【オーバーローン×共有物分割・分割類型全体|共有者の取得希望・傾向】

1 オーバーローン×分割類型|全体
2 オーバーローン×全面的価格賠償
3 オーバーローン×共有者の取得希望|傾向
4 オーバーローン×取得希望|戦略
5 オーバーローン×共有物分割|まとめ

1 オーバーローン×分割類型|全体

不動産の共有を解消するために共有物分割を利用することは多いです。
オーバーローンとなっている場合には処理が複雑になります。
3つの分割類型について選択される傾向を整理します。

<オーバーローン×分割類型|全体>

あ 全面的価格賠償

共有者の1人が取得することを希望している場合
→全面的価格賠償が選択される可能性が高い(後記※1

い 現物分割

現物分割では担保権の処理をしなくても済む
→選択しやすい

う 換価分割

形式的競売により売却することになる
オーバーローンでの形式的競売は問題がとても多い
詳しくはこちら|形式的競売における無剰余取消の適用の有無(オーバーローン不動産売却の可否)
→換価分割の選択を避ける傾向が強い

2 オーバーローン×全面的価格賠償

オーバーローン不動産は全面的価格賠償が採用されやすいです。
不動産全体の取得を希望する共有者がいるかいないかが重要です。

<オーバーローン×全面的価格賠償(※1)

あ 取得希望者あり

ア 原則 取得を希望する共有者がいる場合
オーバーローンでの換価分割は困難である
詳しくはこちら|形式的競売における無剰余取消の適用の有無(オーバーローン不動産売却の可否)
→消去法的に全面的価格賠償が採用されやすい
=『相当性・実質的公平性』が認められやすい
詳しくはこちら|共有物分割における全面的価格賠償の要件(全体)
イ 例外 買い取り希望額が適正価格を下回っている場合
→全面的価格賠償は採用されない

い 取得希望者なし

取得を希望する共有者がいない場合
→全面的価格賠償は採用されない

3 オーバーローン×共有者の取得希望|傾向

オーバーローン不動産の共有物分割では『取得希望』が重要です(前記)。
取得希望の共有者がいるかいないかで結論が大きく変わるのです。
共有者が取得を希望するかどうかは,一定の傾向があります。

<オーバーローン×共有者の取得希望|傾向>

あ 共有物分割×取得希望|基本

共有物分割一般において
→共有者の1名が取得を希望することが多い

い 共有物分割×取得希望|典型例

共有不動産に共有者Aが居住している
→仮に第三者が取得すると退去を要請される
→Aは取得を希望する傾向が強い

4 オーバーローン×取得希望|戦略

実務では『取得希望』を明示するかどうかは戦略の1つとなります。
典型的な戦略をまとめます。

<オーバーローン×取得希望|戦略>

あ 居住者×戦略|ブラフ

Aは敢えて『取得希望』を表明しない
→換価分割の判決が出る可能性が高くなる
仮に換価分割の判決が出た場合
→形式的競売は無剰余取消に該当する
→競売手続の取消となる可能性が高い
=競売(売却)が完結・実現する可能性は低い
仮に入札が実施された場合でも
→入札者が現れる可能性も低い

い 居住者×戦略|安全策

わずかでも第三者の手に渡るリスクを回避したい
むしろ確実に100%所有権を確保したい
→取得希望を表明する
この場合の賠償金は原則的に被担保債権額は控除される
→安く入手できる
ただしAがローンの債務者である場合は別である
※京都地裁平成22年3月31日
詳しくはこちら|全面的価格賠償の賠償金算定における担保負担額の控除

実際にはもっと多くの事情を考慮して最適戦略を判断します。
また,裁判所から一定の和解内容の勧告がなされることも多いです。
裁判所が当方に有利な心証を持つような訴訟活動が必要なのです。

5 オーバーローン×共有物分割|まとめ

オーバーローンの共有物分割は不確定要素が多いです。
難しい判断が多いのです。
全体的な傾向・戦略をまとめます。

<オーバーローン×共有物分割|まとめ>

あ 原則

共有物分割請求自体について
→合理性・実効性は薄い

い 例外|基本

次の『う・え』事情がある場合
→合理的・実効性がある

う 例外|現物分割狙い

現物分割は実現する可能性が高い

え 例外|全面的価格賠償狙い

ア 基本 共有者のいずれかが取得を希望している場合
→取得希望者が『買い取る』ことになる可能性が高い
イ 実務的工夫 他の共有者の『取得希望』を記録化しておくとベストである
→訴訟の審理において提出できる

本記事では,オーバーローンの共有不動産の共有物分割における実務的な対応・戦略を説明しました。
実際には,個別的な事情によって最適な手段・戦略は大きく違ってきます。
実際に共有不動産の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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