賃貸住宅管理業者の業務上の義務|業務管理者・書面交付・分別管理・定期報告
1 賃貸住宅管理業者の業務上の義務|業務管理者・書面交付・分別管理・定期報告
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の登録を受けた賃貸住宅管理業者には、登録を受けたこと自体とは別に、業務の進め方についての義務が課されます。営業所に置く人、契約のときに渡す書面、預かった金銭の管理の仕方、オーナーへの報告までが条文で決められています。
どういう事業者が登録を受けることになるのかは、別の記事で説明しています。
賃貸住宅管理業の登録義務|200戸以上は登録が必要・無登録営業は罰則
本記事では、業務管理者の選任、管理受託契約の書面交付、受託した管理業務の扱い、委託者への定期報告、そして事業の営み方と営業所についての義務を、条文にそくして説明します。
これらの義務に違反したときに国土交通大臣が動く手段と、罰則は、別の記事で説明しています。
賃貸住宅管理業者に対する監督と罰則|業務改善命令・登録の取消し・業務停止
2 結論——契約の前後に書面を交付し、金銭を分別管理し、委託者へ定期報告
本記事の結論を先にまとめます。いずれの行も、後述の各節で条文を挙げて説明します。
賃貸住宅管理業者が負う業務上の義務
(ア)営業所または事務所ごとに業務管理者を1人以上選任し、管理受託契約の内容の明確性や維持保全の実施方法の妥当性についての管理・監督の事務を行わせる(法12条1項)(イ)業務管理者が欠けた営業所では、新たに選任するまで管理受託契約を締結できない(法12条2項)(ウ)業務管理者は他の営業所・事務所の業務管理者になれない(法12条3項)(エ)管理受託契約を締結しようとするときは、締結までに契約の内容と履行に関する事項について書面を交付して説明する(法13条1項)(オ)締結したときは、委託者に対し遅滞なく6号の事項を記載した書面を交付する(法14条1項)(カ)委託を受けた管理業務の全部の再委託は禁止。一部の再委託は禁じられていない(法15条)(キ)受領する家賃・敷金・共益費その他の金銭は、自己の固有財産および他の管理受託契約で受領する金銭と分別して管理する(法16条)(ク)管理業務の実施状況等を定期的に報告する相手は委託者(法20条)(ケ)信義を旨として誠実に業務を行い、自己の名義で他人に賃貸住宅管理業を営ませない(法10条・11条)(コ)従業者に証明書を携帯させ、営業所ごとに帳簿を備え付け、公衆の見やすい場所に標識を掲げる(法17条〜19条)(サ)業務上知り得た秘密は、賃貸住宅管理業を営まなくなった後も漏らしてはならない(法21条)
3 業務管理者の選任(法12条)=営業所・事務所ごとに1人以上
法12条1項は、営業所または事務所ごとに1人以上の業務管理者を選任し、その営業所の業務に関して管理および監督に関する事務を行わせなければならないと定めます。
管理・監督の対象として条文が名指ししているのは、管理受託契約の内容の明確性と、管理業務として行う賃貸住宅の維持保全の実施方法の妥当性です。そのほかに、入居者の居住の安定と賃貸に係る事業の円滑な実施を確保するため必要な事項が国土交通省令に委ねられています。
なお、同項は「管理受託契約」を、管理業務の委託を受けることを内容とする契約と定義しており、以後の条文はこの語を使います。
法12条1項=営業所・事務所ごとに1人以上の業務管理者を選任する
賃貸住宅管理業者は、その営業所又は事務所ごとに、一人以上の第四項の規定に適合する者(以下「業務管理者」という。)を選任して、当該営業所又は事務所における業務に関し、管理受託契約(管理業務の委託を受けることを内容とする契約をいう。以下同じ。)の内容の明確性、管理業務として行う賃貸住宅の維持保全の実施方法の妥当性その他の賃貸住宅の入居者の居住の安定及び賃貸住宅の賃貸に係る事業の円滑な実施を確保するため必要な国土交通省令で定める事項についての管理及び監督に関する事務を行わせなければならない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律12条1項
(1)選任を欠く間は管理受託契約を締結できない(法12条2項)
選任は形だけのものではありません。法12条2項は、選任した業務管理者の全てが登録の拒否事由(法6条1項1号から7号まで)のいずれかに該当したとき、または全てが欠けるに至ったときは、新たに選任するまでの間、その営業所または事務所において管理受託契約を締結してはならないと定めています。
既存の契約に基づく管理業務が止まるわけではありませんが、新規の受託はできなくなります。違反して契約を締結すると罰則の対象です。
法12条2項=全員が欠けたら、選任するまで管理受託契約を締結できない
賃貸住宅管理業者は、その営業所若しくは事務所の業務管理者として選任した者の全てが第六条第一項第一号から第七号までのいずれかに該当し、又は選任した者の全てが欠けるに至ったときは、新たに業務管理者を選任するまでの間は、その営業所又は事務所において管理受託契約を締結してはならない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律12条2項
(2)業務管理者の兼任の禁止と選任の要件(法12条3項・4項)
法12条3項は、業務管理者は他の営業所または事務所の業務管理者となることができないと定めます。1人が複数の営業所を掛け持ちすることはできません。
4項が要件です。登録の拒否事由(法6条1項1号から7号まで)のいずれにも該当しない者で、1項の事務を行うのに必要な知識および能力を有する者として、賃貸住宅管理業に関する一定の実務の経験その他の国土交通省令で定める要件を備えることが求められます。
法12条3項=他の営業所・事務所の業務管理者になれない
業務管理者は、他の営業所又は事務所の業務管理者となることができない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律12条3項
法12条4項=欠格事由に当たらず、実務の経験その他省令の要件を備える者
