【「共有持分権」「準共有持分権」という用語の意味や適否】

1 「共有持分権」「準共有持分権」という用語の意味や適否

共有」とは、所有権を数人で持つ(有する)ことであり、これに対して、所有権以外の財産権を数人で持つ(有する)ことを「準共有」といいます(民法264条)。
詳しくはこちら|準共有の基本(具体例・民法と特別法の規定の適用関係)
これに関して、「共有持分権」という言葉が使われることがあります。さらに「準共有持分権」という言葉も使いたくなりますが、それは厳密には誤っているとも思えます。本記事では、これらの用語の意味や、適切な用語であるかどうか、ということを説明します。
直接的に、具体的案件の解決につながるわけではありませんが、理論の理解が深まる、というテーマです。

2 「(共有)持分権」の意味からの考察

たとえば、土地をABCで共有していて、それぞれの共有持分割合が3分の1である場合、「Aは3分の1の共有持分権を持つ」という言い方をします。「共有」という部分を除外して「持分権」とだけ言っても同じ意味です。
この「(共有)持分権」の意味ですが、まず、「権利」を意味していることはわかります。どんな権利かというと、所有権ということになります。というのは、共有というのは所有権を複数人が持つ(有する)ことであるからです。
では準共有、つまり所有権以外の財産権(たとえば賃借権)を複数人で持つ場合に、この用語を流用して準共有持分権と言ってしまいそうになります。しかし、準共有持分権が意味する権利はなにか、と考えると、当該権利(賃借権)ということになります。しかし、もともと持分権という用語には、賃借権という意味があるわけではありません。あくまでも所有権の意味だけしか持ちません。そこで敢えて翻訳(解釈)すると、賃借権の所有権(賃借権を所有する権利)ということになってしまいます。所有権は物権であり、有体物を直接的に支配する権利です。賃借権の所有権というのは他の理論と正面から矛盾するのです。
開き直って、持分権とは賃借権のことだ、と主張することはできるでしょうけど、一般的な用例ではありません。

「(共有)持分権」の意味からの考察

あ 所有権の共有(通常の共有)

「持分権」は、共有においては、所有権の一種とか所有権の性質を有するものとか説明されるのが一般的である。

い 所有権以外の財産権の共有(準共有)

ア 「持分権」の用語の流用の発想 この説明を準共有にも持ってきて、準共有における持分権とは、準共有の対象である財産権(上の例では賃借権)とは別の所有権の一種だと捉えることになるのであろうか。
しかし、それは、明らかに不当である。
イ 権利の所有権 そのような所有権の成立を認めると、権利の上の所有権を認めることになるからである。
権利の上の所有権は、かつてそれを説く有力な見解が存在した。
しかし、我妻説がそのような考え方を徹底的に批判して以降(我妻榮「権利の上の所有権という観念について」同『民法研究Ⅲ物権』(有斐閣、1966年。初出は1936年)163頁以下)、今日では支持者のいない考え方である。
ウ 準共有者の有する権利の中身 賃借権の準共有を素直に理解すれば、各準共有者が有する権利は、他の準共有者の存在によって分量的に制限されているとはいえ、賃借権であることが明らかである。
賃借権という財産権が各権利者に分属している状態が、賃借権の準共有なのである。
そうすると、仮にここで準共有持分権という表現を用いるとしても、それは、賃借権と別の独立の権利なのではなくて、賃借権が複数の主体に帰属している、つまり分属していることを表現する用語にすぎないことになる。
エ 結論(否定) そうであれば、賃借権とは別の独立の権利であることを強く連想させる「準共有持分権」という表現は、避けるのが適切である。
※吉田克己稿『「準共有持分権」は存在するか?』/『月報司法書士588号』日本司法書士会連合会2021年2月p3

3 「権利の所有権」「権利を所有する」の意味

ところで、思いも寄らない解釈論(裁判例)で「権利の所有権」というテーマが登場したことがあります。ビットコインを保有(支配)することについて所有権が認められるかどうか、という解釈論です。この裁判例の中で、「権利の所有権」「権利を所有する」という表現は、単に権利が(ある者に)帰属することを意味するにすぎない、という指摘がなされています。
なお結論として、有体物の支配にはあたらないので所有権は否定されています。

「権利の所有権」「権利を所有する」の意味

あ 裁判例

・・・このような考えによった場合、知的財産権等の排他的効力を有する権利も所有権の対象となることになり、「権利の所有権」という観念を承認することにもなるが、「権利を所有する」とは当該権利がある者に帰属していることを意味するに過ぎないのであり、・・・
※東京地判平成27年8月5日(ビットコイン所有権否定判決)

い ビットコイン所有権否定判決の理論(参考)

「あ」の裁判例は、ビットコインを保有することについて所有権を否定した
その中で「権利の所有権」についての言及があった
詳しくはこちら|ビットコイン所有権否定判決(平成27年東京地裁)の理論内容

4 「持分」と「持分権」の比較

以上のように、「持分権」は共有者が持つ「所有権」という意味です。所有権の共有の時だけ「持分権」という用語を使えるのです。逆に、所有権の共有で「持分」という表現を使うことも可能です。
「持分」であれば、所有権の共有でも所有権以外の財産権の準共有でも使えるので適切な用語であるという指摘もあります。

「持分」と「持分権」の比較

・・・分属の対象が所有権であるがゆえに、所有権の意味を含みうる「持分権」を用いることが可能なのである。
もっとも、そのような事態を表現するためには、「持分権」よりも「持分」の語のほうが適切だという見方もありうる。
※吉田克己稿『「準共有持分権」は存在するか?』/『月報司法書士588号』日本司法書士会連合会2021年2月p3

