弁護士等の職務上請求の要件(受任している事件又は事務と依頼者の事由)
1 弁護士等の職務上請求の要件(受任している事件又は事務と依頼者の事由)
弁護士などの士業は、受任している事件や事務のために、戸籍謄本等や住民票の写し等の交付を求めることができます。職務上請求と呼ばれる手続です。
本記事では、この職務上請求がどういう要件のもとで認められるのかを、条文と逐条解説、総務省の通知から整理します。誰が住民票や戸籍を取得できるかという全体の枠組みは、別の記事で説明しています。
住民票・戸籍の情報の取得方法(閲覧・証明書交付請求)と開示される者の範囲
2 業務該当性という前提の上に、2つの層がともに必要
職務上請求の要件は、士業の側の事情だけで決まるものではありません。受任の中身がその士業の業務に当たるかという前提の上に、受任者の側と依頼者の側の2つの層が重なって初めて請求できます。
職務上請求の可否=業務該当性という前提の上に、2つの層がともに必要
あ 前提=受任の中身がその士業の業務に当たるか
弁護士=一般の法律事務(弁護士法3条1項・限定列挙ではない)
行政書士=官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類の作成(行政書士法1条の3第1項)
・対外的な証明として利用されることが予定されていなければ、業務に当たらないことがある(家系図=最判平成22年12月20日)
・業務に当たらなければ「受任している事件又は事務」も無く、以下を検討する余地がない
い 受任者の層
受任している事件又は事務が在り、その業務の遂行のために必要であること
「事件又は事務」=その資格に基づいて処理すべき事件又は事務の委任を受けた場合(平20・4・7民一1000通達第1の4(1))
戸籍=戸籍法10条の2第3項/住民票=住民基本台帳法12条の3第2項
う 依頼者の層=3つの事由のいずれか1つに当たればよい
・自己の権利を行使し、または自己の義務を履行するために記載事項を確認する必要
・国または地方公共団体の機関に提出する必要
・記載事項を利用する正当な理由
え 2つの層の関係
受任者の層と依頼者の層は、どちらか一方では足りない。両方がそろって初めて請求できる。
依頼者の層の中にある3つの事由は、どれか1つで足りる。
お レーンごとの明示の要否
| レーン | 受任者の層 | 依頼者の層 |
|---|---|---|
| 戸籍法10条の2第3項(一般) | 事件又は事務の受任+業務の遂行に必要 | 3つの事由のいずれか+明示が要る(依頼者の氏名・名称も) |
| 戸籍法10条の2第4項(紛争処理の代理業務) | 受任している事件+各号列挙の代理業務 | 明示は要らない |
| 戸籍法10条の2第5項(刑事弁護人等) | 業務の別を示す | 明示は要らない |
| 住民基本台帳法12条の3第2項 | 事件又は事務の受任 | 3つの事由のいずれか+明示が要る |
か 当てるときの注意
・「明示は要らない」は「依頼者に事由が要らない」ではない。紛争処理手続としての性格から類型的に在るものとして扱う趣旨である。
・利用目的は「債権回収・保全のため」程度では具体性を欠く。記載事項のどの部分をどの目的に使うかが分かる程度に書く。
・住民票側は市町村長が「相当と認めるとき」の交付で、判断の幅がある(戸籍は法定受託事務なので幅が狭い)。
・偽って交付を受けると30万円以下の罰金(戸籍法135条・住民基本台帳法46条1項2号)+懲戒の対象になる。
3 職務上請求は士業固有の権限ではなく依頼者の代理申出の簡略化
職務上請求は、士業に固有の権限を与えたものではありません。依頼者の代理人として申し出るべきものを、個別の委任がなくても資格で足りるようにした手続です。
(1)本来の形は依頼者の代理人としての申出
住民基本台帳法の逐条解説は、職務上請求が置かれた理由を次のように説明しています。本来の形は代理人としての申出であり、個別の委任がないことへの配慮として資格で足りることにした、という筋です。
本来は依頼者の代理人として申出を行うべきもの
特定事務受任者は、通常、受任事件・事務の依頼者のために活動する者であり、住民票の写し等の交付の申出についても、本来は受任事件・事務の依頼者の代理人として申出を行うべきものである。
しかしながら、個々の申出についての依頼者からの個別の委任がないことにも配慮し、弁護士等の資格を有することを条件に、受任事件・事務の依頼者が本条第一項各号のいずれかに該当する場合には、本条第四項各号に掲げる事項を明らかにすれば、住民票の写し等の交付を申し出ることができることとしているものである。
