離縁すると何を失うのか|相続分・遺留分・遺贈の撤回擬制

1 離縁すると何を失うのか|相続分・遺留分・遺贈の撤回擬制

養子縁組を解消することを離縁といいます。離縁をすると、養親の相続はどうなるのでしょうか。養親が「不動産を養子に遺贈する」という遺言を残していた場合、その遺言も無駄になってしまうのでしょうか。

離縁をすると、縁組によって生じた親族関係が終了します。その結果、養子は養親の相続について相続人ではなくなり、法定相続分も、相続人に認められる遺留分も失います。それだけではありません。終生の扶養を受けることを前提として縁組をしたうえで受けていた遺贈も、その後にされた協議離縁と抵触するものとして、撤回したものとみなされることがあります(民法1023条2項)。

この記事では、離縁によって何が失われるのかを、条文と判例で順に確かめます。ここで扱うのは、養親と養子の双方が生きている間にする離縁です。当事者の一方が死亡した後にする死後離縁は、既に発生した相続の効果を覆すものではないので、相続には影響しません。離縁の種類と死後離縁については、別の記事で説明しています。

離縁の種類|死後離縁|相続には影響なし・原則的に家裁の許可が得られる

離縁に応じる代わりに財産を受け取れるのか、という請求権の側の問題は、別の記事で説明しています。

離縁のときに財産をもらえるのか|離縁に財産分与の制度はない

2 離縁→養親の法定相続分・遺留分を喪失、遺贈も民法1023条2項で撤回擬制

離縁によって失われるものと、その根拠を整理すると次のとおりです。この表は当事務所の整理で、各行の根拠はこの記事の本文にあります。

離縁で失うものと、その根拠

離縁で失うもの 根拠
養親の相続についての相続人の地位(法定相続分) 民法729条により、縁組によって生じた親族関係が離縁で終了する。その結果、民法887条1項の「子」に当たらなくなる
遺留分 民法1042条1項は、遺留分を受ける者を「兄弟姉妹以外の相続人」と定めている
終生の扶養を前提とした縁組で受けていた遺贈 法律上も事実上も扶養を受けないことにした協議離縁と抵触するものとして、民法1023条2項により取り消されたものとみなされる(最判昭和56年11月13日)

3 縁組で生じる親族関係・嫡出子の身分→離縁による終了

養子縁組をすると、養子と養親との間に親族関係が生じ、養子は養親の嫡出子としての身分を取得します。離縁はこの状態を終わらせる手続です。民法は、縁組で生じるものと離縁で終わるものを、別の条文で対にして定めています。相続の話に入る前に、この対を確かめます。

(1)民法727条・809条|縁組の日からの親族関係・嫡出子の身分の発生

縁組の日から生じるものは2つあります。1つは、養子と養親及びその血族との間の親族関係で、血族間におけるのと同一のものとされます。もう1つは、養親の嫡出子としての身分です。養子が養親の相続人になるのはこの身分によるので、離縁の話はここから始まります。

条文

縁組による親族関係の発生

養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。

※民法727条

条文

嫡出子の身分の取得

養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。

※民法809条

(2)民法729条|縁組によって生じた親族関係の離縁による終了

離縁によって終了するのは、縁組を通じて生じていた親族関係です。範囲は養子と養親の間だけではありません。養子の配偶者、養子の直系卑属とその配偶者と、養親及びその血族との間の親族関係も、あわせて終了します。

条文

離縁による親族関係の終了

養子及びその配偶者並びに養子の直系卑属及びその配偶者と養親及びその血族との親族関係は、離縁によって終了する。

※民法729条

(3)「離縁で嫡出子の身分を失う」の明文なし→民法729条からの推論

ここで条文の書き方に注意が要ります。民法は、縁組によって嫡出子の身分を取得することを809条で明文で定めていますが、離縁によってその身分を失うことを定めた条文を本則に置いていません。離縁をすると養親の相続人ではなくなる、という結論は、729条が縁組による親族関係を終了させることからの一段の推論です。この記事でも、親族関係の終了は条文の明文として、相続人でなくなることはそこからの帰結として書き分けます。

