1 売買・請負に関する責任の期間制限と実務的な選択
2 売買・請負に関する責任の種類(前提)
3 責任の種類による期間制限の内容(異なる要素)
4 建物の売買・請負における瑕疵担保責任の期間制限(概要)
5 瑕疵担保責任としての解除・損害賠償・代金返還請求権の期間制限
6 建物建築の不法行為責任の期間制限
7 除斥期間・消滅時効による制限の内容
8 建物建築に関する債務不履行責任(概要)
9 請求時期と追求できる責任のまとめ
10 期間制限と不法行為責任の選択の実例
11 実務的な瑕疵担保責任追及の期間的ハードル

1 売買・請負に関する責任の期間制限と実務的な選択

売買や請負契約に関して法的責任が発生することがあります。実務の典型例は不動産の売買契約や建物の建築工事(請負契約)の後に建物の欠陥が発覚したようなケースです。
このような場合に生じる法的責任には複数の種類のものがあります。責任の種類によって,異なる期間制限があります。実務においてどのような請求をするのか,という検討の前提となる知識です。
本記事では,売買や請負契約に関する責任の期間制限について説明します。

2 売買・請負に関する責任の種類(前提)

売買や請負契約に関して生じる責任は,大きく,瑕疵担保責任・不法行為責任・債務不履行責任の3種類に分けられます。

<売買・請負に関する責任の種類(前提)>

あ 基本的事項

売買契約や建築工事(請負契約)の目的物に欠陥や不備があった場合
→3種類の法的責任(い)が発生する可能性がある

い 責任の種類

ア 瑕疵担保責任
内容=解除権・損害賠償請求権など
イ 不法行為による損害賠償
ウ 債務不履行による損害賠償
詳しくはこちら|売買契約に関する責任の種類(瑕疵担保・債務不履行・不法行為)
詳しくはこちら|建物の建築工事の欠陥・瑕疵についての法的責任の種類

3 責任の種類による期間制限の内容(異なる要素)

期間制限の内容を整理すると,いつからカウントするのか(起算点),どのくらいの期間が経過すると,どのような法的アクションができなくなるかということになります。前記の3つの種類の法的責任によって,このような期間を制限する要素が違います。

<責任の種類による期間制限の内容(異なる要素)>

追及する責任の種類によって
期間制限に関する『ア〜ウ』の要素が異なる
ア 起算点
イ 期間
ウ 制限の内容(後記※1)

4 建物の売買・請負における瑕疵担保責任の期間制限(概要)

瑕疵担保責任の期間制限の内容は細かく民法で定められています。一部は住宅品確法で修正されています。
さらに,特約でこれらの法律上の期間制限とは違う内容が決められていることもあります。ただし,自由に特約で期間制限を設定できない(特約が無効になる)こともあります。

<建物の売買・請負における瑕疵担保責任の期間制限(概要)>

あ 法律上の規定

ア 基本的な規定
買主・注文主が知ってから1年間除斥期間
イ 住宅品確法による特別な規定
新築建物の主要構造部分
引渡から10年間除斥期間

い 特約の実情

引渡から2年間などと短縮する特約が多く使われている
ただし,一定の範囲で短縮できない(特約が無効となる)こともある
詳しくはこちら|瑕疵担保責任の期間制限の規定と特約の制限(まとめ)

5 瑕疵担保責任としての解除・損害賠償・代金返還請求権の期間制限

前記の瑕疵担保責任(自体)の期間制限をクリアしても,さらに別の期間制限もあります。瑕疵担保責任の内容である解除権や損害賠償請求権は,それ自体の消滅時効が適用されるのです。また,瑕疵担保責任の内容の1つである解除権を行使した後には代金返還請求権が生じます。この代金返還請求権にも消滅時効が適用されます。

<瑕疵担保責任としての解除・損害賠償・代金返還請求権の期間制限>

あ 解除権・損害賠償請求権の消滅時効(概要)

瑕疵担保責任としての解除権・損害賠償請求権について
→『解除権・損害賠償請求権』自体の消滅時効もある
詳しくはこちら|瑕疵担保の解除権・損害賠償請求権・代金返還請求権の消滅時効

い 解除後の代金返還請求権の期間制限(概要)

瑕疵担保責任としての解除をした場合
→代金返還請求権が生じる(※3)
※民法703条
→代金返還請求権の消滅時効もある
詳しくはこちら|解除権の消滅時効と解除により生じる債権の消滅時効