業務管理者は、第六条第一項第一号から第七号までのいずれにも該当しない者で、賃貸住宅管理業者の営業所又は事務所における業務に関し第一項に規定する事務を行うのに必要な知識及び能力を有する者として賃貸住宅管理業に関する一定の実務の経験その他の国土交通省令で定める要件を備えるものでなければならない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律12条4項
4 管理受託契約の書面は締結前と締結時の2回(法13条・14条)
管理受託契約については、書面を渡す場面が2つあります。締結する前に説明のために交付するものと、締結したあとに契約の内容を記載して交付するものです。義務の中身も相手も違うので、順に見ます。
(1)締結前の書面交付=内容と履行に関する事項の説明(法13条1項)
法13条1項は、管理受託契約を締結しようとするときは、管理業務を委託しようとする賃貸住宅の賃貸人に対し、締結するまでに、契約の内容およびその履行に関する事項であって国土交通省令で定めるものについて、書面を交付して説明しなければならないと定めます。交付だけでは足りず、説明までが義務です。
相手方からは、賃貸住宅管理業者である者その他の管理業務に係る専門的知識および経験を有すると認められる者として省令で定めるものが除かれています。また、賃貸人の承諾を得れば、書面の交付に代えて電磁的方法で提供することもできます(同条2項)。
法13条1項=締結までに、内容と履行に関する事項を書面を交付して説明する
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約を締結しようとするときは、管理業務を委託しようとする賃貸住宅の賃貸人(賃貸住宅管理業者である者その他の管理業務に係る専門的知識及び経験を有すると認められる者として国土交通省令で定めるものを除く。)に対し、当該管理受託契約を締結するまでに、管理受託契約の内容及びその履行に関する事項であって国土交通省令で定めるものについて、書面を交付して説明しなければならない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律13条1項
(2)締結時の書面の記載事項は6号(法14条1項)
法14条1項は、管理受託契約を締結したときは、委託者に対し、遅滞なく、各号の事項を記載した書面を交付しなければならないと定めます。ここで「委託者」という語が、管理業務を委託する賃貸住宅の賃貸人を指すものとして定義されます。
記載事項は、管理業務の対象となる賃貸住宅、管理業務の実施方法、契約期間に関する事項、報酬に関する事項、契約の更新または解除に関する定めがあるときはその内容、そして国土交通省令で定める事項の6つです。
法14条1項=締結したときは、遅滞なく6号の事項を記載した書面を交付する
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約を締結したときは、管理業務を委託する賃貸住宅の賃貸人(以下「委託者」という。)に対し、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
一 管理業務の対象となる賃貸住宅
二 管理業務の実施方法
三 契約期間に関する事項
四 報酬に関する事項
五 契約の更新又は解除に関する定めがあるときは、その内容
六 その他国土交通省令で定める事項
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律14条1項
5 受託した管理業務の扱い=全部の再委託の禁止と金銭の分別管理
受託したあとの扱いにも2つの制約があります。誰に行わせるかという制約と、預かった金銭をどう持つかという制約です。
(1)管理業務の全部の再委託の禁止(法15条)=一部の再委託は規制の外
法15条は、委託者から委託を受けた管理業務の全部を他の者に対し再委託してはならないと定めます。禁じられているのは全部の再委託で、一部の再委託は同条の対象ではありません。
全部を再委託できてしまうと、登録を受けた事業者が名義だけを提供して実際の業務は登録のない者が行う形になります。名義貸しの禁止(法11条)と並んで、登録制度の実効性を保つ定めです。
法15条=委託を受けた管理業務の全部を再委託してはならない
賃貸住宅管理業者は、委託者から委託を受けた管理業務の全部を他の者に対し、再委託してはならない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律15条
(2)家賃・敷金等の分別管理(法16条)=固有財産と他の契約の金銭から分別
法16条は、管理受託契約に基づく管理業務において受領する家賃・敷金・共益費その他の金銭を、国土交通省令で定める方法により、自己の固有財産および他の管理受託契約に基づく管理業務において受領する金銭と分別して管理しなければならないと定めます。
分けるべき相手が2つあることに注意が要ります。事業者自身の財産と分けるだけでなく、別のオーナーから預かった金銭とも分ける必要があります。対象になるのは法2条2項2号の金銭管理の業務に限られるので、維持保全だけを受託している場合には当たりません。
法16条=固有財産と、他の管理受託契約で受領する金銭から分別して管理する
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約に基づく管理業務(第二条第二項第二号に掲げるものに限る。以下この条において同じ。)において受領する家賃、敷金、共益費その他の金銭を、整然と管理する方法として国土交通省令で定める方法により、自己の固有財産及び他の管理受託契約に基づく管理業務において受領する家賃、敷金、共益費その他の金銭と分別して管理しなければならない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律16条
6 管理業務の実施状況の定期報告(法20条)=報告の相手は委託者
法20条は、管理業務の実施状況その他の国土交通省令で定める事項について、省令で定めるところにより、定期的に、委託者に報告しなければならないと定めます。
