1 抹消し忘れ・放置抵当権×抹消手続|大原則
2 放置抵当権×抹消手続|共同申請or判決獲得
3 放置抵当権×抹消登記請求訴訟|内容
4 消滅時効による抵当権抹消登記請求訴訟|特徴
5 弁済による抵当権抹消登記請求訴訟|特徴
6 放置された抵当権抹消登記請求訴訟|被告の対応=特に不要
7 放置された抵当権抹消登記請求訴訟|実務的な被告選定方針
8 放置された抵当権抹消登記請求訴訟|送達
9 放置抵当権抹消用の簡略手続|休眠担保権の抹消登記手続

1 抹消し忘れ・放置抵当権×抹消手続|大原則

抵当権の登記は通常,完済時に抹消されます。
しかし『抹消登記申請をしないまま』放置されるケースもあります。
つまり,別の機会に『抹消し忘れた抵当権登記』が発覚する場合です。
この場合に抵当権登記を抹消する方法の原則論をまとめます。

<抹消し忘れ・放置抵当権×抹消手続|大原則>

あ 事情・例

不動産を売却することになった
登記を確認した
昭和初期に設定された抵当権が登記上残っていた
親族間でお金の貸し借りがあったようだ
このままでは売却がスムーズにできない

い 権利の状況

次のいずれかにより『権利はない』という可能性が高い
ア 既に返済されている
イ 消滅時効が完成している

う 抹消手続|共同申請の原則

登記上の『所有権者』と『抵当権者』が共同して登記申請を行う
『所有者単独』では抹消手続ができない
※不動産登記法60条

現実に抵当権やその被担保債権は消滅していると推測されます。
しかし,登記手続の形式的なルールで『共同申請』が必要です。
具体的には『抵当権者として登記された方』が委任状や申請書に押印することが必要です。
抵当権者が亡くなっている場合はその相続人ということになります。

2 放置抵当権×抹消手続|共同申請or判決獲得

放置された抵当権登記を抹消する手続の基本事項をまとめます。

<放置抵当権×抹消手続|共同申請or判決獲得>

あ 共同申請のハードル

古い抵当権を抹消したいと思っている
『抵当権者の相続人が多い』ということが多い
→全員の協力を取り付けることが困難である
→『共同申請』の実現が難しい

い 例外|判決による単独申請

抹消登記請求を認める判決が確定した場合
→所有者が単独で『抵当権抹消登記』を申請できる
※不動産登記法63条1項

抵当権者の相続人全員の協力を得ることができないケースも多いです。
その場合,原則的には『訴訟』を利用せざるを得ないことになります。

3 放置抵当権×抹消登記請求訴訟|内容

抹消登記を請求する訴訟の概要・流れについてまとめます。

<放置抵当権×抹消登記請求訴訟|内容>

あ 抵当権消滅の理由

ア 消滅時効
消滅時効が完成した→援用→抵当権消滅
イ 弁済
被担保債権の債務全額が弁済された→抵当権消滅

い 訴訟の流れ

ア 訴訟提起
抵当権抹消登記手続請求訴訟を提起する
イ 被告
抵当権者(の相続人のうち非協力者)
ウ 判決→登記
勝訴判決が確定した場合
→所有者の単独登記申請ができる

抵当権消滅の原因となる事情は主に2つがあります。
消滅時効と弁済です。
これらの内容については次に説明します。

4 消滅時効による抵当権抹消登記請求訴訟|特徴

消滅時効を理由とする抵当権抹消登記請求の特徴をまとめます。

<消滅時効による抵当権抹消登記請求訴訟|特徴>

あ 被担保債権の消滅時効の主張|附従性

時効により被担保債権が消滅している
→ これにより『抵当権』も連鎖的に消滅する
連鎖的な消滅のことを『附従性』と呼んでいる

い 消滅時効の立証

主要な立証事項=『時の経過』
→特に困難なものではない

5 弁済による抵当権抹消登記請求訴訟|特徴

弁済を理由とする抵当権抹消登記請求の特徴をまとめます。

<弁済による抵当権抹消登記請求訴訟|特徴>

あ 弁済の主張

債務の全額について弁済した

い 弁済の立証

領収証・受取証書・振込明細書などを証拠として提出する
→このような記録さえあれば特に困難なものではない

6 放置された抵当権抹消登記請求訴訟|被告の対応=特に不要

放置された抵当権抹消請求訴訟の審理は特徴的なところがあります。
『被告の対応』が,一般的な訴訟とは大きく異なります。

<放置された抵当権抹消登記請求訴訟|被告の対応>

あ 一般的な争点

『消滅時効』や『弁済』が明確であることが多い
→被告サイドで反論・立証する必要性は生じない

い 現実的な被告の対応

訴状送達を受ける
裁判所への出頭・弁護士への依頼などはしない

う 裁判の進行

被告の欠席
→裁判所が弁論を集結する
→勝訴判決を言い渡す

訴訟は一般的に,非常に難解で長時間を要する紛争,というイメージがあります。
しかし古い抵当権の抹消を求める訴訟はこれが当てはまりません。
上記のように,被告サイドでの現実的な負担はないのが通常です。
全体として『形式的な性格』が強い手続きと言えます。

7 放置された抵当権抹消登記請求訴訟|実務的な被告選定方針

放置された抵当権抹消登記請求訴訟の『被告選定』についてまとめます。

<放置された抵当権抹消登記請求訴訟|実務的な被告選定方針>

あ 原則論

登記上の抵当権者の相続人によって別に扱う
抹消登記申請に協力する方 被告から除外する・登記申請に協力してもらう
抹消登記申請に協力してくれない方 被告に入れる

い 実務的な扱い

『登記申請に協力する方』も含めて相続人全員を被告にする

う 理由

登記申請における委任状・身分確認は一定の手間を要する
『訴訟の被告に含める』ことで特に負担・手間が生じない
→『被告に含める』方が関係者全体にとって有益である

実務上は『抵当権者の相続人』のうち,一部が協力してくれるケースがよくあります。
この場合『協力者』も含めて被告とすることもあります。
判決後の登記申請の手間が大きく削減されるのです。
『協力者』が印鑑証明書を用意して委任状への署名・押印などをしなくて済むのです。

8 放置された抵当権抹消登記請求訴訟|送達

放置された抵当権抹消登記請求訴訟の『送達』についてまとめます。

<放置された抵当権抹消登記請求訴訟|送達>

あ 所在把握のハードル

通常は『被告=抵当権者の相続人』の人数が多い
被告のうち一部の者については所在が把握できない状況となる

い 送達の方法

被告の住所・居所が不明である場合
→『公示送達』により送達が遂行・実現できる
→訴訟手続が進められる
※民事訴訟法110条1項1号

詳しくはこちら|送達|通常送達・付郵便送達・公示送達|利害関係者・敵対当事者の受領

9 放置抵当権抹消用の簡略手続|休眠担保権の抹消登記手続

放置された抵当権の抹消手続の原則論は以上のとおりです。
しかし,実質・実態と比べて過度に負担が大きいとも言えます。
そこで,一定の範囲内で,簡略化した手続も用意されています。
簡略化された手続については別記事で説明しています。
(別記事『休眠担保権抹消手続・基本』;リンクは末尾に表示)