1 民法上の組合の共同事業と共有物の共同使用の判別
2 組合の共同事業と共有物の共同使用の区別の目安
3 土地の共同使用の事業性を否定した判例
4 網干場の共同使用の事業性を否定した判例
5 病院の共同経営の事業性を肯定した裁判例
6 航空機の共同運用の事業性を肯定した裁判例
7 ヨットクラブ運営の事業性を肯定した判例
8 承継した家業への民法組合の適用判断事例(事案)
9 承継した家業への民法組合の適用判断事例(判断)

1 民法上の組合の共同事業と共有物の共同使用の判別

一般的な共有と,民法上の組合財産の共有(組合が成立しているか)では法的な扱いが大きく異なります。
詳しくはこちら|民法上の組合の財産の扱い(所有形態・管理・意思決定・共有の規定との優劣)
この点,民法上の組合が成立するための共同事業に該当するかどうかをハッキリと判定できないケースも多いです。
詳しくはこちら|民法上の組合の共同事業の基本(目的となりうる事業・事業の共同性)
本記事では,組合の共同事業といえるかどうかを判別する基準と実際に判断した事例(判例)を紹介します。

2 組合の共同事業と共有物の共同使用の区別の目安

民法上の組合としての共同事業と単なる共有物を共有者が共同で使用する関係の違いは共同事業の有無です。
とはいっても財産の使用共同の事業とをハッキリと区別できないこともあります。判断に大きく影響するのはサービスの要素の大きさといえます。

<組合の共同事業と共有物の共同使用の区別の目安>

あ 共有物の共同使用(事業性否定)方向

財産の使用だけが目的である場合
→共有物の使用収益そのものである
→共同事業ではない
→組合として認めない

い 組合認定(事業性肯定)方向

『財産の使用』以外が主要な目的である
→共有物の使用収益の範囲を超える
共同事業である
→組合(の事業)として認める

う 判断の要点

財産の使用を超える価値の提供(オペレーション・サービス)の大きさ

これは多くの判例の判断を集約したものです。元となった判例(裁判例)は以下,順に説明します。

3 土地の共同使用の事業性を否定した判例

土地を共同で使用すること共同事業であるという主張がなされました。しかし,まさに共有不動産の共同使用そのものです。事業とはいえません。
結局,組合の成立は認められませんでした。

<土地の共同使用の事業性を否定した判例>

あ 共同事業の内容

民法上の組合で土地を所有することを想定していた
組合の共同事業共同で土地を使用することと設定した
※民法667条

い 裁判所の判断

『共同で土地を使用すること』は『共有土地の利用方法』である
『共同目的』『共同事業』とは言えない
※最高裁昭和26年4月19日

う コメント

『共有者』であるだけで当然に生じる『管理』業務である
→『事業的規模』には達していない

4 網干場の共同使用の事業性を否定した判例

網を干す場所として共有の土地を用いたケースです。例えば土地に大規模な器具を設置して常時メンテナンスをしているならばサービスの程度が高いといえたでしょう。しかしこのケースではそのような手間をかける仕組みはありませんでした。
そこで裁判所は共有物の使用を超えないものと考え,組合の成立を認められませんでした。

<網干場の共同使用の事業性を否定した判例>

あ 網干場使用目的

江戸時代に団体Aが藩から土地を共同でもらい受けた
土地を網干場として使用する目的があった

い 共同事業→否定

『共同的に使用する』目的について
→共同目的・共同事業には該当しない
→組合契約は成立しない

う 組合の適用→否定

共有持分譲渡・分割請求は可能である
※最高裁昭和26年4月19日

5 病院の共同経営の事業性を肯定した裁判例

不動産を共有して,共有者同士で病院を経営していたケースです。もちろん,土地や建物を本来の使い方で活用した側面もあります。しかし,医療サービスの提供という要素はとても大きいです。
そこで裁判所は組合の成立を認めました。