6 建物建築の不法行為責任の期間制限

建物建築(請負契約)に不備がある場合,不法行為責任が発生することがあります。この不法行為責任は,瑕疵担保責任とは別の期間制限が適用されます。被害と加害者(が誰か)を知ってから3年という消滅時効と,不法行為(不備のある建築工事)の時点から20年という除斥期間の2つの制限です。

<建物建築の不法行為責任の期間制限>

起算点 期間 法的性質
不法行為の時点 20年 除斥期間
被害者が『被害+加害者』を知った時 3年 消滅時効

※民法724条
詳しくはこちら|建物の建築工事の欠陥・瑕疵による不法行為責任

7 除斥期間・消滅時効による制限の内容

前記のように,期間制限の内容には除斥期間と消滅時効があります。消滅時効の方は,時効の完成までの間に原則的には提訴する必要があります。除斥期間の方は,期間内に訴訟外で請求(主張)すれば足ります。このように期間制限の種類によって制限の内容に違いがあります。
この2種類は,制限の具体的な内容が異なります。

<除斥期間・消滅時効による制限の内容(概要;※1)>

あ 消滅時効の制限の内容

制限期間内に提訴する必要がある(原則)
詳しくはこちら|債権の消滅時効の基本(援用・起算点・中断)

い 除斥期間の制限の内容

除斥期間内において
訴訟提起・訴訟外での主張のいずれかを行う必要がある
詳しくはこちら|除斥期間の基本(消滅時効との比較・権利行使の内容・救済的判例)

8 建物建築に関する債務不履行責任(概要)

建物の建築工事(請負契約)について債務不履行責任が生じることもあります。この債務不履行責任が生じるのは完成まで(最終工程に達するまで)と考えるのが一般的です。
この解釈論も,結果的には権利を行使する期間が限定するものであるといえます。
詳しくはこちら|建物の建築工事の瑕疵による債務不履行責任(否定方向)

9 請求時期と追求できる責任のまとめ

建物の建築工事(請負契約)に関して生じる3種類の責任の期間制限を整理します。
まず,不法行為責任は,広く違法性のある行為があれば発生します。完成前か後かは関係ありません。
次に,債務不履行責任は,完成前にだけ発生します(という見解が一般的です)。
瑕疵担保責任は,完成後に発生しますが,期間制限が比較的短いので,実際に行使しようとすると既に期間切れになっているということもよくあります(後記)。この点,不法行為責任は再長期間が20年間なので,期間切れになりにくい傾向があります。

<請求時期と追求できる責任のまとめ>

時期 債務不履行責任 瑕疵担保責任 不法行為責任
完成前
完成後〜瑕疵担保責任期間満了
開始担保責任期間満了〜

10 期間制限と不法行為責任の選択の実例

前記のように,3種類の責任は,それぞれ別の期間制限があります。実務では瑕疵担保責任の期間制限が大きなハードルとなることが多いです。典型的な状況として,既に瑕疵担保責任は期間切れになっているために,不法行為責任しか追及(損害賠償請求)できないということもよくあります。

<期間制限と不法行為責任の選択の実例>

あ 瑕疵担保責任の期間制限

完成した建物の引渡から10年以上が経過した時点での提訴の場合
瑕疵担保責任の除斥期間が経過している

い 債務不履行責任の否定(前提)

瑕疵担保責任が適用される場合,不完全履行の一般理論は排斥される
→債務不履行責任は追及できない
詳しくはこちら|建物の建築工事の瑕疵による債務不履行責任(否定方向)

う 不法行為責任の併存

不法行為責任は認められる
※神戸地裁平成10年6月11日

11 実務的な瑕疵担保責任追及の期間的ハードル

実務では,瑕疵担保責任の期間制限の短さがハードルになることがよくあります。具体的には,まず,民法上規定された期間が比較的短いです。さらに,特約でより短い期間制限が設定されているということもとても多いです。
実際に責任追及を行う状況では,期間制限についてしっかりと把握・理解して最適なアクションを選択する必要があります。

<実務的な瑕疵担保責任追及の期間的ハードル>

あ 民法上の規定

『瑕疵を知ってから1年』である
※民法566条3項
→短いが『瑕疵を知る』まではカウントがスタートしない
→それほど高いハードルではない

い 特約

瑕疵担保責任に関する特約はとても多い
→制限期間を短縮するのも多い
(瑕疵担保責任自体を免除するものもある)
→瑕疵担保責任の主張ができなくなることがある

本記事では,売買契約や建物の建築工事(請負契約)に関する責任の期間制限について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に売買契約や建築工事に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。