1 建物建築資金の融資における抵当権設定時期
2 登記実務における新築建物への抵当権設定の理論
3 新築建物への抵当権設定の実務的な流れ
4 建物建築資金の融資における登記手続全体の流れ
5 表示登記の日付と抵当権設定日の前後関係
6 他人物売買における不動産登記(参考)

1 建物建築資金の融資における抵当権設定時期

建物の建築資金について融資を受けるケースでは,敷地と建物を担保にするのが一般的です。
敷地(土地)への抵当権設定登記は単純ですが,建物への登記は理論的に複雑なところがあります。
本記事では,新築する建物への抵当権設定登記のタイミングについて説明します。

2 登記実務における新築建物への抵当権設定の理論

新築する建物は,完成までは存在しない状態です。
抵当権設定の対象が存在しない場合は,抵当権設定契約を締結しても,ストレートに有効とはいいきれません。
登記実務ではむしろ無効であることを前提にしているといえます。

<登記実務における新築建物への抵当権設定の理論>

あ 前提となる事案

抵当権設定の契約の時点で目的物が存在しない
例=これから新築する建物に抵当権を設定する

い 条件付の債権的な効力を認める見解(※1)

抵当権設定契約が物権契約の一種であることを強調した場合
契約時点で目的物が存在しない
→停止条件付としても抵当権設定契約としての効力は生じない
=将来『抵当権設定契約をする』という債権契約としての意味にとどまる
詳しくはこちら|現存しない目的物の物権行為は条件付契約とされる傾向がある

う 不動産登記実務における運用との関係

不動産登記の実務において
『い』の見解が前提とされていると思われる
※昭和37年12月28日民事甲3727号回答
※昭和41年4月8日民事三発213号回答
※不動産登記実務研究会編著『Q&A権利に関する登記の実務7』日本加除出版2012年p454,455

3 新築建物への抵当権設定の実務的な流れ

前記のように,登記実務では,建物完成前の抵当権設定契約は無効という前提で考えます。
そうすると,建物の完成後に改めて抵当権設定契約をするということになります。

<新築建物への抵当権設定の実務的な流れ>

あ 建物完成後の契約締結(※2)

登記実務の考え方(前記※1)を前提とする場合
→建物完成後に,改めて抵当権設定契約の締結が必要となる

い 登記原因証明情報

建物完成後の抵当権設定契約(書面)が登記原因証明情報となる
※不動産登記法61条
※不動産登記実務研究会編著『Q&A権利に関する登記の実務7』日本加除出版2012年p455

建物完成後に建物所有者(建築の注文者)が契約締結を拒否した場合は,そのままでは抵当権設定登記ができない,という困った状況になってしまいます。

4 建物建築資金の融資における登記手続全体の流れ

実際に建物建築資金の融資を行うケースでは,段階的に登記と融資の実行を行います。
前記のような建物完成後の抵当権設定契約という実務の扱いに対応させる必要があるのです。

<建物建築資金の融資における登記手続全体の流れ>

あ 第1段階の登記

建築する敷地(土地)に抵当権設定登記をする
この登記と同時に建築資金の一部について金融機関が融資を実行する

い 第2段階の登記

建物が完成した時点において
建物の表示登記を行う
表題部の登記のことである

う 第3段階の登記

建物について所有権保存登記を行う
建物について抵当権設定登記を行う(前記※2)
担保として追加する内容である
この登記と同時に金融機関が残金の融資を実行する

5 表示登記の日付と抵当権設定日の前後関係

登記実務では,建物の新築後に抵当権設定契約をすることになります(前記)。
これと関連して,建物の表示登記の新築年月日と抵当権設定契約の日付との前後関係が問題となることがあります。
前記の理論では,抵当権設定契約は新築の後である必要があります。
しかし,建物の表示登記で実際に申請書に新築の日として記載する日には幅があります。
要するに法律的に建物として認められた日とは異なることが多いのです。
そこで,登記上の新築年月日抵当権設定契約の日の前後関係は,登記申請の中ではチェックしないのです。

<表示登記の日付と抵当権設定日の前後関係>

『ア』より『イ』の日付の方が前である場合
→登記申請はできる
ア 表題部に記載されている建物の新築年月日
イ 抵当権設定契約の日
※昭和39年4月6日民事甲1291号回答
※不動産登記実務研究会編著『Q&A権利に関する登記の実務7』日本加除出版2012年p457,458

6 他人物売買における不動産登記(参考)

以上の説明は,建物の完成前には抵当権設定契約ができないという理論が元になっていました。
この点,まだ購入していない(現時点では他人の所有物)不動産を対象とする契約(物権行為)は有効です。以上の説明とは大きく違います。
そこで,他人物売買については,購入後に改めて売買契約を締結する必要はありません。
ただ,登記手続での登記原因証明情報には条件成就の情報も追加で必要となります。

<他人物売買における不動産登記(参考)>

あ 条件付契約としての有効性

他人物売買(民法560条〜)や他人物への物権設定について
→契約時点で目的物(権利)は存在している
→停止条件付の契約として有効である(無効とする見解はない)

い 登記原因証明情報

『ア・イ』を証する情報が登記原因証明情報となる
ア 停止条件付契約
イ 停止条件が成就したこと
※不動産登記実務研究会編著『Q&A権利に関する登記の実務7』日本加除出版2012年p455