4 民法887条1項|被相続人の子=相続人→離縁で法定相続分の喪失

誰が相続人になるかを定めるのは民法887条1項です。被相続人の子は相続人になります。養子は縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得するので(民法809条)、養親が亡くなったときは「子」として相続人になり、法定相続分を持ちます。

離縁をすると、その前提になっていた親族関係が終了します(民法729条)。したがって、離縁の後に養親が亡くなっても、元の養子は887条1項の「子」ではなく、法定相続分もありません。ここで前提になっているのは時系列です。この記事が扱うのは、離縁が養親の死亡より前にされた場合です。

条文

子及びその代襲者等の相続権

被相続人の子は、相続人となる。

※民法887条1項

5 民法1042条1項|遺留分は「兄弟姉妹以外の相続人」→離縁で喪失

遺言で取り分を奪われた相続人にも、最低限の取り分が保障されます。これが遺留分です。民法1042条1項は、遺留分を受ける者を「兄弟姉妹以外の相続人」と定め、その割合を各号で分けています。

養子は養親の子として相続人になるので、遺留分を持ちます。離縁によって相続人でなくなると、この遺留分も残りません。養親が他の相続人に全財産を与える遺言を残していても、元の養子の側から遺留分を持ち出して修正させる余地はない、ということになります。

条文

遺留分の帰属及びその割合

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

※民法1042条1項

6 扶養を前提とした縁組の遺贈→協議離縁による撤回擬制

ここまでは、法律が定める取り分の話でした。では、養親が遺言で養子に財産を与えていた場合はどうなるのでしょうか。相続人ではなくなっても遺言そのものは残るのではないか、と考えたくなるところです。しかし、遺言が後の行為と抵触するときは、その抵触する部分を撤回したものとみなす規定が置かれています。終生の扶養を受けることを前提とした縁組で受けていた遺贈は、この撤回擬制によって失われることがあります。

(1)民法1023条2項|遺言後の生前処分その他の法律行為との抵触→撤回擬制

民法1023条は、前の遺言が後の遺言と抵触するときに、その抵触する部分を後の遺言で撤回したものとみなします(1項)。2項は、この規定を、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合に準用します。遺言の後にされた行為が、財産を動かす行為に限られないことは、この文言から出てきます。

どのような行為が「抵触」に当たるのか、という撤回擬制の要件そのものは、別の記事で説明しています。

遺言に抵触する法律行為による撤回擬制の要件(民法1023条2項)

条文

前の遺言と後の遺言との抵触等

前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

※民法1023条

(2)終生扶養の前提での遺贈→協議離縁と抵触・最判昭和56年11月13日

終生の扶養を受けることを前提として養子縁組をし、その所有する不動産の大半を養子に遺贈する遺言をした者が、その後に養子に対する不信の念を深くして協議離縁をし、法律上も事実上も扶養を受けないことにした場合、その遺言は、後にされた協議離縁と抵触するものとして、民法1023条2項により取り消されたものとみなされます。扶養を前提として財産を与えるという縁組の組み立てが崩れた場合には、遺贈だけが残るとは扱われない、ということです。

根拠は最判昭和56年11月13日です。この判決が民法1023条2項の「抵触」をどう読んだのか、事案がどう動いたのかは、判決文の引用とあわせて別の記事で説明しています。

遺言と抵触する「趣旨」の身分行為による遺言撤回擬制(最判昭和56年11月13日)

7 おわりに

離縁をすると、縁組によって生じた親族関係が終了し(民法729条)、養親の相続について「子」ではなくなります(民法887条1項)。法定相続分も、相続人に認められる遺留分(民法1042条1項)も残りません。「離縁で嫡出子の身分を失う」と定めた条文が本則にないことは前述のとおりで、この結論は729条からの帰結です。そして、終生の扶養を前提として受けていた遺贈も、協議離縁と抵触するものとして取り消されたものとみなされることがあります(民法1023条2項)。離縁の効果は、身分関係の終了にとどまりません。

離縁に応じる代わりに財産を受け取れるのか、という請求権の側の問題は、別の記事で説明しています。

離縁のときに財産をもらえるのか|離縁に財産分与の制度はない

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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