東京高判平成30年12月5日|話し合い拒絶下の7年別居|「婚姻を継続し難い重大な事由」の否定・信義則違反
1 東京高判平成30年12月5日|話し合い拒絶下の7年別居|「婚姻を継続し難い重大な事由」の否定・信義則違反
別居が長く続けば、いずれ離婚は認められる——そう説明されることがあります。
東京高等裁判所は平成30年12月5日、別居が7年以上に及んでいた夫婦について、離婚を認めませんでした。離婚を求めた夫が話し合いを一切拒み続けていたからです。上告は棄却され、上告受理の申立ても受理されなかったので、この判断は確定しています。
本記事では、この判決が何をどう判断したのかを説明します。
この判決が前提にしている「破綻」という言葉の意味は、別の記事で説明しています。
2 結論——7年以上の別居→事由の否定・仮に事由ありでも信義誠実の原則違反
この判決から取り出せる規範をまとめておきます。はじめに、評釈による要約を引いておきます。
結論——7年以上の別居→事由の否定・仮に事由ありでも信義誠実の原則違反
あ 判決が明示したこと
(ア)「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかを判断するときは、婚姻の特殊性——収入のない家事専業者となった側が離婚後に経済的苦境に陥りやすく、未成熟の子の監護を負うときは子も窮境に陥りやすいこと——を考慮しなければならない。(イ)家事専業者側が離婚に反対し、その側に破綻についての有責事由がないときは、離婚を求める側に、婚姻関係を維持する努力がより一層強く求められる。(ウ)離婚を求める側が関係維持の努力と別居中の配慮を怠った場合は、別居が長期化しても、ただちに「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとは判断し難い。(エ)同じ別居の事実でも、話し合いを望んで叶わなかった側が離婚を求めるなら事由になり得るが、話し合いを拒絶する側が求める場合は事由に当たるというには無理がある。(オ)仮に事由があるとしても、離婚請求は信義誠実の原則に照らして容認されることが必要で、離婚原因発生への寄与、相手方の婚姻継続意思と感情、離婚を認めた場合の相手方の状態と夫婦間の子の監護・教育・福祉、別居後に形成された生活関係、時の経過がこれらに与える影響を考慮する。(カ)昭和62年大法廷判決の信義誠実の原則についての説示は、相手方から有責配偶者である旨の主張がない場合にも通用する。(キ)有責配偶者からの請求でない限り、他にどのような事情があろうと別居期間がある程度継続すれば必ず離婚が認容される、という読み方は採らない。
い 判決に明示なし
話し合いに応じていれば結論が変わったのか、どの程度の努力と配慮があれば足りるのかは述べていない。
判決のポイント(評釈による要約)
[判決のポイント]
離婚請求者が婚姻関係維持の努力や別居中の家事専業者側への配慮を怠った場合には、別居期間が長期化したとしても、ただちに婚姻を継続し難い重大な事由があるとはいえない。
また、離婚請求者は、婚姻関係の危機を作出したという点において、有責配偶者に準ずるような立場にあり、相手方配偶者から離婚請求者が有責配偶者である旨の主張がない場合においても、当該離婚請求は信義誠実の原則に反するものとして許されない。
※梅澤彩稿/『法律時報私法判例リマークス62号』日本評論社2021年p62
3 事案——単身赴任中の離婚申出・親の介護と子の監護を妻に残した7年以上の別居
まず、どのような事案だったのかを見ます。
判決文は当事者を訴訟上の地位で呼びます。第1審原告が夫、第1審被告が妻です。夫婦には長女と二女があり、妻は夫の父(亡一郎)の介護もしていました。以下の引用もこの呼び方によります。
夫は勤務時間の変更に伴って単身赴任し、その1か月半後に電話で突然離婚を切り出しました。
単身赴任のまま7年以上の別居
第1審原告は、同年6月11日以降、当時中学3年と小学3年の子2人の監護と、要介護2で肺気腫による呼吸機能障害等級1級の障害のある亡一郎の介護を第1審被告に任せたまま、離婚の理由や離婚後の亡一郎、子2人及び第1審被告の生活設計の構想についての説明や話し合いを全くしないで、別居生活を7年間以上続けている。
