1 賃貸借の『解除』|種類・分類
2 賃貸借契約×債務不履行・解除|基本
3 債務不履行の要件|原則論=催告が必要
4 履行遅滞の解除の催告の『相当期間』(概要)
5 無催告解除特約・当然解除特約×有効性
6 債務不履行解除×制限|信頼関係破壊理論
1 賃貸借の『解除』|種類・分類
賃貸借契約を『解除』により終了させる,というシーンはよくあります。
賃貸借の『解除』にはいくつかの種類があります。
『解除の種類』によって,法的な制度・手続が違います。
ここでは全体をまとめます。
<賃貸借の解除|種類>
解除の種類 | 根拠 | 催告 | 信頼関係破壊理論による制限 |
合意解除 | ― | 不要 | 適用なし |
債務不履行解除 | 民法541条 | 必要(※1) | 適用あり |
無断譲渡・転貸による解除(※2) | 民法612条2項 | 不要 | 適用あり |
信頼関係破壊理論による解除 | 判例(※3) | 不要 | ― |
<補足>
あ 債務不履行解除×催告(前記※1)
『無催告解除特約』により『催告不要』となることもある(後述)
『当然解除特約』により『催告・解除』いずれも不要となることもある(後述)
い 無断譲渡・転貸による解除(前記※2)
賃借権の譲渡・転貸について賃貸人の承諾がない場合
→賃貸人による解除が認められることがある
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸と賃貸人の承諾と無断譲渡・転貸に対する解除
う 信頼関係破壊理論による解除(前記※3)
これについては別に説明している
詳しくはこちら|信頼関係破壊理論と背信行為論の基本(同質性・主な3つの効果)
2 賃貸借契約×債務不履行・解除|基本
解除の中でも代表的なものが『債務不履行解除』です(前記)。
単純に思えますが,根本的な部分の解釈論がいくつかあります。
<賃貸借契約×債務不履行・解除|基本>
あ 債務不履行の規定の適用
債務不履行による解除
→借地・借家にも適用される
※我妻栄『債権各論中巻1』岩波書店p451
※星野英一『借地・借家法』有斐閣p112
※判例多数
い 『債務』の対象
賃貸借の本質的な義務だけが対象となる
う 『債務』に該当する例
ア 賃料支払債務イ 用法遵守義務
え 『債務』に該当しない例
特約による禁止事項の遵守(後述)
お 解除の制限
『信頼関係破壊理論』により解除が大きく制限されている(後記)
3 債務不履行の要件|原則論=催告が必要
賃貸借契約も債務不履行としての解除が適用されます(前記)。
次に,解除をするための手続・要件についてまとめます。
<債務不履行の要件|原則論=催告が必要>
あ 債務不履行
債務者が『債務を履行しない』
い 催告|必要性
ア 基本的解釈論
一般的『債務不履行』と同様に『催告』が必要である
※判例多数・通説
イ 特殊事情×催告の要否
次の事情があっても同じである
・債務を履行しない意思が明確である場合
・履行遅滞の状態が長期間にわたる場合
※大判大正11年11月25日
う 催告|内容
債権者が『相当の期間』を定めて『履行の催告』を行う
え 契約解除
当該期間内に『履行がない』場合
→債権者が『契約の解除』をすることができる
4 履行遅滞の解除の催告の『相当期間』(概要)
債務不履行(履行遅滞)による解除では『相当期間』を定めた『催告』が必要です(前述)。
これに関する解釈がいくつかありますので,まとめます。
<履行遅滞の解除の催告の『相当期間』(概要)>
あ 『相当期間』の解釈
履行の準備に必要な期間
準備を一から始める期間までは不要
履行の準備を大体していることが前提である
※大判大正13年7月15日
い 催告に『相当の期間』の設定がないケース
『催告の時から相当期間を経過した時点』で契約が解除される(終了する)
※最高裁昭和31年12月6日
う 催告時の指定期間が短いケース
『催告時から相当期間を経過した時点』で契約が解除される(終了する)
※最高裁昭和44年4月15日
え 催告の拒絶意思の表示
債務者が催告を拒絶する意思を表示している
=『催告をしても履行しない』という表示
→相当期間経過前でも債権者は契約を解除できる
※大判昭和7年7月7日
詳しくはこちら|履行遅滞による解除のための督促の『相当の期間』の解釈
5 無催告解除特約・当然解除特約×有効性
賃貸借契約の特約で『催告』を不要とする条項がよくあります。
また『解除の通知』すら不要と定める特約・条項もあります。
これらについては有効性が問題となります。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|無催告解除特約・当然解除特約の有効性(借地借家法との抵触)
6 債務不履行解除×制限|信頼関係破壊理論
賃貸借契約を債務不履行によって解除する場合,大きな制限があります。
<債務不履行解除×制限|信頼関係破壊理論>
形式的な要件に該当しても解除が制限されることがある
要件=債務不履行+催告+解除
『信頼関係が破壊されていない』場合は解除が認められない
詳しくはこちら|信頼関係破壊理論と背信行為論の基本(同質性・主な3つの効果)
本記事では,賃貸借契約の解除の種類について説明しました。
実際には,個別的事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に土地や建物の賃貸借契約に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。