1 中途解除によるフリーレント+礼金免除の撤回(総論)
2 建物賃貸借契約の主な内容
3 違約金の規定
4 賃借人の違反行為と主張の対立
5 一般的な違約金の合理性
6 1年未満の解除の違約金の合理性
7 裁判所の判断(結論)
8 他の実質フリーレント撤回の裁判例(概要)

1 中途解除によるフリーレント+礼金免除の撤回(総論)

建物の賃貸借において,初期の一定期間の賃料を発生させない方式があります。
フリーレントと呼んでいます。
オーナーの立場としては,テナントの誘引の1つです。
長期間入居してくれることを前提としてこのような特典を提供するのです。
同様の特典として,礼金の免除というものもあります。
このようなケースで,入居後,比較的短期間で退去することになるとオーナーは困ります。
そこで,違約金を設定しておくのが通常です。
つまり実質的に,フリーレントや礼金免除を実質的に撤回するのです。
このような違約金の効力について,有効と判断した裁判例を紹介します。

2 建物賃貸借契約の主な内容

まず,この事案の賃貸借契約の内容をまとめます。

<建物賃貸借契約の主な内容>

あ 契約のタイプ

建物の賃貸借契約
普通借家である

い フリーレント

1か月分の賃料不発生期間がある
※東京地裁平成26年2月13日

3 違約金の規定

前記の建物賃貸借では,2種類の違約金が設定されていました。

<違約金の規定>

あ 一般的な違約金(※1)

一般的な賃借人の債務不履行による解除について
違約金=賃料2か月分

い 1年未満の解除による違約金(※2)

賃借人の債務不履行による解除について
解除の時期が契約開始日から1年未満の場合
違約金=賃料2か月分
※東京地裁平成26年2月13日

4 賃借人の違反行為と主張の対立

貸借人は入居後1年以内に退去することになりました。
ここで,違約金の有効性について,見解の対立が生じました。

<賃借人の違反行為と主張の対立>

あ 賃借人の違反行為

契約開始から1年未満において
賃借人に違反行為があった
賃貸人は賃貸借契約を解除した

い 違約金の請求

賃貸人は前記※1,※2の違約金を請求した
請求の合計金額=賃料4か月分

う 賃借人の主張

違約金の請求は消費者契約法に違反するので無効である
詳しくはこちら|消費者契約法|不当条項|事業者の責任免除・消費者の負担加重
※東京地裁平成26年2月13日

5 一般的な違約金の合理性

裁判所は,違約金の内容の合理性を判断します。
まず,一般的な賃借人の債務不履行があった場合の違約金の判断をまとめます。
要するに,賃料2か月分は合理的であると判断しました。

<一般的な違約金の合理性(※3)>

あ 基本的事項

一般的な賃借人の債務不履行(前記※1)により
賃貸人に『い・う』の負担が生じる
→損害額は賃料2か月分に相当することもあり得る

い 事実調査

事実関係の調査・把握
例;防犯カメラの設置など

う 建物管理者としての責任

賃借人の債務不履行に伴い第三者が損害を被った場合
→賃貸人は建物管理者として補償を要する
※東京地裁平成26年2月13日

6 1年未満の解除の違約金の合理性

次に,解除の時期が早い,具体的には契約開始後1年以内という場合の違約金の合理性の判断をまとめます。
実質的に免除していたものの撤回として合理的であるという判断です。

<1年未満の解除の違約金の合理性(※4)>

あ 基本的事項

1年未満の賃借人の債務不履行(前記※2)により
賃借人に『い・う』の負担が生じる
→損害額は賃料2か月分に相当する

い フリーレントの前提喪失

1か月分のフリーレントの前提として
2年間の契約期間を見込んでいる

う 礼金免除の前提喪失

本来礼金として賃料1か月分を設定している
詳しくはこちら|礼金支払特約×有効性|判例・判断の傾向
1年以上の契約期間を見込んで礼金を免除している

え テナント募集コスト

賃貸人に多額の損害が発生する
例;仲介手数料・AD・タンボー
詳しくはこちら|仲介手数料×上限張り付き現象|実質カルテル・ソフト詐欺状態・悪習打破
詳しくはこちら|広告費の悪用による暗黙の販売促進費用=タンボー・AD
※東京地裁平成26年2月13日

7 裁判所の判断(結論)

以上のように,2種類の違約金について,いずれも合理的であると判断されました。
そのため,公序良俗や消費者契約法に違反しない,つまり,有効であるという結論です。

<裁判所の判断(結論)>

あ 違約金の客観的合理性

賃借人に違反行為があった場合
→賃貸人には多くの損害が発生する
→違約金は客観的に合理的である(前記※3,※4)

い 違約金の主観的合理性

賃借人に違反行為があった場合
賃貸人が経済的損失を被ることは容易に推察できる
→違約金は主観的にも合理的である

う 結論

違約金は公序良俗・消費者契約法に違反しない
(具体的な理由の主張がないことも指摘している)
※東京地裁平成26年2月13日

8 他の実質フリーレント撤回の裁判例(概要)

フリーレントの実質的な撤回に関する裁判例はほかにもあります。
定期借家契約の中途解除のケースで,フリーレントの撤回とともに,残る契約期間全体の賃料相当額の損害金が認められています。
この裁判例については別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|中途解除によるフリーレント撤回と全期間賃料分の損害金(裁判例)