最判昭和40年5月21日|養親子関係の客観的破壊と離縁
1 最判昭和40年5月21日|養親子関係の客観的破壊と離縁
養子縁組を裁判で解消するには、民法814条1項3号の「縁組を継続し難い重大な事由」が必要です。この事由をどう解釈するのか、どのような事情がこれに当たるとされているのかは、別の記事で説明しています。
裁判による離縁が認められる事情(縁組を継続し難い重大な事由)
最高裁判所第二小法廷は、昭和40年5月21日、養親が養子に対して起こした離縁請求事件について、離縁請求を認容した原判決の判断を「首肯できる」として、上告を棄却しました。原判決は、離別から16年余が経過し、経済的な扶養扶助の関係も、親子としての交際も、精神的なつながりも全く失われていると認めたうえで、養親子間の実質的な親子関係が客観的に破壊されたと認められる場合には、解消を望む当事者側に原因があるなど身分法を貫く正義の原則に著しく反する特段の事情がない限り、その当事者の離縁請求は「重大な事由」があるとして許されるべきである、と判断していたものです。
この記事では、この判決が何をどう判断したのかを、事案と訴訟の経過から順に見ていきます。
2 結論——客観的破壊→特段の事情なき限り民法814条1項3号の「重大な事由」
この判決から取り出せる規範を並べます。いずれも後述の各節で判決文と判例タイムズの解説を挙げて説明します。
この判決には、判例タイムズ178号に載った短い解説があります。以下ではこれを判例タイムズの解説と呼びます。ほかに、『新版注釈民法(24)親族(4) 親子(2)養子』の裁判離縁の解説がこの判決を取り上げているので、あわせて引きます。以下ではこれを注釈民法と呼びます。
結論——客観的破壊→特段の事情なき限り民法814条1項3号の「重大な事由」
あ 判決が明示したこと
(ア)養親子関係が客観的に破壊されたとは、経済的な扶養扶助の関係も、通常の社会生活上一般に認められ要求される親子としての交際もなく、合理的な親子の関係として要請される精神的なつながりも全く失われた状態をいう。(イ)客観的に破壊されているときは、破壊に至った原因が全面的にまたは主として解消を望む当事者側にあるなど、身分法を貫く正義の原則に著しく反する特段の事情がない限り、その当事者の離縁請求は認められる(民法814条1項3号)。
い 判決に明示なし——評釈の批判(判決は述べていない)
客観的破壊についての一般的な提言には、具体的な事実の裏づけがないと批判されている。
3 事案——婿養子縁組・長女Aの死亡後の離縁申入れ→16年余の離別
判決文は当事者を訴訟上の地位で呼びます。被上告人が離縁を求めた養親、上告人がその養子です。注釈民法のほうは、養親をX、養子をY、Xの長女でYの妻となった人をAと呼びます。以下の引用も、それぞれの呼び方によります。
Yは昭和11年にXの養子となり、あわせてXの長女Aと結婚しました。養親夫妻とA、2人の子どもとともに暮らし、Xの農業を手伝うほか、農閑期にはハッカの集買を営み、のちにAを伴って大阪へ出て牛乳販売業を営んでいます。
戦争で応召し、昭和21年に復員してX方に同居しますが、翌22年にAが亡くなります。Xは四十九日の回向の直後に、Aも死んだのだから離縁するので出て行ってほしいとYに申し入れました。その後双方は不仲になり、離籍は時期をみて実行するという約定書が作られましたが、Yに離縁の意思はなく、Xが離縁の訴えを起こしました。
なお、約定書の作成の場面について、注釈民法はこの一文だけ当事者を訴訟上の地位で呼んでいます(上告人=養子Y)。直後の「Yには離縁の意思はなかった」という記述と読み合わせると整合しませんが、原文のまま引きます。
もっとも、事案の詳細はこれ以上多くを知ることができません。注釈民法は、本件の事実関係は上告理由中にみられるだけで片面的だと述べ、原審判決の写しからうかがえることとして、約定書の作成時にYがX方を出て2人の子を分けて養育することにしたこと、その後Yが他の女性と事実上の婚姻生活に入り1子をもうけたこと、Xがこの内縁関係と子の出生も併せ指摘して「重大な事由」の存在を主張したことを挙げています。
縁組から離縁の申入れ、訴えの提起までの経過
被告Yは昭和11年原告Xの養子となりかつXの長女Aと婚姻し、爾来養親夫妻・妻Aおよび2人の子らと生活してきたが、その間YはXの農耕の手伝いをするほか、農閑期にはハッカの集買を養父母の了解を得て営み、家計の扶けとしていたが、その後Xとも相談してAを伴って大阪に行き、牛乳販売業を営んでいた。
しかし戦争により応召、21年復員してX方に同居したが、22年妻Aが死亡すると、Xはその49日の回向直後突如としてYに、Aも死んだこと故離縁するから出て行ってほしいと申し入れた。
