離縁のときに財産をもらえるのか|離縁に財産分与の制度はない
1 離縁のときに財産をもらえるのか|離縁に財産分与の制度はない
養子縁組を解消することを離縁といいます。離婚のときは、夫婦の一方が他の一方に対して財産の分与を請求できます。離縁のときも同じように財産を分けてもらえるのか、というのがこの記事の問いです。
答えは、そのための制度が用意されていない、というものです。離婚の財産分与にあたる規定は、離縁については実体法にも手続法にも置かれていません。もっとも、それで話が終わるわけではありません。解釈によって認めるべきだという学説があり、調停や審判の実際は条文が描く姿とは違う形になっています。この記事では、条文・学説・実務の3つを順に見ていきます。
離婚のときに財産分与や年金分割をどのように求めていくのかは、別の記事で説明しています。
離婚訴訟の附帯処分等(子の監護・財産分与・親権者)の申立と審理の理論
2 離縁に財産分与の制度なし→学説は対立・実務は慰謝料の名目
離縁のときに財産的な請求ができるかどうかの見当は、次の表でつきます。この表は当事務所の整理で、各行の根拠はこの記事の本文にあります。
離縁のときの財産的な請求の扱い
| 求めたいこと | 離縁の場面での扱い |
|---|---|
| 離婚と同じ財産分与 | 民法817条が準用しているのは769条(離縁による復氏の際の権利の承継)だけで、768条(財産分与)は準用されていない |
| 離縁の判決と一緒に財産分与の裁判をしてもらうこと | 人事訴訟法32条1項の附帯処分は「婚姻の取消し又は離婚の訴え」に限られ、同法で離縁の訴えの特例を置く46条は、附帯処分に触れる37条1項ただし書を準用から除いている |
| 家庭裁判所への財産分与の申立て | 家事事件手続法別表第二の第四項(財産の分与に関する処分)は根拠に離縁を挙げておらず、離縁について載っているのは第六項(祭具等の所有権の承継者の指定)だけである |
| 解釈によって財産分与を認めること | 学説は分かれている。新版注釈民法は、積極に解する見解と消極に解する見解の双方を並べ、立法論としては認めるのが適当かもしれないとする我妻博士の説明も引いている |
| 離縁に伴う金銭の支払 | 調停の実際では慰謝料の名目で事実上財産分与と認められるものが支払われていると、新版注釈民法は述べている |
| 家庭裁判所の審判による支払 | 24条審判で財産分与として50万円の支払を命じた事例(静岡家審昭和37年4月27日)があると新版注釈民法は挙げる。もっとも、離婚による財産分与の規定の離縁への準用を認めた裁判例は見当たらないと、同書は述べている |
3 離縁に財産分与の準用規定なし|実体法・手続法の両面
離婚の財産分与には、3つの条文がつながっています。請求できることを定める民法768条、その裁判を離婚の判決と一緒に行う根拠である人事訴訟法32条1項、そして家庭裁判所へ申し立てる根拠である家事事件手続法別表第二の第四項です。
離縁について同じ道をたどると、実体法でも手続法でも、財産分与に届く準用規定が見つかりません。以下、3つの法律を順に見ます。
(1)民法817条の準用は769条(祭具等)のみ→768条の財産分与は準用なし
離縁の効果について、民法は817条を置いています。そこで準用されているのは769条(離婚による復氏の際の権利の承継=祭具等を承継すべき者の定め)だけで、768条(財産分与)は準用されていません。
新版注釈民法も、離縁に際して財産分与の請求は認められないかという問題を立てたうえで、準用する旨の規定は見当たらないと述べています。引用中の「(768)」は、民法768条を指す同書の表記です。
民法768条1項の条文
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
※民法768条1項
婚姻によって氏を改めた夫又は妻が、第八百九十七条第一項の権利を承継した後、協議上の離婚をしたときは、当事者その他の関係人の協議で、その権利を承継すべき者を定めなければならない。
※民法769条1項
第七百六十九条の規定は、離縁について準用する。
※民法817条
離縁に財産分与を準用する規定の有無
いま一つの問題は、離縁に際しては、財産分与の請求は認められないかの問題である。
とくに、養子の協力によって養家の財産が増加したような場合や、当該離縁によって、当事者の一方が生計に窮するに至ったような場合などには、離婚による財産分与に関する規定(768)の準用が認められて然るべきではないかとの見方も成り立たないわけではない。
しかし、現行民法には、離婚による財産分与請求に関する規定を、離縁の際にも準用する旨の規定は見当たらない。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p553
(2)人事訴訟法32条1項の附帯処分→婚姻の取消し・離婚に限定
手続の側を見ます。離婚の訴えでは、財産の分与に関する処分は「附帯処分」として、離婚の判決の中で裁判されます。その根拠が人事訴訟法32条1項です。
この条文は、対象を「夫婦の一方が他の一方に対して提起した婚姻の取消し又は離婚の訴え」と二重に限定しています。離縁の訴えはここに入りません。32条が置かれているのは第二章「婚姻関係訴訟の特例」の第二節「附帯処分等」で、離縁の訴えの特例は第四章「養子縁組関係訴訟の特例」に別に置かれています。
人事訴訟法32条1項の条文
