【契約上の地位の移転(要件・効果・第三者対抗要件)】

1 契約上の地位の移転(要件・効果・第三者対抗要件)

いろいろな場面で、契約上の地位が別人に変わることがあります。たとえば、売主Aと買主Bの売買契約で、買主を(Bから)Cに変える、というようなケースです。
「買主」という契約上の地位を移転(譲渡)する、といいます。本件では、このような契約上の地位の移転の基本的内容を説明します。
なお、実際によく生じる、賃貸人の地位の移転も、契約上の地位の移転の1つですが、これについては、特別な扱いがあります(後述)。

2 契約上の地位の移転の要件(平成29年改正前の解釈)

AとBの契約について、Bの地位をCに変えるためには、ABCの全員の合意が必要だ、という発想もあります。しかし、判例・学説とも、BCの契約とAの承諾で足りる、という解釈が一般的となっていました。

契約上の地位の移転の要件(平成29年改正前の解釈)

あ 要点

契約上の地位の移転は譲渡人と譲受人との間の合意により行うことができるが、重大な影響を受ける当該契約の相手方の承諾が要件となると解されていた。
※我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p1160

い 判例(昭和30年最判)

原判決が前記のように契約上の地位乃至権利義務一切の包括譲渡については、債権者である被上告人らの承諾なくしては同人等に対して効力を有しない旨を判示して、上告人の請求を認めなかつたことは、結局正当である
※最判昭和30年9月29日

う 学説(我妻氏・債権総論)

二 契約上の地位の譲渡の要件
ここでも当事者が最も重要な問題である。
契約上の両当事者と譲受人との三面契約でやれば、有効なことは疑ない。
問題なのは、契約の一方の当事者と譲受人との間の契約によって、他方の当事者の承認を条件として、効力を生じさせることができるかどうかである。
判例の態度は必ずしも明瞭ではない。
他方当事者の承諾なくしてはこれに対して効力を生じない、というが、その承諾は、これによって三面契約を生じさせるまでの重要性あるものとするのか、それとも、――債務者と引受人との間の免責的債務引受における債権者の承諾のように・・・――単に承認でよいとするのか、判明しない。
然し、大体において、承認をもって足りるとする方向に進んでいるといえるようである(四宮前掲八五頁参照)。
すなわち、営業譲渡とみられる場合にはその傾向がとくに顕著であるが(大判昭和一〇・一〇・二判決全集二輯(二二)二五頁(前営業主の債務を引き継ぐという以上債権者の承認によって効力を生ずるという))、
継続的な売買契約上の地位の譲渡に関してもこの傾向を示す(前掲大判大正一四・一二・一五民七一〇頁(判民一一五事件乾、買主の地位)、大判昭和二・一二・一六民七〇六頁(判民一〇八事件末弘、売主の地位)、大判昭和五・三・二九評論一九巻民五一二頁(買主の地位)、最高判昭和三〇・九・二九民一四七二頁(売買類似の契約の買主の地位))。
極めて正当な態度である。
けだし、経済取引が客観化し、契約は債権者・債務者の個人よりも、その契約の生じた経済的な基礎に着目されるようになったときには、その契約上の地位も、相手方に不当な不利益を与えない限り、自由に移転しうるというべきであり、その不当な不利益を防止する手段としては、相手方の承認で足りるというべきだからである。
※我妻栄著『民法講義Ⅳ 新訂 債権総論』岩波書店1964年p580、581

3 契約上の地位の移転の要件(明文化=民法539条の2)

前述の解釈(契約上の地位の移転の要件)は、平成29年の民法改正で、条文(民法539条の2)として明文化されました。

契約上の地位の移転の要件(明文化=民法539条の2)

あ 明文化した経緯

一般的な契約上の地位の移転は、原則として、三面契約あるいは譲渡人と譲受人間の譲渡契約に加えて相手方の承諾を要すると解されてきた(最判昭和30・9・29民集9巻10号1472頁、我妻栄「新訂償権総論」[1954]580頁)。
539条の2はこの考え方を明文化した。
※『契約上の地位の移転』/『別冊ジュリスト238号 民法判例百選Ⅱ 債権 第8版』有斐閣2018年p85

