1 他主占有事情の主張の典型例
2 登記・固定資産税による他主占有の判断をした判例
3 登記・固定資産税に着目した他主占有の認定・評価
4 固定資産税の負担関係の実務的な主張立証の内容
5 自主占有への転換の主張立証における固定資産税

1 他主占有事情の主張の典型例

取得時効の要件の1つに自主占有があります。
詳しくはこちら|取得時効の基本(10年と20年時効期間・占有継続の推定)
これは占有によって推定されます。
そこで,取得時効の成立を否定する側が自主占有ではないといえる事情(他主占有事情)を主張・立証することになります。
詳しくはこちら|取得時効における自主占有(所有の意思)の主張・立証と判断基準
他主占有事情の典型的なものは登記と固定資産税の負担に関するものです。
本記事では,典型的な他主占有事情の主張と,これらによる他主占有の判断の枠組みを説明します。

2 登記・固定資産税による他主占有の判断をした判例

最初に,実際に登記や固定資産税の負担の状態を元にして自主占有か他主占有か(所有の意思の有無)を判断した判例を紹介します。
当然,事実認定なので,多くの事情から裁判官の裁量で決めることになります。
いずれにしても,登記や固定資産税の負担が主要な判断材料となっていて,また,これらだけで結論が決まるわけではない,ということが分かります。

<登記・固定資産税による他主占有の判断をした判例>

あ 古い判例

土地の贈与を受けたと称する者が,登記もせず,公租公課も20数年の久しい間にわたって払っていなかった
→所有の意思をもって占有したものとすることはできない
→取得時効を認めない
※大判昭和10年9月18日

い 平成7年判例

占有者が所有者に対し,土地の所有権登記移転を求めていなかった
土地の固定資産税を負担していなかった
→これだけでは自主占有の推定をくつがえす反証としては十分ではない
※最高裁平成7年12月15日

う 下級審裁判例(概要)

占有者が固定資産税を負担していた
→所有の意思の認定につながった
※東京地裁平成21年9月15日
詳しくはこちら|公道や公有地の時効取得は黙示的な公用廃止として認められることもある

3 登記・固定資産税に着目した他主占有の認定・評価

登記や固定資産税の負担から他主占有(か自主占有か)を判断した実例を前記で紹介しました。
これについて,他主占有の認定(判断)の枠組みの一般論として示している判例があります。
要するに,占有者が所有権登記を得ようとしていなかったことと固定資産税を負担していなかったことは他主占有につながる事情であるが決定的ではない,ということです。

<登記・固定資産税に着目した他主占有の認定・評価>

あ 前提事情(事案)

ア 登記
占有者が,登記上の所有名義人に対して移転登記手続を求めていなかった
イ 固定資産税
占有者が,登記簿の所有名義人に対し固定資産税が賦課されていることを知りながら,自分が負担すると申し出なかった

い 他主占有事情となる可能性

『あ』の事実は,基本的には,占有者の悪意を推認させる事情である
『悪意』=自分が所有者ではないと知っている
→他主占有事情として考慮されることはある

う 評価の幅

占有者と登記上の所有名義人との間の人的関係などによっては,所有者として異常な態度であるとはいえないこともある
=他主占有事情にはならないこともある
※最高裁平成7年12月15日

4 固定資産税の負担関係の実務的な主張立証の内容

固定資産税の負担は,他主占有事情の1つとして位置づけられます(前記)。
実務では,詳細な固定資産税の負担(納付)の状態や,対象の不動産以外の固定資産税(との誤認)についても明らかにする必要があります。
実務的な主張や立証における注意点をまとめます。

<固定資産税の負担関係の実務的な主張立証の内容>

あ 誤信の可能性への配慮

占有者が占有していた甲不動産以外に乙不動産を所有していた場合
→占有者は乙不動産の固定資産税を負担していた
→賦課資産の内訳が必ずしも明らかではない
→占有者が甲不動産の固定資産税をも負担していると誤信していた可能性がある

い 主張・立証の内容

他主占有事情として主張する者は,『ア・イ』の事情を主張・立証する必要がある
ア 課税の詳細な内容
登記上の所有名義人に対していつからどの程度の金額が賦課されていたのか
イ 占有者の認識
占有者がいつ『ア』を知ったのか
※法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成7年度(下)』法曹会1998年p1061

5 自主占有への転換の主張立証における固定資産税

自主占有への転換があるケースでは,自主占有であることを占有者が立証する必要があります。
以上の説明の逆ということになります。
この点,固定資産税を占有者が負担していたことは自主占有(自身が所有者であると信じていた)ことにつながります。
しかしこの場合でも,自主占有であることが決定的であるということはありません。

<自主占有への転換の主張立証における固定資産税>

あ 自主占有への転換における主張立証責任(前提)

他主占有者の相続人が自主占有への転換を主張する場合
→相続人において,自主占有事情を主張立証しなければならない
詳しくはこちら|相続×取得時効|自主占有の判断|数次相続×新権原

い 自主占有の認定の可能性

占有者が係争不動産の固定資産税を負担している場合
→所有者である認識があるように思われる
自主占有事情の1つである

う 他主占有者が固定資産税を負担する可能性

他主占有者が不動産の固定資産税を負担することも珍しいことではない
ア 使用貸借における典型的状況
借主が通常の必要費として固定資産税を負担する
※民法595条1項
イ 賃貸借における典型的状況
賃借人が賃料の代わりに(賃料の趣旨で)固定資産税を負担する

え 評価の幅

固定資産税の負担(い)は,自主占有事情を認める決定的事実ではない
※法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成7年度(下)』法曹会1998年p1061

本記事では,取得時効における自主占有や他主占有(所有の意思の有無)の判断(認定)について詳しく説明しました。
実際には個別的な事情や立証のやり方次第で結果が大きく変わってきます。
実際に取得時効に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。