【単独で使用する共有者に対する償還請求の金額算定】

1 単独で使用する共有者に対する償還請求の金額算定

共有不動産を共有者の1人Aが使用(居住)している場合、他の共有者Bは、使用する対価の請求(償還請求)をすることができます。平成12年判例の理論が、令和3年改正で条文になりました。
詳しくはこちら|単独で使用する共有者に対する償還請求(民法249条2項)
この償還請求ができる金額については、判例も改正後の条文も、何も示していません。この点、従前からいろいろな解釈が蓄積されています。本記事では、共有者間の償還請求の金額の計算方法を説明します。

2 金額算定方法の特定未了

平成12年判例は地代相当額の金銭請求を認めるという内容が示されていますが、具体的に金額を算定したわけでなく、原審に差し戻したにとどまります。実質的には金額の算定方法は特定されていないままであるといえます。前述のように、令和3年改正の民法249条2項の対価償還義務の規定でも金額の算定方法が示されていません。

金額算定方法の特定未了(※1)

あ 平成12年判例・主要民事判例解説

また、損害賠償ないし不当利得の金額につき、その具体的な内容・算出方法については今後の課題である
※『判例タイムズ臨時増刊 主要民事判例解説1065号』2001年p54〜

い 平成12年判例・論文

返還金ないし賠償金の算定を具体的にどのように行なうかはなお残された問題であろうか。
※田中康博著『分割前の共有遺産の使用と使用利益の返還-最高裁2000年4月7日判決を素材に-』/『商学討究』小樽商科大学2001年p122

う 学説の不存在

不当利得ないし損害賠償の金額については詳細に述べるものは少ない。
※『判例タイムズ臨時増刊 主要民事判例解説1065号』2001年p54〜

3 金額算定方法の解釈(学説)のバリエーション

では、不当利得や不法行為として金銭の請求が認められる場合にはどのように金額を算定するのでしょうか。解釈としては、相場の賃料額をベースにする見解、それよりは大幅に低い金額とするという見解があります。

金額算定方法の解釈(学説)のバリエーション

あ 賃料額ベース

市場家賃額から公租公課その他の管理費を控除した金額に相続分(共有持分割合)を乗じた金額とする(後記※2

い 特殊性の反映

利用・管理の方法についての協議が調う見込みがない共有物は、通常の賃料額で第三者に賃貸することは困難であるなど、単独所有物のようにその機能効用を十分に発揮した利用をすることは難しいから、損失額・利得額を賃料相当額よりも大幅に低く認定することが可能な場合も少なくない。
※野山宏稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度』法曹会1999年p1003
※『判例タイムズ臨時増刊 主要民事判例解説1065号』2001年p54〜参照

4 賃料ベースで金額を算定する見解

使用対価(不当利得金や損害金)の金額を、賃料をベースとして算定する具体的な見解を紹介します。基本的に、相場の賃料額から経費を控除する、という計算方法です。
実務でもこのように、賃料の相場を使う、ということが多いです。

賃料ベースで金額を算定する見解(※2)

あ 川村泰啓氏の見解

但し、この場合には、利用を入手したBは、利用を閉めだされたA(およびC)に対して、この建物の利用の対価(勿論、市場家賃額である)をA(およびC)の相続分(割合)に応じて支払わねばならないことはいうまでもない(民206・246条)。
※川村泰啓稿『共有』/谷口知平ほか編『民法演習Ⅱ 物権』有斐閣1958年p119

い 東京家庭裁判所身分法研究会の見解

(民法の共有理論の適用を前提とする)
(共有者の一部(丙)が共有不動産に居住するケースについて)
そうすると、丙女およびEは当然に家屋全部の使用が許されず、従前どおりの居住を続けることは相続分の範囲を超えて使用することになるといわねばならない。
それでも、A、B、C、Dらにおいて丙女およびEだけが引続き居住することに異議がなければ、居住継続に関する限り、別に問題はない。
ただこの場合には、丙女およびEは理論上不当利得をしているわけであるから、A、B、C、Dに対し使用の対価として、市場家賃額から公租公課その他の管理費用を控除した金額(民法885条参照)に右四名の相続分の割合を乗じた金員を支払わねばならない(民法249条、206条)。
右にいう市場家賃額は、地代家賃統制令の適用によって算出した金額であり、同令の適用がない場合には借家法7条の趣旨を考慮して定めるべきであろう。
※東京家庭裁判所身分法研究会稿『相続家屋における居住の保護とその評価』/『ジュリスト346号』有斐閣1966年5月p82

う 松岡久和氏見解

(注・令和3年改正の民法249条2項の償還義務について)
賠償額や利得額客観的市場価値により判断されるとする一般的な理解に従えばよい。
とりわけこの場合に減額を認めることは、単独占有権原のない侵害者の占有・使用を理由に、他の共有者の持分権侵害に対する救済を切り下げることになって公平を失し、妥当でない
※松岡久和稿/潮見佳男ほか編『詳解 改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』商事法務2023年p63

5 古い裁判例における金額算定方法

下級審裁判例としては、平成12年判例よりも前から、共有者間の金銭請求を認めたものはあります。ただし、これらの裁判例の後に、平成8年判例や平成12年判例が出ていますので、これらの裁判例の解釈が現在でもそのまま適用されるとは限りません。あくまでも参考として紹介します。

古い裁判例における金額算定方法

あ 土地・地代相当額

(土地について)
地代相当額を不当利得と認めた
※東京地判昭和48年7月11日
※福岡地大牟田支判平成4年12月25日
※福岡高判平成6年6月30日

い 建物・従前賃料額

(建物について)
従前の賃貸借における賃料額を基準として不当利得の金額を算定した
※大阪地判昭和41年2月28日

う 建物・適正賃料

(建物について)
建物に同居する相続人が被相続人に金銭を支払っていたケースにおいて
実際に支払われていたとしても、それは被告と被相続人とが家族として同居生活していた等の事実による生活費ないしは固定資産税の一部とみるのが相当であり、そうした前提が失われた同人の死後においては、被告が他の共有者に対して支払うべき不当利得額を算出するにあたり、右金額は算出の根拠として考慮されるに値するものではないというべきである
積算法及び賃貸事例比較法の二方式を適用して求めた各試算賃料を相互に関連付けて適正賃料を算出する(1審の算出方法を肯定した)
※東京高判平成5年7月14日

本記事では、単独で共有不動産を使用する共有者に対する償還請求の金額の算定について説明しました。
実際には、個別的な事情により、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、共有物(共有不動産)の使用に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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