このように、特定事務受任者が住民票の写し等の交付が必要となる理由は、「受任している事件又は事務の依頼者」についてのものであるから、その点を明示するため、本条第二項において「依頼者が同項(本条第一項)各号に掲げる者に該当することを理由として」と規定しているものである。
※市町村自治編著『全訂 住民基本台帳法逐条解説』日本加除出版2014年p212
(2)職務上請求用紙はA〜Dの4種(C用紙は本人・第三者としての請求用)
弁護士会などで購入する職務上請求書には4種類があります。依頼者から委任を受けた代理人として使うA用紙・B用紙のほかに、破産管財人や成年後見人などが本人または第三者として請求するための用紙も用意されています。
4 条文は戸籍と住民票で別に置かれ、どちらも依頼者の事由を読み込む
戸籍と住民票は別の法律なので、職務上請求の条文も別に置かれています。もっとも、どちらも依頼者の側の事由を読み込む形になっています。
(1)戸籍法10条の2第3項は依頼者についても1項各号の明示を求める
戸籍法10条の2第3項は、士業が明らかにすべき事項として4つを挙げています。4つめが、依頼者についての第1項各号に定める事項です。
戸籍=士業による請求(一般のレーン)
第一項の規定にかかわらず、弁護士(弁護士法人及び弁護士・外国法事務弁護士共同法人を含む。次項において同じ。)、司法書士(司法書士法人を含む。次項において同じ。)、土地家屋調査士(土地家屋調査士法人を含む。次項において同じ。)、税理士(税理士法人を含む。次項において同じ。)、社会保険労務士(社会保険労務士法人を含む。次項において同じ。)、弁理士(弁理士法人を含む。次項において同じ。)、海事代理士又は行政書士(行政書士法人を含む。)は、受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合には、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求をする者は、その有する資格、当該業務の種類、当該事件又は事務の依頼者の氏名又は名称及び当該依頼者についての第一項各号に定める事項を明らかにしてこれをしなければならない。
※戸籍法10条の2第3項
(2)住民基本台帳法12条の3第2項は依頼者の該当を理由として開く
住民基本台帳法12条の3第2項は、依頼者が同条1項各号に掲げる者に該当することを理由として申出をする、という形で書かれています。特定事務受任者の範囲は同条3項が定めています。
住民票=特定事務受任者の申出
市町村長は、前二条及び前項の規定によるもののほか、当該市町村が備える住民基本台帳について、特定事務受任者から、受任している事件又は事務の依頼者が同項各号に掲げる者に該当することを理由として、同項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書が必要である旨の申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、当該特定事務受任者に当該住民票の写し又は住民票記載事項証明書を交付することができる。
※住民基本台帳法12条の3第2項
特定事務受任者の8士業
前項に規定する「特定事務受任者」とは、弁護士(弁護士法人及び弁護士・外国法事務弁護士共同法人を含む。)、司法書士(司法書士法人を含む。)、土地家屋調査士(土地家屋調査士法人を含む。)、税理士(税理士法人を含む。)、社会保険労務士(社会保険労務士法人を含む。)、弁理士(弁理士法人を含む。)、海事代理士又は行政書士(行政書士法人を含む。)をいう。
※住民基本台帳法12条の3第3項
(3)個別の委任がなくても請求でき委任状の提出は要らない
この構造から、実務上の帰結が1つ出てきます。依頼者から個別の委任を受けていなくても請求でき、窓口へ委任状を出す必要もありません。
個別委任がなくても請求でき委任状の提出も不要
これにより、弁護士等の士業者は、受任している事件又は事務を遂行するために必要がある場合には、依頼者からの個別委任がなくても(もっとも代理委任状には念のため委任事項を含める場合もある)、当然に戸籍謄本等を請求できることになり、請求に当たって委任状の提出は必要がない。
※梶村太市 編著 櫻庭倫 編著『最新 戸籍関係法規逐条解説』テイハン2024年 3月p73
5 「事件又は事務」はその資格に基づいて処理すべきものに限られる
「受任している事件又は事務」は、どんな依頼でもよいわけではありません。逐条解説は、法務省の通達を引いて、その資格に基づいて処理すべき事件または事務の委任を受けた場合をいうと説明しています。
