1 建物の建築工事の欠陥(瑕疵)による不法行為責任
2 建築工事による不法行為責任の判断基準
3 不法行為が成立する瑕疵の典型例
4 基本的な安全性を損なう瑕疵の内容
5 基本的な安全性を損なうかどうかの判断の具体例
6 安全性瑕疵の主張・立証責任の問題
7 不法行為責任を負う者
8 建築工事による不法行為の損害賠償の請求者の範囲
9 建物の譲渡と元所有者による賠償請求
10 不法行為責任の期間制限(概要)
11 民法709条の要件論との関係(理論的問題)

1 建物の建築工事の欠陥(瑕疵)による不法行為責任

建築工事の後に建物に欠陥が発覚するケースはよくあります。その場合,瑕疵担保責任が生じるのが通常ですが,同時に不法行為責任も生じることがあります。
詳しくはこちら|建物の建築工事の欠陥・瑕疵についての法的責任の種類
不法行為責任は,主に期間制限の点で瑕疵担保責任より請求側に有利といえます(後述)。
本記事では,建物建築工事の欠陥(瑕疵)による不法行為責任について説明します。

2 建築工事による不法行為責任の判断基準

建物の建築工事についての不法行為責任(損害賠償請求)を追及する状況では,不法行為が成立するかどうかについて熾烈な対立が生じます。瑕疵といえれば認められる瑕疵担保責任よりも請求側が超えるべきハードルが高いといえます。
不法行為が成立するかどうかという判断について,最高裁(平成19年判例)が基準を示しています。
ポイントは,建物としての基本的な安全性を損なうというところです。

<建築工事による不法行為責任の判断基準>

あ 判断基準

設計・施工者などが建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を怠ったために
建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり
それにより居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合
設計・施工者などは,これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである

い 例外

不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなどの特段の事情がある場合
→不法行為による賠償責任は生じない
※最高裁平成19年7月6日;別府マンション事件差戻前上告審

3 不法行為が成立する瑕疵の典型例

平成19年判例が示した建物としての基本的な安全性を損なうといえる分かりやすい状況の例を挙げます。
構造に重大な結果があり倒壊するリスクがある,とか,居住者が死亡や負傷をするリスクがあるというものが典型です。

<不法行為が成立する瑕疵の典型例>

あ 構造的に重大な欠陥

基礎部分に手抜き工事があり,建物が傾いている
→倒壊のリスクがある

い 居住者の生命のリスク

バルコニーの手すりの設置状況が不良である
→居住者が転落するリスクがある

4 基本的な安全性を損なう瑕疵の内容

平成19年判例の基準の中の基本的な安全性を損なうというところはやや曖昧です。この基準(言葉)によって実際の状況を明確に判別できないことが多いです。
これについて,前記の判例の差し戻し後の上告審(平成23年判例)で,もっと詳しい基準が示されました。
要するに,(仮に現時点でそこまで危険ではなくても)この状態を放置するといずれは危険が現実化するというものまで含まれるという判断基準です。不法行為責任が発生する範囲が広くなるような解釈です。

<基本的な安全性を損なう瑕疵の内容>

あ 基本的な解釈

『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』とは
居住者等の生命,身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいう

い 現実的な危険への限定の否定

建物の瑕疵が,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らない

う 該当する状況の典型例

瑕疵の性質に鑑み,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には,当該瑕疵は,『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』に該当する
※最高裁平成23年7月21日;別府マンション事件差戻後上告審

5 基本的な安全性を損なうかどうかの判断の具体例

平成23年判例は,基準を示すとともに,具体例も示しています。放置すると倒壊リスクがあるという重症といえる状態はもちろん,構造・耐力に関わらなくても放置すると人の健康や財産が被害を受ける危険がある状態は,不法行為責任が発生する例となっています。

<基本的な安全性を損なうかどうかの判断の具体例>

あ 倒壊リスクありの例(肯定)

当該瑕疵を放置した場合に,鉄筋の腐食,劣化,コンクリートの耐力低下等を引き起こし,ひいては建物の全部又は一部の倒壊等に至る建物の構造耐力に関わる
→建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当する

い 人身・健康・財産の被害のリスクありの例(肯定)

(建物の構造耐力に関わらない瑕疵であっても)
これを放置した場合に,例えば,外壁が剥落して通行人の上に落下したり,開口部,ベランダ,階段等の瑕疵により建物の利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるときや,漏水,有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険がある
→建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当する

う 美観・快適の毀損の例(否定)

建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵
→建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当しない
※最高裁平成23年7月21日;別府マンション事件差戻後上告審

