1 定期借地と権利金との経済的な対応関係(否定)
2 権利金と保証金の違い
3 定期借地の保証金の問題点
4 定期借地における権利金・保証金の選択の実情

1 定期借地と権利金との経済的な対応関係(否定)

一般的な借地(普通借地)では,通常,契約の当初に権利金が支払われます。
この点,定期借地でも権利金が支払われることもありますが,そうでないケースも多いです。

<定期借地と権利金との経済的な対応関係(否定)>

あ 普通借地の権利金(前提)

普通借地権の設定については
借地権価格(相当の権利)が発生する
→借地権価格相当の権利金が授受される
詳しくはこちら|借地の権利金の性格は複数あり返還義務は原則的にない

い 定期借地と権利金の経済的対応

定期借地においては
期間の満了により必ず消滅する
詳しくはこちら|定期借地の基本(3つの種類と普通借地との違い)
→高額な借地権価格は発生しない
→権利金の授受の慣行は存しない
※田山輝明ほか『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p136

う 権利金方式と保証金方式

定期借地において
権利金か保証金のいずれかの授受がなされる実例が多い

実務では通常,定期借地の開始時に権利金と保証金のどちらかが支払われています。

2 権利金と保証金の違い

権利金と保証金は,原則的な返還義務の有無が異なります。
権利金は返還義務がないので,地主の立場ではもらいっぱなしです。そこで税務上所得として所得税の対象となります。

<権利金と保証金の違い>

種類 返還義務 所得税の課税(※2)
権利金 なし あり
保証金 あり なし

これは原則的な対応関係です。
特殊な事情により,権利金でも返還義務が認められるようなケースもあります。
詳しくはこちら|借地の権利金の性格は複数あり返還義務は原則的にない
また権利金や保証金に対するの所得税(前記※2)については別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|定期借地×所得税|保証金・敷金→経済的利益算定|権利金・前受家賃

3 定期借地の保証金の問題点

定期借地では,(普通借地と異なり)保証金の支払いが行われることがよくあります。
保証金の支払いは将来返還されることが前提となっています。
ここで,実際に将来返還されるかどうかが確実ではないという問題点があります。
一般的な債権の保全方法として,抵当権の利用があります。
しかし,抵当権を利用すること自体にもトラブルにつながるリスクがあります。

<定期借地の保証金の問題点(※1)

あ 問題点

返還時期が50年以上先である
特に複数の定期借地契約をした地主の場合
返還をすることが非常に困難となることが予想される
特に宅地造成費などのために保証金を支出してしまっているケース

い 保証金返還不能の予防策

借地人としては,保証金返還を保全する措置が望まれる
例;土地に抵当権を設定する
この方法にも問題点がある(う)
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p82

う 保証金返還を保全する抵当権の問題点

借地人が定期借地権+建物を譲渡する場合
保証金返還請求権+抵当権の譲渡が伴えば良いが
これを怠ると複雑・不合理な状態となる
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p83

4 定期借地における権利金・保証金の選択の実情

実際の定期借地契約の締結の場面で,保証金方式と権利金方式のいずれかを選択するかは自由です。
地主・借地人の両方が納得したものが採用されるだけです。
実情としては,保証金方式が採用されることが多いといえます。
一方,権利金方式が採用されるケースも増えてゆくと予想されています。

<定期借地における権利金・保証金の選択の実情>

あ 保証金方式の実情

保証金は所得税の課税対象ではない
この理由で保証金の方式がとられる実例がよくある
ただし,保証金方式には問題点がある(前記※1
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p83

い 権利金方式の実情

定期借地において権利金の授受がなされる事例の割合は少ない
権利金には保証金のような問題点(前記※1)はない
→権利金方式が増えてゆく傾向にあると思われる
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p84