裁判所は、申立てにより、夫婦の一方が他の一方に対して提起した婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、子の監護者の指定その他の子の監護に関する処分、財産の分与に関する処分、親権行使者(民法第八百二十四条の二第三項の規定により単独で親権を行使する者をいう。第四項において同じ。)の指定(婚姻の取消し又は離婚に伴って親権を行う必要がある事項に係るものに限る。同項において同じ。)又は厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第七十八条の二第二項の規定による処分(以下「附帯処分」と総称する。)についての裁判をしなければならない。
※人事訴訟法32条1項
(3)人事訴訟法46条の準用→37条1項ただし書(附帯処分)を除外
その第四章は、46条の1条だけです。46条は離縁の訴えについて37条を準用していますが、「第一項ただし書を除く」としています。
除かれた37条1項ただし書は、請求の認諾ができる場合を「第三十二条第一項の附帯処分についての裁判……をすることを要しない場合に限る」としている部分です。離縁の訴えについて準用される範囲から、附帯処分に触れる唯一の部分が外されていることになります。
裁判によって離縁が認められるのはどのような事情があるときかは、別の記事で説明しています。
裁判による離縁が認められる事情(縁組を継続し難い重大な事由)
人事訴訟法37条1項の条文
離婚の訴えに係る訴訟における和解(これにより離婚がされるものに限る。以下この条において同じ。)並びに請求の放棄及び認諾については、第十九条第二項の規定にかかわらず、民事訴訟法第二百六十六条(第二項中請求の認諾に関する部分を除く。)、第二百六十七条第一項及び第二百六十七条の二の規定を適用する。ただし、請求の認諾については、第三十二条第一項の附帯処分についての裁判又は同条第三項の親権者の指定についての裁判をすることを要しない場合に限る。
※人事訴訟法37条1項
第三十七条(第一項ただし書を除く。)の規定は、離縁の訴えに係る訴訟における和解(これにより離縁がされるものに限る。)並びに請求の放棄及び認諾について準用する。
※人事訴訟法46条
(4)家事事件手続法別表第二|第4項(財産の分与)に離縁なし→第6項のみ
家庭裁判所へ財産分与を申し立てる根拠も、家事事件手続法の別表第二にあります。第4項「財産の分与に関する処分」の根拠として挙がっているのは、民法768条2項と、これを準用する749条(婚姻の取消し)・771条(裁判上の離婚)までで、離縁は括弧の中に入っていません。
離縁について別表第二に載っているのは、第6項「離縁等の場合における祭具等の所有権の承継者の指定」だけです。実体法で817条が769条だけを準用していることが、家庭裁判所に申し立てられる事項の一覧にもそのまま現れています。
家事事件手続法別表第二の第四項・第6項
四 財産の分与に関する処分
民法第七百六十八条第二項(同法第七百四十九条及び第七百七十一条において準用する場合を含む。)
※家事事件手続法別表第二
六 離縁等の場合における祭具等の所有権の承継者の指定
民法第八百八条第二項及び第八百十七条において準用する同法第七百六十九条第二項
※家事事件手続法別表第二
4 立法理由——養親子は夫婦と同視できない→離縁の財産分与は立法で除外
準用規定が無いのは、書き漏らしではありません。新版注釈民法は、この点についての立法当局の説明を、立法資料から逐語で引いています。養子と養親の関係は夫婦の関係とは異なり、夫婦が協力して財産をつくったという関係とも異なるので、離婚の際の財産分与と同一視することができない、という理由です。
離縁に財産分与を認めなかった立法理由
そして、その間の事情については、「養子と養親との関係は、殊に養子が、幼少であるというような場合が多かろうと思うのでありまして、それだけからいたしましても、夫婦の関係とは異にいたしておる。
また、夫婦が協力してその夫婦間の財産をつくったという関係とは、いささか養子と養親との関係は違うものではないかということで、この婚姻の場合における離婚の際の財産分与と同一視することができないという理由におきまして、養子縁組の離縁の場合には、これを認めなかったわけであります」(最高裁判所事務総局編・民法改正に関する国会関係資料〔昭28〕225)と説明されていた。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p553
5 学説の対立|解釈で財産分与を認める説あり
条文に準用規定が無いことから、直ちに請求できないという結論が出るわけではないとして、学説は分かれています。新版注釈民法は、解釈論として積極に解する見解と消極に解する見解の双方を並べ、さらにその間に置かれる説明として、我妻博士と中川高男教授の見解を引いています。
(1)解釈論の対立|積極=沼正也「養子法の改正方向」・消極=中川498
積極に解する側として挙げられているのが沼正也「養子法の改正方向」(ひろば12巻9号)で、消極に解する側として挙げられているのが、同書が「中川498」と略記して引く文献です。
解釈論としての積極説と消極説
しかし、学者の見解は分かれており、甲の学者は、解釈論的にも積極的であるかと思えば(沼正也「養子法の改正方向」ひろば12巻9号〔昭34〕9)、乙の学者は、解釈論的には消極的であった(中川498)。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p553
(2)我妻=立法論としては適当・中川高男=条理により財産分与請求権を肯定