い 条文

(第三款 契約上の地位の移転)
第五百三十九条の二 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。
※民法539条の2

4 契約上の地位の譲渡の効果(移転の内容)

前述のように、契約上の地位の移転とは、契約上の地位が別人に変わるというものです。詳しく言うと、契約からすでに生じていてる債権・債務、契約から将来生じる債権・債務の全部、さらに、契約に関する取消権や解除権が、契約の地位の譲受人に帰属する、ということになります。

契約上の地位の譲渡の効果(移転の内容)

三 契約上の地位の譲渡の効果
その契約からすでに生じた債権・債務が移転するだけでなく、その契約の趣旨に従って将来生ずる債権債務は、譲受人を主体として発生する。
さらに、その契約に伴なう取消権や解除権も移転する
(取消権・解除権の移転の有無が、債務引受契約上の地位の移転重要な差とされる)。
※我妻栄著『民法講義Ⅳ 新訂 債権総論』岩波書店1964年p581

5 契約上の地位の移転における譲渡人の免責の有無

契約上の地位が、B(譲渡人)からC(譲受人)に移転すると、Cに債権・債務が帰属することになります(前述)。では、Bは、移転前に負っていた債務を負わなくなるのでしょうか。
実はこれについては、改正後の条文でも従前からの解釈でも一律に決まっていません。
結論としては、契約の相手方(A)がBの債務を免除したかどうか(免除する意思を持っていたのかどうかの判定)で決まる、ということになります。

契約上の地位の移転における譲渡人の免責の有無

あ 平成29年改正における明文化(なし)

新法は、このような内容の規定を新設したが、「合意」に譲渡人の免責が当然に含まれるかは、議論の末、明らかにされなかった
※我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p1160

い 解釈

・・・民法の解釈としては、契約上の地位の譲渡の際に生じていた債務については、原則として、併存的債務引受の関係を生ずるものとし、債権者が譲渡人の債務を免責した場合にはじめて譲受人だけの責任となる、というべきであろう
(免責が黙示に行われうることも稀ではあるまい)。
※我妻栄著『民法講義Ⅳ 新訂 債権総論』岩波書店1964年p581

6 契約上の地位の移転の第三者対抗要件

契約上の地位の移転をした場合に、これを第三者に対抗するには、移転した個々の権利(物権・債権)について対抗要件を備えることが必要です。
契約上の地位そのものが移転したことを第三者に対抗させるには、BCの合意で移転した場合にはAの承諾、ABCの3者の契約で移転した場合には、その3面契約について確定日付ある証書としておく方法があります。

契約上の地位の移転の第三者対抗要件

あ 一般的な対抗要件(なし)

なお、契約上の地位の移転に関する一般的な第三者対抗要件は規定されていない。

い 個々の物権・債権の対抗要件

当該契約に依り物権や債権が移転する場合には、それぞれについて対抗要件が具備されるべきである。

う 契約上の地位自体の対抗要件

契約上の地位全体の移転に付き、第三者に対抗したい場合には、譲渡人と譲受人による譲渡契約の場合には契約の相手方の承諾を、三者間契約の場合には当該契約自体確定日付ある証書に依って行っておくとよいとの指摘がなされている。
※我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p1160

7 賃貸人の地位の移転(概要)

以上で説明したのは、一般的な契約上の地位の移転でした。契約上の地位の移転のうち、実際によく問題となるのは、賃貸借契約の賃貸人の地位の移転です。これについては、以上の一般論とは別に特別な扱い(条文や解釈)があります。別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|対抗力のある賃借権の目的物の所有権移転と賃貸人たる地位の承継(基本)

本記事では、契約上の地位の移転(譲渡)の基本的なことを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に契約上の地位の移転(変動)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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