その後双方不仲となり、同年秋仲に入った者と上告人の強い勧めもあって、離籍は他日時期をみて実行する旨約定書を作成したが、Yには離縁の意思はなかったところ、Xは離縁の訴えを提起したという事案である。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p528
事実関係は上告理由中にみられるだけで片面的である
本件の事実関係は上告理由中にみられるだけで片面的であり、原審判決のコピーから(国府・前掲〔判批〕同志社法学96号93参照)うかがいうることは、前記の約定書作成時に、ともかくYはX方を出て、2子のうち長男をYが、長女をXがそれぞれ引き取って養育することとしたこと、その後Yは他の女性と事実上の婚姻生活に入り、1子をもうけたこと、Xはこの内縁関係と1子出生をも併せ指摘して、「重大な事由」の存在を主張したことなどである。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p528〜529
4 下級審——一審・二審とも養親子関係の破綻を認定→養子Yの上告
第一審は岡山地方裁判所、第二審は広島高等裁判所岡山支部(昭和39年6月26日判決)です。いずれも養親子関係の破綻があるとしてXの離縁請求を認容し、Yが上告しました。最高裁判所第二小法廷は、昭和40年5月21日、上告を棄却しています。
注釈民法は、この経過を次のようにまとめています。引用の後半は最高裁の判断で、「判示」以下で順に見ていきます。
一審・二審とも破綻を認めて請求を認容し、本判決もその判断を支持した
これに対し一審・二審とも養親子関係の破綻があるとして、Xの請求を認容し、本判決もまたそれらの判断を支持して、「XとYとの原判示離別以来すでに16年余を経過し、現在においてはもはや両者間には経済的な扶養扶助の関係はもちろんのこと、通常の社会生活上一般に認められ要求される親子としての交際はみられず、また合理的な親子の関係として要請される精神的なつながりも全く失なわれているものと認めざるをえない……右のように養親子間における実質的な親子関係が客観的に破壊されたものと認められる」として、さらに有責当事者の離縁請求について論じて、「重大な事由」があるとした。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p528
5 判示|原判決の認定と法律判断を「首肯できる」と是認
この判決は一文だけの短いものです。原判決が何を認定し、そこからどういう法律判断をしたのかを引き写したうえで、それを「首肯できる」と述べる形をとっています。
判例タイムズの判決要旨も注釈民法も、この引き写された部分を、この判決が示した判断として読んでいます。以下もその読み方によります。
原判決の認定と法律判断を引き写して「首肯できる」とした判決文
原判決が、挙示の証拠関係から、被上告人と上告人との原判示離別以来すでに一六年余を経過し、現在においてもはや両者間には経済的な扶養扶助の関係はもちろんのこと、通常の社会生活上一般に認められ要求される親子としての交際はみられず、また合理的な親子の関係として要請される精神的なつながりも全く失なわれているものと認めざるをえないとした上で、右のように養親子間における実質的な親子関係が客観的に破壊されたものと認められる場合に、一方の当事者がその養親子関係の解消を望むならば、養親子関係が破壊されるにいたつた原因が、全面的にまたは主として、その解消を望む当事者側にある等身分法を貫く正義の原則に著しく反する特段の事情がない限り、その当事者の離縁請求は、縁組を継続し難い重大な事由があるとして許されるべきであるとして、右特段の事情の主張立証なく、これを確認しうる訴訟資料のない本件にあつては、被上告人の上告人に対する離縁請求は右重大な事由の存在を原因として認容されなければならないとしたことは、首肯できる。
※最高裁判所 1965-05-21 裁判集民 79号143頁/家月 17巻6号247頁/裁判所ウェブサイト/判タ 178号104頁/判時 414号23頁
(1)客観的破壊=経済的な扶養扶助・親子としての交際・精神的つながりの全部喪失
まず、養親子間の実質的な親子関係が客観的に破壊されたと認めた部分です。挙げられているのは3つで、経済的な扶養扶助の関係、通常の社会生活上一般に認められ要求される親子としての交際、そして合理的な親子の関係として要請される精神的なつながりです。この3つが、いずれも失われていると認めざるをえない、という形になっています。
時間の点では、原判示の離別からすでに16年余が経過していました。どのくらいの断絶があれば足りるのかという、ほかの裁判例との比較は、別の記事で説明しています。