我妻博士は、離縁にはそのような制度は認められていないとしながら、立法論としては、当事者間の円満な解決をはかるためだけでも、認めるのが適当かもしれないと述べています。中川高男教授は、財産分与を親子の共同生活の廃止に当たっての共同財産の清算またはその分割と捉えれば離縁の場合に否定される理由はないとして、離縁の場合も財産分与請求権は条理により認められているものとおもう、と述べています。
次の引用は一続きの文で、2つの見解が続けて紹介されています。中川高男教授の見解の中には、養親子間には夫婦財産の共有に関する規定(民法762条2項)を欠くという指摘と、離縁調停等の実際では慰謝料とともに財産分与の請求がなされるのは珍しくないという指摘も含まれています。
我妻博士と中川高男教授の見解
その間にあって、我妻博士は、「離婚においては、財産分与請求権が重要な問題とされたが、離縁にはそのような制度は認められていない。
立法論としては―当事者間の円満な解決をはかるためだけでも―認めるのが適当かもしれない」と述べられていた(我妻309)が、その後、中川高男教授もまた、「しかし、財産分与が、親子の共同生活の廃止に当っての共同財産の清算またはその分割とすれば、離縁の場合に否定される理由はない。
有力学説や各裁判所の意見も、一定条件のもとで、財産分与請求権を認めるよう提唱している。
養親子間には、婚姻の場合の夫婦財産の共有に関する規定(762条2項)を欠き、また個人財産が建前とはいえ、共同生活に伴なう帰属不明の財産や共有財産があるのではあるまいか。
そして、実際上も、離縁調停等の実際においては、慰謝料とともに財産分与の請求がなされるのは珍しくないようである。
とくに、これを禁止する規定もないのであるから、離縁の場合も、財産分与請求権は、条理により認められているものとおもう」(中川高・養子(2)123)と、積極的な見解を述べられていた。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p553〜554
6 調停・24条審判では事実上の給付あり→準用を認めた裁判例は見当たらない
条文と学説を離れて、実際の姿を見ます。新版注釈民法は、調停の実際では慰謝料の名目で事実上財産分与と認められるものが支払われていると述べ、財産分与として支払を命じた審判例も挙げています。そのうえで、離婚による財産分与の規定の離縁への準用を認めた裁判例は見当たらない、という一文でこの箇所を締めています。
(1)調停の実際=慰謝料の名目で事実上の財産分与・24条審判で財産分与50万円
新版注釈民法が挙げているのは、実の娘の夫を養子とした後、娘と養父母とが夫(養子)を相手に離婚・離縁を求めた事案で、離婚と離縁を認め、子の親権者を母(実娘)と指定するとともに、夫(養子)に対して財産分与として50万円の支払を命じた審判例(静岡家審昭和37年4月27日)です。同書は、これを「24条審判」と呼んでいます。
請求の名目が慰謝料になるところまでが、この記事の範囲です。離縁に伴って慰謝料を請求できるかは、別の記事で説明しています。
調停の実際と24条審判の事例
ちなみに、調停の実際においても、慰謝料の名目で、事実上財産分与と認められるものが支払われているときくが、審判例(24条審判)の中にも、実の娘の夫を養子とした後、娘と養父母とが、夫(養子)を相手に、離婚・離縁を求めた事案において、離婚と離縁を認め、相手方(夫)と娘との間の子の親権者を母(実娘)と指定するとともに、相手方(夫)に対して、財産分与として50万円の支払を命じていた事例(静岡家審昭37・4・27家月14・8・160)があった。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p554
(2)離婚の財産分与の規定の離縁への準用を認めた裁判例は見当たらない
新版注釈民法は、この審判例を挙げた直後に、次の一文を置いています。ここで述べられているのは同書の記述であり、当方が裁判例を網羅して確かめた結果ではありません。
準用を認めた裁判例の有無
しかし、裁判例にして、離婚による財産分与の規定の離縁への準用を認めたものは、見当たらない。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p554
7 おわりに
離縁には、離婚の財産分与に相当する制度がありません。民法817条が準用するのは769条だけで、人事訴訟法の附帯処分も、家事事件手続法別表第二の財産の分与に関する処分も、離縁には及んでいません。立法当局の説明も、養親子の関係を夫婦の関係と同一視することができないという理由で、これを認めなかったと述べています。
他方で、解釈によって財産分与請求権を認めるべきだという学説があり、調停の実際では慰謝料の名目で事実上の財産分与が支払われ、財産分与として支払を命じた審判例もあります。条文の姿と実際の姿がずれている論点で、離縁の場面で金銭を求めるときには、請求の名目の立て方そのものが問題になります。
離縁によって相続分や遺留分など何を失うのかは、別の記事で説明しています。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。
本記事の表示では、読点を「、」に統一しています(引用の原文が全角の「,」や半角の「,」である場合を含みます。ただし「1,000」のような桁区切りはそのまま表示しています)。
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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