【上下を区切った区分地上権は登記できるが,平面で区切る地上権は登記がリスキー】

1 上空や地下などに地上権を設定できる(区分地上権)
2 区分地上権地下タンクモノレールなどで活用されている
3 区分地上権の登記では区分地上権の範囲として高さの範囲を特定する
4 1筆の土地の(平面の)一部に地上権設定は可能
5 1筆の土地の一部の地上権としては登記できない
6 『借地上の建物登記』による借地権の対抗力は契約の範囲のみ

1 上空や地下などに地上権を設定できる(区分地上権)

土地のうち,高さで限定する,つまり,空中・地下で区切って地上権を設定できます。
これを『区分地上権』と言います。

<区分地上権の概要>

工作物所有が目的
・地下または空間の,上下の範囲を定める
※民法269条の2

2 区分地上権地下タンクモノレールなどで活用されている

区分地上権の典型的な活用例をまとめます。

区分地上権の活用の実例>

あ 地下

地下鉄,タンク(貯蔵庫)設置

い 上空

モノレール,鉄道などの高架設置

いずれも,工作物所有目的が前提となっています。

3 区分地上権の登記では区分地上権の範囲として高さの範囲を特定する

区分地上権は,理論上,1つの土地について,別の高さのものが複数存在できます。
そこで,区分地上権の範囲,が登記事項とされています(不動産登記法78条5号)。
なお,『1筆の土地を東西で分けて東側半分に地上権設定』という場合は,東側半分という範囲を登記することはできません(後記『5』)。
土地のタテ切りは区分地上権(民法269条の2)ではないので,不動産登記法78条5号に該当しないからです。

4 1筆の土地の(平面の)一部に地上権設定は可能

一物一権主義,という考え方があります。
土地については,1筆の土地を最小単位として扱うという考え方です。
1筆の土地の一部に地上権を認める,というのはこれに反します。
しかし,これについては当事者の意思(私的自治)が優先とされています。
結局,当事者間で地上権の範囲を自由に設定するということまでは否定しない,という解釈が一般的なのです。

5 1筆の土地の一部の地上権としては登記できない

(1)地上権設定は1筆の土地全体として登記するしかない

一般的に,1筆の一部に地上権を設定した場合,その範囲を分筆した上で,該当の筆(地番の土地)について,地上権設定登記を行います。
しかし,これを省略して,分筆せずに,つまり,地上権の対象外も含む1筆の土地全体の登記として,地上権設定登記を申請することは可能です。
ポイントは,『地上権設定の範囲』を登記することができない,ということです(不動産登記法78条)。
登記法上,区分地上権(横切り)であれば,範囲を登記できますが,一般的な地上権における土地の範囲(タテ切り)における範囲,は登記法上規定がないのです。

(2)過剰な登記=1筆全体への地上権という登記はリスクがある

一般的に,地上権設定のなされた土地上の工作物が譲渡されると,地上権とセットになっているはずです。
ですから,地上権登記については,移転登記がなされることになります。
そうすると,地上権の登記には範囲が特定されていないので,譲受人(=新地上権者)は,『土地全体に地上権がある』と主張する可能性があります。
登記システムの大原則として,登記で判断するということになります(民法177条)。
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本

<地上権の範囲も対抗関係となる見解>

『地上権の制限』について,地上権者(譲受人)と土地所有者が対抗関係に立つ

1筆の土地全体の地上権という扱いになる
※川島=川井『新版注釈民法(7)』p872

なお,仮に地上権の譲受人が,対象範囲が限定されていることを知っていた,という事情があっても(原則として)結論は変わりません。
本来は制限があるのに登記上,制限が記録されていないというのはリスクが高いのです。

6 『借地上の建物登記』による借地権の対抗力は契約の範囲のみ

<発想>

1筆の土地の一部を貸して,借地(貸地)にしている
分筆しないままだと,建物が譲渡された場合,『全体が借地』という扱いになってしまうのか

一般的に,借地(建物所有の土地賃貸借)の場合,土地に,借地(賃貸借)の登記を行うことはされておりません。
その代わり,建物所有権登記が,借地権の対抗要件とされます(借地借家法10条)。
別項目;建物登記が土地賃借権登記の代わりになる
この場合,土地には登記がされていません。
そこで,『土地の全体が対象』という解釈(対抗関係)は出てきません。
あくまでも,所有権登記がされた建物が基本です。
当該建物の所有を目的とする土地賃貸借契約が対抗力(保護)の対象です。
結局土地賃貸借契約の内容による,ということになるのです。

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