裁判による離縁が認められる事情(縁組を継続し難い重大な事由)
(2)特段の事情なき限り→民法814条1項3号の「縁組を継続し難い重大な事由」
次が法律判断です。客観的に破壊されたと認められる場合に、一方の当事者がその養親子関係の解消を望むならば、特段の事情がない限り、その当事者の離縁請求は「縁組を継続し難い重大な事由」があるとして許されるべきである——原判決はそう判断し、この判決はそれを「首肯できる」としました。
判例タイムズは、この部分をこの判決の判決要旨として掲げています。
判例タイムズの判決要旨
養親子間における実質的な親子関係が客観的に破壊されている場合には、右破壊の原因が全面的にまた主として離縁を求める者の側にある等、その者からの離縁請求が著しく正義に反するような特段の事情がないかぎり、民法第八一四条第一項第三号所定の「縁組を継続し難い重大な事由」があるといつてさまたげない。
※『判例タイムズ178号』p104〜
(3)特段の事情の根拠=身分法を貫く正義の原則・有責性のより大きい者からの請求も否定
特段の事情として挙げられているのは、養親子関係が破壊されるに至った原因が、全面的にまたは主として、その解消を望む当事者側にある場合です。「等」で結ばれているので、これは例示で、その上位にあるのが「身分法を貫く正義の原則に著しく反する」という括りです。
注釈民法は、この判決について2つの点を挙げています。1つは、破綻主義に対する有責主義的な制限の根拠が「身分法を貫く正義の原則」であることを示した点です。もう1つは、「全面的にまたは主として」という言い方によって、有責の側から無責の側への離縁請求だけでなく、有責性のより大きい者から有責性のより小さい者への離縁請求も否定すべきことを明示した点です。
有責の当事者からの離縁請求が法律上どう扱われるのかは、別の記事で説明しています。
裁判による離縁が認められる事情(縁組を継続し難い重大な事由)
有責主義的制限の根拠が「身分法を貫く正義の原則」であることを示した
その点次に現れた前掲最高裁昭和40年5月21日判決(→2アb)は、「養親子間における実質的な親子関係が客観的に破壊されたものと認められる場合に、一方の当事者がその養親子関係の解消を望むならば、養親子関係が破壊されるにいたった原因が、全面的にまたは主として、その解消を望む当事者側にある等身分法を貫く正義の原則に著しく反する特段の事情がない限り、その当事者の離縁請求は、縁組を継続し難い重大な事由があるとして許されるべきであるとして、右特段の事情の主張立証なく、これを確認しうる訴訟資料のない本件にあっては、XのYに対する離縁請求は右重大な事由の存在を原因として認容されなければならないとしたことは、首肯できる」として、破綻主義の有責主義的制限の根拠が「身分法を貫く正義の原則」であることを示したことは、重要である。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p531
有責性のより大きい者から小さい者への離縁請求も否定すべきことを明示した
また本判決では縁組破綻の原因が「全面的にまたは主として、その解消を望む当事者側にある等」と述べて、有責者から無責者に対する離縁請求だけでなく、有責性のより大きい者から有責性のより小さい者に対する離縁請求も否定すべきことを明示したことも注目されるべきである(国府剛〔判批〕・同志社法学95号〔昭40〕87、広橋・前掲〔判批〕91)。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p531
6 あてはめ——離縁請求を認容した原判決を是認→上告棄却
本件に特段の事情があったかどうかについて、この判決は、その主張立証がなく、これを確認しうる訴訟資料もない事件であると述べ、離縁請求は「重大な事由」の存在を原因として認容されなければならないとした原判決の判断を「首肯できる」として、上告を棄却しました。
(1)特段の事情の不存在=主張立証も訴訟資料もなし
注意したいのは、この判決が、特段の事情は無かったと事実として認定したのではない、という点です。主張も立証もなく、それを確認できる訴訟資料も記録にない、という形での処理になっています。
この形なので、養親の側にどれだけの原因があったのか、それが「全面的にまたは主として」に当たるのかという判断には、この事件では立ち入っていません。
(2)評釈の批判=一般的提言に具体的事実の裏づけなし
