最判昭和56年10月30日|無断の単独相続登記で売却→持分を超える部分の無効主張は信義則違反

1 最判昭和56年10月30日|無断の単独相続登記で売却→持分を超える部分の無効主張は信義則違反

共同相続人の 1 人が、他の相続人に無断で自分の単独相続による所有権移転登記をしたうえで、その不動産を売ってしまう。あとからその人が「自分の持分を超える部分の移転は無効だ」と主張して登記の抹消を求めることはできるのでしょうか。

本記事では、最高裁がこの主張を信義則に照らして許されないとし、しかも一部は職権でそう判断した経過を、判決文にそくして説明します。

一般条項に弁論主義がどこまで及ぶかという論点そのものは、別の記事で説明しています。

信義則・権利濫用・公序良俗と弁論主義|主張なしでも判断可→釈明は必要

2 結論——無断の単独相続登記で売却→持分を超える部分の無効主張は信義則違反

この判決から取り出せる規範をまとめます。いずれも後述の各節で判決文を挙げて説明します。

判決が明示した規範

(ア)共同相続人の 1 人が、持分しか取得していないのに自己が単独相続したとして所有権移転登記を経由し、不動産を売り渡して登記をしたときは、買主および転得者に対し、自己の持分を超える部分の所有権移転が無効であると主張して抹消(更正)登記手続を請求することは、信義則に照らして許されない(イ)この信義則の判断は、当事者が上告理由に挙げていなくても、職権で調査して適用される(ウ)民法826条の利益相反する行為にあたるかは、当該行為の外形で決すべきであって、親権者の意図や行為の実質的な効果を問題とすべきではない

3 事案——持分3分の1の相続人の無断単独相続登記→買主・中間者・転得者へ売却

土地の所有者が亡くなり、妻と子らが相続しました。妻の持分は 3 分の 1 でしたが、妻は土地について自己の単独相続による所有権移転登記を経由し、それを前提に土地を売却します。買主からさらに中間者へ、中間者から転得者へと順次売り渡され、いずれも所有権移転登記が経由されました。

その後、妻は買主・中間者・転得者に対し、自己の持分を超える部分の所有権移転は無効だと主張して、登記の抹消(更正)を求めました。

事案の認定

原審が適法に確定したところによれば、(1) 本件土地はもと岩井晟の所有であつたが、同人が昭和四一年五月二一日死亡したため、同人の妻被上告人高橋喜美子は、その子らとともに本件土地を相続した、(2) 被上告人高橋喜美子は、本件土地については三分の一の持分しか取得しなかつたにもかかわらず、昭和四四年九月一一日本件土地について自己の単独相続による所有権移転登記を経由し、これを前提として、昭和四五年四月上告人保泉義春に対し、同上告人は、昭和四六年一一月上告人岩浪博に対し、同上告人は、昭和五〇年六月上告人内村シズ子に対し、順次本件土地を売り渡していずれもその所有権移転登記を経由した

※最高裁判所 1981-10-30 裁判集民 134号153頁/家月 34巻9号52頁/裁判所ウェブサイト/判タ 455号96頁/判時 1022号55頁/金法 988号43頁/金商 634号31頁

4 原審と上告理由——調停の無効で持分は3分の1→抹消請求を一部認容

原審は、妻の単独所有を確認した遺産分割の調停が未成年者について無効であることから、妻は 3 分の 1 の共有持分しか取得していないとし、抹消登記請求を一部認容しました。

上告理由は 3 人の代理人から出され、民法909条ただし書の善意の第三者にあたること、禁反言に反すること、調停は有効であることなどが主張されました。信義則違反は、転得者の代理人の上告理由にだけ含まれていました。

5 判示|転得者に対する無効主張は信義則に照らして許されない(上告理由に応じた判断)

まず転得者に対する請求です。最高裁は、認定した事実関係のもとでは無効の主張は信義則に照らして許されないとし、昭和42年の判例を参照として引きました。原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、結論に影響を及ぼすことが明らかだとして、この部分を破棄し請求を棄却しています。

判示(一)=転得者に対する請求

右事実関係のもとにおいては、被上告人高橋喜美子は、上告人内村シズ子に対し、自己の持分を超える部分についての右所有権移転が無効であると主張して、その抹消(更正)登記手続を請求することは、信義則に照らして許されないものと解するのが相当である(最高裁昭和四〇年(オ)第七二〇号同四二年四月七日第二小法廷判決・民集二一巻三号五五一頁参照)。