6 安全性瑕疵の主張・立証責任の問題

平成23年判例は,平成19年判例の示した判断基準をより詳しい内容にしました。不法行為責任が認められる範囲を拡げる方向性といえます。瑕疵担保責任よりも不法行為責任の方が請求側のハードルが高いのですが,このハードルが下がってきたといえます。
ところが,実際の主張・立証の場面を考えると,大差はない(ハードルはあまり下がっていない)のではないか,という指摘もあります。

<安全性瑕疵の主張・立証責任の問題>

あ 基本的な立証責任

『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』(安全性瑕疵)については原告が主張・立証責任を負う

い 人身・健康・財産の被害のリスクの立証

『これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる』ことについて
→原告が立証する必要があることになる

う 批判

『い』のような結論は,原審(差戻後の控訴審判決=現実的危険性論)と大差がなくなってしまう
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p24

7 不法行為責任を負う者

以上は,建築工事について不法行為責任が発生するかどうかの基準の説明でした。
不法行為責任が発生した場合に,誰が責任を負うのか,という問題もあります。
不法行為責任としては,広く権利や利益を侵害した者に責任が発生します。具体的には施工業者や設計・工事監理者です。

<不法行為責任を負う者>

あ 不法行為の責任を負う者(前提)

故意or過失によって他人の権利or法律上保護される利益を侵害した者が不法行為責任を負う
※民法709条

い 建築工事の不法行為責任を負う者の典型例

ア 施工者(施工業者・建築業者)
イ 設計者
ウ 工事監理者

8 建築工事による不法行為の損害賠償の請求者の範囲

次に,誰が責任追及(損害賠償請求)をすることができるかという問題もあります。
まず,生命・身体・財産を侵害された居住者等被害者ですので,損害賠償を請求できます。これについて,平成19年判例は,請求できる者は建築主に限られないと示しています。
当たり前のように思えますが,瑕疵担保責任注文者(建築主)だけが請求できるものです。広く被害者が請求できるというのは不法行為責任ならではなのです。瑕疵担保責任よりも不法行為責任の方が請求側に有利なところです。

<建築工事による不法行為の損害賠償の請求者の範囲>

あ 原則(前提)

(不法行為責任が生じた場合)
生命,身体又は財産が侵害された居住者等は損害賠償を請求できる(前記)

い 請求者の範囲

居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはない
※最高裁平成19年7月6日;別府マンション事件差戻前上告審

う 請求者の具体例

ア 居住者を含む建物利用者
イ 隣人
ウ 通行人

9 建物の譲渡と元所有者による賠償請求

不法行為責任は,欠陥のある建物を後から購入した者も主張(損害賠償請求)できます(前記)。この時,売主,つまり既に欠陥のある建物を手放した者はどうなるかという問題があります。
これについて平成23年判例は,既に建物を手放した者も原則として不法行為による損害賠償請求をすることができるという判断を示しました。

<建物の譲渡と元所有者による賠償請求>

あ 所有者による請求(前提)

建物の所有者は,自らが取得した建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には,設計・施工者等に対し,当該瑕疵の修補費用相当額の損害賠償を請求することができる

い 譲渡後の元所有者による請求

『あ』の所有者が,当該建物を第三者に売却するなどして,その所有権を失った場合であっても,その際,修補費用相当額の補填を受けたなど特段の事情がない限り,一旦取得した損害賠償請求権を当然に失うものではない
※最高裁平成23年7月21日;別府マンション事件差戻後上告審

10 不法行為責任の期間制限(概要)

不法行為責任の特徴の1つは,期間制限が長いというところです。被害と加害者を知ってから3年間(時効)と不法行為の時から20年間(除斥期間)という2つの制限があります。
現実には,瑕疵担保責任よりも不法行為責任の期間制限の方が大幅に長いことになるケースが多いです。そこで,瑕疵担保責任の期間が切れているけれども不法行為責任の期間は切れていないという状況もよくあります。
詳しくはこちら|売買・請負に関する責任の期間制限と実務的な選択

11 民法709条の要件論との関係(理論的問題)

以上のように,平成19年判例と平成23年判例は,建物の建築瑕疵によって不法行為責任が生じる基準を示しました。
ところで,この基準の理論的な位置づけについては2つの考え方があります。
違法性の有無の判断基準なのか過失の有無の判断基準なのか,という考え方です。このような理論は,実際のケースの責任の判断に直接影響するわけではありません。ただ,細かい解釈に間接的に影響することはあります。参考として説明しました。

<民法709条の要件論との関係(理論的問題)>

あ 問題の所在

建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵について不法行為責任が生じるという判断基準の位置づけについて
→2つの見解(い)がある

い 2種類の見解

ア 違法性の判断基準
違法性の有無の判断であるという見解
イ 過失の判断基準
過失の有無の判断であるという見解
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p24,25

本記事では,建物の建築工事の瑕疵による不法行為責任について説明しました。
実際には個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に建物建築の瑕疵の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。