1 司法書士が本人確認のために行う調査方法の全体
2 司法書士による本人確認のための調査方法(全体)
3 本人確認のための資料の調査方法(概要)
4 自称当事者・代理人の発言(質疑)
5 申請とは別の(過去の)登記の内容
6 取引内容・経緯の不自然性

1 司法書士が本人確認のために行う調査方法の全体

不動産の登記申請に関して,決済の立会を行う司法書士は,常になりすましに騙される(利用される)リスクに直面しています。
司法書士としては,調査や確認する義務を負っており,専門家として虚偽の登記がなされることを未然に防ぐ社会的使命を負っています。
本記事では,司法書士が本人確認のために行う調査方法の内容を全体的に説明します。

2 司法書士による本人確認のための調査方法(全体)

司法書士が当事者(主に登記義務者)の本人確認をするための調査の内容はとても多くのものがあります。最初に多くの調査方法を網羅的にまとめておきます。
当事者との面談や身分確認につながる資料の提示を求めるというものが主なものです。
それ以外に,司法書士の積極的なアクションによるものとして,書類の送付や自宅や職場の訪問という方法があります。
もちろん,すべての方法を履行する義務があるというわけではありません。状況によって調査義務のレベルは異なります。
詳しくはこちら|不動産登記申請を行う司法書士の確認義務の枠組み(疑念性判断モデル)

<司法書士による本人確認のための調査方法(全体)>

あ 面談

当事者や代理人に直に面談する
(自称)当事者や代理人に質問し,その回答(発言)を聞く

い 資料の提示

ア 典型的公的資料の例
印鑑(実印),印鑑証明書,住民票,戸籍事項証明書
健康保険証,国民年金手帳
→提示を受ける
イ 顔写真付き公的証明書の例
自動車運転免許証・パスポート・住基カード・マイナンバー(個人番号)カードなど
→提示を受けた上,本人の顔と照らし合わせる
ウ 私的な身分証明資料
名刺,所属団体の身分証明書
エ 間接的な本人確認資料
銀行口座の通帳
固定資産の納税通知書
『電気・ガス・水道』等の公共料金の領収書(建物の場合)
アルバム(写真)
→提示を受ける

う 積極的アクションによる調査

ア 書類送付
司法書士が,当事者の現住所や旧住所にあてて書面を送付する
本人限定受取郵便による送付もありえる
イ 訪問
司法書士が自宅・職場を訪問する
司法書士が近所の人に聞き合わせ(聞き込み)をする
※大崎晴由著『司法書士・法務アシスト読本 第5版』民事法研究会2005年p317(旧法の保証書のケースにおいて)
※『不動産詐欺事件に遭わないために』東京司法書士協同組合2018年8月

え 当事者や関係者による確認状況の把握

当事者や仲介業者がどのように本人(特に売主)の確認をしたのかを聴取する
例=アンケートのように,簡単な質問と回答を書面で行う
※『不動産詐欺事件に遭わないために』東京司法書士協同組合2018年8月

以下,個々の調査方法の内容,つまり,どのようにしてなりすまし(資料の偽造など)を見抜くのかということを順に説明します。

3 本人確認のための資料の調査方法(概要)

本人確認のために用いる資料はとても幅広いです。典型例は公的な身分確認書は,それ以外にも本人でないと用意しにくいものがいろいろあります(前記)。
このうち,公的な資料については,なりすまし(地面師)が偽造することがよくあります。そこで司法書士としては,偽造をどのように見抜くのか,ということが重要です。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|司法書士が資料の確認によって偽造やなりすましを見抜く方法(調査の内容)

4 自称当事者・代理人の発言(質疑)

司法書士が(自称)当事者や代理人と面談することは重要です。面談して資料の提示を求め,顔写真付きの資料と面談相手の顔の照合などをします。
さらに,面談相手に質問(ヒアリング)します。要するに,真の当事者(関係者)であれば正確に即答できることを質問して回答してもらう,というものです。

<自称当事者・代理人の発言(質疑)>

あ 基本的な調査方法

司法書士が依頼者(自称当事者・代理人)に質問をする
依頼者が即座に正確な回答をできない場合,なりすましの可能性がある

い 質問の例

ア 生年月日・年齢・干支
イ 住所
ウ 取引内容・その経緯

5 申請とは別の(過去の)登記の内容

今回の登記申請とは別の登記の有効性によって今回行う登記申請の当事者といえるかどうかが違ってくる,ということもあります。
例えば,法人である売主の役員(特に代表取締役)の登記が無効であると,この代表取締役による登記申請やその前提となる売買契約は原則的に無効になります。
また,不動産登記には公信力はないので,売主の所有権の登記が無効である場合には,原則的に買主への移転登記も無効となります。

<申請とは別の(過去の)登記の内容>

あ 今回の登記申請との関係

今回の登記申請とは別の登記(い)が無効である可能性がある
その結果,今回の申請した登記が後から無効となる可能性がある

い 過去の登記が無効となる例

ア 法人の役員(代表権限)
直前に法人の役員の大規模な変更があった
後から株主総会決議不存在の判決確定によって
→今回の登記申請の権限(不動産売買の権限)が否定される
イ 直前の住所変更(登記名義人表示変更登記)
不正な転居届が行われ,その後不正な印鑑登録がなされた可能性がある
→不正な印鑑証明書を利用して不正な移転登記がなされたケースもある
詳しくはこちら|形式的に真正な登記申請によって虚偽の不動産登記が生じた実例

なお,このような過去の登記の有効性まで,(今回の登記申請をする)司法書士の注意義務があるとは認められない傾向があると思います。本記事では,虚偽の登記申請を回避するきっかけとして紹介しました。

6 取引内容・経緯の不自然性

なりすましなどの不正な登記申請を防ぐには,取引全体を眺めることも有用です。
普通だったらこのような取引をすることはないだろう,というような不自然性をきっかけとしてさらに詳細に調査をする,ということが求められることもあります。

<取引内容・経緯の不自然性>

あ 基本的な調査方法

申請内容(書類)から分かる情報や関係者の説明から
不自然であると感じることがある
→なりすましによる不正な登記申請である可能性がある

い 不自然と思える状況の例

ア 取引内容
取引の内容に不合理・不自然なことがある
イ 関係者間の面識の程度
取引の当事者や関係者同士の面識の有無・接触の程度を把握する
関係者間の面識がないor接触の程度が低い場合
→取引の当事者や関係者が,なりすましを見抜けていない可能性がある

本記事では,登記申請をする司法書士が,なりすましなどの不正を見抜く材料を網羅的に説明しました。
実際には,極めて精巧な偽造で騙すケースもあります。個別的な細かい事情や,主張・立証のやり方次第で責任の判断は違ってきます。
実際に不正な登記(司法書士の責任)の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。