注釈民法は、この認定のしかたを批判しています。「重大な事由」の認定についてこの判決が述べた一般的な提言はそれなりに首肯しうるとしながら、それを充足させる事実関係が本当に存在したのかを問い、旧法の婿養子の制度をこの事案へ形式的に類推適用したのであれば容認できないと述べて、結局、一般的な提言は必ずしも具体的事実を伴っていないように思われる、としています。
一般的提言は首肯しうるが、それを充足させる事実関係があったのか
本判決の「重大な事由」認定の一般的提言はそれなりに首肯しうるが、それを充足させる事実関係がはたして存在したのかどうか。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p528
旧法の婿養子の制度の形式的類推適用を図ったとすれば容認できない
本件の「重大な事由」の認定につき、旧法の婿養子または養子が家女と婚姻した場合に、その婚姻が離婚または取り消された場合には、縁組も解消せしめられるという制度の形式的類推適用を図ったとすれば(Xの態度には多分にそのきらいがある)、それは容認できない。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p529
一般的提言は必ずしも具体的事実を伴っていない
こうみてくると「重大な事由」の存在認定に関する本判決の一般的提言は必ずしも具体的事実を伴っていないように思われる(国府・前掲〔判批〕同志社法学96号92はこの点を批判する)。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p529
7 決めていないこと——特段の事情の具体的な中身・客観的破壊に至らない場合
この判決が決めていないことを、2つ挙げます。
1つは、特段の事情の具体的な中身です。示されているのは、原因が全面的にまたは主として解消を望む当事者側にある場合という例示で、しかも本件ではその主張立証がなかったので、どの程度の有責性があれば離縁請求が退けられるのかは、この事件では判断されていません。判例タイムズの解説も、この判決を、破綻主義を基本としながら有責主義からの限界に言及したものとして位置づけています。言及であって、線を引いたわけではありません。
もう1つは、客観的な破壊がその程度に至っていない場合です。この判決は、原判決が客観的に破壊されたと認めた事案についての判断で、破壊がそこまで至っていない場合にどうなるのかは述べていません。
なお、注釈民法は、本件を、養子の側が離縁に内諾を与えていたとみられる事案でもあると読んでいます。その離縁の意思の点から「重大な事由」を認定できるのではないか、という見方です。これはこの判決が述べたことではありません。当事者の双方が離縁を望んでいるときに離縁の意思がどう働くのかは、別の記事で説明しています。
双方が離縁を望むとき離縁は認められるか|民法814条1項3号の「重大な事由」
破綻主義を基本としながら有責主義からの限界に言及した点が注目される
この判決も、破綻主義を基本としながら、有責主義からの限界に言及している点が注目される。
※『判例タイムズ178号』p104〜
本件は養子が離縁に内諾を与えていたとみられる事案でもある
ただ一つ本件においては、YはXとの離縁に内諾を与えているとみられるのであって、それが2児の引き取り方に現れ、またYの再婚と関係があるやにみうけられるし、また16年に及ぶ疎遠関係の背景となっているのではないか。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p529
8 おわりに
昭和40年5月21日の判決が示したのは、養親子間の実質的な親子関係が客観的に破壊されたと認められる状態の中身と、それが認められたときに離縁請求を退けうる特段の事情の枠でした。経済的な扶養扶助の関係・親子としての交際・精神的なつながりの3つがすべて失われている、という形で示され、本件では離別から16年余が経過していました。
裁判で離縁が認められる事情の全体像は、別の記事で説明しています。
裁判による離縁が認められる事情(縁組を継続し難い重大な事由)
当事者の双方が離縁を望んでいるときの扱いも、別の記事で説明しています。
双方が離縁を望むとき離縁は認められるか|民法814条1項3号の「重大な事由」
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。
本記事の表示では、読点を「、」に統一しています(引用の原文が全角の「,」や半角の「,」である場合を含みます。ただし「1,000」のような桁区切りはそのまま表示しています)。
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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