【公道・公有地(公物)の時効取得が生じる状況の例・判断を示した裁判例】

1 公道・公有地(公物)の時効取得が生じる状況の例・判断を示した裁判例
2 公道の時効取得が成立する状況の具体例
3 私人が公有地を占有する状況の典型例
4 公物の時効取得を判断した裁判例(集約)
5 埋立地の取得時効を認めた判例
6 畦道から駐車場への変化による公用廃止(肯定裁判例)

1 公道・公有地(公物)の時効取得が生じる状況の例・判断を示した裁判例

公道や公有地(公物)については,原則として時効取得が成立しませんが,事情によっては例外的に時効取得が認められることがあります。
詳しくはこちら|公道や公有地の時効取得は黙示的な公用廃止として認められることもある
本記事では,公物の時効取得が生じる典型的な状況や,裁判所が時効取得の可否を判断した裁判例を紹介します。

2 公道の時効取得が成立する状況の具体例

最初に,分かりやすい単純な例として,公道の時効取得が生じるケースを挙げます。

<公道の時効取得が成立する状況の具体例>

公道の一部について人・自動車が実際に通ることはない
ここに私人が塀などを建てて庭として使っている
平穏に10年(20年)が経過している

3 私人が公有地を占有する状況の典型例

私人が公有地を占有するケースはある程度パターンがあります。ここでは『私人による占有』が生じやすいシーンを整理します。
なお,時効取得が認められるかどうかは別問題です。

<私人が公有地を占有する状況の典型例>

あ 共通する状況

私人が公有地を取り込んで占有する

い 占有の態様の例

ア 田畑イ 家屋の敷地

う 公有地の例

ア 里道イ 公共用水路ウ 公道のうち舗装されていない部分エ 斜面 法面・崖地

4 公物の時効取得を判断した裁判例(集約)

実際に裁判所が公物の時効取得を判断したケースは多くあります。多くの判例・裁判例を整理してまとめておきます。

<公物の時効取得を判断した裁判例(集約)>

あ 都市公園の予定地

※最高裁昭和44年5月22日(時効取得肯定)

い 水路

ア 最高裁判例 ※最高裁昭和51年12月24日(公共用水路・時効取得肯定)
※最高裁昭和52年4月28日(公共用水路・時効取得肯定)
※最高裁平成17年12月16日(海洋(高用水路)公用廃止肯定)(後記※3
※最高裁平成5年7月20日(農業用水路・(後記※1)の結論維持)
イ 下級審裁判例 ※大阪高裁平成4年10月29日(農業用水路・公用廃止否定(※1)
※東京地裁昭和61年6月26日(公用廃止肯定)
※岐阜地裁多治見支部平成16年3月23日(公用廃止否定)
※高松高裁平成16年11月11日(国有水路・土揚場・公用廃止肯定)

う 里道

※大阪地裁平成17年3月11日(公用廃止肯定(※2)
※大阪高裁平成17年9月7日((前記※2)の結論維持)
※山口地裁昭和55年1月23日(公用廃止否定)
※東京地裁平成21年9月15日(畦道・公用廃止肯定)(後記※4

これらの裁判例のうち,一部の事案内容を以下,説明します。

5 埋立地の取得時効を認めた判例

国が所有する土地について,私人の時効取得を認めた判例の内容を説明します。
海洋の埋立工事が行われ,この時点で陸地となったので,まずは国の所有という扱いになりました。本来であればこの時点で公有水路埋立法の許可を得るのですが,実際には許可を得ないままの状態で放置されました。許可がない場合には法律上,原状回復が義務付けられます。陸地から海洋に戻すということです。
しかし,長期間放置されている間に私人の占有が継続していました。そこで,例外的な扱いとなる事情(前記)を満たし,取得時効が認められました。

<埋立地の取得時効を認めた判例(※3)

あ 事案

海洋(公用水路)の埋立工事が行われた=陸地ができた
長年の間,公有水面埋立法に基づく許可がなされなかった

い 公共用財産としての性質

埋立地が事実上公の目的に使用されることもなく放置された
公共用財産としての形態,機能を完全に喪失した
埋立地について,他人の平穏かつ公然の占有が継続した
占有により実際上公の目的が害されるようなこともなかった
→公共用財産として維持すべき理由がなくなった

う 法的扱い(結論)

公有水面埋立法に基づく原状回復義務の対象とならなくなった
土地として私法上所有権の客体になる
→取得時効の対象となる
※最高裁平成17年12月16日

6 畦道から駐車場への変化による公用廃止(肯定裁判例)

実際に公用廃止が認められた具体的事案はとても参考になります。
もともと畦道であった土地について黙示の公用廃止が認められた裁判例の事案と判断を紹介します。

<畦道から駐車場への変化による公用廃止(肯定)(※4)

あ 20年間の占有継続

Aが甲土地を所有していた
乙土地は甲土地に隣接して,国が所有していた
乙土地は,田畑の耕作のための公共用通路や旧道と一体とした通路(畦道)として利用されていた
Aは,甲土地・乙土地を一体として,自己の所有地であると思って,駐車場として利用していた
Aが乙土地を占有してから20年が経過した

い 現実的な公用(機能)の判断

乙土地は畦畔としての形態・機能を喪失していた
周辺の土地の利用状況から考えても原状回復は困難だった

う 公用廃止の判断

黙示の公用廃止があった
→取得時効の成立を認める
※東京地裁平成21年9月15日

本記事では,公道や公有地(公物)の時効取得が生じる典型的な状況や,実際に判断を示した裁判例を紹介しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることがあります。
実際に公道や公有地の時効取得に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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