※東京高等裁判所 2018-12-05 判タ 1461号126頁/判時 2427号16頁
弁護士の助言による別居継続の方針
(6)第1審原告は、離婚について弁護士と相談し、弁護士からのアドバイスにより、別居をある程度長期間継続すれば必ず裁判離婚が実現できるので別居を継続すること、離婚の際の財産分与の額は別居時の夫婦財産が基準となるので、新田のマンションの価額の半分を分与すればよく、将来の退職金や今後の貯金を分与する必要はないこと、離婚が成立するまでは子らと原則として会わないこと、亡一郎及び第1審被告とも原則として会わないこと、亡一郎と子らの面倒をみるのは全部第1審被告の負担とすること、月額20万円程度の婚姻費用を第1審被告に送金することを基本方針として実行することにした。
※東京高等裁判所 2018-12-05 判タ 1461号126頁/判時 2427号16頁
4 下級審——第1審は離婚認容→妻が控訴
第1審は夫の離婚請求を認容しました。これを不服として妻が控訴したのが本件です。
事案の概要と控訴の経緯
1 本件は、夫である第1審原告が、妻である第1審被告に対し、婚姻を継続し難い重大な理由があると主張して民法770条1項5号に基づく離婚及び二女の親権者の第1審原告への指定を求める事案である。
原判決は、第1審原告の離婚請求を認容した(二女夏子の親権者は第1審被告と指定)ため、第1審被告がこれを不服として控訴した。
※東京高等裁判所 2018-12-05 判タ 1461号126頁/判時 2427号16頁
5 判示|解除原因の存否の判断=婚姻の特殊性の考慮
控訴審はまず、婚姻を一方的に解消する場面では、契約一般と同じようには考えられない、という前提を置きました。
家事専業者となった側と未成熟の子が置かれる状況
殊に、婚姻により配偶者の一方が収入のない家事専業者となる場合には、収入を相手方配偶者に依存し、職業的経験がないまま加齢を重ねて収入獲得能力が減衰していくため、離婚が認められて相手方配偶者が婚姻費用分担義務(民法752条)を負わない状態に放り出されると、経済的苦境に陥ることが多い。また、未成熟の子の監護を家事専業者側が負う場合には、子も経済的窮境に陥ることが多い。
※東京高等裁判所 2018-12-05 判タ 1461号126頁/判時 2427号16頁
離婚を求める側に求められる努力と配慮
一般に、夫婦の性格の不一致等により婚姻関係が危うくなった場合においても、離婚を求める配偶者は、まず、話し合いその他の方法により婚姻関係を維持するように努力すべきであるが、家事専業者側が離婚に反対し、かつ、家事専業者側に婚姻の破綻についての有責事由がない場合には、離婚を求める配偶者にはこのような努力がより一層強く求められているというべきである。また、離婚を求める配偶者は、離婚係争中も、家事専業者側や子を精神的苦痛に追いやったり、経済的リスクの中に放り出したりしないように配慮していくべきである。
※東京高等裁判所 2018-12-05 判タ 1461号126頁/判時 2427号16頁
6 判示|努力と配慮の懈怠→長期別居でも「婚姻を継続し難い重大な事由」を否定
この前提から、控訴審は本件の別居をどう評価したか。別居が7年以上に及んでいることは争いがありませんが、それだけでは足りない、としました。
ただちに重大な事由があると判断することは困難である
離婚請求者側が婚姻関係維持の努力や別居中の家事専業者側への配慮を怠るという本件のような場合においては、別居期間が長期化したとしても、ただちに婚姻を継続し難い重大な事由があると判断することは困難である。第1審被告が話し合いを望んだが叶わなかったとして離婚を希望する場合には本件のような別居の事実は婚姻を継続し難い重大な事由になり得るが、話し合いを拒絶する第1審原告が離婚を希望する場合には本件のような別居の事実が婚姻を継続し難い重大な事由に当たるというには無理がある。したがって、婚姻を継続し難い重大な事由があるとはいえないから、第1審原告の離婚請求は理由がない。
※東京高等裁判所 2018-12-05 判タ 1461号126頁/判時 2427号16頁
7 判示|事由ありと仮定しても信義誠実の原則による許否の検討が必要
