【弁護士による売買契約締結の代理における注意義務と責任】

1 弁護士による売買契約締結の代理における注意義務と責任
2 売買の代理人の依頼と事故発生
3 代理人としての注意義務と弁護士の責任(裁判所の判断)
4 司法書士の決済立会との違い(参考)
5 代理人弁護士の売却意思の確認不足による責任

1 弁護士による売買契約締結の代理における注意義務と責任

弁護士が代理人として紛争を解決するために交渉をすることはよくあります。紛争ではなくても,代理人として契約締結に向けた交渉をすることもあります。
弁護が代理人として交渉をして,法的な問題がなく契約が締結されればよいのですが,実際に契約に関して問題が生じることもあります。そのようなケースでは弁護士に責任が生じることがあります。
本記事では,弁護士が売買契約締結の代理人となったケースにおける弁護士の課せられる注意義務と責任について説明します。

2 売買の代理人の依頼と事故発生

売買契約締結の代理人となった弁護士の責任が問題となった実際のケースを紹介します。
事案は要するに,売主(所有者)だと思っていた依頼者が,実は所有者ではないことが後から判明したというものです。
そのようなことを知らずに,買主は代金(の一部)を弁護士に渡してしまったのです。この金銭がそのまま買主に戻ってくればまだ良かったのですが,いろいろな経緯があり買主に戻ってきませんでした。
買主としては,代理人が弁護士であるからこそ,信用して代金を渡したのです。買主は弁護士に賠償責任があると考え,提訴しました。

<売買の代理人の依頼と事故発生>

あ なりすましによる依頼

所有者(売主)Aになりすました者Bが弁護士Yに売買の代理を依頼した
Bは『売却承諾書』を作成した

い 買主による代金の支払

買主が売主の代理人弁護士Yに買付証拠金800万円と手付金1200万円を支払った
(移転登記の申請はしていない)

う 事故発生と損害賠償請求

その後,所有者Aは関与していないことが判明した
買主は弁護士Yに対して損害賠償請求訴訟を提起した
※東京地裁平成7年11月9日

3 代理人としての注意義務と弁護士の責任(裁判所の判断)

裁判所は,弁護士は,依頼者や依頼者の意思を十分に確認する注意義務があると判断しました。
このケースの弁護士は,この注意義務を十分に果たしていなかったので,賠償責任を負うことになりました。

<代理人としての注意義務と弁護士の責任(裁判所の判断)>

あ 代理人としての注意義務

弁護士が法律事務に関して代理人を受任して第三者と法律事務をするにあたっては
依頼者本人の意思に基づくものであるか十分に確認すべき注意義務がある

い 注意義務の内容

弁護士Yは,『ア・イ』の業務上の注意義務を負っていた
ア 自らA(所有者=売主)本人に電話するなどして確認するイ Aと名乗る者(B)に対して,保険証や権利証,印鑑証明書などでA本人であることを確認する

う 弁護士の責任

弁護士Yは,『い』の調査・確認を行わなかった
過失である
→弁護士Yは損害賠償責任を負う
※東京地裁平成7年11月9日

4 司法書士の決済立会との違い(参考)

前記のケースの弁護士の立場と似ているものとして,司法書士の立会業務があります。司法書士は売買契約の当事者の本人確認や意思確認をします。取引の当事者は,司法書士による確認が済んだことを信頼して登記(申請に必要な書類)や代金を相手に渡すのです。
これと比較すると,前記のケースの弁護士は,登記と代金の同時履行を実現することまで引き受けたわけではありません。似ているけど,法的には大きく異なります。

<司法書士の決済立会との違い(参考)>

あ 司法書士の立会

司法書士による不動産取引の決済への立会業務について
買主は,司法書士の確認によって確実に登記が得られると思って代金を支払う
=登記移転と代金支払の同時履行を確実にする役割である
詳しくはこちら|司法書士の不動産売買決済への立会の法律的な意味(義務)
→虚偽の登記となり無効とならないように一定の確認義務がある
詳しくはこちら|不動産登記申請を行う司法書士の確認義務の枠組み(疑念性判断モデル)

い 弁護士の代理

弁護士Yが受任した代理人としての業務は
登記移転と代金交付の同時履行を実現するものではなかった
司法書士の立会とは違う
弁護士であることによる信頼で買主が代金支払の先履行をしたのである

5 代理人弁護士の売却意思の確認不足による責任

前記のケースと似ている別のケースとして,懲戒処分の中で弁護士の責任が判断されたケースを紹介します。
弁護士が,不動産の所有者から売却の代理を引き受けたところは同じです。そして,依頼者は真の所有者だったので,この点の問題はありませんでした。
しかし,依頼者(所有者)には売却する意思が十分にはありませんでした。
買主は代金の一部として2億円以上を弁護士に支払ったのに,結果的に不動産(所有権)を得られなくなりました。その後,いろいろな経緯がありましたが結局,買主は代金を返還を受けられませんでした。
弁護士は,依頼者(所有者)から売却の委任状をもらっていませんでした。そこで,弁護士には,売却する意思の確認が不十分であったという過失があると判断されました。実際には,支払った代金が戻ってこなくなったことに関与したことも含めて,弁護士の責任(懲戒処分)が判断されたと思われます。

<代理人弁護士の売却意思の確認不足による責任>

あ 代理人の受任

弁護士Yは,土地所有者Aから土地の売却の代理を受任した

い 売却意思の確認

しかし弁護士Yは,Aに,委任状の作成を求めていなかった

う 代金の受領

弁護士Yは,買主から売買代金の内金として約2億6000万円を受領した

え 事故発生

Aには売却する確定的な意思がないことが発覚した
最終的に土地の売却は実現しなくなった

お 懲戒処分

弁護士Yは,業務停止6か月の懲戒処分を受けた
※『自由と正義68巻1号』日本弁護士連合会2017年1月p109,110

本記事では,弁護士による契約締結の代理に関する法的責任について説明しました。
実際には,個別的な事情や状況と,その主張・立証のやり方次第で判断は違ってきます。
実際に,弁護士による契約締結の代理に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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