※最高裁判所 1981-10-30 裁判集民 134号153頁/家月 34巻9号52頁/裁判所ウェブサイト/判タ 455号96頁/判時 1022号55頁/金法 988号43頁/金商 634号31頁

6 判示|職権で調査して、買主と中間者に対する無効主張も許されない

次が本判決の特徴です。買主と中間者に対する請求については、信義則違反が上告理由に挙がっていませんでした。それでも最高裁は「職権をもつて調査するに」と述べ、同じ理由でこれらの請求も信義則に照らして許されないとして、原判決の該当部分を破棄し請求を棄却しました。

判示(四)=職権による調査

職権をもつて調査するに、原審が適法に確定した前記一の事実関係のもとにおいては、被上告人高橋喜美子が上告人保泉義春及び上告人岩浪博に対し、自己の持分を超える部分についての右各所有権移転が無効であると主張して、その抹消(更正)登記手続を請求することは、信義則に照らして許されないものと解するのが相当である。

※最高裁判所 1981-10-30 裁判集民 134号153頁/家月 34巻9号52頁/裁判所ウェブサイト/判タ 455号96頁/判時 1022号55頁/金法 988号43頁/金商 634号31頁

7 判示|民法826条の利益相反は行為の外形で決する→遺産分割の調停は無効

もう 1 つ、遺産分割の調停の有効性についての判断があります。最高裁は、民法826条の利益相反にあたるかは行為の外形で決すべきで、親権者の意図や行為の実質的な効果は問題にしないという既存の判例を引き、調停を無効とした原審の判断を是認しました。

判示(三)=民法826条の利益相反

民法八二六条所定の利益相反する行為にあたるか否かは、当該行為の外形で決すべきであつて、親権者の意図やその行為の実質的な効果を問題とすべきでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和三四年(オ)第一一二八号同三七年一〇月二日第三小法廷判決・民集一六巻一〇号二〇五九頁、同昭和四〇年(オ)第一四九九号同四二年四月一八日第三小法廷判決・民集二一巻三号六七一頁)とするところであるから、原審が適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件遺産分割の調停が無効であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

※最高裁判所 1981-10-30 裁判集民 134号153頁/家月 34巻9号52頁/裁判所ウェブサイト/判タ 455号96頁/判時 1022号55頁/金法 988号43頁/金商 634号31頁

8 主文——認容部分を破棄・第1審判決の該当部分を取消し・請求をいずれも棄却

最高裁は、原判決のうち妻の請求を認容した部分を破棄し、第 1 審判決の該当部分を取り消したうえ、請求をいずれも棄却しました。差し戻しはしていません。裁判官全員一致の意見です。

主文

原判決のうち被上告人高橋喜美子の上告人保泉義春に対する請求を認容した部分を破棄し、第一審判決のうち右請求に関する部分を取り消す。原判決のうち被上告人高橋喜美子の上告人岩浪博及び上告人内村シズ子に対する請求を認容した部分を破棄する。
前一、二項の部分に関する被上告人高橋喜美子の請求をいずれも棄却する。
上告人らのその余の上告を棄却する。

※最高裁判所 1981-10-30 裁判集民 134号153頁/家月 34巻9号52頁/裁判所ウェブサイト/判タ 455号96頁/判時 1022号55頁/金法 988号43頁/金商 634号31頁

9 決めていないこと——職権で信義則を適用できる理由と、その限界

この判決は、信義則違反を職権で調査して適用しました。しかし、なぜ当事者の主張がなくても適用できるのか、どこまでなら職権で踏み込めるのかという理由づけは述べていません。示されているのは、そうしたという事実だけです。

10 おわりに

本記事では、無断で単独相続の登記をした共同相続人が、持分を超える部分の無効を主張することは信義則に照らして許されないとした判決を説明しました。買主と中間者に対する部分は、上告理由に挙がっていないのに職権で調査して同じ結論が導かれています。

当事者が主張しない一般条項について裁判所が判断できるかという論点の側は、別の記事で説明しています。

信義則・権利濫用・公序良俗と弁論主義|主張なしでも判断可→釈明は必要

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

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