→賃貸借または無名契約

あ 占有権原→あり(前提)

本件のように、J建設らが、本件敷地全体を本件連棟式建物Aの区分所有者らの共有として登記するという予定で、共用部分たる基礎・土台部分及び躯体部分が本件敷地全体にまたがって設置されている本件連棟式建物Aを建築したが、分譲過程において、予定を変更して分筆の形式をとった場合には、J建設は、各区分所有者が取得することになる本件敷地の部分に他の区分所有者のための占有権原を設定し、その後分譲を受けた各区分所有者は、J建設から、分譲された専有部分の存する分筆後の土地の所有権と共に、他の区分所有者が取得する土地の部分の占有権原を承継したものと認めるのが相当である。・・・

い 占有権原(敷地利用権)の内容

ア 用語の定義(前提) そこで、上記占有権原の性質について検討する。
前記説示したところからすれば、本件連棟式建物Aの各区分所有者の変動に伴って上記占有権原も承継されることが必要であるところ、承継が可能である土地利用権としては、地上権又は賃借権(各区分所有者が支払うべき賃料を相殺することにより実際の賃料の授受は行われない賃貸借契約及び他の区分所有者に土地使用を認めることを対価とする賃貸借契約類似の無名契約に基づく権利を含む以下同じ。)が考えられ、原告らは上記地上権又は賃借権のいずれかを有しているものと認められる。
イ 地上権→否定 しかし、本件においては、分譲された昭和53年以降、前提事実(5)の決議がされるまでに地上権設定登記がされていないことからしても、J建設が、本件敷地について、各区分所有者に物権である地上権を設定したことを裏付けるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
ウ 賃借権(無名契約に基づく権利を含む)→採用 このように、賃借権によっても完全とはいえないまでも本件土地を含む本件敷地を敷地とする区分所有建物を存続させることは可能というべきであって、明示的な権利内容の設定が認められない以上、直ちに物権としての地上権が設定されたとまで認めることはできない。・・・
以上のとおり、原告らは、J建設が設定した本件土地の占有権原を承継したものと認められるものの、その性質は賃借権と解するのが相当であって、本件土地について地上権を有しているとは認められないから、被告Y1に対して本件土地についての地上権を有することの確認及び地上権設定登記手続を請求する部分については、理由がないことに帰する。
※東京地判平成25年8月22日

10 使用貸借と賃貸借の判別(一般論)(参考)

以上のように、分有方式の敷地(土地)の利用権については、使用貸借と賃貸借を中心としていくつかの考え方があります。ところで、一般論として、土地(や建物)の貸し借りで、支払っている金額が(相場より)低い、あるいは金銭は支払っていないけど別の利益の提供がある、というケースでも使用貸借と賃貸借のどちらかという問題があります。
詳しくはこちら|借主の金銭負担の程度により土地の使用貸借と借地(賃貸借)を判別する

11 税務上の分有の敷地利用権の扱い→等価部分借地権なし

(1)所得税・法人税基本通達→等価部分借地権なし扱い

以上の説明は民事上の解釈でしたが、税務上は少し別の解釈(扱い)が通達で出されています。建物が共有でも区分所有でも、敷地(土地)が分有方式の場合には、原則として借地権の設定はないものとして扱う、ということになっています。建物側の割合(共有持分割合や床面積)と土地側の割合(面積や評価額)に差がある場合は、差の部分だけ借地権の設定があったものとして扱うということもセットで書いてあります。

所得税・法人税基本通達→等価部分借地権なし扱い

あ 所得税基本通達

(共同建築の場合の借地権の設定)
33-15の2 一団の土地の区域内に土地(土地の上に存する権利を含む。以下この項において同じ。)を有する2以上の者が、その一団の土地の上に共同で建築した建物を区分所有し、又は共有する場合における令第79条の規定の適用については、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次により取り扱う。(昭56直資3-2、直所3-3追加)
(1)各人の所有する土地の面積又は価額の比(以下この項において「土地の所有割合」という。)と各人の区分所有する部分の建物の床面積(当該建物の階その他の部分ごとに利用の効用が異なるときは、当該部分ごとに、その異なる効用に係る適正な割合を勘案して算定した床面積)の比又は共有持分の割合(以下この項において「建物の所有割合」という。)とがおおむね等しい場合
相互に借地権の設定はなかったものとする。
(2)上記(1)以外の場合
建物の所有割合が土地の所有割合に満たない者の当該満たない割合に対応する部分の土地についてのみ貸付けが行われたものとする。

い 法人税基本通達

(共同ビルの建築の場合)
13-1-6 一団の土地の区域内に土地を有する2以上の者が、当該一団の土地の上に共同で建物を建築し、当該建物を区分所有する場合において、各人の所有する部分の床面積の比(当該建物の階その他の部分ごとに利用の効用が異なるときは、当該部分ごとに、その異なる効用に係る適正な割合を勘案して算定した床面積の比とする。以下13-1-6において同じ。)が当該各人の所有地の面積の比又は価額の比おおむね等しいときは、相互に借地権の設定等はなかったものとして取り扱う。
当該2以上の者が当該建物を共有する場合についても、同様とする。(昭55年直法2-15「三十一」により追加)
(注) 各人の所有する部分の床面積の比が当該各人の所有地の面積の比又は価額の比と相当程度以上異なる場合には、その差に対応する部分の土地につき借地権の設定等があったものとして取り扱うのであるから留意する。

(2)法人税基本通達逐条解説→民事・税務の別扱い

一般論として、民事上の解釈と税務上の解釈(扱い)は一致するわけではありません。税務上は民事上の解釈とは違って便宜的な扱いをするということはあります。この点、前述の法人税基本通達について、民事的な解釈とは異なる、という説明もなされています。

法人税基本通達逐条解説→民事・税務の別扱い

あ 民事的解釈→借地権の準共有

このような場合には、その2以上の土地所有者は、それぞれ他の土地所有者の土地の上にまたがって建物を所有することとなるのであるから、その敷地に関するこれらの2以上の土地所有者相互の法律関係は、いわば借地権の準共有関係ということであろう。
したがって、これを法形式に従って厳格に解するとすれば、その共同ビルの建設に際して、相互に借地権の準共有持分を対価として借地権を設定し合ったということになるから、これにつきキャピタルゲインが実現したものとして課税関係を生ぜしめる必要があるのではないかという考え方が出てくる。

い 経済的側面→相互に対価支払なし

(3)しかしながら、これを経済実体的な面からとらえれば、この場合における当該2以上の土地所有者は、その共同ビルの区分所有又は共有を通じて、その敷地の利用に関して相互に強い牽連関係を持つものであって、個々の土地所有者が有すると目される借地権の準共有持分にしても、これを単独に取引の対象にする等のことは事実上は不可能なものであろう。
要するに、この場合の敷地の利用関係は、共同ビルの所有を通じて形成された一種の運命共同体ともいえるものであって、将来当該共同ビルが取り壊された場合には、当然にその利用関係を解消し、無償で土地の相互返還が行われることになるのである。

う 税務上の扱い→借地権設定なしの扱い

したがって、これについては、税務上も強いて相互に借地権の設定があったものとしてキャピタルゲインの実現を擬制する必要はないと考えられる。
このようなことから、本通達において、一定条件の下にこのような土地の共同利用が行われた場合には、これにつき、相互に借地権の設定等はなかったものとして取り扱うことが明らかにされている。
※松尾公二編著『法人税基本通達逐条解説』税務研究会出版局2023年p1449、1450

本記事では、建物の敷地が分有方式になっているケースの土地利用権について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、共有の建物や区分所有建物の敷地(土地)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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