報告の相手は委託者、つまり管理を委託した賃貸人です。国土交通大臣に対しては、監督のための報告徴収(法26条1項)がありますが、それは求めがあったときに応じるもので、定期的な報告義務ではありません。2つを混同しないようにする必要があります。
法20条=定期的に、委託者に報告しなければならない
賃貸住宅管理業者は、管理業務の実施状況その他の国土交通省令で定める事項について、国土交通省令で定めるところにより、定期的に、委託者に報告しなければならない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律20条
7 事業の営み方についての義務=誠実義務・名義貸しの禁止・秘密の保持
最後に、個々の契約に紐づかない義務を見ます。事業の進め方そのものに向けられたもので、違反すれば監督処分や罰則の対象になります。
(1)業務処理の原則と名義貸しの禁止(法10条・11条)
法10条は、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならないと定めます。抽象的な定めですが、法23条1項3号が「その営む賃貸住宅管理業に関し法令…に違反したとき」を登録の取消し・業務停止の事由にしているので、監督処分の足がかりになります。
法11条は、自己の名義をもって他人に賃貸住宅管理業を営ませてはならないと定めます。違反は法41条3号で、無登録営業と同じ重さの罰則になります。
法10条=信義を旨とし、誠実に業務を行う
賃貸住宅管理業者は、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律10条
法11条=自己の名義で他人に賃貸住宅管理業を営ませてはならない
賃貸住宅管理業者は、自己の名義をもって、他人に賃貸住宅管理業を営ませてはならない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律11条
(2)秘密を守る義務(法21条)=やめた後も続き、従業者にも及ぶ範囲
法21条1項は、正当な理由がある場合でなければ、業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならないと定め、賃貸住宅管理業を営まなくなった後も同様だとしています。
2項は、代理人・使用人その他の従業者について同じ義務を課し、これも従業者でなくなった後まで続きます。義務を負うのは事業者だけではありません。
法21条=正当な理由がなければ秘密を漏らしてはならない。やめた後も同様
賃貸住宅管理業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。賃貸住宅管理業を営まなくなった後においても、同様とする。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律21条1項
賃貸住宅管理業者の代理人、使用人その他の従業者は、正当な理由がある場合でなければ、賃貸住宅管理業の業務を補助したことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。賃貸住宅管理業者の代理人、使用人その他の従業者でなくなった後においても、同様とする。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律21条2項
8 営業所ごとの義務=証明書の携帯・帳簿の備付け・標識の掲示(法17条〜19条)
営業所または事務所を単位とする義務が3つあります。法17条1項は、国土交通省令で定めるところにより、業務に従事する使用人その他の従業者に従業者であることを証する証明書を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはならないと定めます。2項により、委託者その他の関係者から請求があったときは提示することになります。
法18条は、営業所または事務所ごとに業務に関する帳簿を備え付け、委託者ごとに管理受託契約について契約年月日その他の省令で定める事項を記載し、これを保存しなければならないと定めます。
法19条は、営業所または事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、省令で定める様式の標識を掲げなければならないと定めます。いずれも違反すれば30万円以下の罰金の対象です(法44条5号・6号)。
法17条=証明書を携帯させなければ業務に従事させてはならない
賃貸住宅管理業者は、国土交通省令で定めるところにより、その業務に従事する使用人その他の従業者に、その従業者であることを証する証明書を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはならない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律17条1項
賃貸住宅管理業者の使用人その他の従業者は、その業務を行うに際し、委託者その他の関係者から請求があったときは、前項の証明書を提示しなければならない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律17条2項
法18条=営業所・事務所ごとに帳簿を備え付け、記載し、保存する
賃貸住宅管理業者は、国土交通省令で定めるところにより、その営業所又は事務所ごとに、その業務に関する帳簿を備え付け、委託者ごとに管理受託契約について契約年月日その他の国土交通省令で定める事項を記載し、これを保存しなければならない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律18条
法19条=営業所・事務所ごとに、公衆の見やすい場所へ標識を掲げる
賃貸住宅管理業者は、その営業所又は事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、国土交通省令で定める様式の標識を掲げなければならない。
※賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律19条
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。