「受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合」の意味
ここで「受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合」とは、弁護士等が特定の依頼者からその資格に基づいて処理すべき事件又は事務の委任を受けて、当該事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合である(平20・4・7民一1000通達第1の4(1))。
※梶村太市 編著 櫻庭倫 編著『最新 戸籍関係法規逐条解説』テイハン2024年 3月p72
6 市町村長は依頼者に係る利用目的から申出の正当性を判断
市町村長は、申出が正当なものかどうかを判断します。その材料として明らかにさせるのが、依頼者に係る利用目的です。
利用目的の記載がどの程度具体的であればよいかについて、逐条解説は、抽象的な記載では足りないとしています。
申出の正当性は依頼者に係る利用目的から判断する
この場合、申出が正当なものかどうかを判断するため、受任している事件又は事務の依頼者に係る利用目的を明らかにさせる必要がある。
※『住民基本台帳事務処理要領新旧対照表』総務省p26
「債権回収・保全のため」程度では具体性を欠く
本条第四項第四号の「利用の目的」については、本条第一項各号に掲げる場合に該当するかどうかを判断するために明らかにさせるものであり、単に「債権回収・保全のため」といった程度の抽象 な記載だけでは具体性があるとはいえず、住民票のどの部分をどのような目に利用するかが明らかになる程度の事由を記載することを要するものである。
※市町村自治編著『全訂 住民基本台帳法逐条解説』日本加除出版2014年p213
7 戸籍には紛争処理代理と刑事弁護人等の2つの別レーン
戸籍については、一般のレーンのほかに2つの別のレーンが置かれています。どちらも依頼者の氏名や受任事件の詳細を明らかにする必要がありません。
(1)紛争処理の代理業務では依頼者の氏名の明示が要らない
紛争処理の代理業務については、戸籍法10条の2第4項が各士業の業務を号で列挙しています。住民票については、住民基本台帳法施行令15条の2が同じ業務を定めています。
戸籍=紛争処理の代理業務のレーン
第一項及び前項の規定にかかわらず、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士又は弁理士は、受任している事件について次に掲げる業務を遂行するために必要がある場合には、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求をする者は、その有する資格、当該事件の種類、その業務として代理し又は代理しようとする手続及び戸籍の記載事項の利用の目的を明らかにしてこれをしなければならない。
一 弁護士にあつては、裁判手続又は裁判外における民事上若しくは行政上の紛争処理の手続についての代理業務(弁護士法人については弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第三十条の六第一項各号に規定する代理業務を除き、弁護士・外国法事務弁護士共同法人については外国弁護士による法律事務の取扱い等に関する法律(昭和六十一年法律第六十六号)第八十条第一項において準用する弁護士法第三十条の六第一項各号に規定する代理業務を除く。)
二 司法書士にあつては、司法書士法(昭和二十五年法律第百九十七号)第三条第一項第三号及び第六号から第八号までに規定する代理業務(同項第七号及び第八号に規定する相談業務並びに司法書士法人については同項第六号に規定する代理業務を除く。)
三 土地家屋調査士にあつては、土地家屋調査士法(昭和二十五年法律第二百二十八号)第三条第一項第二号に規定する審査請求の手続についての代理業務並びに同項第四号及び第七号に規定する代理業務
四 税理士にあつては、税理士法(昭和二十六年法律第二百三十七号)第二条第一項第一号に規定する不服申立て及びこれに関する主張又は陳述についての代理業務
五 社会保険労務士にあつては、社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)第二条第一項第一号の三に規定する審査請求及び再審査請求並びにこれらに係る行政機関等の調査又は処分に関し当該行政機関等に対してする主張又は陳述についての代理業務並びに同項第一号の四から第一号の六までに規定する代理業務(同条第三項第一号に規定する相談業務を除く。)