控訴審はここで終わらず、仮に「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとした場合についても判断しています。
仮に事由があるとしても信義誠実の原則を検討する
(2)仮に、婚姻関係についての話し合いを一切拒絶し続ける第1審原告が離婚を請求する場合においても、別居期間が平成23年7月から7年以上に及んでいることが婚姻を継続し難い重大な事由に当たるとしても、第1審原告の離婚請求が信義誠実の原則に照らして許容されるかどうかを、検討しなければならない。
※東京高等裁判所 2018-12-05 判タ 1461号126頁/判時 2427号16頁
(1)考慮事情=寄与・相手方の意思と感情・子の監護・別居後の生活関係・時の経過
信義誠実の原則に反しないかどうかは、何を見て判断するのか。控訴審は5つの事情を挙げ、あわせて、昭和62年大法廷判決の説示が、相手方から有責配偶者である旨の主張がない場合にも通用する考え方だと述べました。
考慮すべき5つの事情
離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念である信義誠実の原則に照らしても容認されることが必要である。離婚請求が信義誠実の原則に反しないかどうかを判断するには、①離婚請求者の離婚原因発生についての寄与の有無、態様、程度、②相手方配偶者の婚姻継続意思及び離婚請求者に対する感情、③離婚を認めた場合の相手方配偶者の精神的、社会的、経済的状態及び夫婦間の子の監護・教育・福祉の状況、④別居後に形成された生活関係、⑤時の経過がこれらの諸事情に与える影響などを考慮すべきである
※東京高等裁判所 2018-12-05 判タ 1461号126頁/判時 2427号16頁
(2)別居の継続のみで離婚を認める読み方=不採用
控訴審はさらに、本件で夫の代理人弁護士が妻へ送った文書の見解を名指しして、これを採らないと述べています。別居を続けさえすれば必ず離婚できる、という考え方です。
「極端な破綻主義的見解」は採用しない
第1審原告代理人(当時)による「別居が一定期間継続した後に行われる離婚の訴訟では(中略)日本の法律のもとでは離婚が認められてしまう」という極端な破綻主義的見解(甲5、有責配偶者からの請求でない限り、他にどのような事情があろうと、別居期間がある程度継続すれば必ず離婚請求が認容されるというもの)は、当裁判所の採用するところではない。
※東京高等裁判所 2018-12-05 判タ 1461号126頁/判時 2427号16頁
8 あてはめ——原因は専ら夫の側・妻と二女の窮境→信義誠実の原則違反
以上の枠組みを本件に当てはめた部分です。控訴審は、事由の発生原因が専ら夫の側にあること、妻が強い婚姻継続意思を持ち続けていること、離婚を認めれば妻が婚姻費用分担義務の消滅と財産分与によって住まいを失い精神的・経済的窮境に陥ること、高校生の二女の監護・教育・福祉にも悪影響が及ぶことを挙げました。
本件へのあてはめ
本件についてこれをみるのに、婚姻を継続し難い重大な事由(話し合いを一切拒絶する第1審原告による、妻、子ら、病親を一方的に放置したままの7年以上の別居)の発生原因は、専ら第1審原告の側にあることは明らかである。他方、第1審被告は、非常に強い婚姻継続意思を有し続けており、第1審原告に対しては自宅に戻って二女と同居してほしいという感情を抱いている。離婚を認めた場合には、第1審原告の婚姻費用分担義務が消滅する。専業主婦として婚姻し、職業経験に乏しいまま加齢して収入獲得能力が減衰し、第1審原告の不在という環境下で亡一郎及び子2人の面倒を一人でみてきたことを原因とする肉体的精神的負担によるとみられる健康状態の悪化に直面している第1審被告は、離婚を認めた場合には、第1審原告の婚姻費用分担義務の消滅と財産分与を原因として新田のマンションという居住環境を失うことにより、精神的苦境及び経済的窮境に陥るものと認められる。二女もまた高校生であり、第1審原告が相応の養育費を負担したとしても、第1審被告が精神的苦境及び経済的窮境に陥ることに伴い、二女の監護・教育・福祉に悪影響が及ぶことは必至である。他方、これらの第1審被告及び二女に与える悪影響を、時の経過が軽減ないし解消するような状況は、みられない。第1審原告は、婚姻関係の危機を作出したという点において、有責配偶者に準ずるような立場にあるという点も考慮すべきである。そして、本件の事実関係の下においては、亡一郎と第1審被告との養子縁組の届出が第1審原告の同意を得ないまま行われたことは、第1審原告が亡一郎及び第1審被告との連絡を絶つという姿勢をとっていたことにも原因があるのであって、第1審被告側の信義誠実義務の原則に反する事情として評価することは、不適当である。