5 法律・裁判例・公的議論の中の「準共有持分権」

前述のように、「準共有持分権」は不適切であり、さらに(通常の共有の)「持分権」も避けて「持分」という用語に統一することが好ましいのかもしれません。実際に、民法の条文としては、「持分権」という用語は避けられており、「持分」という用語に統一されています。
訴訟では、当事者が「準共有持分権」という表現を使ってたのに対して、判決では「準共有持分」と言い直しているものがあります。ただ一方で、判決文中で「準共有持分権」と言ってしまっているものもあります。
さらに、法制審議会でも不動産の使用権について、「持分権」という表記が使われています。
このように、「準共有持分権」という用語も、意味は伝わるので、使われてしまっています。

法律・裁判例・公的議論の中の「準共有持分権」

あ 民法(「持分権」について)

・・・そして、おそらくはそのような認識を踏まえて「持分」の語だけを用いるのが、民法の立場である。
民法に、「持分権」という語は、1回も出てこない

い 裁判例

裁判例は、基本的には「準共有持分権」の語を用いない
当事者が請求の趣旨等においてこの語を用いることはあるが、判決主文では「準共有持分」と言い直されている(東京地判平成26年10月31日など)。
見識のある態度である。
しかし、例外的ではあるが、「準共有持分権」の語を主文で用いる判決もある(東京地判平成25年8月23日がそのような例を提供する)。

う ネット情報

ネットなどでも「準共有持分権」を用いる記事がヒットすることが稀ではない

え 法制審議会の議論

近時の物権法改正に向けての法制審議会の資料においても、「不動産の使用権の持分権」が登場している(民法・不動産登記法部会資料30〔2020年6月23日〕)。
※吉田克己稿『「準共有持分権」は存在するか?』/『月報司法書士588号』日本司法書士会連合会2021年2月p3

6 まとめ(「準共有持分権」の用語の否定とポリシー)

結論として「準共有持分権」の用語が使われても、意味は伝わり、直接的な実害はないかもしれません。細かいことかもしれません。
ただ、共有に関する多くの議論では細かい理論が前提として登場します。細部を理解しているかどうかで理論的な主張の説得力が変わる、結論が違ってくる、ということもないとは言い切れません。

まとめ(「準共有持分権」の用語の否定とポリシー)

あ 結論

結論を先に言えば、私は、「準共有持分権」という表現を用いるとすれば、それは、誤りであるか、あるいは少なくとも不適切であると考えている。
※吉田克己稿『「準共有持分権」は存在するか?』/『月報司法書士588号』日本司法書士会連合会2021年2月p2

い 実際の用例への批判とポリシー

(「準共有持分権」の用語が使われている例について)
これらは、本稿の観点からすると、適切な言葉の使い方ではない
細かいと言えば細かなことではあるが、法律の理論と実務に携わる者としては、細部の言葉遣いにもこだわりたいものである。
※吉田克己稿『「準共有持分権」は存在するか?』/『月報司法書士588号』日本司法書士会連合会2021年2月p3

7 「持分」「持分権」のいろいろな用例

最後に、「持分」や「持分権」の用語の使われ方のパターンを挙げて、以上の説明の結論をまとめてみます。「持分」の前の部分に来るのは財産であり、その意味は所有権であることがよく理解できます。また、準共有持分権というのは権利を持つ権利というニュアンスが出てきておかしな印象を受けるということも実感できると思います。

<「持分」「持分権」のいろいろな用例>

「持分」 「持分権」
財産の(共有)持分→OK 財産の(共有)持分権→好ましくない(一応OK)
不動産の(共有)持分→OK 不動産の(共有)持分権→好ましくない(一応OK)
所有権の(共有)持分→OK(違和感はある) 所有権の(共有)持分権→NG
鉱業権の(準共有)持分→OK 鉱業権の(準共有)持分権→NG

8 物権的請求権の根拠としての「持分権」

以上で説明した呼称の問題は、帰属を表現することが前提となっているように思われます。具体的には、「甲野太郎はA不動産の持分を有している」というような用例です。
ところで、「(共有)持分権に基づく妨害排除請求権」というものがあります。
詳しくはこちら|共有者から第三者への妨害排除請求(返還請求・抹消登記請求・第三者異議訴訟)
このように、物権的請求権の根拠を表現(特定)する場合には、「持分権」を使わざるを得ないといえるでしょう。「持分に基づく」だとうまく伝わらない(不正確)だと思います。だからといって「所有権に基づく」といってしまうと別の意味になってしまいます。
このように、帰属ではなく根拠を表現する場合には「持分権」の表記を避けられないと思います。

9 「持分を所有する」という表現

「持分」という用語を少し別の角度から考えさせられることがあります。
全面的価格賠償の判決主文では、通常、「(別紙物件目録記載1の)不動産を原告の所有とする」という表記が使われますが、「持分を・・・所有とする」という表記が登場することあるのです。「持分(権)が甲野太郎に帰属する」だと普通なのですが、「持分を所有する」という表記は(うまく説明できませんが)違和感があります。

「持分を所有する」という表現

(判決主文)
1 別紙物件目録記載1及び2の各区分所有権を、次のとおり分割する。
(1)別紙物件目録記載1及び2の各区分所有権につき、被告らの共有持分をいずれも原告の所有とする。
・・・
※東京地判平成27年1月15日
(参考)共有物分割訴訟の判決主文の実例は別の記事で説明している
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の訴状の請求の趣旨・判決主文の実例

本記事では、「共有持分権」や「準共有持分権」という用語の意味やそれが適切かどうか、ということを説明しました。
これは、実際の個別的な事案の解決(訴訟や交渉)の中で使われることがある理論です。
実際に、共有不動産(共有物)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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