六 弁理士にあつては、弁理士法(平成十二年法律第四十九号)第四条第一項に規定する特許庁における手続(不服申立てに限る。)、審査請求及び裁定に関する経済産業大臣に対する手続(裁定の取消しに限る。)についての代理業務、同条第二項第一号に規定する税関長又は財務大臣に対する手続(不服申立てに限る。)についての代理業務、同項第二号に規定する代理業務、同法第六条に規定する訴訟の手続についての代理業務並びに同法第六条の二第一項に規定する特定侵害訴訟の手続についての代理業務(弁理士法人については同法第六条に規定する訴訟の手続についての代理業務及び同項に規定する特定侵害訴訟の手続についての代理業務を除く。)
※戸籍法10条の2第4項
紛争処理手続としての性格があり権利行使の意思が明確
これらは、受任事件又は事務に紛争処理手続としての性格が認められるものであり、依頼者の権利行使等の意思は明確であり、関係する第三者に係る住民票の記載事項を利用して対外的に証明する必要性が類型的に存在する。
※『住民基本台帳事務処理要領新旧対照表』総務省p27
(2)刑事弁護人等の業務は10条の2第5項が別に開く
刑事弁護人や少年保護事件の付添人などの業務は、依頼者から事件を受任して紛争処理手続を代理する業務とはいえませんが、性質上紛争性のある事件なので別に開かれています。
戸籍=刑事弁護人等の業務のレーン
第一項及び第三項の規定にかかわらず、弁護士は、刑事に関する事件における弁護人としての業務、少年の保護事件若しくは心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成十五年法律第百十号)第三条に規定する処遇事件における付添人としての業務、逃亡犯罪人引渡審査請求事件における補佐人としての業務、人身保護法(昭和二十三年法律第百九十九号)第十四条第二項の規定により裁判所が選任した代理人としての業務、人事訴訟法(平成十五年法律第百九号)第十三条第二項及び第三項の規定により裁判長が選任した訴訟代理人としての業務又は民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第三十五条第一項に規定する特別代理人としての業務を遂行するために必要がある場合には、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求をする者は、弁護士の資格、これらの業務の別及び戸籍の記載事項の利用の目的を明らかにしてこれをしなければならない。
※戸籍法10条の2第5項
8 家系図は対外的な証明として使う予定がなければ行政書士の業務でない
受任の中身が、そもそもその士業の業務に当たらないことがあります。行政書士の業務は、官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類の作成です。
行政書士の業務の範囲
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
※行政書士法1条の3第1項
観賞・記念のための家系図は「事実証明に関する書類」に当たらない
3 上記の事実関係によれば、本件家系図は、自らの家系図を体裁の良い形式で残しておきたいという依頼者の希望に沿って、個人の観賞ないしは記念のための品として作成されたと認められるものであり、それ以上の対外的な関係で意味のある証明文書として利用されることが予定されていたことをうかがわせる具体的な事情は見当たらない。そうすると、このような事実関係の下では、本件家系図は、依頼者に係る身分関係を表示した書類であることは否定できないとしても、行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に当たるとみることはできないというべきである。
※最高裁判所 2010-12-20 最高裁判所刑事判例集64巻8号1291頁/裁判所時報1522号5頁/判例タイムズ1339号64頁/判例時報2103号155頁/金融法務事情1933号114頁/LLI/DB 判例秘書登載/登記情報593号92頁
9 不正な職務上請求は懲戒と罰則の対象(概要)
職務上請求書の利用目的を偽って交付を受けた場合には、懲戒処分の対象になり、罰則も定められています。実際に戒告となった事例を、別の記事で説明しています。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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