※東京高等裁判所 2018-12-05 判タ 1461号126頁/判時 2427号16頁
結論
以上の点を総合すると、本件離婚請求を認容して第1審原告を婚姻費用分担義務から解放することは正義に反するものであり、第1審原告の離婚請求は信義誠実の原則に反するものとして許されない。第1審原告は、今後も引き続き第1審被告に対する婚姻費用分担義務を負い、将来の退職金や年金の一部も婚姻費用の原資として第1審被告に給付していくべきであって、同居、協力の義務も果たしていくべきである。
※東京高等裁判所 2018-12-05 判タ 1461号126頁/判時 2427号16頁
9 評釈——昭和62年判例の考慮要素の個別検討と、残る疑問
この判決は評釈でどう読まれているかを見ておきます。
評釈は、本判決が昭和62年大法廷判決の挙げた考慮要素のうち、相手方の経済的状態の点を個別に検討したものだと整理しています。そのうえで、この結論の立て方そのものに疑問も示しています。
評釈=本判決は昭和62年判例の③を個別に検討した
四 本判決の考え方
本判決では最高裁昭和62年判決が提示する、上記①~③の点につき個別に検討されているところ、特に③については、Yが家事専業である場合には、「収入を相手方配偶者に依存し、職業的経験がないまま加齢を重ねて収入獲得能力が減衰していくため、離婚が認められて相手方配偶者が婚姻費用分担義務(民法 752条)を負わない状態に放りだされると、経済的苦境に陥ることが多い」とする。
さらに、離婚を請求する配偶者は婚姻継続のための努力をすべきであるとして、「家事専業者側が離婚に反対し、かつ、家事専業者側に婚姻の破綻についての有責事由がない場合には、離婚を求める配偶者にはこのような努力がより一層強く求められているというべきである」とする。
※大杉麻美稿/『新・判例解説Watch26号』日本評論社2020年4月p128
評釈が本判決へ向けた疑問
それでもなお、離婚を認めないとする法的根拠は「信義則」にあるのだろうか。
本判決は、「別居期間が……・7年以上に及んでいることが信義誠実の原則に照らして許容されるかどうかを、検討しなければならない」とする。
どのような場合であっても、婚姻関係を継続し、子を養育することが果たして婚姻生活における「信義」であるといえるであろうか。
夫婦個々の事情に応じて、離婚することが「相当であるか」「相当でないか」を判断することは極めて難しい要素を含んでいる13)。
※大杉麻美稿/『新・判例解説Watch26号』日本評論社2020年4月p128
10 決めていないこと——話し合いに応じた場合の帰結・求められる努力の程度
最後に、この判決が決めていないことを確認しておきます。
控訴審が重く見たのは、夫が話し合いを一切拒んだことでした。では、夫が話し合いに応じていれば結論は変わったのか。どの程度の努力と配慮があれば「怠った」と言われずに済むのかを、この判決は述べていません。本件の事実関係の下での判断であって、別居期間の長さそのものを否定したものでもありません。
11 おわりに
本記事では、東京高等裁判所平成30年12月5日判決が何をどう判断したのかを説明しました。
「破綻」という言葉の意味と判断基準、そして有責配偶者からの離婚請求と信義誠実の原則については、別の記事で説明しています。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。
本記事の表示では、読点を「、」に統一しています(引用の原文が全角の「,」や半角の「,」である場合を含みます。ただし「1,000」のような桁区切りはそのまま表示しています)。
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