1 取得時効における自主占有の主張・立証と判断基準
2 取得時効における自主占有の位置づけ
3 占有取得原因による自主占有の判断基準
4 典型的な占有取得の原因と所有の意思の有無
5 占有取得の原因に法律の誤解があった事例の裁判例
6 他主占有事情の主張立証による自主占有の否定
7 他主占有事情の典型例(概要)
8 他主占有による取得時効否定の主張方法のまとめ

1 取得時効における自主占有の主張・立証と判断基準

取得時効の要件の1つに所有の意思(をもった占有)があります。
これを自主占有とよびます。
この点,占有という事実だけで自主占有は推定されます(後記)。
実際には自主占有といえるかどうかをはっきりと判断できず,意見が熾烈に対立するケースがよくあります。
本記事では,自主占有の主張・立証や判断の枠組みについて説明します。

2 取得時効における自主占有の位置づけ

占有によって自主占有は推定されます。
そこで,取得時効を否定する側が,自主占有ではないこと(他主占有であること)を主張・立証する必要があります。
立証責任が転換されているのです。

<取得時効における自主占有の位置づけ>

あ 取得時効の要件

取得時効の要件の1つが所有の意思(自主占有)である
詳しくはこちら|取得時効の基本(10年と20年時効期間・占有継続の推定)

い 占有による推定

占有によって所有の意思は推定される
詳しくはこちら|占有による推定と取得時効の立証責任

う 自主占有の立証責任

自主占有を否定する者が自主占有ではないことを立証する
=取得時効を否定する者が他主占有であることを立証する

3 占有取得原因による自主占有の判断基準

自主占有の判断の枠組みは大きく2つに分けられます。
まず1つ目は,占有取得の原因によって判断するというものです。

<占有取得原因による自主占有の判断基準>

あ 自主占有の基本的な判断基準

占有取得の原因たる事実によって外形的客観的に定められる

い 詳細な判断の方法

ア 占有取得の原因である権原or占有に関する事情によって判断する
イ 『外形的客観的』に判断する
ウ 占有者の純粋な内心の意思は判断要素ではない
※最高裁昭和45年6月18日
※最高裁昭和45年10月29日
※最高裁昭和56年1月27日

4 典型的な占有取得の原因と所有の意思の有無

占有取得の原因から自主占有といえるかどうかを判断します(前記)。
典型的な占有取得原因を使って説明します。

<典型的な占有取得の原因と所有の意思の有無>

あ 譲り受けたタイプ

例=贈与,売買
→自主占有である
→取得時効が成立する

い 貸し借りタイプ

例=賃貸借,使用貸借,寄託
→自主占有ではない(他主占有である)
→取得時効は成立しない
※最高裁昭和45年6月18日

5 占有取得の原因に法律の誤解があった事例の裁判例

自主占有の判断は占有開始時の権原を元にします(前記)。
これに関して,ちょっと複雑な状況があったケースを紹介します。
占有者が法律の内容を誤解したという事情があったのです。
これについての裁判所の判断を紹介します。

<占有取得の原因に法律の誤解があった事例の裁判例>

あ 事案

親族の一部が実家を去った
親族の1人Aが実家に残った
Aが実家の土地・建物を占有していた
占有者は,次のような誤解をしていた

い 占有者の誤解|内容

本来は新民法が適用される状態であった
しかし,旧民法の家督相続が適用されると誤解していた
→長男が相続すると信じていた
=Aが単独で所有していると信じていた

う 不動産売却

Aは自分が単独の売主として土地・建物を売却した

え 裁判所の判断

Aの土地・建物の占有には『所有の意思』が認められる
=自主占有が認められた
※東京高裁昭和52年7月19日

6 他主占有事情の主張立証による自主占有の否定

自主占有の判断の枠組みは,以上の説明のように判例で,占有取得原因を元にするとされていました。
昭和58年の判例で,もう1つの判断の枠組みが示されました。
ストレートに自主占有ではない(他主占有である)といえるような事情の主張・立証をするというものです。
もちろん前記のように,立証責任は転換されているので,取得時効を否定する側が主張・立証する必要があるという前提です。

<他主占有事情の主張立証による自主占有の否定(※1)>

あ 他主占有事情による自主占有の否定

外形的客観的にみて他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったものと解される事情(他主占有事情)を主張立証することによっても自主占有を否定できる

い 他主占有事情の例

ア 矛盾する言動あり
占有者に『真の所有者であれば通常取らない言動』があった
イ 言動がないことが矛盾
占有者に『真の所有者であれば当然取るべき言動』がなかった
※最高裁昭和58年3月24日・お綱の譲り渡し事件

7 他主占有事情の典型例(概要)

実際に取得時効の成立が主張されるケースでは,いろいろな事情を元に,自分の所有物とは信じていなかったはずだという主張がなされます。
つまり前記の他主占有事情です。
実務では,他主占有事情として主張される具体的な内容は,登記や固定資産税の負担が多いです。
これらの事情によって他主占有(自主占有)の判断をする枠組みについては多くの判例が示しています。
これについては別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|他主占有事情の典型例(登記名義・固定資産税の負担)の判断枠組み

8 他主占有による取得時効否定の主張方法のまとめ

以上の説明のように,自主占有を否定する(他主占有を主張する)ことによって取得時効を否定する主張は大きく2つの枠組みに分けられます。
最後に,2つの主張方法を整理します。

<他主占有による取得時効否定の主張方法のまとめ>

あ 主張の分類

他主占有を理由に取得時効の成立を否定する方法としては『い・う』がある

い 他主占有権原の発生原因事実の主張

『ア・イ』の両方を主張・立証する
ア 占有者の他主占有権原の発生原因事実
イ 占有者の占有が『ア』(他主占有権原)に基づくこと

う 他主占有事情の主張

他主占有事情(前記※1)を主張・立証する
※『判例タイムズ898号』p194〜

本記事では,取得時効の要件のうち自主占有を否定する主張・立証について説明しました。
実際には個別的な事情や立証のやり方次第で結果が大きく変わってきます。
実際に取得時効に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。