<病院の共同経営の事業性を肯定した裁判例>

あ 共同経営の合意

A・Bは次の合意をした
ア A・Bは共に医療行為に従事するイ 病院を共同で経営するウ 財産は2分の1ずつの共有とするエ 対外的にはAの単独名義とするオ 利益・損失の収受・負担はともに平等とする

い 共同事業→肯定

共同事業に該当する
→民法上の組合として認める
※横浜地裁昭和59年6月20日

6 航空機の共同運用の事業性を肯定した裁判例

航空機を共有して,共有者同士で食事会や情報交換を定期的に行っていたケースです。純粋な共有物(航空機の機体)の共同使用を超える親睦活動の企画や運営の程度も大きいといえます。
裁判所は組合の成立を認めました。

<航空機の共同運用の事業性を肯定した裁判例>

あ 共同運用

航空機を6名で共同購入した
構成員は食事会として毎月1,2回程度集まった
航空機全般・飛行に関する情報交換をしていた
当該航空機の費用負担について協議していた

い 共同事業→肯定

単に『航空機の共有者』であるにとどまらない
共同の事業を営むために出資したと言える
目的=航空機の購入・維持
→民法上の組合として認める
※東京地裁昭和62年6月26日

7 ヨットクラブ運営の事業性を肯定した判例

前記の航空機の所有海版です。ヨットを共有して,共有者の間でヨットクラブとしてヨットを航行して楽しむという運営をしていたケースです。
裁判所は,単純なヨットそのものの使用を超えた親睦活動の企画や運営があると考え,組合の事業として認めました。

<ヨットクラブ運営の事業性を肯定した判例>

あ ヨットクラブ結成

5名共同でヨットを購入した
各出資者は1口100万円の出資をした
出資者が会員となりヨットクラブを結成した
目的=ヨットを利用して航海を楽しむ

い 共同事業→肯定

共同事業に該当する
→民法上の組合として認める
※最高裁平成11年2月23日

8 承継した家業への民法組合の適用判断事例(事案)

一家の協力で行っていた家業について組合の成立の有無が問題となったケースです。
事案と判断の内容が少し複雑なので,分けて説明します。
事案としては,もともとの家業を行っていた父が,生前から徐々に子夫婦に事業活動を承継していました。しかし建物と借地権の名義は子夫婦に移さず,父名義のままでした。
単純な所有権として扱うなら,相続によって法定相続分どおりに各相続人に移転(承継)されることになります。
しかし,民法上の組合としての清算が必要であるという主張がなされました。

<承継した家業への民法組合の適用判断事例(事案)>

あ 営業の承継

Aが商店の営業を行っていた
A(Bの父)は営業を実質的に子夫婦Bに承継させた
営業上の名義だけはAとしていた
Bの営業努力により営業を維持していた
営業利益により建物+借地権を取得できた
建物+借地権の名義はAとしてあった

い 事業の相続

Aが死亡した
相続人はB・Cであった

う 法的な問題

それまでの家業への貢献度の清算が問題となった
※東京高裁昭和51年5月27日

9 承継した家業への民法組合の適用判断事例(判断)

前記の事案の家業について,裁判所は事業に関わっていた父と子との間に民法上の組合の成立を認めました。
結局,民法上の組合の組合員の相続として,残余財産の清算をすることになったのです。所有権としては被相続人に帰属しているけれど組合としての清算の対象となるので,相続財産からは除外するという扱いになったのです。
実質的には相続における寄与分と同様の処理といえます。
詳しくはこちら|寄与分|事業に関する労務提供・財産給付

<承継した家業への民法組合の適用判断事例(判断)>

あ 組合契約→認定

A・Bの間には組合契約が認められる
目的=商店の営業

い 組合の解散

事業に関する財産の扱いについて
→組合の解散に準じる
=出資の割合に応じて残余財産を清算する

う 遺産の範囲

Bが取得する清算分は遺産から除外する
※東京高裁昭和51年5月27日

本記事では,民法上の組合の共同事業と,一般的な共有者間の共有物の共同使用の判別について説明しました。
実際には個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に共有の財産の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。